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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第四章 リーズ公国編
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第八十三話 行き着く場所はいつも

ギリギリところで踏み止まった幹太と由紀は、かなりの覚悟を持って宮殿でのディナーに臨んだ。


「は、恥ずかしかったね、幹ちゃん」


「うん。なんだかみんなすっごい優しい目をしてたもんな…」


幹太はそんなたまれないディナーを終えた後、婚約者の三人とシャノンを自分の使っている離れに呼んだ。


「心配かけたお詫びに、みんなに買ってきたんだよ」


と言う幹太の前のテーブルには、先ほどの木箱が乗っている。


「まずはシャノンさんにこれを…」


幹太は色とりどりの花で作られた花束をシャノンに渡した。

この花束を隠す為に、大きめの木箱が必要だったのだ。


「私にこれを…?」


花束を受け取ったシャノンの顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。


「うん。シャノンさんにはこれがいいかなって思ったんだけど、ダメかな?」


「い、いえ。ありがとうごさいます、幹太さん」


シャノンはお辞儀をしつつ、花束で真っ赤になった顔を隠した。


『どうしてあなたはいつも…常識的に考えて花束は、婚約者に贈るものでしょうに…』


実を言うと、シャノンは男性から花束をもらうのは今回が初めてだった。


「いいなぁ〜シャノン♪羨ましいです♪」


「うん。私も幹ちゃんにお花なんてもらった事ないないよ♪」


「私もお花は大好きです〜♪」


「皆さんもからかわないで下さいっ!」


慣れとは恐ろしいもので、幹太が贈り物があると言った時点でこのぐらいのことはやるだろうと、なんとなくアンナ、由紀、ソフィアは予想していたのだ。


「それで、三人になんだけど…」


幹太はカチコチに緊張しながら、三人それぞれの前に銀の指輪を置いた。

指輪は三つとも変わりのないデザインだが、内側に彫ってある文字はそれぞれ違う。


「えっと、安物で箱も無いんだけど、その…受け取ってくれたら嬉しいです…」


幹太は言葉を詰まらせながら、照れ臭そうにそう言った。

幹太が一人で買い物に行ったのは、この指輪を買うためだったのだ。


「内側に名前を彫ってもらったんだけど、アンナとソフィアさんのは読めなかったからちょっと見てみてくれるかな」


「あ!私のはカタカナでユキだ♪」


ゾーイが見た露店の店主に何かを伝えている幹太は、カタカナを教えているところだったのだ。


「大丈夫ですよ♪ありがとうございます、幹太さんっ♪」


「ちゃんとソフィアって彫ってあります〜♪」


さっそくアンナとソフィアはその指輪をはめようとするが、


「か、幹ちゃん…つけてくれる?」


と、由紀が幹太に手を差し出すのを見て二人はピタリと動きを止めた。


「あ、あぁ、そっか…それはしないとダメだな…」


幹太はより一層緊張して由紀の手を取った。


「…幹ちゃん、それ、人差し指だよ…」


「お、おう」


「そっちじゃなくて…うん、そこ…」


幹太は素で左右を間違えた後、今度は間違えることなくその薬指に指輪をはめた。


「幹太さん!私も!」


「私もお願いします〜♪」


「わ、わかったから!順番な」


そうして差し出された二人の指に、今度は間違えないように慎重に指輪をはめる。


「ふぁ〜♪指輪はつけていただくと、その人のものになった気分になりますね♪」


「とっても幸せです〜♪」


「「ね〜♪」」


アンナとソフィアは、お互い指輪のはまった手をペチペチと合わせて喜ぶ。


「よし、これでいいかな…って、由紀っ!?」


やっと気を抜けた幹太が視線を上げると、自分の指にはまる指輪を見て由紀がドバドバ涙を流していた。

イメージでいえば、流れているというより正面に噴き出すといった感じだ。


「ゆ、由紀さん!どうしたんですか!?」


「もしかして指輪が合わなかったのですか〜?」


尋常じゃない様子の由紀に、アンナとソフィアが慌てて駆け寄る。


「ぢ、ぢがうのぉ〜私、ゔれじくで〜」


そう、由紀の涙は嬉し涙だった。


「わだし…わたしだけ幹ちゃんに指輪をあげてなかっだから、ぞれが…ぞれがずっと気になってて…」


「由紀さん、そんなことは気にしなくていいんです。

私達の想いに違いはありません」


「そうですよ。幹太さんと由紀さんは、違う国の人なんですから〜」


アンナとソフィアはそう言うが、由紀はずっとそのことを気にしていた。

しかし、日本人である由紀にとって、指輪はあげるものではなく貰うものだ。

日本人の乙女として、なかなかその夢は捨てられなかった。


「そっか…そうだよな、由紀。

遅くなってごめんな」


「ううん、いいの。いまは信じられないぐらいうれじいから…」


由紀はそう言って、ズビーっと鼻をすする。


「えっと…どういう事?」


「俺たちの国だと、婚約指輪ってのは男性から女性に渡すものなんだよ」


「ふ〜ん、アンナの国とは真逆なのね…」


「…って、クレア様?いつからいたの?」


「ん〜?幹太が由紀に指輪をはめた辺りかしら?

ね、ゾーイ?」


「…はい」


「ゾーイさんもいたのかよ…」


「一応、私は気が付いていました…」


ちょっと前から、クレアとゾーイはこの部屋に入って来ていた。

シャノンを除くド天然の四人は、プレゼントに気を取られるあまり二人が来たことに気がつかなかったのだ。


「いいわね、それ♪

リーズで流行らせてみようかしら♪」


国を活気づかせたいお姫様は、なんだってやってみる気だった。


「う〜ん、まぁ俺たちの国でも、宗教的なものというより一般的な習慣になってるからなぁ〜。

有名な人がやってみたりしたら、意外と流行るかも知れないぞ」


「それじゃクレアがやればいいんじゃないですか?」


燃えるような赤毛のお姫様は、見た目の可愛らしさと元気なキャラクターでリーズの国民から愛されている。


「わ、私っ!?

私は無理よ!だ、だってまだ結婚相手も決まってないし…」


「えっ?クレアはマーカスのことが好きなのではないのですか…?」


「アンナ・バーンサイドっ!

あなた何を言ってるのっ!?」


「だって、昔からバレバレでしたよ♪」


「えぇっ!本当に!?って、違うわっ!」


「たぶんですけど、シャノンもそう思ってますよね?」


「えぇ」


「う、嘘でしょ?

そ、そうだわ!ゾーイ!ゾーイはどうなの?」


「…申し訳ありません、クレア様。

私もクレア様はマーカス様のことがお好きなのだと…」


「…ゾーイにもバレてるのね」


一番の側近であるゾーイにまでそう言われ、クレアはこれ以上隠すのを諦めた。


「あれ?でもマーカス様とクレア様は兄妹じゃないのか?

あっ!もしかして公爵家ならではの禁断の関係ってやつか?」


「違うわよっ!私とマーカスお兄様は血は繋がってないわ!」


「あ、そういえば髪の色なんかは違うな」


「幹太さん、クレアはクロエの妹です」


「それってビクトリア様の護衛の?」


幹太は改めてクレアをよく観察した。


「なるほど…確かによく似てるな。

しっかし、アンナもそうだけど、クレア様のとこも美人姉妹だよなぁ〜」


「あんっ♪やだ、幹太さん♪

お姉様より美人だなんて、怒られちゃいます♪」


と、むっちゃ調子に乗るアンナの横ではクレアが激しく動揺していた。


「か、幹太!?何言ってんのっ!?」


「あ、ごめん。失礼だったかな?

う〜ん、でも美人なの事実なんだし、どうしよう?」


「知らないわよ!

あなたって、いっつもそうやって女の子を口説いているのっ!?」


「そ、そんなつもりじゃ…」


「あっ!そうだ、それで思い出したわ。

ちょっと幹太、ゾーイにピアスなんかあげてどういうつもり?」


「ク、クレア様…私は大丈夫ですから…」


ゾーイは恥ずかしそうにクレアの袖を引いた。


「ダメよ!ちゃんと聞いておかなきゃ!」


「でも…」


ゾーイはそう言って、再びピアスのついた耳たぶを摘む。


「クレア…どういう事ですか?」


全く話の見えないアンナがそう聞いた。


「さっき帰ってきてから、ゾーイがずっと耳を気にしてたの。

それで私がどうしたのって聞いたら、幹太にピアスをもらったって言うのよ」


「へ、へぇ〜そ、それが何か?」


シャノンに花束までは想像していたアンナだったが、さすがに幹太がゾーイにまでプレゼントを贈るとまでは予想していなかった。


「よく見たら色付きのピアスだし、幹太の恋人になったのって聞いたら、そうじゃないって言うし…」


「ちょ、ちょっと待ってくれよクレア様!

なんで俺がゾーイさんの恋人ってことになるんだ!?」


幹太は今日のバイト代のツケとして、ゾーイにピアスを贈ったのだ。


「ちょっと幹太…あなた何にも知らずにゾーイにピアスをプレゼントしたの?」


「な、何もって…なんでしょう?」


「はぁ〜いい幹太、ちゃんと聞きなさい。

ゾーイの国、ロシュタニアではね、色付きのピアスは恋人がいる証なのよ。

他の男性が近づかないように、相手の男性から贈る決まりなの」


「マ、マジで…」


「えぇ、マジよ」


地球で言えばハワイの花飾りに近い意味が、ゾーイのピアスにはあったのだ。


「で、でもそんな事知らなかったから…」


「ダメよ。ゾーイがちゃんと受け取ってるんだから、あなた達はもう恋人同士なの!

まさか幹太、女の子に恥をかかせるつもり?」


「いや、そんなつもりは…ゾ、ゾーイさんもそう思うよな?」


「……」


幹太はゾーイに助けを求めるが、彼女は耳を真っ赤にして俯いているだけだ。


「幹ちゃん…?」


「幹太さん…?」


「幹太さ〜ん?」


そんな味方のいない幹太に、虚ろな目をした三人の婚約者が迫る。


「い、いや、ちがうって!

本当にそんなつもりは無かったんだっ!」


「あ…そ、そうですよね」


必死で否定を続ける幹太を見て、ゾーイが悲しげな表情をする。


「あぁっ!もうっ、幹太さん!」


そんなゾーイにアンナがすぐさま駆け寄った。


「ゾーイさん、幹太さんが好きになっちゃったんですか?」


「ご、ごめんなさいアンナ様…まだそこまでは分かりませんけど、このピアスは大切にしたくて…」


「そうですか…」


身勝手な兄の妹ということもあり、ゾーイは男性にあまり良いイメージがない。

しかし、幹太は自分が酷いことをしたにもかかわらず、常に優しく、素敵なプレゼントまでしてくれた。

男性に対してウブなゾーイが、彼のことを意識してしまったとしても不思議はない。


『う、嘘だろ…』


婚約者が三人もいるというのに、今だに自分が女性にモテるという自覚が幹太にはなかった。


「そう…ゾーイがそう言うんだったら無理は言えないわ」


「も、申し訳ありません、クレア様」


「何言ってんのよ、ゾーイ。

私は幹太とあなたが結婚したら助かるなって思ってるけど、何も無理矢理そうしたいとは思ってないのよ。

だからあなたは、いつだって自分の気持ちに素直でいなさい♪」


クレアはそう言って、ゾーイにウィンクする。


「クレア様…」


「自分は素直じゃないのに、よく言ったもんですね、クレア♪」


「なによ、アンナ!

誰もがあなたみたいにいつも能天気でいられる訳じゃないのよっ!」


「能天気って!?

私だって時々悩んだりもしますよ!

まぁクレアの場合、問題はマーカスの気持ちですけど…」


「そう、それなのよね…」


アンナとクレアはジト目でシャノンを見つめる。


「お二人とも…?どうしたんです?」


「あ、そうゆうことなんだ♪

確かシャノンってマーカス様と幼馴染なんだっけ?」


「シャノンさん、お綺麗ですから〜♪」


二人のプリンセスの態度から、どうやら由紀とソフィアもだいたいの事情を把握したようだ。


「はぁ…それじゃゾーイのことは本人の気持ちにまかせるってことにして、これから先の事を考えましょう。

えっと…まず幹太はどうしたいの?」


「どうしたいって?」


「もうっ!アンナ、幹太っていつもこうなの!?」


「えぇ、残念ながら…。

でも、私はそんな幹太さんが大好きですよ♪」


そう言って、アンナは正面に座る幹太の手を握った。


「私も幹ちゃんが大好き♪」


「私もです〜♪」


アンナに続き、由紀とソフィアもその上に手を重ねた。

どうやら婚約指輪をもらった喜びのあまり、愛情表現に歯止めが効かなくなっているのだ。


「きゅ、急にどうしたんだよ。

も、もう、仕方ないねぇな〜♪」


婚約者である美女三人に言い寄られてデレデレする幹太は、正直引くほどキモい。


「あぁ、今すぐ殺したいわ…」


「クレア様、それは…」


「そうね、ゾーイのためにも我慢しなきゃ。

あのね幹太、私が聞きたいのはこのままお店をやってくれるのかってことなのよ」


「うん。そりゃやるけど」


話がラーメンに移ると、幹太はパッ表情を切り替えて即答した。


「…ちゃんと考えてる?

誘拐した私が言うのもどうかと思うけど、あなたはもう帰れるのよ」


「いや帰れないよ…」


「どうして?

新しいメニューの作り方をウチの料理人に教えてくれさえすれば、私だって今さら引き留めないわ」


幸いゾーイは公爵家の人間ではない。

もちろん別れるのは悲しいが、いざとなれば彼女はシェルブルックに住めるとクレアは考えていた。


「う〜ん、まずは…」


幹太は腕を組み、天井を見上げて考える。


「…まずはつけ麺だな。

販売して一日じゃ、これがキチンと売れる商品なのかが分からない。

それに今日一日作ってみて、少し調整するところもあるし…」


開店直後のラーメン屋が、客層に合わせて味を調節するのはごくごく当たり前のことだ。


「そうだな…今日より明日は貝柱を増やして、もうちょいスッキリした感じに…いや、それとも…」


気になり始めた幹太は、話の途中だというのに仕込みのイメトレを始めた。


「幹太さん幹太さん、ヤバいです。

ラーメンスイッチ入っちゃってます」


そんな状況に慣れてきたアンナは、素早く幹太を揺さぶり、彼を妄想の世界から連れ戻す。


「失礼、幹太、ちょっとトリップしてました」


「大丈夫です♪私はそんな幹太さんも大好…」


「アンナ!さすがに二回目は許さないわよ!」


「ご、ごめんなさい、クレア」


アンナもさすがにマズいと思ったのか、素直にクレアに謝った。


「まぁとにかく、今のままじゃご当地つけ麺は完全に完成したって言えないんだ」


「そうなのね。それじゃあそれが完成したら帰るってこと?」


「いや、それだけじゃないな…」


「えっ?幹ちゃん、他に何かあるの?」


幼馴染の由紀でさえ、つけ麺が完成すれば幹太は帰るだろうと思っていた。


「実はもう一つラーメンを作りたいんだよ」


「「「「「えー!」」」」」


幹太のラーメン馬鹿っぷりは、ここにいる全員の予想を遥かに上回っていたのだ。

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