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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第三章 シェルブルック王国編
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第五十二話 新メニュー

一方その頃、アンナはソフィアと共に王宮の浴場で一日の仕事の汚れを洗い流していた。


「やっぱりお仕事の後のお風呂はたまりませんね♪」


「はい〜。アンナさん、ご一緒させていただいてありがとうございます〜」


「そんな!全然構いませんよ!

私の方こそ、ジャクソンケイブではずいぶん温泉を使わせていただきましたから」


「そういえば…ここのお湯も温泉みたいな香りがしますね?」


「さすがはジャクソンケイブ出身のソフィアさんですね。

ソフィアさんの言う通り、このお湯は温泉ですよ。

ここは王宮の地下から湧き出しているのを汲み上げてます」


「そうですか〜、だから上がった後はお肌がツルツルになるんですね〜♪」


ダッダッダッ!


などと二人が他愛もない話しをしていると、脱衣所の方から勢いよく近づく足音がする。


「由紀さんですかね?」


「でも、先ほど私がお部屋で会った時には、まだお風呂には入らないとおっしゃられてましたよ?」


二人が誰だろうと浴室の入り口を見ていると、脱衣所から服を着たままのビクトリアが飛び込んで来た。


「アンナ!!」


「お、お姉様っ!!」


ビクトリアは服が濡れるのも構わず浴槽の中に入り、驚いて思わず立ち上がっていたアンナを思いっきり抱きしめた。


「あぁアンナ…本当に無事で良かった…」


ビクトリアは抱きしめた手で、濡れたアンナの頭を優しく撫でる。


「お姉様、お洋服が濡れてしまいます…でも、ずっとお会いしたかった…」


そう言うアンナも、心からホッとした表情をしている。

いつも元気に見えるアンナだが、たった一人で日本に向けて旅立ち、こちらの世界に戻って来てからも気の抜けない旅の日々だった。

王宮という自分の家に帰って来たとはいえ、いつも自分を守ってくれる姉に会うまでは、どこか気を張ってていたのだ。


「私もだ…とても会いたかったぞ、アンナ。

それで、こちらの女性は誰かな?」


「はい、こちらはお友達のソフィア・ダウニングさんです、お姉様」


「そうか。アンナの姉、ビクトリアだ。

一応、王女をしているが、アンナ共々仲良くしてくれたら嬉しい」


ビクトリアはビッタビタに濡れた手をソフィアに差し出した。

そして一方のソフィアは、姉妹の感動の再会と、王女の前で素っ裸の自分という状況に混乱しながらも、なんとかビクトリアの手を握る。


「ソ、ソフィア・ダウニングです…

あっ!申し訳ありませんビクトリア様!私、座ったままっ!」


そう言ってソフィアは立ち上がりかけたが、裸の自分を見せてしまうのを躊躇い、中腰状態で内股になり、片腕で胸を隠すというなんとも扇情的な状態になってしまう。

ちなみに大切な場所は何一つ隠せていなかった。


「いや、こちらこそすまない。

わざわざ立ち上がってくれてありがとう、ソフィア。

大丈夫だからゆっくり浸かってくれ」


「は、はい〜」


サッと湯船に浸かったソフィアは珍しく恥ずかしそうだ。

とそこで、二人のやり取りを見ていくぶん落ち着いたアンナがビクトリアに話しかける。


「姉様、とりあえずは一回お部屋にお戻ってお着替え下さい。

私達もきちんとお洋服を着てからお部屋に伺います」


「そうだな、そうしよう。

ではソフィアも後ほどな…」


ビクトリアはザバザバと湯船を歩き、浴室を出ていった。


「すみません、ソフィアさん。

いつもはもっと落ち着いた方なんですが…」


アンナはそう言いつつも、とても嬉しそうな表情でビクトリアの去って行った脱衣所の方を見ている。


「仕方ありませんよ…、久しぶりの再会なんですから〜」


「では、とっとと汗を流してしまいましょう」


「はい〜♪」



それからアンナとソフィアがお風呂を上がり、ビクトリアの部屋訪れた頃、幹太はようやく王宮にたどり着いた。


「あ〜疲れた〜」


まずは厨房に向かい、今日買った食材を大きな魔法の保冷庫に入れてもらう。


「今日仕込むのはもう無理だな…」


翌日の営業までの時間を考えると、スープを仕込む時間が足りない。


「明日は思い切って休んで、ちょっと色々工夫をしてみよう」


幹太はそう決めて、広い王宮の廊下を客間へと歩いて行く。


「あっ、幹太さん!!」


客間に向かう途中でシャノンに呼び止められた。

どうやらシャノンは幹太が通りかかるのを待っていたようだ。


「シャノンさん?どうしたの?」


幹太はいつも一定の音量で話すシャノンが、大声を出して幹太を呼び止めたことに驚いた。


「幹太さん、ちょ、ちょっとこちらに…」


シャノンは幹太の腕を引きながら、幹太達の泊まる客間を通り過ぎ、同じフロアにある自室にまで連れてきた。


「あの…?シャノンさん?」


そして扉から顔を出し、廊下の左右を確認した後にしっかりと施錠する。


「ふぅ、ひとまずはこれで大丈夫でしょう。

突然すみませんでした、幹太さん」


「何かあったんですか?」


「何かあったいうか…予防というか…その…ビクトリア様が帰って来たんです」


「あ〜、留学してるっていうアンナのお姉さんの?」


「えぇ、そうです」


この時点で幹太は、シャノンがアンナとビクトリアと義理の姉妹であることをまだ知らない。


「そうなんだ。んじゃ挨拶した方がい…」


と言って、幹太が扉へ向かおうとするのをシャノンが体で遮った。


「ダメです…」


「いや、でも…」


「ダメです。幹太さんはこの部屋にいて下さい」


シャノンは有無を言わさぬ雰囲気だ。


「…そっか、分かったよ。とりあえずここでおとなしくしてる」


「ありがとうございます、幹太さん」


『いや、こりゃたぶんお礼を言うのは俺の方なんだろうなぁ〜』


幹太は今だに深刻な表情のシャノンを見てそう推測する。

結局、仕事と王宮までの徒歩での帰宅で疲れきっていた幹太はそのままシャノン部屋のソファーで朝まで寝てしまった。


「それじゃあ仕込みをするか!」


シャノンの部屋でスッキリと目覚めた幹太は、朝イチから姫屋のキッチンワゴンで仕込みを始めた。


「久しぶりだけど、上手く出来るかなぁ。

えーと、確かこの辺にレシピが…」


幹太はガサゴソと屋台の隅に据え付けられた、お勘定箱を漁る。


「あった、あった。

もしもの為に屋台に置いておいて良かった〜♪」


幹太がお勘定箱の引き出しから取り出したのは、一冊の古い大学ノートだ。


「うわっ!親父の字だ。なんか懐かしいな…」


大学ノートには幹太の父が書き残した様々な料理のレシピがギッシリと書いてある。


「えーと、確か前半だったよーな?あっ、これだ!」


幹太はノートをパラパラとめくってすぐにお目当ての料理のレシピを見つけた。


「よし、昨日買った食材で大丈夫そうだな。鍋は…」


まず、幹太は馬車の荷台にかけられた大きな鍋を床に置く。

いつもスープの仕込みに使う長細い寸胴鍋ではなく、幅の広い普通の鍋を大きくした形の物だ。


「まずは刻み物から…」


幹太は昨日の買い物袋から、細長い葉っぱの束を取り出す。

そしてらそれを猛烈な勢いで2ミリほどの幅で刻み始めた。

その葉は刻んだ直後から、独特の匂いを発している。


「こっちのニラも香りは一緒なんだな…」


この葉の束は正体はニラであった。

いくつかあったニラの束は、あっという間にこんもりとした一つの山になった。


「つぎはキャベツを叩いてっと。

あーもー!さすがにこれを手でやるのは辛いわっ!」


幹太は芯を取ったキャベツをまるごと千切りにして、さらに細かく包丁で叩いた。

本来ならこの作業はフードプロセッサーやドリルに刃を付けた専用の機械で行うものだ。

次に、そうして出来上がったキャベツの山を麻袋に入れ、袋の先を麺を引き延ばす棒で捻って水気を絞り出

す。


「よし!野菜はこれでオッケーだ!」


幹太は刻んだ葉とキャベツを大鍋に入れ、次の作業に移る。


「おぉ!こりゃ良いひき肉だったな」


そう言って、幹太が大鍋に入れたのはピンクと白が綺麗に混ざった豚のひき肉だ。

彼はさらにそこへサースフェー島で仕入れたゴマ油とラードを入れて、一気に混ぜ始めた。


「うおー!ラードが熱い!」


ラードは常温だと固体の為、一度火の近くで熱してから大鍋に投入している。

全ての食材が混ざり、ひき肉から粘りが出てきたところで、塩と胡椒、そして昨日市場で買ったトマトを刻んで大鍋に入れ、さらにしっかりと混ぜた。


「よーし、これで餡は完成っと…。

しっかし、何で親父はトマトなんて入れたんだろ…?」


父親が死んでしまった今となっては永遠の謎である。


「そんじゃ次は皮を作らなきゃだな…」


そう、幹太が今仕込んでいるのは餃子である。

そもそも屋台など深夜営業をしているラーメン屋では、一杯ひっかけて帰るお客も珍しくない。

まずはビールと餃子を食べ、シメの一杯でラーメンを食べる。

幹太の父親が店舗でラーメン屋をやっている頃は、そんなお客がたくさん店にやって来ていたのだ。


「この町のお客さんはかなり舌が肥えてそうだったからな。

ラーメンと合わせて新しい料理を出せば、きっと売り上げも伸びるはずだ」


この世界にラーメンを広めるという目標があるとは言え、幹太もやはり商売人。

売り上げの為ならばサイドメニューを出す事に迷いはない。

現にサースフェー島では、余った鶏肉をチャーシューのタレで焼く焼き鳥も作っていた。

今回はそれを一からキチンと仕込んで出そうという事だった。


「とりあえず麺の強力粉で皮を作ってみるか…」


餃子の皮はラーメンの麺と同じく強力粉が材料のメインである。

幹太はそれほど苦労することなく、餃子の皮の生地を作ることが出来た。


「あとはこれを広げて…完成っと」


幹太は王宮のキッチンで小さな麺棒を借り、ひとつまみほどの生地を一つ一つ丁寧に引き延ばしていく。


「おーい!幹ちゃーん!」


生地の引き延ばし作業を半分ほど終えたところで、王宮の方からトレーニングウェアを着た由紀がやって来た。


「おう、由紀おはよう。ランニングか?」


「うん、今走り終わったとこ。

幹ちゃんは…あー!分かった!餃子だ!」


由紀は幼い頃、幹太の父親が餃子を仕込むのを横で見ているのが好きだった。


「懐かしい…よく二人でお手伝いしたよね♪」


「あぁ、そうだな…。そんじゃ今日も手伝ってもらえるか?」


「うん♪もちろん!」


そう言って由紀は屋台のポリタンクの水で手を洗い、幹太と並んで一緒に生地の引き延ばし作業をする。


「私、まだ上手く巻けるかな?」


「餡の量が一定なら少々崩れても問題ないよ。

よく親父が言ってたろ」


幹太の父親はお世辞にも手先が器用な人間ではなかった。


「餃子は裏返して出すからヒダが不揃いでも大丈夫!」


と、よく幹太と由紀に言っていたのだ。


「あっ、懐かしい♪言ってた、言ってた♪」


しばらく経って二人は全ての皮を作り終え、餃子を巻く作業に移る。


「由紀、それじゃ多すぎるよ。

ほらこのぐらい…」


餃子巻きはいくつかの丸い皮に餡を適量乗せるところから始まる。


「うーん、でも確か多くても巻く時に出すんじゃないの?」


ラーメンの餃子は巻く時に皮の縁に水は付けない。

はみ出した中の餡で皮同士を接着していくイメージだ。


「だけども加減はあるからな。

だいたい、由紀はいっつも入れ過ぎなんだよ」


幹太の父もいつも山盛りに餡を入れる幼い由紀を、苦笑しながら見ていた。


「幹太さーん、由紀さーん、お手伝いに来ましたー!」


そうして二人が昔を思い出しながら餃子巻きをしていると、キッチンワゴンにソフィアがやって来た。


「あら?それは何ですか〜?」


「餃子だよ、ソフィアさん。

良かったら一緒にやってみる?」


なぜか鼻の頭に強力粉を付けた由紀が、ソフィアに餡の乗った皮を手渡した。


「ここを押すとシワができるでしょ…そしたらここを押して…」


「えと…?こう?あっ、こうですか?」


ゆっくりと由紀が実践しながら説明するが、ソフィアはなかなか上手くヒダを作ることができない。


「いや、ソフィアさん、こうだよ…」


それを見かねた幹太がソフィアの背後から手を回し、彼女の手を握りながら説明をした。


「か、幹太さん〜!!」


しかし、いきなり幹太に後ろから抱きしめられる形になったソフィアは、幹太の説明がまったく耳に入っていない。


「いい、ソフィアさん…こう、優しく力を入れすぎないように…そう、爪を立てないで…」


さらに説明する事に集中している幹太は、自分がソフィアの耳元でかなり際どい発言をしている事に気がついていなかった。

その間にも粉や餡でベトベトになった幹太とソフィアの指は、ネチャネチャと音を立てて絡んでいる。


「か、幹ちゃん!私が教えるから!」


突然目の前で起こった、名作映画のろくろを回すシーンのような状況を見せつけられ呆然としていた由紀が、ハッと正気に戻って二人を引き離す。


「あっごめん、ソフィアさん、お、思わず熱が入っちゃて…」


「い、いえ、大丈夫です〜」


しかし、上気した顔でその場にヘタリ込むソフィアは、とても大丈夫な様に見えなかった。





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