悪魔の囁き
昨日、だったけ? 雲が泣いていたのは。
靴の中の感触が妙に生暖かくて気持ち悪かった。
満足なその笑みは誰の為なのか? 僕は小道を歩いた。
木の枝を踏むとバキッと骨音が鳴る。午前2時だ。
声にならない声が頭の中で反芻した。手に力が入った。
「花火見たかったな……。」 空が綺麗だった。
「今日は委員会ないの?」 放課後の教室に夕日が差し込む。
「ないよ。皐月一人で行けよ。」 ぶっきらぼうに言い放った。
今日は自分の好きなアーティストの新曲の発売日。こんなところで足止めをくらうつもりはない。鞄を徐に掴むと階段まで直行した。
「おーい、ひーちゃん先生にちくるからね。」
「恨むなら神にでも恨むことだな。」
後ろ髪にも引かれない思いで校舎を後にした。
「やっぱ、美月は最高だな。この声、音色がたまらないね。」
「へー、それは良かったね。」 後で聞きなれた声がした。
振り替えれば満面な笑みが眼前にあった。
「道長化皐月さん?今は忙しいんだよ。」 私はこれで失礼するよ。
「待ちなよ、ひーちゃん。」グッと肩に指圧にこもった。
「わーたっよ。メロンソーダ奢るから」 合掌した。
「ローダックのメロンソーダだからね。」
人差し指を僕の頭に突き付けた。 ローダックとは僕と皐月の行き付けの喫茶店だった。街中から少し外れた閑散な住宅街の中にある。中は落ち着いた雰囲気でコーヒーの豆の薫りが鼻いっぱいに拡がり、大人の空間に来た、そんな感覚になる。