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異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど  作者: 金時るるの
目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど
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執事デーとメイドデー

 結局「執事デー」は週初め、「メイドデー」は週末に実施することが決まった。


 うう、今から気が重い。どうして私は執事デーなんて提案してしまったのか。自分にも火の粉が降りかかるだなんて思いもせずに。


 やっぱりメイドというからには「萌え萌えきゅん」とか言うのかな? 

 いやいや、まさかそんなところまで元の世界を真似なくても良いはず……!


 それにしてもクロードさんによるメイド養成講座が厳しい。お礼ひとつとっても


「頭を下げる角度はもっと深く」


 などと指導してくる。「そんなに難しくない」という言葉はなんだったのか。


 そうして指導を受けているうちに、とうとう「執事デー」の日が訪れた。

 私は開店前にお店の前に小さなイーゼルを置き、「本日執事デー」と書かれた黒板をたてかける。

 さて、クロードさんのお手並み拝見といこうか。なんて、上から目線のことを思ったりしたり。


 そしてついに本日最初のお客様が現れた。

 燕尾服を着て、手袋まで装備した、いかにも「執事!」という装いのクロードさんが


「おかえりなさいませ。お嬢様」


 などと、なんでもない事のように女性客2人を出迎える。むしろお客様のほうが顔を見合わせて困惑しているようだ。

 それはそうだろうなあ。いきなり執事的対応をされても、どうしていいかわからないだろう。

 それを感じ取ったのか、すかさずクロードさんがお客様を席まで案内する。


「本日は私が執事としてお嬢様方をおもてなしいたします。執事デーですから」


 などという説明までしながら。

 それでお客様も趣旨を理解したようだ。小声で「かっこいい」などと囁きあっている。

 それにしてもクロードさんも照れる事なく実に堂々としている。はー、私もあんな風にできるかなあ……今から不安。




 それから3日後。

 休憩時間に、私はミーシャ君と共に近くのカフェにいた。スノーダンプの利益を受け取るため。なんだかどんどんお金の量が増えているみたいだけど、気のせいかな……?


 それにしても――

 どうしよう、ついに明日は問題のメイドデーだ。考えるだけでため息も漏れるというものだ。


「……キさん、あの、ユキさん」


 ミーシャくんの呼び声に、物思いから引き戻された。目の前には心なしか不安そうなミーシャ君。


「大丈夫? どこか具合でも悪いの? それとも、僕と話すのがつまらなかったりする?」


 おう。私がぼんやりしているせいで、あらぬ誤解を与えてしまったようだ。慌ててかぶりを振る。


「ち、違うの。実はその、明日の業務がちょっと特殊で、気が乗らないっていうか……ごめんね。そのせいで上の空だったんだ」

「特殊な業務?」

「う、うん……これ以上は秘密で」

「ええー、気になるなあ。そういえば僕、ユキさんの食堂の料理って食べた事ないなあ。せっかくだから行ってみようかな」


 まずい。ミーシャ君が興味を示している。


「いや、でも、私の業務なんてそんな大したものじゃないから。来るなら明日より明後日のほうが良いよ。断然」

「ふうん。よくわからないけど、そういうものなの?」

「そういうものなの!」


 強引にメイドデーに関する話題を打ち切って、私はお茶で喉を潤す。

 その間に時計を確認したミーシャ君は


「あ、僕もう行かないと。それじゃあユキさん、明日の業務頑張ってね」


 慌ただしくカフェを出て行った。

 いやー、危なかった。もう少しでメイドデーの事がバレるところだった。

 とりあえずは安堵したが、明日の事を思うと憂鬱な気分が蘇ってくる。

 あー、もう落ちつかない。こういう時はケーキでも食べて気を紛らわそう。

 と、メニューに手を伸ばした。

 


 そしてついに、ついに訪れてしまった。問題のメイドデーが。

「本日メイドデー」の黒板を店頭に置いてから、お客様の来訪を待つ。

 あー、緊張する。

 

「ユキさん、そんなに気を張らなくても大丈夫ですよ。教えた通りにやれば十分です」


 クロードさんがそんな言葉をかけてくれる。なんという気遣い紳士。どこからかメイド服まで調達してきたし。

 はー、ここはもう覚悟を決めるしかないのか。


 その時、出入り口のドアが開いた。

 言えユキ。言うんだあのセリフを!


「おかえりなさいませにゃん、ご主人さみゃ」


 やばい。噛んだ。

 おそるおそる顔を上げると、なんとそこにはミーシャ君。他にも同じ工房で顔を見かけた先輩達。

 な、なんでミーシャ君がここに!? 昨日あれほど忠告したのに!


「ユキさん、これって一体……」


 ミーシャ君に問われても、混乱して言葉も出ない私を見てか


「本日は彼女がメイドとしてご主人様方をおもてなしいたします。メイドデーですから。さあ、ユキさん、ご主人様方をご案内して差し上げてください」


 クロードさんが素早くフォローに入ってくれた。

 私もそれでなんとか正気を取り戻す。


「こ、こ、こちらにどうぞにゃん、ご主人様」


 うわあああ! なんだこの羞恥プレイは! もう死にたい……

 赤の他人相手ならまだ我慢できる。けど、知り合いの前でこんな事、こんな事……! ああ、もう床を転げ回りたい! 無かったことにしたい! 神様、どうか時を戻してください!


 私の心の叫びも虚しく、決められた通りに接客していくほかない。


「お待たせいたしましたにゃん。『妖精の森の秋の収穫祭』ですにゃん」


 もうやだ。


 しかし最初の衝撃があまりにも強かったせいか、その後訪れたお客様への対応は、割とうまくできたような気がする。

 開き直ったとも言うが。


 ミーシャ君が帰り際に


「ユキさん。その服とっても似合ってるよ。また来ても良いかな? メイドデーに」


 うん、もう見られたくないものを見られちゃったしな……これ以上恥じることもない。


「もちろんですにゃん。お待ちしてますにゃん。ご主人様」


 メイドになりきって見送ったのだった。



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