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ラ・プリンセスのマナー

 朝と同様、アトレーユ王子にエスコートされながら、今度は学食まで案内される。


 それにしても、王子様自身もそうだけど、その取り巻き達もみんなかっこいいな。

 事前に聞いていたミリアンちゃん情報によると、皆どこぞの大貴族や有力者のご子息だとか。

 一見、アトレーユ様みたいに私を差別してはいないみたいだけれど、育ちの良さも極まると差別とかどうでもよくなるのかな? ジーンさんもそうだったし。側室にされかけたけど……。



 そうこうしているうちに食堂についた。

 一番窓際の日当たりの良い場所。

 と、そこの空間だけ他とは違うことに気づいた。

 椅子の座面が布張りで、テーブルにも真っ白いクロスが掛けられている。床には絨毯まで……。

 腰掛けようとすると、専属の執事らしき男性が椅子を引いてくれた。


 な、なんだこのブルジョワ空間は。


「気に入ってくれた? ここは僕達専用の特別席なんだよ」


 気にいるも何も、こんな所でお昼ご飯だなんて、緊張する以外の何者でもない。今にもフォアグラとか出てきそう。


 アトレーユ王子は、前髪を弄りながら思案する様子を見せる。


「そうだなあ。今日はフォアグラが食べたい気分かな」


 ほんとに出てくるの!? フォアグラ!


「子猫ちゃんはどうする? 僕と一緒のメニューでいいかな?」


 もう私の呼び名は「子猫ちゃん」で固定なのかな……いい加減恥ずかしいんですけど。


「私はお弁当を持参しているので結構です」


 フォアグラにも惹かれるけど、私にはこれがあるし、とランチボックスを取り出す。蓋をあけるとカツサンドが詰まっている。


「へえ、そのサンドイッチ、子猫ちゃんが作ったの? 見たことのない具だね」


 どうやらみんな一度はカツサンドに興味を示すものらしい。

 

「でもね、子猫ちゃん。残念ながらそれは食べちゃダメだよ」

「え?」


 王子は私のランチボックスを素早く取り上げると、執事の男性に渡す。


「な、なにを……」


 困惑する私に王子様は説明する。


「そんな貧相なランチは子猫ちゃんには不釣り合いだよ。君はラ・プリンセスなんだから、それ相応の振る舞いをしなきゃ。勿論食事もね。ラ・プリンセスを指名した僕の品格まで疑われちゃう」


 なにその理由。

 私は好きなものも食べられないの? そんなの理不尽。

 

「あの、さっきのサンドイッチはどこに……」

「ああ、安心して。執事が廃棄してくれてると思うよ」

「は、廃棄!?」


 し、信じられない。人が一生懸命つくった料理を、ありえない理由で捨てちゃうだなんて!

 ラ・プリンセスだかなんだか知らないけど、こんな人と仲良くなれるわけがない。


 私は勢いよく椅子から立ち上がると


「すみません。用事を思い出したので失礼します」


 そう告げると、そそくさと食堂から逃げるように退室した。

 冗談じゃない。いくら王子様だからと言って、あんなふうに食べ物を粗末に扱う人なんかと仲良くなりたくない。それが自分が作ったものならなおさら。

 私は憤慨しながら足早に教室への道を急いだのだった。





「……お腹すいたよう」

「あら、また何かあったの?」


 気にかけてくれるミリアンちゃんに、学食での出来事を打ち明ける。


「それは大変な目に遭いましたわね……ああ、そうだわ。それならこれを」


 そう言ってミリアンちゃんが鞄から取り出したのはいくつかのマドレーヌ。


「私の『妹』から頂いたんですの。でも、一人じゃ全部は食べきれないし、よろしければユキさんもいかが?」

「い、いいの!?」

「もちろんよ」


 やったー! ミリアンちゃん大天使!


 そうしてきつね色のマドレーヌを頂きながら、明日からどうしようかと考えを巡らせていた。

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