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俺はバベルで冒険王  作者: お茶菓子
1/5

1部-1章-1話

どうして俺なんだ。そう、思うこともあった。


――――――――――



王都【アラングリフ】

宿を出て、いつものように冒険者ギルドへと足を運んだ。

冒険者ギルドに入ると、いつものように元気の良い受付嬢のセレナさんが挨拶をしてくれる。


「こんにちは、ネルくん!」


「こんにちは、セレナさん。良さそうなクエストあるー?」


クエストの受注をしようと思ったが、奥からギルドマスターのプレヒトさんが出てきた。

見事に磨かれている頭だ。


「今、どこを見た?」


「え!な、何のことかな?」


必死に取り繕った。

目が怖い、あと勘が鋭い。

冒険者だった頃はAランクだったらしく、きっとその頃の勘が生きているんだろう。


「まぁ、良い」


続けてプレヒトさんは


「ネル君には頼みたいクエストがあるのだが」


「俺に?」


「ああ、実はな…ホーマ村からのクエストで、大森林に向かった村の狩人が帰って来ないそうだ」


「捜索クエストかぁ」


「うむ、だがEランクの君一人では少々荷が重すぎると思い、もう一人同じクエストを受けた赤髪の女の子と協力してくれ」


「わかりました…でもなんで俺に…?」


「そろそろ君ら二人はDランクに相当すると思ってね、このクエストからの帰還をもってDランクとする」


「!!!やっ―――」


「ただし!最近魔物が活発化しているのは知っていると思う、大森林も例外なく様子がおかしいとの報告もある。

戦闘はゴブリンと君の特性を生かしてスライム、この2種類のみとする。もし異様な魔物が見られたら即刻帰還し報告すること」


喜んで舞い上がろうとする俺を遮って、ギルドマスターは忠告してくれた。


「はい!…それで、同じクエストを受けた冒険者は?」


「ああ、ラティー君は待つように伝えたんだが、行っちゃったみたいだな」


▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△


俺は弾かれたように王都を出て、ラティーを追う。

目的地のホーマ村には、三日ほどかかる。

道中魔物に会う事があまりなく、急いで王都を出てきたせいで手持ちの食糧も少ない。

なんとかイビルラビーを見つけられた俺は、肉を手に入れ飢えを凌ぐ。

そんなこんなでホーマ村にたどり着いた。ラティーに追いつくことはなく。

村長代理のイザッコさんに話を聞こう。


「こんにちは、冒険者のネルですけどー、赤い髪の毛の冒険者が俺より先に着いてるはずなんですけど…」


「ああ、どうもこんにちは。事情を説明したら直ぐに出て行ったよ、だから今朝方かねぇ…」


もう昼過ぎなので、俺も粗方事情を聞いて直ぐに出発した。

この村では、主に耕作や狩猟で食糧を調達しているみたいだ。

村にいる牛からは牛乳を採っている。

その狩猟に行ったイザッコさんの3人兄弟の長男、イジドニさんが戻ってこないらしい。


「いつもは、兄貴とコイツと3人で狩りに出かけているのに…」


「ここ最近、肉の取れ高が良くなくて…村のためにもって3人で手分けして罠を張りに行こうってイジドニ兄ちゃんが…」


次男のイジドモンさん三男のイジドルさんが泣きそうになりながら話していた。

出発前に、イジドニさんを最後に見た所から、いつも狩りに向かうとされている大森林のほうへと走って向かう。

次男と三男は行きたそうにしていたけど、残ってもらった。


ホーマ村に向かう道中でも、あまり他の魔物を見なかったな。

ゴブリンを数匹、食糧にしたイビルラビーが一匹、この程度だった。

普段よく見かける魔物がそういえばいなかったな…。

なんて考えていたら遠くから叫び声が聞こえた。


「イヤ!ちょ、ちょっと…っ、この…やめっ」


「大丈夫かぁーー!!!………って…。……。」


「っく…アンタ、ちょっと見てないで助けなさい!!!」


「助けるって、えぇ…うそ…」


短く切り揃えられた綺麗な赤髪に金色の眼をしている少女、ラティーがスライムから延びている触手のようなものにあられもない姿で絡まれていた。

膝上くらいまである長いブーツに短いスカート、特徴的なのは、その中身が――


「早く!!!!!!!!」


怒られた。


兎にも角にも、そのスライムが大きすぎる。王都のギルドが二階建てなのだが、それくらいある。

そんなスライムから俺に向かって触手が延びてきた。

咄嗟に腰に提げている剣に右手を伸ばしたが、間に合わず左手でガードした。

激しい衝撃に身を構えたが、スライムの触手はバチッっと音を立てて消えた。


「うわっ…って、あ、そうか、こいつスライムか」


道中見なかった魔物、それはスライムだった。そして俺はスライムにはめっぽう強いのだ。

触れて魔力を流すだけではじけてしまう。


『………』


スライムは少しおかしいと感じたのか、確かめるようにまた触手を延ばした。


「おおおおおっ!!!!!」


「ちょ、アンタ落ち着きなさい!待って!うそ!?」


心配し焦るラティーをよそに、俺はアホデカスライムに叫びながら突っ込んだ。

やけくそになったかのように映っているんだろう。

飛んできたスライムの触手に触れ、さっきと同じようにはじいた。

そのまま加速しスライムに突っ込み、飲み込まれた。


「…え、ちょっと待って、うそでしょ…?」


うねうねと動かしていたスライムの触手は俺が体内に突っ込んだ時に止まり、徐々に体が震えだしていた。震えは次第に大きくなり、間もなく、はじけ飛んだ。


「ブハァーーーーーー!!!!!!」


「キャア!」


中心から大の字になり地面に倒れこむ俺と、触手から解放され尻もちをつくラティー。

倒されたスライムの魔石がそばに転がった。


「…え?」


何が起きたか分から無さそうにしているラティーに俺は横になりながら説明した。


「俺、スライムには魔力を流すだけで勝てるんだよね…魔力切れだから少し休む…」


さっきの戦い(?)で魔力を切らしたので少々休もうとする。


「…はぁ…わけわかんない…けどとりあえずクエストなら終わりよ。私も魔力切らしたところだったから、ある程度回復したらホーマ村に戻るわよ」


そう言いながら、少し寒そうにしながら座り込むラティー。夕暮れまではまだあともう少しある。

再び立ち上がるまでに、お互い軽く自己紹介した。


「俺はネル、君はラティーでしょ?」


「ええ、そうよ、今回のクエストあなたがパーティだったのね」


「なんで俺を待たなかったんだ…危ないとこだった」


「早く終わらせたかっただけよ」


そんな当たり障りのない会話をしつつ互いの距離を縮めたところで回復したので、ホーマ村に向かう。俺の頭よりも大きい魔石を持って。


「おお!お二方…その鉱石は…?」


「とーーんでもなく大きなスライムがいたので、退治したんです」


「メガスライムよ」


「なんと…メガスライムとは…して、息子は……?」


「…その、何というか言いづらいんですけど……」


ラティーが辛そうにしながらポーチから骨の首飾りを出した。

よく見ると、村長代理ら家族が同じものをつけていた。


「なんと…!なんと……ぁぁあ…」


「兄ちゃん…っ」


「……っ」


ラティーは既に手がかりを見つけていたのだった。

ギルドマスターには自分らで対処出来ない魔物に出会った場合即時帰還するようにと言われていたはずだ。きっと依頼主の意を汲んでの事だろう。

泣き崩れる3人家族に低い陽が当たる。


翌日、王都に向けて出発する。メガスライムの魔石とクエスト完了報告書を持って。

少しだけ大森林側に行き、食糧を調達してから王都に向かった為、行きよりも時間がかかった。

ギルドに着いた時のギルマスの顔は傑作だった。

魔石を見て、文字通り目が点になり、クエスト完了報告書を見て次第に真っ赤になっていく。


「ぶぁっかもーーーーーーーーーーーーーん!!!!!」


ギルドの建物がビリビリと震えるほどの大声で怒鳴られた。思わずビクッとしてしまう。


「アレほど…!私が何て―――」


「ギルマス!待ってコレ、スライムだったんだよ」


「―――言ったかおぼ…はぁ?」


「メガスライムが出たのよ、それをネルったら体当たりして突っ込んで飲み込まれて…こうよ」


身振り手振りを交えて、ラティーがメガスライムを倒した時の様子を伝える。

その後に俺はドヤ顔で続ける。屁理屈を。


「ギルマス、言ったよね確か」


「……こんのっ」


「マスター、私は覚えてますよ」


「セレナァ!」


「キャア!」


「まったく…まあいいDランク昇格だ!それと!ちょっと二人ともこっちに来なさい!」


怒鳴られたセレナさんはビックリして、舌をペロっと可愛げに出した。

ギルマスルームにて、Dランク昇格後の説明という名目で長い説教をされた。

まずはギルドのランクによる力の構成について。


「いいか、冒険者ランクって言うのは、その冒険者の強さだけではなく、判断能力も加えて考えられている。なぜなら、魔物のランク付けはどのようにして格付けがされているか、ラティー君なら知っているんじゃないか?」


「え!?えーー、まぁ、そうね、ここはマスターに譲るわ」


「……。基本的に冒険者のパーティランクで定められている。ソロで活動する冒険者は極めて少なく、ギルドも認めていない。だから、ギルドランクはFランクからSランクまであるが、Fランクの魔物は存在していない。Eランクの魔物のみ、ソロでの討伐は許されているがな」


「いる事にはいるんだ」


「ソロで活動する事を認めている冒険者は三人しかいない。3[けん]王と呼ばれているがそれくらいは知っているよな?ラティー君?」


「うぐっ!し、知っているわよ![賢者][拳王][剣聖]でしょ!それぞれ[賢王][拳王][剣王]だった事から、3[けん]王って呼ばれてるのよね!」


「うむ。そしてこの三人だけがSランク冒険者なのだ。そして今回君たちが倒してきたメガスライムはCランクモンスター。Cランクモンスターだぞ!?」


「つまり俺たちはCランクだ」


「そうね」


ブチブチッ、っと血管が数本切れる音がしたので、流石に冗談だと言って落ち着かせる。


「じょ、冗談だよ、マスター…ね?」


「そ、そうよ、落ち着いて、マスター」


マスターはゆっくりと深呼吸して、話を続けてくれた。


「ふぅー…。いいね、事情はあれど、君たちの命はたった一つしかない、かけがえのないものなんだよ。Dランクになる、ということはこれまでより様々なクエストをこなし、また成長するのだろう。いずれはCランク、Bランクと、どんどん成長し、パーティのリーダーにまでなる筈だ。間違った判断を下すとパーティを危機に晒してしまう、パーティリーダーというのはみんなの命を預かっているのだ。君たちには、是非立派なパーティリーダーへと成長してもらいたい。さもなくば――」


マスターは最後に、失った自分の左腕を見せ、肩をすくめてこう言った。


「こうなってしまうぞ」


「分かったよ、マスター、ごめん」


「ごめんなさい」


「分かってくれれば良いんだ。あとネル君、その魔石についてだが、倒し方は見当がつく、傷が入らない最上級の魔石になる筈なので、かなり高値で売れるはずだ。あまり街中で持って歩くもんじゃない」


「ん、わかった!」


「私が現役時代に贔屓にしていた鍛冶屋に連れて行こう」


ギルマスはまだ仕事が残っているので、一旦預かってもらい、仕事が終わるまで二人でギルド内の食堂で待った。が、既に夕暮れ前で、マスターの仕事もすぐに終わり、ギルドを発った。

王都の商業地区へ向かい、そして少し歩き、ちょっと細い路地を通って、怪しい雰囲気の看板が出ている店に着いた。

ドアを開けると、太い眉毛が特徴的な、俺と年がそんなに変わらない男の子がいた。


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