酔っ払いは楽しい。
酔っ払いは楽しい。
かかととつま先が離れないように歩く。
夜のすんとした空気。
吐く息は白くても体はあたたかい。
鼻歌なんか漏れちゃったりして。
思ったことも全部口から出ちゃったりして。
だから酔っ払いは楽しい。
酔っ払いは
「たのしい!!!!!」
「だから全部出てる、思ったこと」
たしなめてくれる新谷くんの腕をかっさらってそのまま組む。
いやがってるかなあ。
けどいやだったらそもそもここまで付き合ってくれないよね。
「それは当たり」
やったあ。花丸満点みたいです。
そういえば小学校の先生の花丸ってほんときれいだったよね、あんなきれいなくるくる書けなかったし花びらも手慣れたおしゃれさ?あってさ、うらやましくて練習したけど全然無理で
「ふみか。あぶない。」
おっとっと。こんなところに信号があるのは反則だって。
急ブレーキするために、新谷くんは私の手首をとっていた。
これってもう手繋いでるようなもんだよね。
赤信号の間にしっかりと繋ぎ直す。
「あのーふみかさん?」
あ。青になった。
「なに?」
「なんですかこの手は」
見ればわかるのにばかだなあ。
「恋人繋ぎだよ」
普通の繋ぎ方よりなんとなくあったかくって、お腹の底がきゅんってしない?それでさ、ああこの人のこと好きなんだなあ幸せだなあって思えて
「待って」
なに。
「それ聞いてない。好きだって聞いてない」
「当たり前じゃん、言ったことないんだから」
しれっと投げた言葉は新谷くんには刺さらなかったみたいだ。だって応答がない。
「つまんないのーーー」
横断歩道をゆっくりと渡り切る。繋いだ手をぶんぶん振り回したりなんかしながら。
Y字路を右に行こうとしたところで急に半身が重くなった。
「待って」
「どしたの新谷くん」
「脳の処理が追いつかない」
なんだそれ。ふふふと笑おうとした私の声は、なぜか新谷くんの胸のあたりに溶けていった。
好きな人に、抱きしめられている。
なんてあったかいんだろう。
心が。お腹の底がきゅんってする。
「俺も。俺もしてる」
おそろいだ!と笑おうとしたら。今度はそれは新谷くんの唇へと溶けていったのでした。
酔っ払いは楽しい。
鼻歌なんか漏れちゃったりして。
思ったことも全部口から出ちゃったりして。
新谷くんの横で素直になれるの、楽しい。