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プリンセスの真実

「フリージア! なぜお前がここにいるんだ!」


驚愕の声を上げるアトレーユ王子に、フリージアさんは涼しい声で答える。


「なぜも何も、ウチはいつも殿下の近くにいるよ。殿下のお目付け役としてね。今までずいぶん好き勝手してきたのも我慢して見てきたけど、さすがに今回ばかりはね……まさか禁忌魔法にまで手を出すとは思わなかったでや。さて、この事陛下にはどうお伝えしようかね」

「や、やめろ! お願いだ。父上だけには言わないでくれ!」

「やりたい放題しておいてその台詞?」

「頼む! フリージア!」


 アトレーユ王子は、フリージアさんに縋りつく勢いで懇願する。

 フリージアさんは腕組みしながらその様子を見降ろしていたが、やがてため息とともに口を開く。


「今後の事はまた改めて決めるとして、とりあえず少し付き合ってもらおうか。ね、ヴィンセントさん。おまんも殿下に用事があるんでしょ?」


 その言葉で我に返ったヴィンセントさんは、フリージアさんを胡散臭げに見つめる。


「あ、ああ。確かにその通りだが……お前は一体何者なのだ?」


 あ、そうか。私はフリージアさんの正体を知ってるけど。ヴィンセントさんはフリージアさんと初対面だったっけ。


「さっきも言った通り、ウチは殿下のお目付け役。王宮に仕える者だよ。だからヴィンセントさん。おまんの経歴も、もちろん知ってる」


 その言葉にヴィンセントさんは少したじろいだ様子を見せたが、私は彼の袖を引っ張って言い添える。


「ヴィンセントさん。その人はたぶん信用しても大丈夫です。私も会ったことがあるので」


 ジーン王子の時はどちらかといえば対立側にいたフリージアさんだが、今はアトレーユ王子を非難している。つまり私たちの味方ではないかと思ったのだ。


「……わかった。ユキ、お前を信じよう。フリージアと言ったか。お前に付いてゆく。案内してくれ」

「案内だなんて大袈裟な。なあに、ちょっと近くの路地裏まで行くだけさ。勿論アトレーユ王子も付いてきてくれるよね? ユキちゃんも来る?」


 疑問形ながらも有無を言わさず歩き出すフリージアさんに、アトレーユ王子は黙って付いてゆく。私とヴィンセントさんもその後ろを歩く。そのまま私達はひと気のない近くの路地裏に入り込む。

 最初に口火を切ったのはヴィンセントさんだった。


「さて、アトレーユと言ったか。まずはこれを見てもらおうか」


 そう言って背を見せると、後ろ髪をかき上げる。

 そこには王族の血を引く者の証である『聖印』が現れている。

 それを見たアトレーユ王子の顔がみるみる白くなる。決して寒さのせいだけではない。


「ま、まさか、聖印だって……? それじゃあお前は……」

「ああ、我輩はお前の兄で、第二王子のヴィンセントだ」

「これで分かったかいね。殿下。おまんは自分の兄である王族に禁忌魔法を使ったんだよ。そりゃもう一大事だでや」

「ま、待ってくれフリージア! 知らなかったんだ! まさかこの男が僕の兄だったなんて!」

「そりゃ、殿下が産まれる前に城から出されたからね。知らなくとも当然。でも、だからって禁忌魔法をに手を出すなんて普通じゃ考えられないね。ジーン殿下と同じ道を辿っても良いって言うなら別だけど」

「そ、それは困る! どうしたら許してもらえる!?」


 アトレーユ王子に焦りの色が浮かぶ。


「どうする? ヴィンセントさん。おまんが一番の被害者だし、決めていいよ」

「謝罪だ。もちろん面前でのな。それと『ラ・プリンセス』とかいう下らない制度の廃止。ユキに迷惑をかける事の禁止」


 フリージアさんの言葉に、ヴィンセントさんは即答する。

 素晴らしい。素晴らしいよヴィンセントさん。特に後半部分が。


「だってさ、随分甘い処断でよかったね殿下。それじゃあ学校に戻るよ」

「ま、待ってくれ! 僕に謝れって言うのか!?」

「……禁忌魔法」


 途端にアトレーユ王子は大人しくなった。フリージアさんに腕を掴まれ、路地裏から出てゆく。私達もそれに従う。

 やがて校門前に戻って来た時。不意に誰かに腕を掴まれた。


「ユキさん! 大丈夫でしたの!? 怪我はなくって!?」


 ミリアンちゃんだ。私の肩や腕に触れながら様子を確かめている。


「グランデールから聞きましてよ。アトレーユ様といざこざがあったとか。何か酷いことされませんでした?」


 酷いことされたのは、私じゃなくてヴィンセントさんなんだよなあ……。


「私は大丈夫。それよりもアトレーユ様から大事なお話があるみたいだよ」


 私がアトレーユ王子に水を向けると、彼はぎくりとする様子を見せる。


「ほら、殿下。何か言う事あるんでねっか?」


 フリージアさんに促され、アトレーユ王子はかすかに青くなった唇をかみしめる。周囲も瞬時に静まり返った。


「……すまなかった。許してくれ。もう二度としない。それから『ラ・プリンセス』は廃止だ」


 一瞬の静寂。その後での戸惑ったようなざわめきが広まってゆく。


「それが謝るって態度かね。でも、ま、これが殿下の限界かもね。どう? ヴィンセントさんにユキちゃん。後でこってり絞っておくから、今は許してもらえると良いんだけど。どうかな?」


 フリージアさんが、強引にアトレーユ王子の頭を下げさせる。


「……わかった。とりあえずは謝罪を受け入れよう。ユキ、お前はどうする?」

「ヴィンセントさんがとかげのままだったら暴れてたかもしれませんけど……元に戻ったし、まあいいかな。あ、これ、お返ししますね」


 私は首のチョーカーを外すと、アトレーユ王子の手を取り握らせる。

 これでラ・プリンセスとかいう面倒な役割から解放された! はー、スッキリした。


「それじゃ、殿下、今日は帰るよ。王宮に戻って教育し直しだ。じゃあね、ユキちゃんにヴィンセントさん」


 アトレーユ王子は無言のまま、フリージアさんに手を引かれ帰っていった。


「……私達も帰りましょうかヴィンセントさん。朝から疲れたし、今日くらいさぼっても許されると思うんですよね」

「……そうだな。我輩も疲れた」


 私はミリアンちゃんとジェイド君に手を振る。


「そういうわけで私達帰るね。バイバイ」

「え、あの、ユキさん……?」


 二人とも戸惑っていた様子だったが、追いかけてはこなかった。きっと納得してくれたのだろう。


 私とヴィンセントさんは、まだ朝の冷たさの残る街を歩く。


「それにしても、とかげにされた時はどうしようかと思ったが、元に戻って安心した。しかしユキ、お前は他国のプリンセスだったのだな。初めて聞いたぞ」

「ああ、あれ? 違いますよ。私は他国のプリンセスなんかじゃありません」

「どういう事だ?」

「ほら、ヴィンセントさんは王子様でしょ? その王子様の配偶者である私は自動的に『プリンセス』になるんじゃないかと思って。予想が当たって良かったですけど。あの時は、ヴィンセントさんが王子だとバレないように、自分が他国のプリンセスだって嘘をついたんです」


 ヴィンセントさんは暫く呆気に取られていたようだが。不意に笑い出した。


「まったく、お前はおもしろい女だな」


 言いながら私の頭を撫でる。


「ユキ。帰ったらカレーが食べたい。作ってくれるか? 先程の出来事で身体が冷えてしまった」

「いいですよ。カレーは温まりますもんね。それじゃあ材料を買いに行きましょう」


 私はヴィンセントさんと手を繋ぐと、市場へと向かったのだった。


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