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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第四章 リーズ公国編
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第八十九話 イメージキャラクター

ブルーラグーンから帰った幹太は、さっそく仕込みを始めた。

幹太が今回試作しようとしているラーメンの食材は、以前ソフィアが市場で買ってきてくれていたもので間に合う。


「よっしゃ。スープはいつも通りオッケーっと…」


まず幹太は昨晩仕込んだつけ麺スープを沸かし、レイブルブルーのレンゲで試食した。

今回のスープも凝縮された海鮮の味がしっかりと出ている。


「久しぶりだな…」


次に幹太は食材の詰まった箱の中から一味と取り出した。

そしてごま油を沸かし、以前と同様にラー油を仕込む。


「あと何がいるんだっけ?

えっと…そうだ!ネギを…」


幹太は沸いたごま油に一味と長ネギを入れて、吹きこぼれる寸前で火を止めた。


「おっし、これでラー油はオッケーだな。

ん〜しかし、この鍋だとちょっと量が少ないなぁ〜」


マーカスが色々と設備を準備してくれたとはいえ、やはり馴染みのある姫屋のキッチンワゴンと、今回のキッチンワゴンとでは勝手が違うようだ。


「幹太ー! 調子はどうー?」


「お夜食を持ってきました」


とそこへ、クレアとゾーイがやって来た。


「ありがとう、ゾーイさん。

調子は…ん〜まあまあかな」


「うわっ!すっごい色と香りね」


「…芹沢様、これは調味料なんですか?」


「うん。辛味の調味料っていうのが的確かなぁ〜」


「ふ〜ん…あっ!私、わかった!今度のラーメンは辛くするのね♪」


クレアは、中華鍋の中になみなみと作られたラー油を覗き込んで言った。


「おっ!クレア様、大正解!」


「あぁ、なるほど…だからですか。

だからさっきクレア様の髪を…」


「えっ?ゾーイ、どういうこと?」


「いや、最初はクレア様の言ったマグマだったんだよ。

もともと俺の住んでた街でさ、辛くて有名なラーメン屋があるんだ。

俺も向こうにいる時はよく食べてたんだけど…」


幹太が住んでいた吉祥寺には、蒙古タンメンという日本有数の辛いラーメンの名店がある。


「辛いラーメンってだいたい見た目が真っ赤なんだ。

だから日本じゃ、辛いラーメンをマグマや火山に例える店が多いんだ」


事実、マグマラーメンというワードでネット検索すると、たくさんの辛いラーメンがヒットする。


「それでクレア様のこの髪だよ…」


「ちょっ、幹太っ!またっ!?

あぁ…もう、いいわ…」


幹太は再びクレアの髪を撫でた。

先ほどとは違い、クレアは諦めた様子で幹太に髪を自由にさせている。


「クレア様のこの綺麗な赤い髪なら、この街…いや、この国のご当地ラーメンのイメージにピッタリだと思ったんだ」


リーズ国民に人気のあるクレアの指示の下で作ったラーメンが赤いというのは、それだけで宣伝効果があるのではと幹太は考えたのだ。


「そ、そんなの…大丈夫かしら…?」


しかし、その話を聞いたクレアは、いつもとは違い自信がなさそうだった。


「クレア様…」


ゾーイはそんなクレアの手を取っる。


「いつも言っていますが、クレア様はお綺麗ですよ。

少しクセのある御髪だって、とってもお似合いです」


「うん…ありがとう、ゾーイ。

でも…みんなは真っ直ぐで綺麗な髪の女の子の方が好きなんじゃないの…?」


クレアはそう言って、伏し目がちに幹太を見た。


そうなのだ。

幹太の目から見ても性格と見た目がバッチリ合った美少女のクレアだが、彼女自身は自分の容姿、特に髪の毛にコンプレックスを持っていた。


「ゾーイさん…これって本気で言ってるのか…?」


「えぇ。残念ながらいつも本気で言ってらっしゃいます」


「そうなのか…。あのな、クレア様…」


幹太はクレアの両肩に手を置いた。


「クレア様はアンナことをどう思う?」


「えっ、どうして?幹太?」


「まぁいいから正直に答えて」


「そりゃ見た目だけならすっごい綺麗よね。

知ってる?あの子、この国じゃシェルブルックの妖精王女って言われてるのよ」


そう言われてみると、確かにアンナの美しさはファンタジーの世界の住人のようだ。


「だよな。俺もそう思う」


「何よ!婚約者自慢!?」


「いや!そうじゃなくて!

その…俺はクレア様も美少女っぷりじゃアンナに負けてないと思う…」


「ホ、ホントに…」


「う、うん」


「クレア様、ちゃんと芹沢様を見てあげて下さい。

これがウソをついている顔に見えますか?」


女性を褒めることに慣れていない幹太の顔は思いきり真っ赤だった。


「み、見えないかも…」


「そりゃそうだよっ!ウソじゃないからな!」


本人には知られていないが、クレア自身も一部ではリーズの赤い薔薇と呼ばれている。

明るく元気で美しいリーズの王女は、この国の象徴になっているのだ。


「まったく。それだけ綺麗なクセに自信がないなんて…ちょっとイヤミになるかもしれないぞ…」


「まさにです、芹沢様。私もそう思います」


「えぇっ!?そ、そうなの?」


「あぁ。こないだ由紀とも話してたんだけど、この世界って容姿のレベルがめっちゃ高い気がするよ…。

俺、これからどうすりゃいいんだ…」


「せ、芹沢様だってカッコイイですよ…」


「ありがとう、ゾーイさん。

でもなぁ〜クレア様にああ言った後でなんだけど、そう言われてもぜんぜん自信は持てないよ。

だってマーカス様なんか、地球にいたら世界中で話題なるレベルのイケメンだぞ…」


「あぁ、マーカスお兄様ね…。

確かにお兄様には地下ファンクラブがあるぐらいだもの…」


「そんなんあるのか…?」


「えぇ、あるわ。

ちなみに私も入ってるわよ」


「クレア様も入ってんのかよっ!?」


と、ツッコミを入れつつ、義理の妹の王女が会員にいるならば、それはすでに公式ファンクラブではないのかと幹太は思った。


「えっと、まぁとにかくそういう訳で、クレア様のイメージは絶対にご当地ラーメンに使えると思うんだよ」


日本でも、人や様々なキャラクターとコラボレーションしたラーメンは数限りなくある。

人気のある人や物とコラボすることは、商売をする上でとても有利なことなのだ。


「問題はやっぱり具なんだよなぁ〜」


すでに幹太の頭の中では、いくつか辛いスープを作る方法が浮かんでいる。

しかし、ご当地ラーメンを作る上で重要な具はまだまったく決まっていなかった。


「芹沢様、つけ麺のエビではダメなのですか?」


「そうよ!あれなら辛いラーメンにも合うんじゃない?」


「俺もちょっと思ったけど、つけ麺と一緒じゃ面白くないからなぁ〜」


「じゃあ、あれは?えっと、なんだっけ?チャーシュー?」


「あぁ、たぶん美味いと思う…」


幹太はこれまで色々とラーメンを試作する中で、チャーシューを具にしたラーメンもクレア達に試食してもらっていた。


「よし、とりあえずやってみるか…」


「いいわね♪試食タイムよ、ゾーイ♪」


「はい♪」


そうして幹太は辛いラーメンの試作を始めた。

一般的に辛いラーメンスープというのは、ベースとなるスープと辛味のあるタレの二つを混ぜて作られる。

大きな寸胴鍋で作るスープが最初から辛い店など、ほぼないと言っていいだろう。


「最初は唐辛子とラー油の醤油のタレでいってみよう」


ひとまず幹太は、関東圏でよくあるタイプの辛いラーメンの辛味ダレを作った。

これをスープと一緒に中華鍋に入れ、一度しっかり沸かしてから作るのが一般的な辛いスープの作り方だ。


「めちゃくちゃ辛口の店だと、作ってる最中に店に入っただけで涙が出てくるからな」


「うん。なんか私も目がシパシパするわ」


「わ、私もです…」


と、幹太の隣で鍋を覗いていた二人が瞬きをする。


「ははっ♪まぁこのぐらいならまだマシだよ。

さぁそろそかかなぁ〜」


幹太はチラッと時計を見てから出来上がったスープをどんぶりに移し、そこへ先に茹でていた麺を入れ、チャーシューを乗せた。


「はいよ!とりあえず辛味ラーメン試作第一号の完成だ」


「うわっ!見るからに辛そうね…」


「はい。美味しそうです」


「おっ♪ゾーイさん、辛いのいけるクチか?」


「えぇ。元々辛い食べ物が多い国の出身なので…かなり好きですね」


やはりこちら世界でも、暑い国の人間は辛いもの好きが多いようだ。


「そっか、そんじゃさっそく食べてみてくれ」


「はい。ではいただきます」


「いただきま〜す♪」


ゾーイとクレアは勢いよくラーメンを啜る。


「ガッフッ!ゲッホ!ゲホッ!」


「クレア様っ!?大丈夫ですかっ?」


次の瞬間、生まれて初めて辛い食べ物を啜ったクレアは思いきりむせた。


「あぁビックリした!辛いのを吸い込むとこうなっちゃうのね。

うん。でも美味しいわよ、幹太♪」


「えぇ。私も色々と辛いものを食べてきましたが、こんなに深みのある辛さは初めて食べました」


基本的に唐辛子の辛さと海鮮は相性が良い。

韓国の海鮮キムチなどが良い例だ。


「おっ♪そうか、そんじゃ俺もいただきます」


そう言って、幹太も試作ラーメンを食べる。


「ん〜まぁこれはこれでいいか、な…?」


「えぇ。私は美味しいと思うわ。ね、ゾーイ?」


「はい♪」


二人はそう言うが、しかし、幹太は微妙に浮かない顔をしていた。


「う〜ん…」


「どうしようゾーイ?また始まったわ…」


「ですね。このラーメンの何が気に入らないのですか?芹沢様?」


「いやぁ〜美味しいんだけど…何かもう一工夫したいな…」


「工夫って…他にどんなのがあるのよ?」


「悪い、二人とももうちょい付き合ってくれ。

とりあえず具のことは置いといて、まずは辛味ダレを変えてみよう」


「えぇっ!辛味ダレはこれでいいじゃないの!?」


「そうですよ!」


「いや、もしかしたら辛味味噌の方が強烈に美味いかもって考えたら…ダメだっ!試してみないと耐えられない!」


「嘘でしょ!?何時だと思ってんのよ!

私、温泉で泳いでヘトヘトなのに…」


「クレア様、ここはアンナ様達に任せるというのは…」


「さすがにもう寝てるわよ…」


時刻はすでに夜半を回っている。

幹太がラーメンを試作すると言った時点で、まだ試食ぐらいしか役に立てないアンナ以外の婚約者とシャノンは部屋に戻った。

たった一人残ったアンナも、幹太の指示通りに麺を打ち、クレア、ゾーイと入れ替わりになるように部屋に戻っている。


「アンナ達はこうなるのが分かってたのね…」


「えぇ…私がお手伝いしてきますと言った時の気の毒そうな顔の理由が分かりました…」


二人は何もかもを諦めた表情で、嬉々として辛味ダレを作る幹太を見る。


「そうだ!ゾーイさん、明日また市場に行きたいんだけど、付き合ってくれないか?

やっぱり具の方ももう一度考えてみたいんだ」


「…だってよ、ゾーイ…」


「えぇ、クレア様。

私、こうなったら最後まで頑張ります」


ゾーイは小さくガッツポーズをして腹を括る。


「もちろんです、芹沢様。ぜひご一緒させて下さい」


「おぉ!ありがとう、ゾーイさん」


そう嬉しそうに返事をする幹太を見て、クレアは深いため息を吐いた。


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