第九十二話 お姉様の本質
さっそくですが、後半少し修正致しました。
よろしくお願い致します。
それは、幹太達が宮殿へ帰った後のこと。
「パーティーに出てくれって?」
「えぇ。あなたはアンナの婚約者でしょ?
だったらお披露目するにもちょうどいいじゃない」
ビクトリアの陰に隠れている感はあるが、一応アンナも王族だ。
クレアの言う通り、すでに婚約が国内で発表されているならば、今回の経済交流会議の場を使って国外にも婚約を知らせるのは何かと都合がよい。
「し、しかしな…俺自身は一般人で…」
「あぁ…またそれ?
もう一般人じゃないって、私の件で身に染みたんじゃないの?」
「そりゃ確かにそうだけど…」
しかし、王族の婚約者として警戒をするのと、パーティーに参加するのでは状況にかなりの差がある。
「…行ってみましょう、幹太さん」
と、言ったのは幹太の隣にいたアンナだった。
「私と一緒になる以上、遅かれ早かれパーティーには招かれます。
いい機会ですから、ここで一度経験してみてはどうですか?」
アンナとしても、一般人である幹太を必要以上に公の場に連れて行こうとは思わない。
しかし、王族である自分の伴侶になるならば、必ず同伴せねばならない機会はあるのだ。
「そうか…」
幹太の方も、もちろんそれは理解していた。
「そんじゃ一丁頑張ってみるか!」
「はい♪ありがとうございます、幹太さん♪」
という話し合いを経て、幹太は今、豪華絢爛なパーティ会場の入り口に立っていた。
「マ、マジか…」
そう呟く幹太の目の前には、煌びやかな衣装を身につけた大勢の有力者がいる。
「ど、どうして扉を開ける時に名前を呼ぶんだよっ!」
二人がパーティー会場に入る時、ドアボーイは、
「シェルブルック王国王女、アンナ・バーンサイド様!
婚約者、セリザワカンタ様!ご到着です!」
と大声で言って、この会場の扉を開けた。
「さぁ、なんででしょうか…?
私もパートナー同伴でパーティーに出るのは初めてなのでわかりません。
ていうかパートナー同伴って、すっごく夫婦っぽくて嬉しいですっ♪」
さすがに王族であるアンナはパーティー慣れしているらしく、いつもとなんら変わりがない。
「わ、私…村に帰ります〜」
「ダ、ダメだよ!ソフィアさんっ!
わ、私だって、めちゃくちゃ緊張してるんだから!」
幹太とアンナの後ろには、青ざめた表情のソフィアと、それを支える由紀の姿が見える。
もちろんこの二人も、会場に入る時に幹太の婚約者として紹介されている。
そして、そんな二人のその背後には、いつもの軍服を着て辺りを警戒するシャノンがいた。
「でも幹太さん、とってもお似合いですね♪」
「そ、そうかな?
ただ立ってるだけで着替えが終わったから、何も見てないんだよ」
幹太はクレアが用意したタキシードを着ていた。
これは以前、シェルブルックで幹太が結婚の挨拶をした時と同様に、彼の体に合わせて急遽仕立てられたものだ。
「うん…みんなもよく似合ってるよ…」
幹太は隣いるアンナを見た後、背後にいる二人に振り返って言った。
「ふふっ♪良かったです♪
なぜかお姉様が持って来てくれてたんですけど、あとでお礼を言わなきゃですね♪」
そう言うアンナは、所々にレースがあしらわれた濃紺のドレスを着ていた。
さすがは妹を溺愛するビクトリアのチョイスだけあって、普段はちょっと幼く見えるアンナを、大人のパーティー仕様に見事に変化させている。
「ほ、本当ですか〜?」
不安そうに幹太に聞いたソフィアは、幹太と同様にクレアの用意したワインレッドのドレスを着ていた。
そのデザインは、細身で巨乳なソフィアの魅力を十分に引き出すために肩出しのタイトなロングドレスである。
「あぁ、本当だよ。な、由紀?」
「うん。すっごい綺麗だよ、ソフィアさん。
はぁ…それに比べて私なんか…」
ため息を吐いてそう言う由紀は、これまたクレアの用意したピンクのドレスを着ていた。
ソフィアと同様にタイトなデザインだが、少し短めのスカート丈と大きめに開いた背中が、彼女のしなやかな体をとても魅力的に見せている。
「大丈夫。ゆ、由紀だって綺麗だよ…」
「そ、そう?変じゃない?」
「ぜんぜん変じゃないよ。
その…ゆーちゃんがこんなに綺麗だって改めて知った…」
よく考えてみれば、幼い頃を除いて、幹太が由紀のドレス姿をみるのはこれが初めてだった。
彼は前々から由紀が綺麗な女性だということに気づいてはいたが、幼馴染という立場上、いつもはあまりそこへの意識が向いていないのだ。
「あ、ありがとう…幹ちゃん…」
「い、いや…」
と、四人がいつも通り人目もはばからずイチャイチャしていると、突然、なにか焦った様子のマーカスが目の前に駆け込んできた。
「あぁっ!いた!アンナ!幹太君!」
「あら、マーカス。本日はお招きいただいてありがとうございます♪
あなたのお陰で私、幹太さんといい思い出ができました♪」
「いや、それは元々クレアの提案だから、お礼を言うならクレアに…ってそうだよ!クレアが大変なんだ!」
「うん?クレア、またなんか騒ぎを巻き起こしたのですか?」
「いや、実は向こうでリーズの取引先の商人とケンカになっているんだ…それで君たちを呼んできてくれと頼まれた…」
「マーカスにですか…?ゾーイさんは?」
「彼女はクレアの護衛だから…」
「しょうがないですね…なんだか嫌な予感がしますけど、行ってみましょう。
皆さんもいいですか?」
「あぁ、もちろん」
「うん。いいよ」
「わかりました〜」
そうして、幹太達とマーカスはパーティー会場の外にある大きなベランダへと向かった。
「…だからっ!最初に作ったのは私達だって言っているでしょ!」
「おやおや、リーズの王女ともあろうお人が何を証拠にそんな事を?」
「それは…」
「あなた!クレア様に向かってなんて事をっ!」
幹太達がベランダに出ると、クレアは恰幅の良いド派手な服を着たおっさんと言い争っていた。
クレアの隣には、威嚇するように鋭い目つきをしたゾーイがいる。
「クレア…」
「待って、アンナ」
と、アンナが声をかけようとするのを幹太が引き留める。
「クレア様、どうかしましたか?」
そして幹太は、極力丁寧な言葉でクレアに話かける。
『こういう時に敬語を習ってないってのはダメだな。
こりゃ結婚前に、シャノンさん辺りにしっかり習わないと…』
幹太は自然にアンナから習うという選択肢を消している。
たぶん教えるのがヘタそうだからだ。
「ああ!幹太っ!
ちょっと聞いてちょうだい!
コイツっ!ラーメンは自分達が初めて作ったって言うのよっ!」
「ん?えっと、だから…?」
時に熾烈なラーメン戦争繰り広げられる日本で屋台をやっていた幹太には、自分が元祖だと名乗るラーメン屋が多数あることなど当たり前だ。
「だからこれからリーズでラーメンを作るなら、向こうにお金を払えっていうのっ!」
「えぇっ!そりゃダメだよ!」
いくらラーメン店が乱立する日本でも、そんな話聞いたことがない。
そもそもそういった商品名のライセンス問題は、ラーメンなどと言う大まかな呼称にはまず起こらない。
「ていうか…そんなのがまかり通るんですか?」
幹太は隣に立つマーカスに聞いた。
「いいや。普通ならば通らない…」
「なら…」
「しかし、彼なら…大商人のジェイク・ダベンポートならまかり通るかも知れない…」
「…それはどうしてなんです?」
「彼はこの大陸で産出される魔石の四分の一を握っているんだ」
「魔石の四分の一か…」
幹太の世界で言えば、石油の産出量といったところだろうか。
「このリーズ公国も、彼の会社から大量の魔石を買っているんだよ…。
それが無ければ、確実にこの国の人間は暮らしていけないからね…」
そう言うマーカスの表情は深刻だった。
「ぐっふっふっ♪わかったかなそこの小僧…」
と、ジェイクは醜悪な顔で笑い、幹太の後ろに立つ三人の婚約者を舐め回すように見た。
「ふ〜む、女の趣味はいいみたいだな…」
どうやら彼は、アンナの顔を知らないようだ。
「なっ!なにをっ!」
「うぇ〜なんかキモいよ…このおじさん」
「き、気持ち悪いです〜」
ねっとりとまとわり付くようなジェイクの視線に、アンナ、由紀、ソフィアの三人は腕で体を隠し、それぞれに不快感を露わにする。
とそこで、
「あんたさ…」
幹太がズイッと身を乗り出し、彼女達に向いていたジェイクの視線を遮った。
「俺の大事な人達に下品な目を向けないでくれるかな…」
「なんだとぉ!この…っ!?」
ジェイクは何か言い返そうとしたが、寒気がするほど冷淡な幹太の表情を見て思い留まる。
「もうっ♪幹太さんってば♪」
「私達、大事な人だって♪ね〜ソフィアさん♪」
「私も幹太さんが大事です〜♪」
と、幹太の背後隠れた女性陣は、一瞬で先ほどまでの不快感を忘れた。
「そうか…多腕を振って三人の美女とこの宮殿に…なるほど、お前がアンナ・バーンサイド王女の婚約者だな」
「あぁ、そうだけど…なんか問題あるか?」
「ふははっ♪いや、ないな。
むしろ関わりたくもない」
「なんだって…?」
「だからな、このリーズで私が初めて作ったラーメンを独占したとしても、キサマ達にはなんら関係がないと言うことだ!」
「あぁ、そう来るのか…」
「ここで最初にラーメンを作ったのは、私が連れて来たこの幹太だわっ!」
「しかしクレア姫様、その証拠はないのでしょう?」
「だって!そんなのあるわけ…」
「ははっ♪それは残念っ!
ならば、どちらが本当かは分かりませんな」
『コイツ…』
幹太は思った。
どのような方法になるかわからないが、このままではこのジェイクという商人が、必ずこの国のラーメン市場を牛耳ってしまう。
「なぁ、ジェイクさん…アンタんとこのラーメンってどんなもんなんだ?」
「さあなぁ〜。麺料理という意外、私はよく知らんのだ。
ただ、私の経営する飲食店のコックげ作ったということだけは分かっている」
「そうか…」
どうやって作り方を知ったかはしらないが、たぶん彼の部下の誰かがラーメンをつくれるのは間違いないだろう。
「ふははっ♪しかし、残念だな。
お前がこのリーズの人間ならば、どちら本物のラーメンか勝負しても良かったのだが…。
あ〜本当に残念だ♪
シェルブルックの人間には、どう考えても関係が無さすぎる」
調子に乗ったジェイクは肩をすくめて幹太に近づき、小馬鹿にするようにそう言った。
『ヤバい…心底殴ってしまいたい』
「殺ってしまいましょう!幹太さんっ!」
アンナはなぜか幹太の心が読めていた。
「か、幹太っ!」
とそこで、しばらく黙ってワナワナと震えていたクレアが幹太を呼んだ。
「わ、私と…」
「クレア様…」
と、クレアが何か言おうとしたところで、ゾーイが彼女の肩を掴んで止める。
そしてゾーイは、彼女にだけ聞こえるように耳元で囁いた。
「クレア様…私がこの国に来る時、私に家族になりましょうと言ってくれましたよね?
あれは…い、いまでもそう思って頂けていますか?」
「なに?いきなりどうしたのゾーイ?」
「と、とにかくどうですかっ?」
「えぇ…もちろん今でもそう思ってるわ。
あなたに国があるのは分かるけど、できたらずっとこの国にいて欲しいって思ってる。
これはまだ言ってなかったけど、これからあなたにはリーズ国内にご当地ラーメンを広める役割を担ってもらう予定なの…」
クレアは少し恥ずかしそうにモジモジしながらそう言った。
もともとリーズは移民に寛容な国である。
そもそも幹太が隣国の王族の婚約者でなければ、クレアは強引にでも自国に帰化させるつもりだったのだ。
「フフッ♪ありがとうございます、クレア様」
いつも強気な彼女のそんな姿を見て、ゾーイは優しく微笑む。
そしてジェイクの方へと振り返り、周りに響き渡るような大声で叫んだ。
「ジェイク様!私はゾーイ・ライナス!この国で重要な立場にある者です!」
ゾーイは自分が外国人であることをワザとボカして話を続ける。
彼女はこの場が上手く収まった後、帰化でもなんでもする覚悟なのだ。
「そして!そこにいる芹沢様の婚約者ですっ!」
と、ゾーイは思い切って叫び、真っ赤な顔で幹太を指差す。
「ゾーイさんっ!それはまだ返事を…ムグッ!」
「幹太さん…シーです♪」
「ふぁ、ふぁんな?」(ア、アンナ?)
今、この場で真実を語る必要はないと、アンナが幹太の口を塞いだ。
「い、今さら…な、何を言ってるんだ!
お前はさっきまでクレア様の横に控えていた、ただの護衛ではないかっ!」
ジェイクは調子に乗りすぎた自分を早くも後悔していた。
「それはあなたの勝手な判断よ…ね、お兄様♪」
「あ、あぁ、ゾーイはこの国にとって大事な人間だ…」
弱気なマーカスは極力ウソの無いように同意する。
「ジェイク様。先ほどの勝負、行ってもらえますね…?」
「そ、そんなのやるはず…」
と、ジェイクがゾーイの申し出を断ろうとしたその時、
「話は聞かせてもらったぞ!クレア・ローズナイトー!」
ベランダの扉を大きく開いてビクトリアが現れた。
ズカズカと歩いて来る彼女の後ろには、シャノンとクロエが控えていた。
「えぇっ!ビ、ビクトリア様!?」
「…お姉様…これはまたややこしいことに…」
アンナはため息を吐いて頭を抱えた。
「勝負!いいではないか!
何事も勝負して決めればあと腐れがないぞっ!
かく言う私も、もう一度芹沢幹太に…」
「もうっ!お姉様!」
「う、いかん、いかん。
と、とにかくだ!ジェイク殿、あなたは自分で言っておいて、いざやるとなったら逃げる気なのか…?」
ビクトリアはそう言って、しっかりとジェイクの両肩を掴む。
「ビ、ビクトリア様…それは…」
「貴様まさか…これだけの王族と公爵家の人間を前にして嘘を…」
ジェイクの肩を掴むビクトリアの手にギリギリと力が入っていく。
「や、やりますっ!勝負させていただきますっ!」
「うむ。なら良い♪」
ビクトリアはニッコリと笑い、ジェイク肩からパッと手を離す。
「では、勝負の日時と場所、やり方などは追って連絡する!
それではジェイク殿、今日は早く帰っておけ!」
「し、しかし、ビクトリア様、パーティーはまだ…」
「今日はもう終わりだ…」
「えぇっ!な、なぜ!?」
「私はお前にパーティーはお開きだと言っている…」
「うっ…か、かしこまりました」
ビクトリアは有無を言わせず、ジェイクをパーティー会場から追い出した。




