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月と海のネックレス

 今日から9月。

 ぼくと月海先輩は路線バスに揺られていた。


 他にも同じ方向へ向かう学生がたくさん乗っている。夕日が勢いよく窓を貫いてきてまぶしい。隣の月海先輩も目を細めていた。


 長野駅の一つ手前のバス停で降りる。


「それじゃあ、よく見て決めようね」

「よろしくお願いします」


 ぼくらは近くに立っている大きなビルに入った。

 その中にあるテナントの一つが、ジュエリーショップ・ルナロックだ。


 約束通り、月海先輩と一緒にネックレスを買いに来たのである。


 店内は黒を基調とした落ち着きあるデザイン。

 一人で来た時は場違いな感じがした。今日は月海先輩が一緒だから、前ほど入りにくくはない。


「景国くんはどういうデザインの物がいいの?」

「先輩と合わせたいです。月の形がいいかな」

「そっか」


 月海先輩がどことなく嬉しそうにする。


「月型はこのあたりかな……」


 先輩について店の中を歩き回る。大半は高額で、ぼくのお小遣いでは手が出ない。ギリギリ出せる範囲の物で、いいデザインがあればいいんだけど。


「これとか?」


 月海先輩は三日月のネックレスを手にした。


「えい」


 そしてぼくの首にかけてくる。こっちを見つめる目つきがマジだ。


「うーん……何か違う」


 すぐに外された。

 身長差のせいで取り外しが簡単だ。嬉しくないけど。


「景国くんはこういうのつけたことある?」

「初めてです。だから色とかもさっぱりで……」

「実は私も詳しいとは言えないのよね。あんまり飾りつけないタイプだから。気にするのってこれくらいだし」


 先輩がポニーテールを束ねたゴムに触れた。今日は青のリボンのような形のゴムで留めている。


「前にシュシュをつけてましたよね。あれ、すごくかわいかったです」

「…………」


 バッとすさまじいスピードで顔を背けられた。……どうして?


「変えたの、気づいてくれたのね」

「当然ですよ。あれで気づかないなんて彼氏失格です」

「か、かわいかった?」

「はい、とっても」

「あう」


 謎の声を出して、先輩が近くの壁に両手をついた。予想外に効いたらしい。月海先輩にとってはそれくらい、身につけるアイテムを変えることは勇気がいる行為だったのだろう。


「ふう……」


 落ち着いたようで先輩が戻ってきた。


「景国くん、予算を聞いていなかったわね。どのくらいまでいけるの?」

「一応、1万以内で……」

「するとこの辺かな」


 壁際に陳列されている商品はそのくらいの値段だった。以前先輩にプレゼントした物と同じネックレスはもうなさそうだ。


 月海先輩は二つのネックレスを手にした。


「ゴールドとシルバーならどっちがいい?」

「先輩と同じシルバーにしたいです!」

「そっか」


 先輩は一つ一つ手に取って、真剣な表情で選んでくれている。


「あっ」

「どうしたんですか?」

「な、なんでもない……よ?」


 ……確かに、川崎先輩が言う通り月海先輩は演技が上手くないかもしれない。


 ぼくは先輩の視線の先を見た。

 シルバーのネックレス。

 ついている飾りは、円の中に満月と浜辺が掘られたものだった。


 浜辺。海。満月。――月海。


「先輩、ぼくこれにします!」

「ええっ!? 待って、気を遣わないで!」

「そんなんじゃありません! ぼくがこれを持たずしてどうするって感じの物ですよ!」

「か、景国くん……」


 先輩がおろおろしている。誘導してしまったと考えているんだろうか?


「これ、1万超えてるけど……」


 あー、そっちか。


 金額は1万2千円。お小遣いをもらったばかりだし、これまでの繰り越し分もそこそこある。今こそ、そのお金を使うべき場面だ。


 ぼくは満月と海のネックレスを手に取った。


「買ってきます」

「本当に、いいの?」

「はい」


 ぼくは笑った。


「初めてのおそろいアイテムですよ」


 月海先輩はまだ困ったような顔をしていたが、だんだん笑顔に変わっていった。


「ありがとう、景国くん」

「ぼくの方こそ、これを見つけてくれてありがとうございました」


     †     †


「だいぶ暗くなっちゃったわね」

「急いで帰らないと頼清さんが飢えているかもしれませんね」

「……景国くん、お父さんに何か嫌なことでもされたの?」


 ぼくたちは並んでバス停まで歩いた。


「あっ、いけない」


 先輩が前を指さした。すぐそこのバス停にバスが止まっている。行き先は浅川方面。


「走るわよ!」

「はい!」


 同時に駆け出す。

 が、一瞬で離された。


 ――置いてかれる!?


 焦ったけれど勘違いだった。先輩がバスの運転手さんに「待って」と声をかけていた。「もう一人来るんです」と続ける。


「景国くん、急いで!」


 先輩が手を振っている。


 そうだった。

 合わせてもらうことが当たり前じゃないんだ。

 先輩にペースを気にしないで歩いてもらえるように、ぼくもランニングとかしてみようかな?


 とにかく今は自分の全力で走るだけ。

 首にかけたネックレスの存在感が、なんだかとっても心強い。

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