1部-1章-2話
王都の商業地区へ向かい、そして少し歩き、ちょっと細い路地を通って、怪しい雰囲気の看板が出ている店に着いた。
ドアを開けると、太い眉毛が特徴的な、俺と年がそんなに変わらない男の子がいた。
「やあ、ファイマー君」
「こんにちは、プレヒトさん、師匠に御用ですか?」
「ああ、突然来てしまったが、今大丈夫かい?」
「はい、直ぐに呼んで参ります」
程なくして、奥から赤茶色の長い髭を生やしたドワーフのオジサンが出てきた。
「ん、おおぉプレ坊、久方ぶりじゃな」
「もう坊と呼ばれる歳じゃあないですよ…」
「ん、ワシには変わらんて。して、今日は何用じゃ、ちいこいガキんちょ連れて…」
「む!そんなに小さくないわよ!!!」
「ほう?まだ赤子のように見えるがのう?胸はまるで金床」
「んぬぁんですってぇ!!!!!こんのスケベ髭爺め!!!」
「まぁまぁ、落ち着いてラティー君、ヨゼファスさんもあまり刺激なさらないでください。まずは、この魔石を見て頂きたいのですが」
メガスライムの魔石を見た途端に目の色が変わった。
「ふむ。かなり上質、いや最上級か。メガスライムの魔石か…。こんな倒し方が出来るのは…」
「ええ、レジェンダリーですね」
「この国のレジェンダリーは二人の騎士団長、ジャンヌは国王陛下を守っているから、ウィリアムか?いや、それにしてもプレ坊が持ってくる意味が分からんのう…」
「この、ネルという男の子が、レジェンダリーなんです。属性は熱」
「ほう!なんと!」
「!!!」
「え!?うそ!?」
ヨゼファスさん、ファイマー、ラティーが三者三様の驚き方をして見せた。
「ふぁふぁふぁ、そんでこの魔石をどうして欲しいんじゃ?」
「どうしようか、ネル君」
「ええ!?俺が決めんの!?」
「当たり前じゃないか、これはネル君のなのだから。私は店を紹介しただけだ」
「うーーーん、何が出来るの?」
「そうさなあ、金に換えちまえばあとはある程度のもん出来ちまうがのう」
「じゃあ売って武器と防具を頼もうかなあ…、魔石はお任せで、あとラティーの分も頼むよ」
「え!?なんか…悪いわね…」
「気にすんなよ、これからパーティだろ?」
「そうね…有難く受け取るわ」
「嬢ちゃんのは、隣のマリエーラにでも頼もうかね…とりあえず魔石は隣で売ってきたらええ」
「わかった!ありがとう!」
隣のお店は防具屋さんで店主はエルフのマリエーラさんだ。
「はい、いらっしゃい。あらプレヒトさんお久しぶりね」
「どうもこんばんは、お久しぶりです」
「後ろの子たちは?」
かくかくしかじかとヨゼファスさんとこで同じようなやり取り、マリエーラさんはたいそう驚いたそうな。
「はぁ、驚いたわ…。それでその魔石を私のところで売った方が良いとヨゼフが言ったのね?」
「ええ、魔石関連は俺のとこよりマリエーラの方が加工に長けている…と」
「そうね…アクセサリーにするには持ってこいの純度、傷もほぼ無いし…、買いね」
100万ルドで買い取ってもらった。ラティーはまたも肝を抜かしてた。
俺は村の出なので金の感覚はよくわからない。
ラティーは奥でマリエーラさんに採寸してもらった。俺はヨゼファスさんのとこで既に済ましている。ヨゼファスさんとマリエーラさんで武器や防具の制作を男女分けているわけではなく、冒険者の戦闘、行動スタイルによって二人に向き不向きがあるそうだ。
俺の場合ヨゼファスさんが、ラティーの場合マリエーラさんが作るものが合っていると。
武器は二人ともヨゼファスさんのとこで見繕ってもらった。
二人とも剣を使うからね。
そんなこんなで、二人の装備は5日待てと言われたのでしばらくは暇になりそうだ。
----------5日後----------
二人で取りに来た。そして装備。
一言で言うと、めちゃかっこいい。
ラティーは膝まであったロングブーツにミニスカートで革の胸当て、腰にロングソードを提げていたが、新しい装備では膝より下になり所々硬そうなもので補強されているブーツ、太もも部分に大きくスリットの入った革素材のズボンに左胸だけ特に頑丈に出来ている左右不揃いの胸当て、籠手もなるべく軽くて頑丈なものに。
「女の子は可愛くしなくちゃダメよ」
と最後にブローチをサービスでくれた。
「ありがとうございます!」
俺の装備は基本的にドラゴンの素材を使われた、レッドドラゴンというBランクモンスターのもので
「お前さんは、熱属性だから普通の鉄素材のものじゃあちといかんのう…少し高くなるが…」
という事だった。
靴は軽さ重視で特殊な革素材のブーツ、黒を基調とした上下のセットに所々レッドドラゴンの素材で作られた防具をつけてある。そして最後に熱に強い革で出来た丈の短いジャケットを羽織った。
ラティーの武器は前のロングソードと比べると幅の狭く、柄がやや長い、細長い印象のロングソードに。
「おまえさんの特性上、手袋を着けられんみたいだ、力もまだ強くないと見えるのでこの武器を選んでみた。力負けしそうなときは…こう使うことも出来る。難点としては良く研ぐ事じゃ、出来れば毎日の」
俺に限らず伝説性質の魔力の使い手は素手で触れているものに対して働く。そんな俺の特性をヨゼファスさんは知っていたみたいだった。
力の弱い俺は力負けしそうになるとロングソードの刃の部分を持って抵抗するしかないがそうすると魔力の効果は柄を持ってる右手だけ素手という事になり半減だった。
ヨゼファスさんは俺の手袋を見てそれを感じ取ったらしい。
そこで、片刃の刀を勧められ、峰を持つ仕草でヨゼファスさんは説明してくれた。
「この部分で斬るとかなり良く斬れる、間合いを保て。それとコイツをつけておこう」
「わかった、ありがとう!」
最後に切っ先の説明をして、砥石と小さい刀をサービスでくれた。
500万あったお金もかなり使ったがこれでも半分くらいは残っていた。
全然お金をかける事も出来たらしいけど駆け出し冒険者が良い装備をしてると盗賊や他の冒険者の恰好の餌食になってしまうのでこれくらいが良いとの事だった。
むしろこれでも贅沢をしているみたいだ。
残りのお金がラティーと半分にしようかと思ったけど流石に悪いということで受け取らなかった。
「まあラティーはパンツ見せてただけだしねー」
殴られた。
早速新しい装備に馴染む為にも、そしてパーティとして慣れる為にも二人でクエストをこなす日が2か月ほど続いた。
基本的に討伐クエストを中心にこなしていった。
ある町からの依頼では、王都に行く途中でブラックウルフが出て被害にあうので討伐して欲しいというクエストが出ていた。
「…いるわね」
「マジ?」
「気配を感じるわ…、ほら!あそこ!」
「…ん???」
林の中にいるので、俺には木と草むらしか見えない。
「面倒ね、攫う風!ガスト!!」
辺り一面に突風が吹き、ブラックウルフ達はたまらず草むらから出てきた。
「こいつらは群れで行動するの、少しずつ追い詰めて狩りをする、連携の達人ね」
「それにしても多くない…?」
「12匹もいたなんてね…4匹1組が基本なはずなんだけど…」
「来るぞ!」
一斉に掴みかかってくるブラックウルフ達を、ラティーが風の魔法で吹き飛ばし、阻止した。
「ガスト!!!」
そして俺はコイツの間合いに慣れるべく、距離を詰めて斬りかかる。
ロングソードを使っていた俺の為に、少し真っすぐめのものをくれたので間合いの取り方はそこまで悪くなかった。1匹は確実に仕留め、2匹目、3匹目とやって来るので落ち着いて対処していく。
「ゲイルブラスト!」
ラティーは左手を前に出して直線状の暴風を生み、2匹吹き飛ばして剣を鞘から抜き、斬りつけていく。剣の腹の部分で攻撃をガードしつつうまく立ち回っているみたいだ。
いいな…ああいう派手な魔法を俺も使いたい。そもそも触れないと効果があまり無いからな…。太ももくらいまでの高さがあるブラックウルフの攻撃は一々重い。それを受けるラティーってもしかしたら俺より力があるのか…?
俺は基本的に避けて斬る、受け流して斬るスタイルだ。
「ふっ!」
「ウインドカッター!」
お互いに最後の攻撃を終え、場を収めた。
「アンタの戦い方、なんか見たことあるって思ってたけど、真紅の矛騎士団長のウィリアムさんに似てるわね」
「ああ、戦い方、教えてもらってたからね」
「そうなんだ…って、ええええええええええ!?!?!?」
「ウィリアムさんには世話になったよ、この刀にしてから一度会いに行って少しだけ戦い方のヒントも教えてくれたし」
「……アンタ贅沢ね…」
「俺からしてみれば、学校に通えてたラティーの方が贅沢だけど…」
俺たちはギルドに戻り、クエスト完了の報告をして素材を売る。
また、ある時ではトーレントが出たというクエストがあったので受注した。
「トーレントなんて珍しいわね…この辺ではあまり見ない魔物だけど…」
「うーーん、まぁ困ってる人がいるみたいだし、とりあえず討伐しよう」
「ブラックウルフとは違って、トーレントはDランクの魔物だから気を付けるのね」
「分かった」
林に入るなり、ラティーは矢継ぎ早に指示してくる。
「アレとコレ、ソレ、アレもね」
「?????」
「トーレントよ、斬りなさい」
「ええ…?ただの木じゃないのか…?」
「早く!」
「わ、分かったよ…」
百発百中だった。なんなんだこの野性的勘は…。
ラティーの直感に加え俺の熱魔法でトーレントは一網打尽にできた。
「スライム討伐並みに楽勝ね」
「動くのはほとんど俺だったけどな!」
魔力を使いすぎたおかげで、俺は少し休む事にした。
休んでいる傍で少し寒そうにしているラティーは頭に着けているブローチに手を触れると、なんと上着が出てきた。
「えええ!なにそれ!」
「マリエーラさんがくれたのよー、ふっふーん」
「うわー、いいなぁいいなぁ」
ひと段落着いたところでギルドに向かって出発し、報告、トーレントから獲れた枝を売る。
また、ある時には二人で足りなくなった消耗品等を買いに王都を歩いていると
「おいおいおいぃ…ずいぶんいいカッコウしてるじゃん、えぇ?」
「ククク、ガキのくせによぉ」
「おまえらの知らない、裏の王都ってのを教えてやらねぇとなぁ」
ガラの悪い3人組の冒険者に絡まれた。
「まず、そこの女はうっぱらって、男のガキはぶち殺して装備剥いだら高く売れそうだなぁ」
「おいおい、売る前に、オトナってもんを分からせねえとよお」
「ククク、優しいねぇオレ達ぁ…」
冒険者同士の争いに騎士団は介入しないのが暗黙のルールみたいだ。
俺は無視しようとしたけど、ラティーが黙っていなかった。
相手が剣の柄に手をかけたところで暴風でぶっ飛ばされていた。
「クズが」
ラティーはそう吐き捨てて、歩いていく。
意外と治安の悪い町、王都【アラングリフ】である。
この日は二人で飯食ったり、薬屋に寄って色々なポーションを見たりして消耗品を補充した。
そんなこんなで遂に王都でのクエストには満足いかなくなったので冒険に出かけるとする。
Cランクになる為には特別な昇格試験を受けなければならないので、Cランククエストを受注することはできない。
「南側に行けば行くほどバベルの影響で魔物は強くなるから、北か東がいいんじゃないか?ダンジョンもあるし、山か森だな」
「わかった、ありがとうマスター!」
「気を付けるんだぞ」
「寂しくなりますね…うっうっ…」
マスターに北か東に行くと良いと言われたので、ラティーとまずは北を目指すことにした。
カッコイイ機械も見てみたいし。
「北かぁ、そうするとバリフィストス領にギルドがあるから、まずはそこに行ってみると良い」
「わかった!」
泣いているセレナさんにも二人で挨拶をして、遂に王都を出ることにした。