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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第四章 リーズ公国編
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第九十七話 オストーラ

「そんじゃウチの食材、しっかり使ってくれよな♪」


レスリーはニヤリと笑い、後ろ手に手を振って帰っていく。


「はい!ありがとうございましたレスリーさん!」


「今日はお世話になりました、レスリーさん」


幹太とゾーイは、そんなレスリーの後ろ姿に向かって頭を下げた。


「では私達も帰りましょう、芹沢様」


「うん。そうだな」


二人は馬車に乗り、夕日の沈む海岸線を走りながら宮殿に戻っていく。


「それで、オストーラは芹沢様の世界にもある貝と一緒で間違いないんですか?」


「うん。確認したくて生で食べてみたけど、間違いないな」


幹太はあの後、レスリーが引き上げた岩のような貝を一つ食べてみたのだ。


「ちょっと!それ生だよっ!」


手持ちのナイフで殻を割り、幹太とゾーイに中身を見せていたレスリーは、幹太がそれを生で食べたことに驚いた。


「ありゃ間違いなく牡蠣だ」


そうなのだ。

レイブルストークの漁師達が副業で養殖していたのは、日本でいう牡蠣だった。

しかし、どうやらこちらの世界では牡蠣を生食する文化がないようだ。


「牡蠣は辛いスープに最高に合うんだ。

しかもあんなにデカいのなんて、俺たちの世界でもなかなかないと思う」


「それじゃ、もう決まりですか?」


「う〜ん、決まりっちゃ決まりだけど、それに合わせてまたスープの改良が必要になるだろうな…」


「…またですか」


「…そう、まただな」


実を言えば、今の辛味ラーメンにドンと牡蠣を載せたとしても、それなりに美味しいラーメンはできると幹太は予想していた。

しかし、せっかくこの町の隠れた名産品である牡蠣を使うならば、それに合わせてスープも変えて、より一層美味しいラーメンを目指すことにしたのだ。


「やっぱりさ、それがご当地ラーメンを名乗る責任だと思うんだ…」


「芹沢様…」


「帰ったら色々仕込み直してみるから、ゾーイさんに手伝いお願いしてもいいかな?」


「はい♪もちろんです♪」


それから宮殿に戻った幹太は、さっそくラーメンの改良を始める。


「ゾーイさん、こっちじゃこのオストーラって生じゃ食べないんだよな?」


「オストーラを生でですってっ!?」


「うわっ!」


と、幹太の質問に驚きの声を上げたのは、二人の様子を見に来たクレアであった。


「あぁ、びっくりした…そうですクレア様、レイブルストークじゃこの貝を生では食べないん…」


「今は食べないわよ」


クレアはくい気味にそう答えた。


「芹沢様、その…言いにくいのですが、オストーラは海から揚げるとすぐに痛んでしまうのです」


「オストーラは生で食べるのが美味しかったらしんだけど、お父様達の時代に食中毒で死者が出たのよ。

それで今は焼いたりスープに入れたりして食べてるの」


「そっか、やっぱり日本の牡蠣と一緒なんだな」


「あら、そうなの?」


「うん。調理法はともかく、痛みやすいってのは同じだな」


「ん〜けど残念よね。

もうちょっと痛みにくい貝だったら、レイブルストークの名物にできたのに…」


「おっ!やっぱりそうなのか?」


「そりゃそうよ!

この町の漁師のほとんどがこの貝の養殖に関わっているのよ。

私だって、最初は名物にして売り出そうとしたわ。

けどこの貝、すぐにダメになっちゃうんだもの。

危なくて名物にできなかったわ」


クレアは当初、名産品を探している時にこのオストーラに目をつけていた。

しかしあまりに痛むのが早く、名産品として売り出すのを諦めたのだ。


「そっか、まだ魔法の氷で冷やすのが主流なんだ…」


冷蔵庫のある現代日本ならまだしも、基本的に氷で食材を冷やすこちらの世界では、海鮮の鮮度を維持することはとても難しい。


「まぁ生ものに水分は大敵だしなぁ〜」


空気中に出された状態で、湿気の多い場所に置かれた生ものの痛みが早いというのは、飲食業の世界では当たり前の知識だ。

そして、まだこちらの世界では生簀で魚を運べるような技術はない。


「それで、幹太はどうするの?」


「そうだな…やり方はいくつかあるよ」


いまいち調理法が発展していないこの世界の人間よりも、生もの文化の日本から来た幹太の方が衛生面の知識がある。


「そういや由紀も海外遠征で牡蠣に当たってたな…」


「うん。あれは凄かったよ…」


と、幹太の背後に突然現れたのは風呂上がり由紀であった。


「うわっ!またかよっ!」


「あれはフランスだったかな…?

あっちって、まだ大通りの市場で氷で冷やしたお魚とか売ってんだよね…」


「あぁ、そりゃもう絶対ヤバいな…」


囲われて屋根のある市場ではなく、時間によって日光が当たるであろう外の市場で牡蠣を売るのはあまりにも危険である。


「とにかくもう…体中の水分を出し切った感じ…」


それは乙女である由紀にとって、壮絶な経験であったことだろう。


「あれほど日本が恋しかったことはないよ…」


先進国の中でも、日本以上に新鮮な食材を新鮮なままお客に届ける国は他にない。


「それで幹ちゃん、どうしてそんな…って、これ牡蠣っ!?」


「ははっ♪そうだよ。やっぱり由紀にもわかるか?」


「うん。そりゃわかるけど…もしかしてラーメンの具にするの?」


「あぁ、そうしようと思ってる」


「うん♪辛い牡蠣ラーメンってだけで美味しいそう♪」


「だろ…っと、そういやアンナ達は?」


由紀との会話によって、幹太はこの場に食いしん坊なプリンセスが居ないことにようやく気が付いた。


「あ〜うん…なんだかまだお風呂に入ってるよ…」


「由紀様だけ先に出てきたんですか…?」


いつもならば由紀も最後まで一緒に入っているはずだ。


「あのね…なんだかアンナがシャノンを問い詰めてて…」


「えっ?シャノンさん何かしたのか?」


逆ならまだしも、しっかり者のシャノンがアンナに問い詰められるところなど、幹太は今まで見たことが無い。


「えっと、その…なんか失敗したとかじゃなくて…」


とそこで、由紀はなぜかクレアの顔色を伺った。


「何よ?どうしたの、由紀?」


「いや、その…今日、シャノンがマーカス様とデートをしたって…」


「えぇっ!ちょっと!どういう事っ!?

詳しく聞かせなさいっ!由紀っ!」


マーカスとデートという言葉を聞いた途端、クレアは血走った目で由紀に掴みかかった。


「ちょっ!ク、クレア様っ!わ、私はあんまり問い詰めたらシャノンが可哀想だからこっちに来たのっ!」


「何よっ!使えないわねっ!

仕方ないわっ!私、今から浴場に行ってくるっ!」


クレアはパッと由紀から手を離し、ものすごい勢いで宮殿へと戻って行った。


「クレア様っ!さすがにもう上がってると…あ、あぁ行っちゃった…」


「あの…由紀様、シャノン様がデートしたというのは本当なのですか…?」


言われてみれば今日一日、アンナの護衛であるはずの彼女をゾーイは見ていない。


「うん、本当みたい。

でも…デートを受けたのはキチンとお断りするためだって言ってたよ…」


「…そうですか。

それはお辛いでしょうね…」


ゾーイは事あるごとに、マーカスからシェルブルックのお姫様の話を聞いていた。


「幼馴染にとっても綺麗なお姫様がいるんだ…」


「はぁ…」


とても綺麗なお姫様ならば、あなたの妹も相当なものだと、ゾーイは危うく口にするところであった。


「僕はその人に褒められたくて、この王子という立場を頑張っているのかもしれない…」


遠く離れた場所にいる他所の国の王子にそこまで思わせる姫とはどのような人なのか、ゾーイは聞くたびに気になっていた。


「最初はアンナ様かと思ってましたけど…」


マーカスはそう思ってはいないが、正式にはシャノンは王女の立場を放棄している。


「あ〜アンナも黙ってたら綺麗だもんねぇ〜」


「えぇ。でも、アンナ様は芹沢様と婚約なさったので違うのだとわかりました…」


「うん。

まぁそれ以前に、アンナはマーカス様との許嫁を解消されてるらしいしね…」


「しかしシャノンさん、マーカス様を振っちゃうのか…」


幹太にしてみれば、絶世のイケメンで王子である彼との交際を女性が断る理由など想像もつかない。


「あの…由紀様、芹沢様は気づかれていないのですか…?」


「うん、全然気づいてないよ…」


シャノンにとっては、マーカスよりも幹太に対する好意の方が恋愛に近いものであると、クレアを除く女性陣全員が薄々気づいている。


「まぁ、今の俺に人の恋愛に首つっこんでる暇なんてないからなぁ〜」


こう見えてこの男は三人の婚約者と、一人のプロポーズ保留を抱えている身なのだ。


「まずは今までのスープで作ってみてるとして…あとは牡蠣の調理法か…」


「やっぱり火を通すの?幹ちゃん」


「うん、それはそうだよ。

どうするにせよ、獲れたてを一度蒸した方がいいな」


味は元より、こちらの世界の屋台の店舗で出すならば、いち早く火を通しておくのが安全なのだ。


「よし!手始めにホタテと同じくバター醤油でいってみよう!

ゾーイさん、バターお願い!」


「はい!芹沢様」


「私もなんか手伝うよ、幹ちゃん♪」


そうしてようやく、新しいラーメンの試作が始まった。

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