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異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど  作者: 金時るるの
目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど
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おめでたい日

 教会の鐘が鳴り、扉が開くと、1組の男女が外へと姿をあらわす。

 その途端、周囲は歓声や口笛、拍手の音で埋め尽くされ、更には色とりどりの花びらが舞う。


 それもそのはず。今日はイライザさんとマスターの結婚式なのだ。

 少し前にお付き合いを始めたばかりと思っていたのに、気がつけばいつのまにやら結婚式を挙げるまでに二人の関係が進んでいたとは……。ラブラブだなあ。

 普段より着飾った常連のお客さんや、付き合いのある近所の人々が祝福の声を上げる。もちろん私たち従業員も。


 お花のティアラで頭を飾ったイライザさんは、純白のマーメイドドレスがよく似合う。対するタキシード姿のマスターは少し窮屈そうで、首元に何度も手をやっているが。


 粗相がないようにと、この日のために花咲きさんに結婚式の作法について聞いてきた。

 どうやらこの世界の結婚式も元の世界とさほど変わらないらしく、私はなんとか混乱することもなく、周りの様子をちらちらと伺いながら、浮かないように気をつけるだけですんでいる。

 隣にいるレオンさんも、今日はいつもよりちゃんとした服を着て、髪を後ろに撫でつけて、完全によそ行きモードだ。

 ちゃんとしてるレオンさん……なんだか新鮮だ。そういう恰好をしてると余計に王子様みたいだなあ。


 と、その時、とびきりの笑顔をたたえたイライザさんが私の元へとやってきた。


「ユキちゃん、ありがとう! こんな日を迎えられたのも、ユキちゃんが一緒にあのお菓子を作ってくれたおかげよ。もう夢みたい」


 言いながら私を抱きしめる。柔らかい。


「イライザさん、抱きしめる相手を間違ってますよ。マスターが嫉妬しちゃいます。それに私は少し手伝っただけです。最終的にはイライザさんの強い想いが通じたんですよ」

「もう、謙虚なんだから。そんなユキちゃんにはこれをあげようと思っていたの。ぜひ受け取ってちょうだい」


 イライザさんは自らの頭部に乗っていた生花のティアラを外すと、私の頭に乗っけてくれた。

 確かこれも花咲きさんから聞いたことがある。花嫁からティアラを受け取った者には幸運が訪れると。元の世界で言うところのブーケのようなものらしい。

 花嫁が直接渡してくれるとは、なかなか平和的な方法だ。これがブーケトスだったりなんかしたら、ものすごい勢いの争奪戦となるはずだったに違いない。

 周りを囲む女性達から悩ましげな溜息と、羨ましそうな視線を感じる。

 私もまさかこんなものを貰えるとは思ってもみなかった。


「い、いいんですか?」

「もちろんよ。ユキちゃんは私の恩人だもの。特別。うん、似合う似合う」


 イライザさんは片目を瞑って見せた。その幸せそうな姿は、ティアラという装飾品がなくとも美しく光り輝いて見えた。これが幸せオーラと言うやつか。眩しい……!

 それをティアラという形でおすそ分けして貰った私にも、きっと幸せが訪れるに違いない。

 隣にいたレオンさんが


「豚に真珠」


 とか呟いたような気がしたが。

 でも、イライザさんとマスターがこんなおめでたい日を迎えることができて、ほんとに良かったなあ。

 

 



 そうしていつもの日常が戻ってきた。いや、正確にいえば、以前より忙しい日常だ。

 新しいメニュー表やらお子様ランチ……もとい「幼子の秘密の宝島」やらをきっかけに、銀のうさぎ亭の料理が評判となり、連日店内はお客さんで混みあっていた。

 それこそ、マスターの理想としていたような、料理を求めて行列ができるようなお店に。

 それに合わせて、私達従業員の待遇も徐々に改善されていった。

 なんとお給料が少し増えたのだ。

 それだけで今の銀のうさぎ亭の状況が伺えると言えよう。

 よし、これからもお仕事頑張るぞ。


 などと思っていたある日。

 閉店後に話があるとマスターから伝えられ、私はテーブルを囲む椅子に腰掛けていた。

 隣にはレオンさん。向かい側にはマスターとイライザさんという、なんだか面接みたいな雰囲気だ。一体なんの用事なんだろう。

 考えていると、マスターが私とレオンさんの顔を交互に見ながら口を開いた。


「レオン、ユキ。お前らに残って貰ったのは他でもねえ。大事な話があったからだ」


 大事な話? なんだろう。

 首を傾げていると、マスターが真剣な表情で続けた。


「単刀直入に言う。お前ら、この店を出て行っちゃくれねえか?」

 



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