雪包むバス停
やがて、バス停の周りの桜も、黒宮さんと一緒に見た紅葉も、全ての葉っぱが落ち葉となり、雪まで降り始めた今日。
それでも、僕の暖かい日常は続いていた。
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『.....くしゅっ!』
今日はかなり冷え込んで、雪まで降ってきた。
そのせいで、どうやら...さくらは風邪気味?
ねこって風邪引くのかな?
「...あ、そういえば黒宮さんも風邪気味だったよ。」
ふと思い出して、さくらに言ってみる。
普段、あっそう、て感じなんだけど、今日は聞く気も起きないぐらい寒いらしい。
すぐ近くに自販機があるのが見えて、ちょっと待ってね。 と声をかけてから、財布を持って走った。
こんなバス停の近くだからか、自販機もあまり豪華なものがない。
ほんとはホットココアがほしかったけど、残念ながらなかったので、缶コーヒーを買った。
「ただいま、さくら!
ほら、これであったかいだろ?」
さくらの体にぴとりと缶コーヒーをあてると、一瞬びくっとしたものの、体をすり寄せてきた。
そんな状態をほのぼのと見ていたら、今日はいつもより早くバスが来てしまった。
缶コーヒーを飲まないのはもったいないけど、正直苦いのは苦手だ....なので、そのまま置くことにした。
もはや抱くようにくっつくさくらは、すごく可愛い。
そして僕は、今日も別れを告げてバスに乗る。
「じゃぁね、さくら。
風邪引くんじゃないぞ!」
『にゃあ!』
じゃれつくように缶にくっついたさくらが、とても嬉しそうに返事をした。
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翌朝、バス停に着いた時、視界の端にいつもはないものがあった。
昨日買った缶コーヒー、しかも中身は空っぽ。
さくらが飲んだ...?
いや、そんなわけないかーと思いながら、自販機の横のゴミ箱に捨てた。
今日も寒いし、ココアでも買おっかなー、とぼけーっとしながら小銭を入れて、昨日と同じ位置にあるボタンを押す。
......押してから、そういえばこの自販機にはココアないんだ、昨日買ったのコーヒーだ、なんでコーヒー買っちゃったんだ。
なんて感じで、正気に戻った。
ぼけっとしてるからこうなるんだろう。
でもしかたない、昨日のさくらを思い出して可愛いなあって思ってたし。
......言い訳にならないか、でも買っちゃったし。
しかたなく、後で頑張って飲みきろうと思って、ひとまず鞄に入れた。
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校門を通り、歩いていると前の方に黒宮さんの姿発見。
僕はすぐさま駆けよって、声をかけた。
「黒宮さん、おはよ!」
「ん、統か。 おはよ....」
相変わらず長い黒髪が冷たい風に揺られて、とても綺麗だ。
そして僕のことを下の名前で呼んでくれるのがすごく嬉しい。
実を言うと、修学旅行の時ランダム交換で偶然もらった黒宮さんのお土産に、僕がお礼のプレゼントを渡した時から、下の名前で呼んでくれてる。
それまでは名字で呼び捨てだったけど、もう友だちだから...って言ってくれたんだよね。
ちょっと照れてる感じが可愛かった。
でも、今元気がなさそうなのは....やはりこの寒さのせいだろうか。
そういえば、さっきコーヒー買ったんだった。
黒宮さんが好きならあげようか、飲めば体もあったまるだろうし。
嫌いだったら....僕が頑張って飲めばいいか。
「黒宮さん、コーヒー好き?」
僕が問いかけると大きな黒い瞳が僕をとらえて、小さな顔が縦にうなづく。
「好きだけど、それがどうしたの?」
「さっき自販機で間違えて買っちゃったから、あげるよ。」
僕苦いの苦手だからさ、と言って熱いくらいの缶コーヒーを手渡す。
それを受け取った黒宮さんはその缶コーヒーをじっと見つめている。
「あれ、もしかしてメーカーとかで好き嫌いある?」
と聞いてみると、慌ててそんなのねーから気にすんな、と言われた。
その後、小声でさんきゅ、と言ってくれたのも聞き逃さなかった。
僕は、笑顔でどういたしまして! と答えた。
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「黒宮さん、どうしよう〜〜〜〜〜〜?!」
僕は机にぐったりと倒れて、すまし顔の黒宮さんに話しかける。
「わたしに言ったところで解決しねーだろ。」
僕が悩んでいるのは、進路アンケートだ。
そんなのもちろん書けるわけがない。
今朝間違えてコーヒー買っちゃったけど、その後いいことあったからルンルンだったのにー!
ていうか、僕らはまだ1年生なんだから、来年再来年でいいじゃないか....なんて投げやりなことさえ考える。
「そういう黒宮さんは決まってんの?」
落ち着き払った様子の黒宮さんを少し睨むような目をしながら、僕は問いかけた。
「決まってるわけないじゃん。
でも成績高いし、もう少し考えたいとでもいえば納得するだろ。」
そう、黒宮さんはすごく成績がいい。
体育はもう当たり前のことだけど、勉強までできる。
きっと、裏で努力するタイプなんだろうな。
見てる限り、普段からものすごく勉強してるわけではないから。
でも、黒宮さんなら.........