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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第三章 シェルブルック王国編
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第六十一話 バザー

この話で年内の更新は最後になります。

来年も引き続き宜しくお願い致します。

皆さま良いお年を。

まだ午前中の早い時間だというのに、サンタクルス大通りには多くの市民が訪れていた。

特にあちこちにある食べ物系の屋台には、早くも列ができている。


「はーい!餃子三つです!由紀さん!」


幹太達の姫屋も例に漏れず、すでに何人か注文を待つ人達の列ができ、なかなか好調であった。

アンナはお客の注文を受け、それを大声で由紀に伝える。

今回の姫屋のフォーメーションは、幹太とアンナがいつも通りにラーメンの担当し、前回のローラと同様に由紀が焼き餃子のみを担当、そして外回りと呼び込みをソフィアが担当していた。

ここにシャノンは現在、警備の仕事に駆り出されていて、後で姫屋に合流する事になっている。


「幹ちゃん!もう器がないよー!」


まだ午前中と言う事もあり、幾分食べ易い焼き餃子が飛ぶように売れている。


「分かった!今すぐ洗う!」


幹太は先に注文を受けていたラーメンの麺をグツグツお湯の沸く鍋に入れ、屋台裏にある洗い場へと振り返った。


「幹太さん!洗いものは私がやります!すぐに戻って下さい!」


「は、はい!よろしくお願いします!」


屋台裏に食器を運んでいたソフィアにそう制止され、幹太はビクッと動きを止めた。



「ふふふっ♪ソフィアさん凄いヤル気ですね」


「あ、あぁ、凄いな…。

いつもはのんびりしてるのに、ああしているとやっぱり大人って感じがするよ」


「そうだよ〜幹ちゃん。

幹ちゃんは知らないだろうけど、ソフィアさんは私達より色々オ・ト・ナ♪なんだよ」


由紀はそう言うが、綿でなくレースだったりとそっち方面で色々と大人なのは、幹太もすでに承知している。


「豚骨ラーメンもだんだん出るようになってきましたね♪」


アンナは麺とスープの入ったラーメンに具を乗せながらそう言った。

今回のラーメンは豚骨醤油がベースのラーメンだ。


「角煮を刻んじゃうのはもったいないと思いましたが、これはこれで美味しかったですね♪」


幹太は今回、先日仕込んだ和風の角煮をサイコロ状に刻んでラーメンに乗せる事にした。


「うん。バザーだったら女の人も子供も来るだろうから、見た目の印象を変えたかったんだよ」


確かに以前の角煮を丸ごと乗せたラーメンは、見るからにガテン系の男性向けラーメンだった。

しかしそのまま同じ具を使っていたら、このバザーでの売り上げ一番には届かないと考えたのだ。


「あとは野菜だな。

こっちの世界にもこういうネギがあって良かったよ」


さらに幹太はブリッケンリッジの中央市場で見つけた、九条ネギに似た青いネギともやしを加え、あまり見た目の重くない豚骨醤油ラーメンを作ることに成功したのだ。


「こりゃ私も食べたいよ、幹ちゃん♪」


そう言って、由紀がアンナの後ろから完成したラーメンを覗き込む。


「はははっ♪分かった、あとで作ってあげるよ、由紀」


「出来ました!ソフィアさん!お願いしまーす!」


アンナが完成したラーメンと餃子ををカウンターに出すと、ソフィアがそれをトレーに乗せ、屋台の前のテーブルで待つ三人連れの男性客に運んだ。


「はーい!豚骨醤油ラーメンお待たせしましたー♪お熱いので気をつけて食べて下さい〜」


「は、はい、い、いただきます」


男性客達はチラチラとソフィアの方を気にしながらラーメンを食べ始める。


『そりゃそうなるわな…しっかし本当にみんな綺麗だよなぁ〜

後から来るシャノンさんも相当な美人だし…』


幹太は改めてそう思った。

いつもは三人で店を回しているが、女性陣が一人増える事により、かなり今日の姫屋の美人度は上がっている。


しかし、今回の姫屋の出足の好調さはそれだけが理由ではない。

このローラが主催のバザーは国を挙げてのイベントの為、このシェルブルック王国だけでなく、広く国外にも宣伝をしている。


「見てください幹太さん、あそこの向かいのお店」


アンナにそう言われて、幹太はラーメンを作る手を止めずに、視線を通りの反対側に向けた。

向かいの屋台には、色とりどりの生地が並べて売られており、軒先にもいくつかカラフルな布が掛けてある。


「あのお店で売っている生地はこのシェルブルック王国のものではありません。

たぶん…クレイグ公国とは逆側の隣の国、リーズ公国の物だと思います」


「へぇ〜外国の人も来てるのか…どうりで前回の青空市とは人の数が違うはずだわ」


「えぇ、もちろんローラお母様のお人柄のお陰もありますが、このバザーに来れば普段はみられない変わった商品を扱うお店がたくさんあります。

ですから人出も普段の青空市とは段違いなんです」


「そっか、だからラーメンなんて珍しい食べ物でも、あんまり抵抗感なく食べれるんだな」


「そうですね。これだけ好き嫌いが別れそうな匂いを出しているのに、先ほどから客足は途絶えてませんから…」


日本においても、豚骨ラーメンを扱うラーメン店がテナントでの出店を断わられる事は実はよくある話だ。

例え出店できたとしても換気ダクトの方向や高さ、さらには油や排水の処理など、色々と厳しい条件を課される。

実際にビルの一階に出店している豚骨ラーメン店の裏側を見ると、ダクトがビルの屋上まで長く伸ばしてあるのはよく見る光景だ。


「とりあえずラーメンの味の方も気に入ってもらえてるみたいだしな」


幹太はそう言って向かいのお店から、姫屋前の客席に目を移す。

そこには豚骨ラーメンを食べながら一皿の餃子を分け合う、仲の良さそうな親子連れが座っていた。


「お店の匂いを嗅いだ時はどうかと思ったけど、これ旨いな♪」


「うん♪こっちのギョーザって食べ物も皮がカリカリしてて美味しいよ、お父さん♪」


「ハハッ♪お母さんにも食べさせてあげたいけど、アイツは一人で洋服を見にいっちまったからな」


父親はそう言って娘の頭を撫でる。

その親子の後ろのテーブルでは、先ほどソフィアが運んだラーメンを勢いよくがっつく男性三人組がいた。


「この硬い麺の喉ゴシ!う、うまいでゴザル!」


「スープも濃厚でいままで食べた事のない味わいでゴザル!」


「この上に乗ったサイコロ状の肉も、甘辛いタレが肉の脂と絡まって最高でゴザル!」


その独自の語尾から、どうやら外国か地方の人間のようだ。


「午前中でこれなら一先ずは安心だな…」


幹太はそう言ってふぅ〜っと息を吐く。

彼はここ数日、ほとんど休まずにラーメンの改良をしていた。

豚骨スープに替えてからは、まともに睡眠も取っていない。

父親の言い付けと清潔第一の飲食店というだけあって、前掛けや白衣などは綺麗にしているが、その顔は少しやつれている。

しかし、その様子を隣で見守る女性陣は幹太を心配しつつも、少し不謹慎とも言える考えをしていた。


『あっ…無精髭の幹ちゃん久しぶりだ。

おじさんに似ててやっぱカッコいいかも…♪』


由紀は幹太の横顔を見てポーっとしていた。

彼女は基本ジジイ好きである。


『か、髪が長めの幹太さんもセクシーです〜♪』


そしてソフィアは、アンナから新しいラーメンを受け取りつつキュンキュンきていた。

忙しくて髪の毛を切る暇がなかった幹太は、少し伸びた髪を荒々しく後ろに流して固めている。

ちょうどアキバで未来のガジェットを研究する人の様な雰囲気だ。


「おっと…」


と、そこで麺の湯切りを終えた幹太がフラッとバランスを崩した。

顔には出さないがやはり疲労は溜まっているようだ。


「あっ、幹太さん!」


咄嗟に隣にいたアンナがガシッと抱きついて彼を支える。


「幹太さん、大丈夫でしゅか?」


プリンセスアンナは極力平静を装った。


「ありがとう、アンナ♪」


幹太はニコッとアンナに笑いかけて、作業に戻る。


『幹太さんんんっ!めっちゃいいかほりー!ほんでもって笑顔も素敵ー!』


アンナ、ほぼ変態の域に達している。


その後も姫屋を訪れる客足は引かず、お昼前になると屋台の前には豚骨ラーメンを求める大行列が出来ていた。


「こ、こりゃ、ヤバい!おれがラーメン屋やって以来の行列だ!」


「由紀さん!餃子三枚追加です!」


「アンナ待って!とりあえず先の二枚出してから次で!」


と、厨房に入る三人はまさに息つく暇もなく、ラーメンと餃子を作り続ける。

その間にも少しずつ行列は伸びていく。


「幹太さん、アンナさん!豚骨ラーメン三つです〜!」


あまりの行列に、外回りのソフィアが列の整理がてらにあらかじめ注文をとり、それを三人に伝えていた。



とそこへ、


「遅くなりました!」


タイミングよく、警備の仕事を終えたシャノンがやって来る。


「あぁシャノン、あなたは洗い物をお願い!もう丼がないのっ!」


「はいっ!あと幹太さん、頼まれた物作っておきました」


アンナが怒鳴るようにそう言うと、シャノンは素早く返事をして、手にした紙の束をカウンターの隅に置いた後、屋台裏の洗い場に入った。


「ありがとうシャノンさん。

それで?他の屋台の様子はどうだった?」


幹太は背中越しにシャノンに質問する。


「…ここと同様といった感じですね。

どの飲食店もお店の前に行列が出来てます。

今回のバザーの人出は今まで以上ですね」


「そうか…。まぁどっちにしろ頑張るしかないんだけどな」


「えぇ。ここまできたらやるしかありません」


「よし!みんな!とりあえずこの昼ラッシュをなんとか乗り切ろう!」


「「「「はい!」」」」


そのまましばらく怒涛の時間が続き、お昼を過ぎた頃になってようやく幹太達は一息つくことができた。


「いや、参った。忙しいのは有り難いけどここまでとは」


「でも幹ちゃん、周りのお店も忙しそうだったよ」


「うん。さっきシャノンさんもそう言ってたよ。

単価も同じぐらいだからあまり差はないだろうな」


幹太は由紀と並んで、外に並ぶ屋台を見つめる。


「でも他の屋台の方も食べに来ていましたよ〜」


汗だくでブラウスの背中か透け透けになったソフィアが、空いた食器を持って屋台に戻ってくる。

今日のソフィアはセクシーな黒だ。


「そうか、んじゃ暇な屋台も無かった訳じゃなさそうだな」


「えと、ひとつ、ふたつ…っと、麺はまだまだあります!

これから夕方までもう一踏ん張りですよ!」


アンナが残りの麺箱を数えてそう言った。


「おう!それじゃがんば…」


とそこまで幹太が言ったところで、


「芹沢幹太ー!」


と大声で叫び、通りの向こうから大勢の兵士を連れたビクトリア王女が現れた。
























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