第六十七話 似た者同士
このお話から新しい章に入ります。
引き続き宜しくお願い致します。
『アンナ王女がご婚約!
衝撃!お相手は一般の青年!』
幹太がトラヴィス国王にアンナとの結婚を認めてもらってから数日後、王都ブリッケンリッジの新聞の一面にはそんな見出しが躍っていた。
「ふふふっ♪ここ最近のアンナ王女の美しさにはそういう理由があった!って書いてあります〜♪」
「や、やだっ♪えー♪もうっ♪バレちゃってます♪」
と、笑顔で新聞を読み上げるお姉さん系村娘ソフィアの言葉に、王女アンナがグネグネと体をくねらせながら調子に乗っていた。
「アンナ、なんかそれキモいよ…」
そう言って、可哀想な人を見る目でアンナを見ているのは、幹太の幼馴染の由紀である。
「はぁ…そうですよアナ。
あまり調子に乗ってはいけません」
由紀に続いて調子に乗るアンナをたしなめたのは、アンナの姉であり護衛を務めるシャノンであった。
四人は王宮の応接間に集まり、ソフィアが読む新聞をネタに朝から女子会を開いていた。
「い、今ぐらい調子乗っても良くないですか!?」
「ん〜?でもしばらく幹ちゃんとは婚約って形なんでしょ?」
「えぇ、そうなんです。
お父様が結婚はもう少し様子を見てからにしょうと…」
「そうなると…まずは私とソフィアさんが先に幹ちゃんと結婚してもいいのかな?」
由紀はん〜っと頬に手を当てて、隣に立つシャノンに聞いた。
「由紀さん、この国の法律では一夫多妻制は王族にしか適用されません。
ですので三人一緒となると、アナから順番に結婚していくしか方法はないかと…」
「それはシャノンでもいいの?」
「そ、それは…」
いきなりの由紀の質問にシャノンは戸惑う。
「ど、どうでしょう?私は王族としての権利を放棄したつもりですが、何か書類がある訳ではないので…」
「シャ、シャノン…もしかしてちょっと考えてますか?」
「ア、アナっ、なにをっ!?そ、そんな事は有り得ません!」
「そっか…あ!それじゃまず私かソフィアさんどちらか一人が先に結婚しちゃうって手もあるね!」
「あら〜それは良い考えですね〜♪」
「お、お二人とも、どうせならみんなで仲良くお嫁に…」
「えー♪どうしょっか?ソフィアさん?」
「どうしましょうかね〜由紀さん♪」
「そ、そんなっ!」
「大丈夫ですよ、アナ。
もう、お二人ともあまりアナをいじめないで下さい」
「ふふっ♪そうそう、冗談だよ、アンナ」
「そうですよ〜♪」
「ほ、本当ですか?お願いしますよ。
そう言えば…今日はまだ幹太さんを見てませんね?
ソフィアさん、幹太さんがどこに居るか知ってますか?」
ソフィアは現在、幹太の隣の客室を自室として使っている。
「今日は新しい調理道具を見に行くって言ってましたよ〜。
確か…シャノンさんと一緒に行くとおっしゃってましたが〜?」
ソフィアはそう言ってシャノンの方を見た。
「あぁっ!そう言えばそうでしたっ!
すいません皆さん!私、ちょっと行ってきます!」
シャノンは珍しく慌てた様子で部屋から出ていく。
「んん?なんでみんな一緒じゃないの?
幹ちゃんのお手伝いなら、私達みんなで行ってもいい気がするけど。
屋台の使う物って結構ありそうだし…」
「さぁ、なんでですかね?
とりあえず屋台で使えるような設備は、ローラお母様の管理している市街の倉庫にあるんですけど…」
「シャノンが一緒ってことは、ローラ様もそこに行くのかな?」
「そうかも知れません」
「なにか私達に内緒の用事があるんでしょうか〜?」
「まぁたぶん心配しなくても大丈夫ですよ、ソフィアさん。
私達の結婚の事だって、お母様に後押ししていただいてここまで進んだのですから♪」
と、三人がそんな話をしている頃、
幹太はローラ王妃と二人で市街にある王宮の倉庫に来ていた。
二人はしばらく王宮の正門でシャノンを待っていたのだが、彼女がなかなかやって来なかったために先に出発してここまで来たのだ。
「おぉ!こりゃ凄ぇ!」
倉庫の中を見て幹太のテンションは一気に上がった。
「そうでしょう♪」
「これが王宮の倉庫なんですよね…?」
「えぇ、そうよ。
お祭りで使う調理道具や設備なんかをまとめ置いてあるんだけど…。
さすがにちょっと大変そうね♪」
ガランッ!ガラガラッ!
そう話している間にも、入り口脇の鍋の山が崩れ二人の足元に転がる。
「…それでね婿殿」
「へっ!?婿殿って!?」
「だって幹太さんはアンナちゃんと夫婦になるんでしょ?
あら?もしかしてお婿じゃなくてお嫁にもらうのかしら?
ん〜?でもそれだと一人としか結婚できないからダメよ」
「いやっ、その…この際婿でも嫁でもいいんですけど、婿殿って呼び方は…」
「あぁ、そういう事…。
じゃあ今まで通り幹太さんって呼ぶわね」
「はい。よろしくお願いします、お母さん…」
「あはんっ♪お、お母さんっ!?
む、息子ってこんな感じなのっ!?」
全身を駆け巡るゾクゾクとした快感に、ローラは膝から崩れ落ちた。
「…やるわね、幹太さん。
お母さんうっかりトキメキました♪」
「すいません。ちょっと仕返ししてみました」
「えっと、おふざけはここまでにして」
「はい」
「幹太さん、この倉庫にある物であなたが欲しい物は全て差し上げます。
ですから…」
「片付けをしてくれと?」
「実はそうなの。
ビクトリアちゃんの件があるのに申し訳ないけど、そうしてもらえるかしら?
あっ、もちろん私も一緒にやるわよ」
「それでいいですよ。
この中はラーメン屋にとっては宝の山っぽいし、ぜひやらせて下さい」
「良かったわ♪
私もそろそろどうにかしなきゃって思ってたところなのよ♪」
「それじゃ早速やりますか!ローラ様?」
「えぇ、頑張りましょう♪」
二人は揃って腕まくりをし、山のように積み重なる鍋や食器に向かって突撃した。
「これは….?うぇっ!これ洗ってないぞ!
それじゃこれは洗い物の方に置いて…」
「ふっふっん♪ラララー♪
えっと…この棚はまだ使えるわね」
一人暮らしで飲食店を経営する幹太と、王宮の副料理長兼主婦である二人のお掃除スキルはかなり高く、あっという間に倉庫の中は片付いていく。
「ローラ様、もしかしてここって昔はお店だったんですか?」
と、三分の一ほど倉庫の中が片付いたところで幹太が聞いた。
先ほどまで大量の食器が置かれていた棚を幹太が掃除してみると、それは棚ではなくカウンターだったのだ。
「そうよ。ここはね、昔、私の父のお店だったの」
ローラは一般家庭の生まれであり、父親は自分の料理店を経営しており、母親は王宮のキッチンに勤めていた。
「小さな頃はそのカウンターに乗ってよく怒られたわ♪」
「へぇ〜そうなんですか。
ローラ様、意外とお転婆だったんですね」
「そうよ♪そのおかげでトラヴィスと結婚できたの♪」
ローラはそう言って、幹太に額の傷を見せた。
「あらま、本当だ。
それで結婚って?一体どういう訳なんです?」
「ふふっ♪それじゃ休憩がてらお話しようかしら♪
それはね…」
ローラはこれから自分の息子になる青年に、トラヴィスとの馴れ初めを話す。
「それは素敵なお話ですね…」
話しを聞き終えた幹太は、自然とそう口にしていた。
「まぁほとんどはジュリアのおかげなんだけどね♪」
「そんな事ないですよ。ローラ様が素敵だったから、トラヴィス国王様も結婚したんです」
「だといいわね♪
でもね、ロマンスで言ったら幹太さん達も負けてないわよ。
異世界のお姫様を助けた青年がそのお姫様と結婚するなんて、まるで物語みたいだわ♪」
「やってる本人達は素敵っていうより必死なんですけどね…」
振り返ってみても、ここまで幹太達が歩んで来た道はロマンスとは程遠い。
雰囲気よく女性陣と過ごした時間など、幹太の記憶にほとんど無かった。
「ふぅ…じゃあ休憩はこのぐらいにして、お掃除の続きをしましょうか。
私はこの上を…」
ローラはそう言って、先ほど幹太が片付けたカウンターに足をかける。
かなりの高さまで足を上げたため、ローラのエプロンドレスのスカートが思い切り捲れ上がり、まだ座っていた幹太の位置からは彼女のスカートの中が丸見えだった。
今日のローラはホワイトのガーター付きである。
「ロ、ローラさん!純白がっ!」
「あんっ!やだっ!」
と、ローラは王妃とは思えない可愛らしい声を出してスカートを押さえるが、しかし、それによってバランスを崩してしまい、幹太の上へ落っこちた。
「あたた…あれ、真っ暗だ?ん?これは…?」
幹太はスカートの中で王妃のお尻を大胆にまさぐっている。
幹太、人生二度目のスカートの中であった。
「いやんっ♪ダメ♪そこ引っ張ったらくい込んじゃうぅっ♪
あんっ♪あぁん♪ト、トラヴィスっ!ごめんなさい!」
こんなとある日に、この世界における初の王族NTR事案発生である。
「…お母様、何をしているのですか…?」
「あんっ♪そこに息かけちゃダメぇ♪…って、シャノンちゃんっ!?」
背後から聞こえた冷ややかな声に正気に戻ったローラが振り返ると、そこには青ざめた顔をした自分の娘が立っていた。
「まったく…生きた心地がしませんでしたよ…」
「ご、ごめんね、シャノンちゃん」
「申し訳ありません、シャノンさん」
そして数分後、ローラと幹太は腰に手を当てて仁王立ちするシャノンの前で正座していた。
「まったく…実の母親が妹と親友の婚約者と関係を持つなんて、想像しただけで卒倒しそうです」
「いや、あれは事故なんだよ、シャノンさん!」
「そうよ、シャノンちゃん!事故よ!
お母さん、ちょ、ちょっとドキドキしたけど…」
「はい?母さん?何か言いましたか?」
「な、なんでもないわよっ!シャノンちゃん!」
「まぁいいでしょう。
それで、これからどうするのですか?」
「とりあえずやれるとこまで綺麗にしょうかなって」
「そうね〜。あと半分ぐらいかしら?」
すでに幹太とローラの中では掃除が主な目的になっている。
「はぁ…分かりました。私も手伝います」
「ありがとう、シャノンさん」
「ありがとう、シャノンちゃん♪」
「いえ、二人が何をするか分からないので一応見張っておかないと。
いいですか!くれぐれも気をつけて片付けをして下さいね!」
「「はい!」」
それからしばらく三人は無心で掃除をし、気がつけば空が夕焼けに染まっていた。
「はーい!では幹太さん、シャノンちゃん、今日はこの辺りにしましょうか」
「ふぅ〜、そうしましょうか。
そんじゃ屋台に必要な物は明日取りに来るとして…」
「アナ達と来ればすぐに終わりそうですね」
「だな。帰ったらみんなお願いしてみるよ」
「さぁ〜私は早いとこ帰ってトラヴィスの晩ご飯を作らなきゃ♪
二人共、先に帰ってるわね♪」
ローラはそう言って、倉庫の前で待っていた馬車で王宮へと帰って行く。
「それでは幹太さん、私達も帰りましょうか?」
「うん、そうだな…あっ!悪いんだけど帰りに寄りたいとこがあるんだけど…」
「市場ならもう閉まってますが…」
「いや、今朝来る途中で地球の肉まんみたいな食べ物が売ってたんだよ。
ちょっと参考にしたくてさ」
「肉まんがラーメンの参考に…?
え、えぇ、まぁそれなら寄って行ましょう」
「やった♪ありがとう、シャノンさん」
幹太は少年のように無邪気な笑顔でシャノンの手を握った。
「…なんだかアナと似てますね…」
「えっ!そうなの?」
「えぇ。一つのことに対する集中力とでも言いますか…それ以外の周りが見えなくなるところが…」
「確かに国のために異世界に行くってのは相当だよなぁ〜」
「あの時も止めたんですけどね…」
「そうなんだ」
「もちろんです。
地球の世界に置き換えて考えてみて下さい」
「あ〜」
どこぞの国のお姫様が、地球に落ちて来る隕石を爆破するため宇宙へ向かうといったところであろうか。
幹太はとりあえず、オレンジ色の宇宙服を着てシャトルに乗り込むアンナを想像する。
「…まぁ、そりゃ止めるだろうな」
「そうでしょう。
そんなお二人が結婚するなんて、今から先が思いやられます。
早急に警護も増員しないと…」
と、シャノンは額に手を当ててため息を吐く。
「き、気をつけるよ…」
そんな彼女に、幹太はそれ以上かける言葉が見つからなかった。




