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第二話 魔術ムズすぎ問題


 ワックルとニーナンが魔術の修行を始めて一週間くらいが経過しました。今日はワックルの家で秘密会議を行なう模様です。夏真っ盛りの時期にクソ蒸し暑いぼろ小屋で話し合いをする無謀さにニーナンもようやく気づいたのでした。


「……むっずっ。ねえ、ワッカ君。ぜんっぜん魔術を習得できる気がしないんだけど、どうなってるの? 成長ボーナスとか何でないわけ? おかしいわよ、こんなの!」


 ワックルのベッドの上で座禅を組んで精神を統一していたニーナンは、パチリと目を開けるやいなやワックルにこの世の不条を捲し立てました。


「まあまあ、落ち着いてください」


 隣で同じように精神統一していたワックルは、姿勢を崩さずにそれを受け流しました。まぶたも閉じたままです。慣れの極みでしょうか、出会ってから5年以上聞き続けてきたニーナンの苦言など全く意に返していません。


「魔力感知はすぐにできたじゃないですか。心臓の辺りから漏れ出る魔力を身体に染み込ませるだけでいいんですよ、簡単です」


 魔力操作に関しては一歩リードしているワックルは当然のようにマウントを取りに行きます。


「そう、それは簡単なのよ」


 ニーナンもマウントを取り返しに来ました。


「その身体を巡ってる魔力がぜんっぜん魔術にならないのがおかしいって言ってるのよ、私は!」


 ニーナンはぷくっと頬を膨らませて魔術を形成できないことへの不満をもらします。


「ですから、次はイメージトレーニングの段階ですって最初に言ったじゃないですか。まずは体内で魔術を形成するんですよ。け・い・せ・い、わかりますか? 形成です。魔術を形作るんです」

「その形成ってやつ、ワッカ君だってできてないじゃない」

「うぐっ、まあそうなんですけどね。ちょっと魔術ってやつを舐めてましたよ」


 魔力の感知に始まり、魔力を全身に行き渡らせる段階まではうまくいきましたが、そこから先に中々進めない様子です。魔力を形成する。ただ、イメージすれば簡単にできるやろとワックルもニーナンも最初はそう息巻いていましたが、やれどもやれども魔術を放つどころか形作ることさえできません。


「ここは、教師チートを呼ぶしかないわね!」

「なんでもかんでもチートを付ければいいってもんじゃないと思いますけど、まあ妥当な意見です」


 とは言っても、ワックルは既に修行の仕方からコツに至るまであらかた両親に聞き出しているので彼にとってはあまり意味がありません。既に反復練習と精神統一を継続する段階にありました。


「さあ、もっと懇切丁寧に教えなさい! ワッカ君!」

「僕が教師役だったんですか、流石に気づきませんでした」


 ニーナンが側にいると修練の邪魔になりそうなので、ワックルは母親を呼んで彼女を押し付ける予定でしたがその予定が狂ってしまいました。まあ、ワックルの母親は用事で出かけているので今はいませんが。


「まあいいでしょう、他者に『教える』という行為は自分の学習にも最適な行動の一つですからね」


 ワックルはとりあえず『教える』という点を強調してリードを取りました。


「私の『協力』があれば、ワッカ君もまた一つ成長できるはずよ」


 ニーナンは『協力』を強調しました。協力という言葉を受けて、ワックルはそう言えばと話を切り出します。


「そう言えば、精神統一だけでなく肉体を動かしながら魔力を操作する訓練も良いと父さんが言ってましたね。誰かと協力して組み手や力比べをしながら肉体と魔力の親和性を高めるのも有りですね」

「……ほほう。なるほどね、理解したわ。つまり、頭だけで考えるな身体も使えってことね!」

「そうなりますね」


 というわけで、ニーナンとワックルは二人で力比べをすることにしました。内容は腕相撲です。


「ニィさん、最初は力を抜きましょう。徐々に、徐々に魔力をにじませながら腕に力を込めていきますよ」

「わかったわ、抜け駆けはナシってことね」

「いや、そうではなくてですね。あくまで訓練ですから。勝敗に重きを置かないようにってことです」

「おけおけ、私が勝つからワッカ君は勝敗を気にしなくて大丈夫よ」

「ふふっ、僕が負けるわけないじゃないですか。何を言っているやら、ニィさんは」


 ちなみに、二人はベッドにうつ伏せで寝っ転がり、お互いに向かい合っている状況です。二人とも笑みを浮かべていますが、目は笑っていません。一触即発です。


「ふぁぃっ!」


 ここで唐突な開始宣言!


「ぐぅっ……だ、だから最初は力を抜くって……ぐぬぬ、言ったじゃ、ない、ですかっ!」

「手を抜くのはっ……ぐぐっ、嫌なのよ……ふぬぅっ……私はっ!」


 お互いの右手が段々と魔力に包まれていきます。先ほどま体内に留まっていた魔力が次々と右手に収束してどんどん力強さが増しています。


「なる、ほどっ。実際に魔力を漲らせている感覚があります。良いですね、これも一種の魔術と言えます」

「あははっ、私、これ好きかも。この感覚はとても素晴らしいわねっ」


 二人の頬に汗がにじみ出て、ポタリとベッドにこぼれ落ちました。今の所、形勢は互角です。身体強化を維持する集中力と魔力強化の適正率、心身の疲労蓄積率が勝敗をわけそうです。どちらかと言えば、すべてにおいてワックルが有利のはずでした。魔力操作に関しては一日の長という奴です。


「ふふんっ……ど、どうやら私の方がっ……力強さは上のようねっ」


 ですが、魔力による身体強化においてニーナンには才能があったようです。少しずつですが、ワックルの手の甲がベッドに近づいていきます。しかし、ワックルはそれを必死に抵抗します。ニーナンは更に力を込めようとリキみますが、決定打にはなりません。


「ふ、ふふっ……しゅ、集中の、け、継続度合い……は、僕の方が上ですっ。だんだんと力が弱くなっていますよ? ニィさん、この勝負……もらいますっ」


 ここに来て、両者の拳は再びフラットな位置に戻ってしまいました。しかしです。押し戻されていたニーナンに異変が起こります。


「……けて……負けてたまるかぁあっ!」

「ぐぬぅっ」


 ニーナンは目を見開き、爆発的に魔力を漲らせました。その勢いにワックルは為す術もありません。純粋なパワー勝負となり、ワックルの手の甲はベッドと接吻をかわしました。軍配はニーナンの手に。


「……はぁはぁ、や、やったわ……はぁはぁ」

「……ふはぁ……はぁはぁ、最後の爆発力は、凄まじかったですね……というか……はぁはぁ、めちゃくちゃ疲れましたね、これ」

「……そ、そうね。……こ、こんなに動けなくなるとは……はふぅ……思わなかったわ」


 お互いの手を握りあったまま、二人は力なくベッドに身を任せることしかできませんでした。顔や身体は汗まみれで、髪も汗でしっとりと湿っています。息遣いは荒く、ぐったりとしている様はどうみても事後です。


 このままではとんだ勘違い展開が起こりかねません。そんな予想を裏切らず、ここぞと言わんばかりのタイミングでワックルのお母さんが用事から戻ってきました。その両手には近所の牧場で育てられた牛の乳や鶏の産んだ卵が入った袋を抱えています。お買い物帰りです。


「どーお? ワッくん、ニーナちゃん。魔力形成の修練は順ちょっ……ちょおっ!? いえ、待って……そういうことね。あらあら、魔力を使って身体強化を限界までやりつくして疲労困憊ってところかしら?」


 ワックルのお母さんは超絶なまでに察し力があるので、最初は驚きましたが直ぐに何が起きたのかを察しました。


「はぁはぁ……母さん、大正解」

「はふぅ……はふぅ、流石おばさま……サスさまですね」


 さすおばと言わない辺りにニーナンの配慮が光ります。その後も、ワックルのお母さんの指導のもと、二人は魔力形成の修練に励みました。結果から言うと、ワックルとニーナンは得意分野が分かれる形となりました。


 ワックルは超超初歩的な魔術形成に成功しますが、ニーナンはできません。しかし、身体強化の持続や強化度合いはニーナンに分があるようです。こうして魔術はワックル、肉体脳筋はニーナンと得意分野の住み分けがなされました。


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