懐かしいバス停
『さくら、俺、警察になろうかな。
......いや、なりたいな。』
『.........』
『? 応援してくれるのか?
ふふっ、ありがとな。
卒業したら、お前にも会えなくなるなぁ。』
『............』
『さみしい? ま、大丈夫。
きっとすぐ、また会えるさ。
......バス、来たな。 じゃあ、またな。 さくら。』
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......じ....いじ....とら...け...じ.....
「虎井刑事!!」
「ひゃわぁっ?!」
大きな呼び声に、僕は我に返って、変な叫び声をあげる。
僕・虎井 統は、刑事になって半月ほどが経った。
今は、ある事件の目撃調査を終えて、帰るところで、昔よく使ったバス停が見えた。
舞い散る桜に隠れるように、ひっそりとあったはずのバス停は、バスが来なくなったらしい今も同じように残っている。
高校の時の想い出に浸っていたら、すっかり意識が飛んでいた。
「す、すみません。黒宮警部......」
「全くよ、ぼーっとしちゃってさ。
なにか重要なことでもわかったのかしら?」
僕が黒宮警部、と呼んだ彼女は、元々高校の同級生だったのだけれど、すっかり身長が伸びてしまっている。
ただ、長い黒髪と美人なところ、後は喧嘩が強いこと、そこは変わらずだった。
「い、いえ、その...あのバス停、想い出があるので......」
重要なことどころか、事件にはまったく関係のないことだ。
正直に打ち明けると、彼女は少しにやにやして、口を開いた。
「へぇー? 想い出ねぇ....まさか、女の子?」
「んなわけないじゃないですかっ!!
高校の時からさくらさん一筋ですよ!」
大きな声ですぐさま否定すると、背中を軽く殴られる。
ちょっと顔が赤いところは可愛いのに、背中はぐりぐりと拳を押し付けられて、相変わらず痛い....
「大声で叫ぶな。 殴るぞ?」
いや、もう殴ってるし....しかもそのまま背中をぐりぐり...結構痛い。
「わかりましたから、やめてくださいよ....」
顔の赤みも消えて、はいはい、とさくらさんは言った。
同時に背中にぐりぐりと押し付けていた拳も離れて、痛みだけが残される。
「それで? 女の子じゃないんでしょ?」
そう聞かれて、すぐに頷こうとしたが、よくよく考え直してみる。
「いや...女の子かもしれない...」
自分の考えが口からそのまま出てきて、はっ!と気づいた時には、もう怖い顔をしたさくらさんに睨まれていた。
「はぁ? どっちなの?!」
「ね、ねこですよっ!
勝手に女の子かなって思っただけですけど!」
ねこの性別なんて、聞かれたところでわからないし......何より、高校の時の話だ。
ねこの寿命は短いのだから、普通なら生きていないだろうなぁ。
「ったくもう、紛らわしいこと言わないでよね。」
すみません、と頭を下げて、横目でまたバス停を見た。
僕とあの子の居場所だった、想い出のバス停。
「まだ時間もあるし、そこの自販機で飲み物でも買って、その話を聞きましょうかね。」
そう言って、さくらさんは自販機のジュースを見る。
あの自販機も、変わらず残っていたのか....僕はよく、大好きな炭酸飲料と、飲めもしない缶コーヒーを買っていたっけ。
少しして、さくらさんはあったかい缶コーヒーを、僕は冷たい炭酸飲料を手に、バス停のベンチに座った。
そして僕は、高校生の時の話を始めた。
さくらさんへの恋心と、さくらとの不思議な想い出を...