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味噌汁の科学  作者: 林海
1/13

1 〜発酵〜

 毎日のように飲んでいる味噌汁。この一杯から、どれほどの科学的な観察結果を導き出すことができるでしょうか。

 1861年に、ファラデーという科学者の子供向けの講演が、「ろうそくの科学」という本にまとめられました。1本のロウソクが燃える姿から、燃焼という現象を通して化学の本質にせまる名著です。皆さんも一度は読んでおくと良い本のうちの一冊です。

 同じように、身近なものから科学の本質を導きだすために、日本人であればきわめて馴染み深い味噌汁を選んでみました。

 味噌汁から得られる科学的な現象を挙げていきますが、それぞれの現象は単純に見えて、複雑に他の現象と絡み合って発生しています。ここで挙げたことが、皆さんがそれぞれの理解を深めていくをきっかけになれば、うれしいことです。

 その一方で、観察眼の鋭い人であれば、ここに書かれたことより、もっとたくさんの事象を発見できるでしょう。観察に終わりはないのです。そして、観察と発見を繰り返していくことで、科学は発展してきました。

 そして、観察対象とするものが、このような生活の周りにある些細なものであることが重要なのです。なぜならば、科学とは決して私たちの生活から別世界のものではなく、事象も恩恵も身近なものなのです。

 それでは、味噌汁を観察することで、どこまでの知識を得られるでしょうか。


 味噌汁の味噌は何からできているでしょうか。

 材料は、大豆、小麦または米の麹、塩が基本的な材料です。麹とは、米、麦などに「コウジカビ」という「微生物」を繁殖させたものです。

 コウジカビの働きによって、大豆に含まれる「タンパク質」が、「アミノ酸」に分解されています。アミノ酸は「うま味」のもととなる成分ですので、大豆を味噌にすることによって、より美味しくなるのです。


 大豆は、節分の時に投げる豆です。その時に食べて、大豆そのものの味は皆さん知っているでしょう。

 それが、コウジカビによって分解されると味噌の味に、納豆菌によって分解されると納豆の味に変わるのです。菌の力によって、味も香りも複雑に変化します。

 また、塩の働きは、味噌に塩味をつけることだけが目的ではありません。塩が、コウジカビの生育を助け、有害な菌が増えることを防いでいます。すなわち、塩がなかったら、他の菌が増殖し、大豆は味噌にならずに「腐敗」してしまうのです。

 したがって、味噌を作るということは、コウジカビの生育環境を整えてあげるという側面があります。


 その一方で、納豆は、そのまま食べても塩気を感じませんね。これは、納豆菌の生育を助けるための条件が塩ではなく、高い温度だからです。他の菌が死んでしまうほどの高温で大豆を処理したあと、人間の体温よりも高い温度を維持することで、納豆菌の生育環境を整えてあげるのです。


 日本という高温多湿の国では、食べ物は腐ってしまいやすく、長く保存することは難しいのです。しかし、良い働きをする微生物の力を活用することで、味を良くしながら保存が可能となります。

 科学の言葉では、人間にとって微生物が行う良い働きを、「発酵」と言います。

 逆に、人間にとって悪い働きを「腐敗」と言います。

 これは微生物の与り知るところではありません。あくまで人間の価値観なのです。


 この二つの差は、極めてわずかです。味噌では有用なコウジカビが、パンにつけば捨ててしまうしかありません。また、日本ではミカンやパンについて嫌われる青カビも、ヨーロッパではチーズを美味しくしているだけでなく、ぺニシリンという薬になるのです*。


− − − − − − − − −

  

 ※青カビは学名ではペニシリウムといいますが、カマンベールチーズにつく青カビは、ペニシリウム・カマンベルチ(Penicillium camamberti)、ロックフォールチーズにつく青カビはペニシリウム・ロックフォルチ(Penicillium roqueforti)といいます。学名というと難しいイメージですが、案外身近なものなんですよ。

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