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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第三章 シェルブルック王国編
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第四十五話 プリンセスの帰還

王都の隣町を早朝に出発した幹太、アンナ、ソフィアの三人は交代しながら馬車を走らせ、昼過ぎにはブリッケンリッジの王宮がみえる場所までやってきていた。


「帰ってきましたよー♪」


アンナが御者台の上で立ち上がり、満面の笑みで叫ぶ。


「おぉー!やっと着いたか!ここまで長かった〜」


そう言う幹太もホッとした表情をしている。


「とっても立派な王宮なんですねぇ〜」


王都が初めてのソフィアも、荷台から体を乗りだして徐々に近づいてくる王宮を眺めていた。


「さすがにこの辺りまでくると馬車の数が多いな」


まだ王都の外とは言え、民家も多く馬車や人の交通量も、今までの町とは比べ物にならないほど多い。


「本当に…私の村の何倍になるのでしょうか〜?」


「そうですね、人口は二十万人ほどだったと思います。

でもお仕事で王都を訪れる人も多いですから、もっとたくさんの人が居ると思いますよ〜♪」


王都に帰ってきたのがよほど嬉しいのか、アンナがドヤ顔で説明する。


「アンナ、王都に入るには検問所なんかを通るのか?」


「いえ、これといってなにもないです。

一応、警護の詰め所はありますが、よほどの事がない限りいちいち調べたりはしません」


「そっか、でもまぁ悪い事をしてる訳じゃないから止められても大丈夫だな」


「そうですよ!ましてやこの馬車には王女の私が乗っているのです!

さすがに王都ならば皆さん私の顔を知っているはずです!」


後から思えば、この時のアンナのセリフは前振りとしか思えないものだった。


「ま、まさか私が王都でも検問に遭うなんて…」


「あ、アンナさん、仕方ないですよ…王宮の馬車を改造して使ってましたから〜」


落ち込むアンナを気の毒そうにソフィアがフォローする。

あの後、三人は物の見事に詰め所の衛兵に止められた。

姫屋の馬車はシャノンと由紀がアンナの捜査に使っていた王宮の馬車であり、車体にバーンサイド家の紋章が入っている。

妙に汚れた王宮の馬車を不審に思った衛兵達が、幹太達の馬車を引き留めたのだ。


「そうだよ、アンナ…こ、今回はなんとか王女様だって分かってもらえたじゃないか…」


幹太も今だにズーンと落ち込むアンナを必死で励ます。

衛兵達はアンナ・バーンサイドですと名乗る銀髪の女性をしばらく怪訝そうに見た後、しばらく経ってやっと自国の王女だと気付いた。


「あの怪しい者を見る表情…しばらく忘れられません」


「だ、大丈夫だよ!すぐに忘れられるさ!

あ〜、いや〜でも本当にすごいな、さすが王都だ」


「え、えぇ、町の建物の一つ一つがとっても綺麗です〜」


二人が言うように、王都ブリッケンリッジは今までの町とは違い、キッチリと整備された美しい町であった。


「このブリッケンリッジは最初から王都として計画された町ですからね。

全ての建物がその計画の元に建てられています」


いくぶん調子を取り戻したアンナは再び説明を始めた。

アンナの説明の通り、ブリッケンリッジは王都とする為に計画的に作られた町である。

王宮を中心に大通りが円状に重なり、その大通りをいくつもの小道で繋いでいる。

その隙間に建つ建物は全て同じ乳白色の石材を使用して建てられており、町の景観を荘厳な雰囲気にしていた。


「市場もちゃんとありますから、後で行ってみましょう」


「王都だけあってなんでもありそうだな」


「そうですね〜間違いなくこの国で最大の規模ですよ。

ちょうど日本で幹太さんに連れて行ってもらったツキジに似ています♪」


幹太はアンナが日本にいる時に、今となっては見ることが出来ない築地市場に見学に行っていた。


「おぉ!それは行くのが楽しみだ♪」


「はい。私もお二人と一緒に行くのか楽しみです。

きっと今までとは違う見方ができそうですから」


そんな話をしながら、三人の馬車は真っ直ぐ王宮へと続く、王都で一番広い大通りを進んで行く。


「…いよいよだな」


「えぇ。私、自分の家なのになんだか緊張しています」


「ア、アンナ様…本当に私も入って良いのでしょうか〜?」


そのまましばらく走って王宮までたどり着き、幹太は覚悟を決めて正門の検問所の前で馬車を停めた。

すぐに数人の衛兵が詰め所から出てきて馬車の元までやって来る。

彼らは馬車の前で整列し、ビシッと揃って敬礼をした。


「お帰りなさいませ、アンナ様!

町の詰め所より連絡を頂いております!どうぞ中にお入り下さい!」


「ありがとう。ご苦労様です」


アンナが幹太とソフィアが見た事もない表情で衛兵達を労う。


「では幹太さん、よろしくお願いします」


「あ、あぁ…」


幹太はいつもとは違うアンナの様子に驚きつつ、手綱を打って馬車を王宮内へと進ませた。


「あ、アンナ…?」


「はい。なんですか、幹太さん?」.


そう言うアンナはいつもの表情に戻っていた。


「びっくりしたよ…本当にお姫様なんだな」


「えぇ、まぁ姫です。私、ずっとそう言ってましたよ…?」


幹太もそれは十分わかっているつもりだったのだか、天真爛漫にコロコロと表情が変わる普段のアンナを見ているとすぐに忘れてしまうのだ。


「あの…アンナ様?私、村人なんですが〜?」


さすがのソフィアも、この王宮と先ほどのアンナの雰囲気に呑まれ気味である。


「村人…?その…確かにソフィアさんはジャクソンケイブ村の生まれですね…?」


当のアンナには、二人が何を言っているのか本当に理解できていないようだ。


「あっ!幹太さんそこで馬車を停めて下さい」


「お、おう」


幹太が言われた通りに王宮の正面に馬車を停めると、王宮の中からシャノンとムーア導師が出て来た。


「アナ!」


「アンナ様!」


「シャノン!ムーア導師!」


アンナは御者台から飛び降り、二人の方へと駆け出す。

そしてそれを見たシャノンもアンナの方へと駆け出した。


「お帰りなさい、アナ…。

もう、とっても心配しましたよ…」


「ただいま、シャノン。ごめんなさい」


二人は涙ぐみながらお互いにしっかり抱き合う。


「お帰りなさいませ、アンナ様。

よくぞ無事で…」


隣で二人を見つめるムーア導師も、目に涙を浮かべていた。

最近、おじいちゃんの涙腺は緩み気味なのだ。


「ムーアにも心配をかけました。

本当にごめんなさい」


「なに、昔からアンナ様には心配をかけられっぱなしですからな。

もうすっかり慣れてしまいました。

さて姫様、あちらの馬車に乗るお二人はどなたですかな…?」


「あっ!お二人共申し訳ありません」


アンナはそう言って一旦シャノンから離れた。


「あちらの男性は芹沢幹太さん、そしてもう一人の方はソフィア・ダウニングさんです。

お二人共、ここに来るまでとてもお世話になった方なんです」


それまで感動の再会に心を奪われていた幹太とソフィアは、急いで馬車を降りてムーア導師の前にやって来る。


「は、初めまして!芹沢幹太です!」


「お、お初にお目にかかります!ソフィア・ダウニングです!」


二人は緊張気味にムーア導師に挨拶をした。


「それはそれは、姫様がお世話になりました。

私はムーア、姫様の元教育係ですじゃ。

お二人共お疲れでしょうが、できれば先に国王様にお会いになっていただけますかのう」


ムーアは優しい笑顔でそう言ったがそれを聞いた二人は失神寸前であった。


「こ、国王様…」


「そ、そうですよね…アンナさんのお父様は…」


「大丈夫ですよ!とりあえずさっさとお父様にご報告だけして今日はゆっくり休みましょう!

さあ、中に入りますよ!」


そう言ってアンナは放心状態の幹太とソフィアと手を繋ぎ、ズルズルと引きずるように王宮へと入って行く。


「うわぁ…こりゃ…」


「すごい広さです〜」


幹太とソフィアは口を開けて天井を見上げた。

メインの玄関は巨大な吹き抜けになっていて、中央には壁沿いで左右に別れる大きな階段があった。

アンナは二人と手を繋いだままスタスタとその階段を上がっていく。


とそこで、


「お久しぶりです、幹太さん。

ご無事でなによりでした」


三人の後ろ付いて来ていたシャノンが、幹太に声をかけてくる。


「あ、あぁシャノンさん、お久しぶりです…って、そうだ!シャノンさんっ!由紀はどこにいるんですか!?」


幹太は今更ながら、シャノンと一緒にこちらの世界に飛ばされて来たはずの幼馴染の事を思い出した。


「大丈夫です。由紀さんなら無事にこの王宮にいらっしゃいます。

今日は…確か乗馬の訓練で裏の訓練場にいるはずですよ。

先ほど私の部下に呼びに行かせたので、そろそろこちらに戻って来る頃でしょう」


「乗馬の訓練?由紀がですか?」


「えぇ。由紀さんには教官として女性の衛兵隊の訓練を見てもらっています」


「えぇっ!?習う方でなく教官なんですか!?」


幼馴染の幹太でさえ、日本で由紀が乗馬をしていたなどとは聞いた事がない。

つまり彼女はこちらの世界に来てから乗馬を覚えたはずなのだ。


「私と二人旅をしている間に驚くほど馬の扱いが上手くなりまして…。

あと…その…由紀さん、女性の衛士達にすごく人気があるんです」


「あ〜なるほど。こっちでもそうなんだ…」


女子の間で由紀が人気なのは日本でも同じだった。

実は異性の人気もあったのだが、ほとんどの男子は幹太と由紀が付き合っていると思っていたので、積極的に近づく者が居なかったのだ。


「まぁ由紀も無事で良かった…おっと…」


由紀の無事を聞いて気が抜けたのか、幹太がヨロッと階段を踏み外した。


「あっ!大丈夫ですか?幹太さん?」


アンナが咄嗟に繋いでいた手を強く握って幹太を支える。


「あ、ありがとうアンナ。

ん〜やっぱりちょっと緊張してるのかな?」


「わ、私も緊張で足がフワフワしています〜」


「あのソフィアさん、それは階段の絨毯かと…。

お二人共すいません、お父様への報告はなるべく手短に済ませますから、もう少しだけ頑張って下さい」


「うん。元々アンナは国王様が体調を崩したから帰って来たんだもんな。

報告もだけど、まずは一目会って元気かどうか確認しないと」


「ええっ!そうだったんですか、アンナさん!?

もしかして…ジャクソンケイブで引き留めたのはご迷惑だったんじゃ〜」


「大丈夫ですよ、ソフィアさん。お父様は無事に決まってます。

だいたい王宮の人間はみんな大袈裟なんです。

でもまぁお二人の事もきちんとお父様に紹介しないとですから。

では行きますよ!」


アンナはそう言って国王の間の前で立ち止まり、扉の両側に立つ衛兵に目配せをして扉を開けさせた。


「お父様!アンナです!ただいま帰りました!」


先頭のアンナに手を引かれ、幹太とソフィアも国王の間に入る。


『す、すごい本当に王冠をかぶってる!』


『こ、国王様、アンナさんとそっくりです!』


あまりの緊張からか、幹太とソフィアの国王に対する第一印象はかなりトンチンカンなものだった。


「あぁ、お帰りアンナ…本当に無事で良かった…」


トラヴィス国王は父親らしい優しい表情でアンナを迎えた。

ずっと無事だと思ってはいたのだが、やはり実際に会って確認するまで安心はできなかったようだ。


「お父様もお元気そうで良かったです…」


そしてそれは娘のアンナも同様だった。

なんだかんだ言っても、本心では父親の事をとても心配していたのだ。


「それで、そちらの男性が芹沢幹太君で良いのかな?」


「はい、そうですお父様。

シャノン共々、あちらの世界でお世話になった方です」


「せ、芹沢幹太です」


幹太はガチガチになりながらも、なんとかトラヴィス国王に名を名乗る。


「では、そちらの女性は?」


「この方はソフィア・ダウニングさんです。

私がここまで帰って来る途中にジャクソンケイブ村でお世話になり、友人になった方です」


「お、お初にお目にかかります、国王様。

ソフィア・ダウニングと申します…」


ソフィアに至っては緊張で膝が震えていた。


「そうか…アンナをここまで連れて来てくれてありがとう。

この子の事だ、きっと多大な迷惑を君達にかけただろう。

お礼になるかはわからんが、好きなだけこの城でゆっくりしていってくれ」


「「は、はい!こちらこそお世話になります!」」


幹太とソフィアは揃ってそう返事をして頭を下げる。


「ではアンナ、とりあえず今日はここまでよい。

後日、改めて話を聞くからな」


「はい、お父様」


「シャノン、お前はお二人を客間に案内して差し上げなさい」


「はい。では幹太さん、ソフィアさん、お部屋へご案内致します」


「ありがとう、シャノンさん」


「はい。よろしくお願いします」


そして幹太とソフィアはトラヴィス国王へと振り返り、再びお辞儀をしてからシャノンに付いて部屋を出た。


「あっ!私も一緒に行きます。

ではお父様、失礼致します」


三人が出た後を追いかけるように、アンナも部屋を出て行く。

幹太とソフィアはしばらく黙ったまま、無表情で前を歩くシャノンに付いて来ていたが、廊下の最初の角を曲がった所で緊張の糸が切れた。


「は、はぁー!緊張した!

さすがは国王様、アンナとは格が違う!」


幹太は無意識にアンナをディスる。


「わ、私も生きた心地がしませんでした〜!」


二人はその場でヘタリ込み、しばらく立ち上がる事が出来なかった。



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