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ダンスのお相手

 その人物は、私の手を取ると、ホールの中ほどに進みでる。

 早速音楽に合わせてダンスが始まった。

 あまり練習してこなかったので自信はないが、おぼつかないながらも、なんとかついていけている。これも目の前の人物のリードのおかげなのだろう。


 改めて観察してみると、目の前の人物は、柔らかな笑みを浮かべながらも、どこかからかうような色を瞳にも宿している。

 もしも、私の思った通りなら……。


「あなた、ミリアンちゃんでしょ?」


 問うと、目の前の人物は破顔した。


「あら、もう気づきました? これでも頑張ったつもりなんですけれど」

「でも、一瞬わからなかったよ。本当の男の子かと思っちゃったくらい」

「それは褒め言葉ととってよろしいのかしら?」

「もちろんだよ。今のミリアンちゃん、凄くかっこいいよ」


 周囲では


「誰? あんな子いたっけ?」

「かっこいい」


 などという言葉が聞こえる。

 そうだろうそうだろう。かっこいいだろう。アトレーユ王子より背も高いぞ。


「でも、急に出てきてびっくりしたよ。事前に言ってくれたら良かったのに」

「そんなの面白くありませんでしょ? ちょっとした余興ですわ。ユキさんが私とアトレーユ様のどちらを選ぶか。どちらも断られなくて良かったですけれど」

「さすがにずっと壁の花は恥ずかしいしね……それに、ヴィンセントさんからは『女の子と踊るの禁止』とは言われてないし」


 そう、今の私にとってはミリアンちゃんは神の使いも同然。

 アトレーユ王子のしつこい誘いをかわしつつも、ヴィンセントさんとの約束も破らずに済む。素晴らしいな。ミリアンちゃん主天使!


「それに見てよ。アトレーユ王子のあの表情。信じられないって顔してる」

「あれは後世まで語り継がれますわね」


 やがて音楽が止んだ。そのまま次の演奏を待つペア、軽食の用意されたテーブルで談笑するペア。

 私達も飲み物を取ると、そのままバルコニーへ。

 冷えた空気が、ダンスで火照った体に心地よい。空を見上げれば、無数の星が瞬いている。


「わあ、綺麗」


 東京では絶対見られない光景だ。

 しばらくその光景に見とれながら、飲み物を口にする。


「ミリアンちゃん、今日はありがとう。おかげでアトレーユ王子と踊らなくて済んだよ」

「私もいい思い出になりましたわ。男性の格好で女性と踊るなんて、社交場ではとてもできないことですからね」


 社交場! なんとも貴族的発言。こういう時、自分と他の生徒との違いを痛感させられる。

 この夜が終わったら、もうミリアンちゃんには逢えないのかなあ……ちょっとさみしい。


「ユキさん、またあの食堂へ行ってもいいかしら? 私、あのカレーライスというお料理がまた食べたくなっちゃったの」


 私の心を見透かしたようなミリアンちゃんの言葉。


「もちろん。いつでも来てね」


 私は精一杯の笑顔で頷いた。




「ユキ、ちゃんと約束は守ったんだろうな」


 パーティーが終わり、迎えに来てくれたヴィンセントさんが、開口一番そんな事を言ってくる。

 そんなに私に男の子とダンスをして欲しくなかったのか。


「大丈夫ですよ。女の子と踊りましたから」

「女と……?」


 私がダンスパーティーでの出来事を話すと、ヴィンセントさんは笑い出した。


「それはまた、物好きな女がいるんだな」

「そんなに笑わないでくださいよ。ミリアンちゃんのおかげで、アトレーユ王子と踊らないで済んだんですから」

「アトレーユか。あいつも懲りないな」


 ほんとだよ。この際フリージアさんに全部報告してやろうか。


「ヴィンセントさん、家に帰ったらダンスの相手をしてもらえませんか? 私、まだ踊り足りなくて」

「構わないぞ。いくらでも付き合ってやろう」


 そんな会話を交わしながら家路につく。

 こうして、私の学園生活は終わりを告げたのだった。




「そんじゃ、まあ、ネコ子の魔法学院中等部卒業を祝って乾杯!」

 

 銀のうさぎ亭二号店に、レオンさんの声が響く。


「乾杯!」


 それを合図に各々グラスを持ち上げる。

 今日は私の卒業祝いに、銀のうさぎ亭二号店の面々が、お店を貸し切ってお祝いパーティーを開いてくれたのだ。

 テーブルにはレオンさん特製の料理が並ぶ。どれもおいしそう。


「まさか中途半端な編入から卒業しちまうとはな。てっきりすぐにでも落ちこぼれて、退学になると思ってたぜ」

「才能のなせる技ですよ。これからは『マジカルプリンセスユキ』と呼んでいただいても結構ですよ」

「誰がそんな恥ずかしい呼び名で呼ぶか」

「まあまあ、せっかくのお祝いの席なんですから、それくらいで」


 気遣い紳士クロードさんが宥めてくれた。


「ユキさん、どんな魔法を覚えたの?」


 メアリーアンさんの問いに、私は指折り数える。


「ええと、炎の魔法に、風の魔法、それから水の魔法に――」


 そう言いかけている途中、突然入り口のドアが激しく開かれた。

 目を向ければそこには一人の身なりの良い男性が。


「クラウディア! ここにいたんだね!」


 クラウディア? って、確かメアリーアンさんの本名だっけ? どうしてこの男の人が知ってるんだろう。

 と、同時にメアリーアンさんが椅子からがたりと立ち上がる。


「……あなた……どうして……?」

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