1話 二乗って何?
今日は才能値を測る日である。年を明かす日の夜、毎年13歳の人たちは教会に集まっていた。
「汝、神から与えられた才能をここ、聖水の泉にあらわしたまへ。」
このセリフを神官のが言うと、桶に入った聖水の水面に文字が浮かぶ。スキルと成長をどれぐらいできるのかというのを表してくれる。一般的には経験値二倍が出てくるのだが、凄い人だと3倍などでてくる。10倍になると神子と呼ばれるほどの才能値となる。才能値が高いとレベルが上がりやすくなってスキルをたくさん覚えられるようになるのだ。
今日は僕、セームスの才能値がわかる日なのだ。
「セームス!私10倍だったよう!」
隣の家の女の子、ユキは10倍だった。
「ちっ、俺は4倍かよ。」
ガキ大将のボーブは4倍。平均よりかなり上である。
神子扱いされるようになったユキやボーブよりも成長率が高くあってほしいそう思いながら列に並んでいると僕の番が来た。
「汝、神から与えられた才能を聖水の泉にあらわしたまへ。」
浮かんできたのはレベルアップ二乗。よくわからなかった。神官もうちの親も数学が弱いもちろん僕も出来ない。乗数ってなんだ?神官は悲しそうな顔をする。以前同じ文字を見たが、その子は1レベルも上がることはなかったとのこと。
「なんだ、セームスは倍加すらないのか!へっ、クソじゃねえか!」
くっ、言い返せない。うちの家系は代々猟師。レベルが上がらないと厳しい仕事である。どうしたものか。両親は慰めてくれるけど、僕はこのレベルアップ二乗に何かあると思っている。帰ってからいろいろ検証してみよう。
「僕のステータス、オープン!」
セームス 13歳
レベル2
スキル 流水(水を出すことができる。生活スキルの一つ。)
才能値 レベルアップ二乗
とうさんに内緒で狩りに連れて行ってもらった時にレベルは2になった。あの時はゴブリンが出てしまい大変だったが、教えてもらっていたナイフ術を頑張って発揮して倒したのである。
「とりあえず何かを狩ってみればわかるのかな?明日とうさんに狩りに連れてってもらおう。」
夜、とうさんに才能値がなんなのか調べたい。なんにもなかったら1倍って出るはずだと言って説得した。モンスターを倒さねばなにも変わらない。
翌日、父親に連れられセームスは森に入る。年を重ねたため、力はついてゴブリンだったら簡単に倒せそうだ。
「セームス、ゴブリンが三体。お前だけでやってみなさい。多分できるから。」
相手の目に流水を掛け、目を瞑らせたところをクビを斬る。このやり方で三体倒し、レベルアップ音楽が2回分頭に響く。
「セームス、ステータスを見せてくれないか。」
「ステータスオープン!」
セームス 13歳
レベル16
スキル
流水、着火、弱電、弱風、耕し、発芽、
濁流、発炎、電流、風波、土壁、蔦の手
レベルがすでに16、二段階スキルまで攻略している。とおさんは驚きが隠せないようだ。
「おい、ゴブリン三体倒しただけで16レベルになるわけないだろう!なんだお前の成長率は!才能値は一体なんだったんだ!もうすぐ俺のレベルに達してしまうぞ!」
とおさんは20だ。上位の水を覚えて以来、あまり上がっていないと言っている。
「狩りは続行だ!どれだけ上がるのか楽しみだな!」
次に出てきたのはオーク。これはとおさんと協力し倒す。またレベルアップ音楽が流れる。レベルアップのたびに流れる音楽なのだが、さっき15レベルも上がったのに2度しかならなかった。なぜか少し疑問に思いながらステータスを開く。
セームス13歳
レベル256
スキル
下位属性魔法
中位属性魔法
上位属性魔法
越位属性魔法
王位属性魔法
「もうなんなんだよ、わけわからねえよ!」
とおちゃんは考えるのを放棄した。この日の狩りはここで終了となった。僕は1日で254レベルも上がったのだ。そりゃわけわからんと言いたくなるのもわかる。僕だって自分のことがわからんのだもの。村にオークとゴブリンを持ち帰る。オークは食肉に、ゴブリンは飼料として解体した。
次の日の朝、ボーブが家の前に来た。
「よう、1レベルの雑魚君よ!俺は昨日3レベルにあがったぜ。どっかにいいサンドバックないかなってきたんだけどやってくれるよな?な?」
「ボーブ、俺は昨日で254レベルも上がったぞ。2レベルしか上がってないのかお前。」
「う、嘘つくな!ステータス見せろ!」
ボーブにステータスを見せた。唖然として、わなわなと震え、殴りかかってきた。いつもだったら殴られてボコボコにされるというのがいつものパターンだったが、今日はボーブの拳がゆっくりに見える。彼もふざけているわけではないようなのでレベルの恩恵だろう。
ボーブの手をひねって投げ捨てた。
「ボーブ、俺をいじめたいんだったらさっさとレベル上げに行ったほうがいいんじゃないか?」
「クソッ、覚えてろよ!」
ボーブの脅威は去った。隣の家のユキがいつもだったら来るタイミングだ。だがしかし、来ない。どうしたのだろう。隣の家のおじさんを訪ねた。
「すみませーん。」
「はい、なんでしょう。あ、セームス君か。どうしたんだい?」
「ユキは?」
「ユキは教会に連れて行かれたよ。娘は嫌がっていたけど司教って人が連れて行ってしまった。とりかえそうにも私は17レベル。司教のような高レベルの人にかなうわけがない。娘が危ない目に遭わないように黙っているしかなかった……。」
僕はこの親父さんを起こりそうになった。感情的に、ただ情動に踊らされて。しかしこの親父さんも無念なのだ。僕も最初才能値がわかった時無念を感じた。どうしようもない何かを。こういう人には怒っちゃいけない、そう学習したことを思い出した。
「僕が、僕がユキを取り返しますよ。」
「セームスくん、才能値が………。」
「今僕は256レベルです。才能値の正体はよくわかりませんがめちゃくちゃ成長しやすいようなので大丈夫です。任せてください!」
信じられないだろうからおじさんにステータスを見せる。おじさんも顎を外しそうなほど驚いていた。
家に帰って準備する。
「とおちゃん、ぼく、ユキちゃんを取り戻してくるよ。」
「ああ、そのレベルだったら大丈夫だろうな。頑張ってきなさい。応援しているよ。」
とおちゃんは男にはやらねばならない時がある!と鼻をふんすと鳴らして背中を叩いてきた。ユキちゃんのお父さんとお母さんはとおちゃんとお母ちゃんの友達だったらしい。とおちゃんも仕事があるからいけないのはわかっている。ぼくが取り返すしかないんだ。
ナイフとカバンを背負って、干し肉とパンを中に入れる。
「セームス、油断だけはするんじゃないぞ。良いな!」
「わかった。気をつけるよ!」
そして、セームスの旅は始まったのだ。
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