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異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど  作者: 金時るるの
目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど
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ゲームのゆくえ

 銀のうさぎ亭二号店は週の中日が定休日である。

 今までのように交代で休みを取っていると、お店が回らないというのがその理由だ。


 そういうわけでお休みの日は花咲きさんの家を訪れる。もちろん絵のモデルのため。という建前はあったのだが、ここ最近は……


「やっと来たか黒猫娘。早速トランプで勝負しようではないか」


 トランプにハマりまくってしまったらしいのだ。しかも花咲きさんなりに改良を重ねて厚紙になったりとバージョンアップしている。


「七ならべが良い」


 そしてなぜか七ならべがお気に入りのようで。


「花咲きさん。どうして七ならべが好きなんですか?」


 正直ふたりでやってもあまり盛り上がらないし、個人的には、カードを並べるだけという作業感さえある。何がそこまで花咲きさんを引きつけるのか。疑問に思って聞いてみると


「カードを並べていくことで、あるべき場所に美しく配列されるさまが好きなのだ」


 だそうで。そういうものなのかな……


「もちろん七ならべだけではないぞ。他の遊びも好きだぞ」


 そんなに……?

 もしや、トランプってこの世界では革命的なカードゲームなのでは?


「花咲きさん。トランプってそんなに面白いですか?」

「ああ、面白い。思わず時間を忘れてしまうほどだ」


 そこまで……?

 でも、花咲きさんひとりの感想じゃなあ。他の人にも意見を聞いてみたい。

 上機嫌で早速カードを配り出す花咲きさんに問う。


「あの、花咲きさん。このトランプ、今夜一晩貸してもらえませんか?」

「何故だ?」

「うちのお店の人にも遊んでみて欲しいんです」


 私のお願いに花咲きさんは何故か渋る様子を見せた。


「……それでは我輩が毎晩楽しみにしているひとり神経衰弱ができないではないか」


 そんな遊びまでしていたのか。ひとり神経衰弱って楽しいのかな……?

 そんな楽しみを奪うのは心が痛むが、私はなおも頼み込む。


「お願いします。明日の休憩時間には必ず返しにきますから。あと、今日は七ならべにもとことんお付き合いします」

「……カツサンド」

「はい?」

「今お前が言ったことに加えて、カツサンドを作ってくれるなら考えてもいい」

「それっていつもの事じゃないですか」

「うん? 不満か? それならヌードモデルにでもなってみるか?」

「すぐにお肉買ってきますね!」


 そうして散々花咲きさんの七ならべ大会に付き合わされ、カツサンドを山ほど作ってトランプを借りたのだった。




 その夜、お店でみんなで賄いの夕食を食べた後のどこかまったりした空気の中で、私は切り出す。


「あの、よかったらこれからゲームをしませんか?」


 私の言葉にレオンさんとクロードさんは瞬きする。


「ゲーム、ですか?」


 クロードさんがまず反応した。

 彼は今まで住んでいたところを引き払って、今ではここの二階の住居部分でレオンさんと相部屋なのだ。


「そう。トランプっていうカードを使ったゲームなんですけど。面白いかどうか知りたくて」

「なんだネコ子。お前、ゲームする友達もいないのかよ」

「そ、そんな事ありませんよ!」


 レオンさんの軽口に反論する。

 でも、確かに友達少ないかも……ミーシャ君くらいしか思いつかない……いや、でも、これは仕事が忙しくて友達を作る暇が無いだけ! きっとそうに違いない!


「私は構いませんが。どうせなら敗者にはペナルティを課しませんか? たとえば全員分の食器を片付けるだとか」

「お、それいいな。乗った」


 クロードさんの言葉にレオンさんも同意する。決まりだ。ペナルティはちょっと嫌だけど……

 とりあえずババ抜きでも、と、カードを配りながらルールを説明する。


「それじゃあレオンさんからどうぞ。クロードさんのカードを一枚引いてください」


 そうしてゲームは始まったのだが、レオンさんがあっさりと負けてしまった。


「ちょ、待て。今のはほら、肩ならしっていうか。最初の一回は様子見だろ。俺もまだ本気出してなかったし」


 なんだか言い訳をし始めた。


「てわけで、もうひと勝負! 今度こそ本番だ!」


 もう、負けず嫌いだなあ。

 でも、まあ確かに最初だから慣れていないというのもあるかもしれない。クロードさんの同意を得て再戦する事となった。

 が、またもやあっさりレオンさんが負けた。


「くそ、なんでだ……」


 レオンさんがテーブルに突っ伏す。そんなに悔しかったのかな。

 ともあれルールは守ってもらわねば。

 3人分の食器を洗い場へ運びながら


「皿洗いが終わったらもう一戦だからな! 覚えとけよ」


 レオンさんはそんな捨て台詞を吐いて洗い場へといった。

 その間にクロードさんに小声で話しかける。


「クロードさん、もしかして、カードに細工というか、何かしました?」


 クロードさんはわずかに目を見開いた後で微笑む。


「気付かれましたか。ジョーカーのカードを他のカードより飛び出し気味に持っていたんです。レオンさんは面白いように引っかかってくれましたよ」


 なんと。そんなあからさまな手に引っかかるとは。レオンさんもまだまだだな。


「それよりユキさんこそジョーカーを引かせるのが上手でしたね。何か細工したんですか?」

「あ、あれは、人間の心理的に左を選びやすいというのを本で読んだ事があって、それを真似してみました」

「ほう。そんな法則があるとは。知りませんでした。勉強になりますね」


 昔マンガで読んだ知識が生きた。ありがとうマンガ。

 そうしているうちにレオンさんが戻ってきた。


「おいネコ子、クロード、もう一戦だ!」


 張り切るレオンさんだが、いつまでもババ抜きをしているわけにもいかない。トランプゲーム全体の感想を聞きたいのだ。


「あの、レオンさん、今度は違うゲームをしませんか?」

「違うゲーム?」

「はい、神経衰弱って言うんですけど」

「別に構わねえぜ。今度は絶対負けねえからな」


 そうして3人でトランプをしながら夜は更けていったのだった。







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