誕生日プレゼントは何がいい?
明日は7月26日。
月海先輩の誕生日だ。
昔はうちと先輩の家で、誰かの誕生日が来るたびにお祝いをしていた。だから覚えている。忘れるわけがない。
お祭りの日と重なればシチュエーション的には完璧だったけど、残念ながら地区の夏祭りはあさって。惜しい。
今までは先輩に近づくことすらできなかったから、誕生日プレゼントを渡すことができなかった。
今年は違う。
何も渡せなかったら彼氏としてどうなのかという問題になってくる。
なのでぼくは一人で買い物に来た。
月海先輩は夏休みに入ると、頼清さんと二人で演舞を見せる機会が増えるという。
初日、昨日、そして今日も月海先輩と遊ぶことができないでいる。でも朝ごはんは作りに来てくれた。それが終わったら門下生の指導をして、催し物に出かけて……間違いなく忙しい。こんな調子じゃ夏休みもあっという間に終わってしまいそうだ。
長野は都会に比べると夏休みが短い学校が多い。遅く始まり早く終わる。海の日の三連休あたりから夏休みというニュースを聞くと「早いな……いいな……」なんて気持ちになる。もっと長くしてくれても、ぼくら学生は一向にかまわないよ?
「ちょっと休むか……」
ぼくは日陰になっているベンチに腰かけた。
長野駅近く、中央通りの古本屋の前だ。
渡すなら小物類かな――と思ってそれらしい店を歩き回ったが、どれにすればいいのかわからない。
月海先輩って何が好きなんだろう……。
「おっ、後輩くんではないか」
聞き覚えのある声。
夏目先輩がぴょこぴょこやってきた。
「やあ、元気かな?」
「一応は。こんなところで奇遇ですね」
「こ ん な と こ ろ」
「○コニコでよく見るコメントみたいな返事はやめてください」
「おっ、今のがわかるとは君もけっこう見てるね?」
「あれの元ネタ知ってます?」
「いや知らない。でも登場人物が「こんなところで」うんたらかんたらって言うと高確率で流れてくるよね」
「確かに……」
夏目先輩はショートパンツに半袖シャツ、キャップにサングラスをつけて足元はサンダルという遊び人全開の格好だった。そして手にしているのは青い袋。アニメ関連商品専門のあの店に行ってきたな?
「ところで後輩くん、今日は光ちゃんと一緒じゃないん?」
「先輩は道場の仕事でいないので」
「そっかぁ。光ちゃんも大変だなぁ」
……そうだ。夏目先輩に相談すればいいんじゃないか? 友人序列第1位とか公言してるし、月海先輩の好きな物を知っていそうだ。
「あの、夏目先輩」
「おうよ」
「実は明日――」
「ああ、光ちゃんの誕生日プレゼントを探しに来たのね」
「……察するの早いですね」
「あたしもお祝いメッセージなんて送ろっかな~って考えてたから。で、君はプレゼントを贈りたいと」
「そんな感じです。何か、月海先輩の好きな物ってわかりますか?」
「そうだね~、光ちゃんは自分の名字が好きらしくて、月の形したアイテムはけっこう持ってるよ」
「月形のアイテム……月のイラストがついたハンカチとか?」
「君は発想力に乏しいねえ」
はっきり言われた……。
「まあ、いつでも持ってられる物っていうのはいいかもね。光ちゃん、後輩くん依存になってるし」
「形のある物がいいと」
「おーっと、依存についてツッコミなし! 君もすっかり光ちゃん色に染められちゃったかー」
「光ちゃん色……なんかいいですね、それ」
「あっ、駄目だこれ」
呆れた顔をされた。
「あ~、あとね、光ちゃんはお返しにがっつりお金使うタイプだから安い物を贈ると後悔するよ」
「そうなんですか?」
「あたしね、1年のとき光ちゃんの誕プレにココアクッキーを一箱あげたんだよ。そしたらあたしの誕生日、あの時のお返しって言ってアロマ加湿器くれたからね」
「うお……」
それはやばい。
マジで下手な物は贈れないぞ。
「ど、どうすれば……。ぼく、そんなにお小遣いもらってないですよ」
「落ち着きたまえ。重要なのは光ちゃんがどう思うかだよ」
「先輩が……」
「いつでも後輩くんとつながってるって感じられる物なら高ポイント取れるんじゃないかな」
「……あっ」
「お、なんか閃いた?」
「はい。喜んでもらえるかはわかりませんけど、いま思いついた物を探してきます」
「おう、行け行け。応援してるよ」
「夏目先輩、ありがとうございました。それではまた!」
「待った」
「え?」
「告白した?」
「……ナニヲオッシャッテイルノカワカリマセン」
「あー、オッケー。その返事で充分でーす」
硬直していると、夏目先輩に額をつつかれた。
「誰にも言わんから安心しときな。もちろん今日会ったことも光ちゃんには黙っとく。頑張りなよ、後輩くん」
「な、夏目先輩……」
「親友がずっと好きでい続けた相手だもんねー。念願叶って超よかったよねー」
つんつんつんと額を指で連打された。
「光ちゃん、ずっと君のこと見てたんだから幸せにしてあげてよ。あたしの親友を頼んだぜ。じゃ、バイバイ!」
一方的に言うと、夏目先輩はさっさと行ってしまった。
口調は軽いけど、月海先輩のことを本当に大切に思っているのが伝わってきた。友人序列第1位を自称するのもダテじゃない。
「よーし」
月海先輩に渡す物が決まったので早速買いに行こう。明日、渡す時の言葉も考えておかないとね。
足取りが軽くなった。
ありがとう、夏目先輩。
† †
「あら、景国くんも出かけてたの?」
「はい、長野駅の方へ……」
夕方、家に着いたら門の前を竹ぼうきで掃いている月海先輩と出くわした。
黒の袴とゲタと竹ぼうき。見事なマッチングだ。
ぼくはショルダーバッグをかけ直した。中を見られるわけにはいかない。
「ちょっと本屋とかを見て回ってきました」
「そっか。――あ、景国くんここで待っててもらってもいい?」
「いいですけど……」
月海先輩が屋敷へ駆け込んでいった。
カツカツカツッとゲタを鳴らして、先輩がすぐに戻ってくる。
何やら大きな箱を手にしていた。
「これ、今日行った小布施町で買った栗もなか。よかったらお母さんと食べてちょうだい」
「え、こんな大きいのもらっちゃっていいんですか?」
「どうぞ。お菓子屋さんを見て回るの、すごく楽しかったわ。今度一緒に行かない?」
「そ、そうですね。予定が合ったら……」
手を振る先輩に頭を下げて、自分の家に入った。
ぼくはすぐさまもらったお菓子の名前を検索した。
栗もなか15個入りは……3500円。
やばい!
ぼくが買った誕生日プレゼントより高いじゃないかあああああ!!!




