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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第三章 シェルブルック王国編
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第四十九話 踏み出す一歩

私の勤めていたラーメン屋さんでは、寸胴鍋にスープの材料が揃う事を「決まる」と言っていました。

寸胴鍋に火を付ける際には「これちゃんと決まってる?」と聞いて確認をします。

「幹太さーん!そろそろお昼にしましょう!」


アンナが市場の食器店の前から動かない幹太のベルトを引っ張りながら言った。


「そうだよ、幹ちゃん!朝からこの市場をグルグル回って、みんなもうヘトヘトなんだから!

ちゃんと休憩しないと!」


由紀にそう言われて幹太が後ろを振り返ると、市場の人混みに酔ったソフィアをシャノンが介抱していた。


「す、すいません、皆さん。

私、こんなに沢山の人を見るのが初めてなんです〜」


「ソフィアさん、とりあえず私達だけでも市場を出ましょう」


と言って、一足先にシャノンはソフィアの腕を支えながら、市場の外へと人混みの中を進んで行く。


「ご、ごめん!夢中になってた!すぐ外に出よう!」


幹太達はすぐにシャノンとソフィアに追いつき、飲食店の屋台が並ぶ市場の中庭までやって来る。

すぐに空いているテーブルを見つけ、シャノンがグッタリとするソフィアを座らせた。


「ちょうどいいので昼食にしましょう。

私はここでソフィアさんを見ていますから、皆さんはそれぞれ気に入った物を買ってくるということでいいですか?」


「了解。とりあえずソフィアさんにお水を貰ってくるよ」


幹太はそう言って近くの屋台に水を貰いに行った。


「じゃあアンナ、私達は二人の分もなんか買いに行こう」


「…ですね。行きましょう、由紀さん」


「皆さん、よ、よろしくお願いします〜」


そうして幹太は一度ソフィアに水を渡しに戻った後、改めてとこの屋台街の観察を始める。


「おぉ!ここには米があるんだなぁ〜。

ん〜、でも日本米とはちょっと違うみたいだ。

っと、このタレの香ばしい匂いは生姜かな…?」


幹太が見ているのは、明らかに丼物の屋台である。

地球のインディカ米に似たご飯の上に、野菜とたぶん豚バラであろう肉を生姜風味のタレで炒めて乗せた物を売っていた。


「これはチャーハンもいけるのか?」


幹太は元々、町によくあるラーメン屋の息子だ。

父親が店舗でやっている頃は、チャーハンや他の料理も出していた。


「…いや、とりあえずは新しいラーメンだな…」


幹太がぶつぶつと独り言を言いながら進んで行くと、アンナと由紀がひときわ多くの湯気の立ち登る屋台の前に立っていた。


「あっ!幹ちゃん!こっち、こっち!」


由紀が人混みの中から、目敏く幹太を見つけて手招きをする。

アンナは屋台に釘付けで全く幹太の方を見ていなかった。


「お、おお、どうした由紀?

なんか珍しい食べ物でもあったのか?」


「幹太さん!これ、ラーメンじゃありませんかっ!?」


「これは…」


興奮気味のアンナに袖を引かれながら、幹太が屋台を覗いてみると確かに店主の持つ器の中には麺が入っていた。


「あれは米粉麺かな…?」


店主は白く透き通った麺の上からスープをかけて、パパパっと手早く具を乗せた。


「牛肉とモヤシ…?

最後のは辛味のチリソースかな…?」


「幹太さん、麺の感じは違いますけど….これってラーメンの仲間ですか?」


アンナが店主から手渡された器を幹太に見せながら聞く。

彼女は新しいラーメンの参考にする為、すでに注文していたのだ。


「うーん…近いけどラーメンじゃないな。

ラーメンは小麦粉の麺なんだけど、たぶんこれはお米の粉で出来てると思う…。

そうだな…地球だと日本以外のアジアでよく食べられているやつじゃないかなぁ〜」


そもそもラーメンのルーツは中華料理と言われているが、現在の日本のラーメンは独自に発展を遂げた日本独特の麺類である。

スープだけを見れば、タイやベトナムでよく食べられている様な、鳥や他の出汁を使ったスープでもラーメンは作れるだろう。

しかし米粉の麺は、強力粉の麺と歯ごたえが全く違うため、それだけでラーメンとは掛け離れた食べ物になってしまう。


「ふぇ〜そうなんですか。

見た目が似ていたのでラーメンの一種かと…」


「だねぇ。地球人の私もこれはラーメンの仲間だと思ってたよ」


「普通はお米が主食の地域だと米粉麺が主体になるんだけど、その辺、やっぱり日本のラーメンって特殊かもな」


その後、幹太が先ほどの豚丼を買い、由紀はシャノンの分も合わせて野菜がたっぷり入ったお好み焼きの様なものを二つ買った。

三人は一度市場に戻って、ソフィアの為の果物を買った後、二人の待つテーブルに帰ってくる。


「あ、美味しい…」


アンナは米粉麺のスープを飲んで、ホゥっと息を吐いた。


「幹太さんも一口どうぞ」


「おっ、ありがとう♪いただくよ。」


幹太もそう言ってスープを一口飲んでみる。


「ん〜、やっぱフォーみたいだな」


フォーとはベトナムの麺料理である。


「スープの中身は違いそうだけど、この透き通った感じのスープと米粉麺はフォーに近い…という事は…」


幹太はそう言って考え込む。

アンナはその隙を見て幹太の豚丼を素早く奪い、思いっきり掻っ込んでいる。


「このブリッケンリッジでも屋台って開けるのかな…?」


全員が食事を終え一息ついたのを見計らい、幹太はそうアンナに聞いてみた。


「もちろん大丈夫ですよ♪是非やりましょう!」


アンナは最初からその気であった。


「お、良かった♪王都だけに簡単には出来ないと思ってたよ」


「…幹太さん、アナはこう見えても王女ですから、屋台の出店ぐらいは何とかできます」


「シャノン!?こう見えてってどういう事ですか!?」


「確かに…ガツガツ豚丼を食べる姿は王女らしくなかったかもね♪」


由紀の言う通り、アンナはあの後も何度か幹太に豚丼を貰って食べていた。


「ふふっ♪アンナさん、お米が付いていますよ♪」


ソフィアがクスッと笑って、アンナの口元からお米を取ってあげる。

本当にこの子は王女なのだろうかと、一瞬全員の心がシンクロした。


「ま、まぁ私が居なくても、ちゃんと手続きをすれば屋台は開けます…」


「良かった。それじゃ今日の内にできたら手続きしちゃおう」


「ですね。まずはやってみないと分かりません」


王女はさて置き、アンナはだいぶラーメン屋らしくなってきていた。


「幹ちゃん、お店を出すとしたらどんな所がいいの?」


「う〜ん…問題はそれなんだよなぁ〜」


今までの町とは違い、王都であるブリッケンリッジはかなり広い。

これまで幹太とアンナが姫屋を営業してきた町は、一つの限られた場所にしか屋台を出すことが出来なかったが、ここブリッケンリッジでは馬車でここまで来る間にも数カ所の屋台街があったのだ。


「人口もかなりなもんだろうから、ラーメンを食べに来る客層も分からないしなぁ〜」


「今までは街道を移動する人がメインでしたからねぇ〜」


「私の村のご当地ラーメンも観光客の方がメインでしたね〜♪」


一休みしてだいぶ体調が戻ったソフィアも話に加わった。

久しぶりの三人並んでの作戦会議である。


「でもまずはここがいいかな〜」


「ふふっ♪ちょっとサースフェーの漁港の雰囲気に似てますもんね♪」


幹太とアンナが立ち並ぶ屋台を見回しながら言う。


「あっ!幹ちゃん!私もサースフェーに行ったよ!ねっ、シャノン?」


「えぇ、行きましたね」


「小姫屋のリンネちゃん♪可愛かったなぁ〜♪」


「そっか…小姫屋って屋号にしたんだな」


「素敵ですね♪リンネちゃん、元気でしょうか?」


「うん。また会えるといいな」


「その内リンネさん達を王宮にご招待すると言う話をしてきました。

楽しみにしていると仰られてましたよ」


「ナイスです、シャノン♪ぜひそうしましょう!」


そもそも無断ではなく、実のところ第二王妃の娘の決定である。


「そっか、そりゃいいな♪

でも、まずは小姫屋に負けないように、本店の姫屋を何とかしなきゃ。

シャノンさん、営業の許可ってどのくらいで取れるんだ?」


「たぶん即日で取れますよ。

後で市場の人に聞いてみましょう」


「よろしく頼むよ、アンナ。

それじゃこの市場で一通りラーメンの仕入れをして帰ろうか?」


「はい♪」


そうして幹太達一行は市場で買い物を済ませ、王宮へと帰った。


「さて、今回はどうするかな…?」


市場から帰った後、幹太は久しぶりに姫屋のキッチンワゴンの厨房に立っていた。


「幹ちゃん、こっちに来てから新しくどんなラーメンを作ったの?」


今回は久しぶりに由紀が仕込みを手伝に来ている。

アンナはソフィアと共に王宮の厨房で麺を打っていた。


「まずはクレイグ公国のサースフェー島でパーコー麺を作ったろ…」


「それは私とシャノンも食べたよ♪小姫屋のラーメンでしょ♪」


「うん、あとは…」


幹太は指折り数えながら思い出していく。


「確か…フットの町で街道ラーメンをテーマにした焼き醤油チャーシュー麺を作ったな…。

そんでソフィアさんのジャクソンケイブ村で味噌タンメンと塩五目あんかけラーメンって感じかな…」


「わおっ!頑張ったね、幹ちゃん♪」


「言われてみたらそうかもな…。

とりあえずここまでの旅費もなかったし、アンナがこの世界にラーメンを広めたいって言ってたから、必死だったんだと思うよ」


「それで?今回はどうするの?」


「うーん、総合的に考えると一番作り易いのは日本でやってた醤油ラーメンと、焼き醤油チャーシューなんだよなぁ〜」


いくら普通の屋台より広いキッチンワゴンとは言え、ラーメンスープの寸胴鍋をいくらでも増やせる訳ではない。

ましてや、ジャクソンケイブのご当地ラーメンのスープに使う野菜は、市場では高額で売られていた。

塩五目あんかけラーメンを作るにはコストがかかり過ぎる。


「アンナにもチャーシュー麺用の麺を頼んじゃったし、とりあえずそれでいこう」


「了解、じゃあいつもの屋台のスープでいいのね?」


由紀はそう言いつつ、屋台の引き出しから由紀用のエプロンを取り出し、腕まくりをして豚骨の入った大きなカゴを手に取った。


「うん。でもちょっと濃いめのスープにするからゲンコツ多めでお願い」


ゲンコツとは豚の足の付け根側の骨であり、とんこつラーメンの風味は主にこの骨から出るものだ。


「へーい、了解です。そんでガラは?」


「ガラは足も一緒で!」


「へーい、足もね〜♪」


鳥の足は多くのゼラチン質を含むため、少しトロみの付いたスープになる。

由紀は鼻歌を歌いながら、豚骨とガラを洗いに王宮の厨房へと向かう。


「んじゃ、俺はチャーシューをやりますか」


幹太は先ほど市場で買った豚のロース肉をグルグルと紐で巻く。


「この肉、すごく腕の良い人が捌いたやつだ。

さすがは王都の市場ってところかな…?」


チャーシューの肉はその巻き易さで、捌いた職人の腕が分かる。

下手な人間が捌いた豚肉はヒラヒラと飛び出した部分が多く、それを押さえるために沢山の紐を使って巻かなければならなくなるのだ。


「やっぱ由紀がいると助かるな…。

アンナに麺を任せてから、他の仕込みは全部一人だったもんなぁ〜」


幹太の言うように、日本で長く幹太の手伝いをしていた由紀のおかげもあって、姫屋のラーメンの仕込みはいつもよりも早く進んだ。


「これでよし!ありがとう、由紀」


「いいえ、幹ちゃん♪どーいたしまして♪」


あっという間にスープは決まり、幹太は全てのガラや野菜の入った寸胴鍋に火を付けた。


二人はそのまましばらく沸騰するスープをボーっと眺めていたが、不意に由紀が幹太に話しかけた。


「ねぇ、幹ちゃん?アンナの事はどう思っているの?」


「な、なんだよ、急に…。」


幹太の額からスープの熱とは違う理由でドバっと汗が吹き出す。


「だって…告白…?ううん、プロポーズしたって…」


由紀はドでかい中華用のお玉でゆっくりスープを混ぜ始めた。

その表情は俯いている為、幹太にはよく見えない。


「う、うん、確かに指輪は貰ったけど…」


「どうするの…?」


「どうって言われても…」


「幹ちゃん…アンナと結婚するの…?」


お玉を持つ由紀の腕がプルプルと震え始める。


「…ずっと一緒に居るって言ったのに…」


すでにスープに影響が出かねないほどお玉は激しく振動していた。


『由紀に嘘はつけない…ここは正直に言おう』


幹太は覚悟を決めた。


「ア、アンナの事が大切なのは確かなんだけど…正直、それが恋なのかまだ分からないんだ。

その…同じ様な気持ちは、昔からゆーちゃ、由紀に対してもあるんだよ….」


話しだけ聞くと割とクソ野朗的な発言だが、幹太はこの年になるまで自分の恋心としっかり向き合った事が無かった。

そこへ初めて、アンナから気持ちをぶつけられて戸惑っているのだ。


「そう…」


そう言って頭を上げた由紀の顔は、幼馴染の幹太が今まで見た事がないほど真っ赤に染まっていた。

その距離は、お互いの瞳に映った自分の表情が分かるほど近い。

そして由紀は、そのまま幹太の胸ぐらを掴んで思いっきり叫ぶ。


「わ、私も!私も幹ちゃんと結婚したい!

だって私の方が先に!ずっとずーっと前から幹ちゃんの事が大好きだったんだから!」


柳川由紀、一世一代、渾身の告白であった。



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