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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第一章 ラーメン屋台は異世界へ
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第四話 再会

 それから三カ月。

 幹太は、アンナといる生活にもずいぶん慣れてきた。

 今日は上野の博物館に行った後、屋台の手伝いをしてもらうことになっていた。

 最初はたどたどしかったアンナも、最近は仕事をキッチリと覚え、手際良くこなしている。


「文明の成り立ちは私達の世界とあまり変わらないのに、どうしてこんなに差ができてしまったのでしょうか?

 星を飛び出すほどの技術なんて、私には想像がつきません」


 アンナは屋台のカウンターを拭きながら言った。

 主にテーブル拭きなどの外周りの仕事が、アンナの役割だ。


「そーだなぁ〜それこそアンナの世界も見てみないとわからないよ。

 ただこちらの世界でも、星の外…宇宙に行くのは最先端の技術だから、まだまだ失敗することもあるんだ」


「それでも魔法や蒸気を動力にしている私達にとっては、夢のような話です」


「魔法かぁ〜。それって本当にこっちじゃ使えないのか?

 正直言うと、アンナの魔法を見てみたいんだよなぁ」


「自慢じゃありませんが、私の魔法はかなりなものですよ♪

 師匠のムーア導師が言うには、溜められる魔法量だけなら、もう師匠を超えてるみたいです」


 自慢じゃないといいつつ、アンナはめちゃくちゃドヤ顏だった。


「魔法量?それってなんだ?」


「んー、使える魔法術の規模が大きいと言うことですかね〜。

 あとは…継続して使える時間も長いってことになりますね。

 普通は魔石といって、魔法の力が貯まっている石で補助が必要になる大規模な魔法術も、私の体内に溜められた魔法量だけで、なんとかなったりするみたいです」


「じゃあ、もし向こうでこの屋台で使ってる電灯やコンロを使うとしたら、アンナの魔法だけで大丈夫なのか?

 なんだか発電機みたいだな」


「幹太さん、乙女をそんな物に例えるのはどうかと…。

それだと… やはり継続して使うには魔石の補助が要りますね。

 明かりや調理器具の火は魔石を使った魔道具を使うのが一般的ですが、魔法術の力の形は使用者のイメージによって形が変わります。

 たぶん電灯を光らせるぐらいの電気なら、私の魔法で作り出せます。」


「えぇっ!すっごいこと言ってるぞ!それ!

 いや〜それこそ本当に俺には想像がつかない世界だわ。

 待てよ…だったらもし向こうの世界で、ラーメン屋をやろうと思ったらできるのか…?

 向こうって、こっちと比べて食材とかはどうなんだ?」


 と、幹太は軽い気持ちでアンナ聞いた。


「それですっ!できますよ!ラーメン屋さん!

 私、ずっとそのことについて考えていました!

 食材も調理器具も、私達の世界にある物で大丈夫そうなんです!」


アンナはカウンター越しに、かなりの勢いで幹太に迫って言った。


「お、おい!そんなにのり出すと危ないぞ!分かったから!顏が近い、近いってっ!」


 気がつけば間近にいた幹太にそう言われ、アンナは赤面しつつ姿勢を戻した。


「すいません。アンナ、ちょっと取り乱しました。

 でも、私達の世界でもラーメン屋さんはできます。それは確かなんです」


「そっか、そんじゃ是非やってみたいなぁ〜。

まだラーメンの無い世界で、一から広めていくなんて憧れるよ」


「本当にそうなればいいんですけど…」

 

異世界に憧れを抱く幹太を見ながらそう呟いたアンナは、なぜか少し悲しげな表情をしていた。


「いらっしゃい!」


「いらっしゃいませ〜♪」


 アンナは、幹太の屋台にお客さんがたくさん来る時間がとても好きだった。

 幹太の屋台は、自分の世界の料理店とは活気が違うのだ。

 店にやって来るお客全員とはいかないが、幹太の威勢のいい、いらっしゃいの掛け声につられ、お客はみな笑顔で注文をする。

 それが彼の人柄の良さからくるものなのか分からないが、元気のない人でさえも、この屋台でラーメンを食べ、幹太と話しをすると、少しだが活力を取り戻して帰っていく。


「おっ!アンナちゃん、今日もお手伝い?」


「はい♪まいどありがとうございます♪」


 アンナも何度か手伝いをするうちに話しかけられる機会が増えてきた。


「あら幹太ちゃん、結婚したの?

銀髪の外国人のお嫁さんなんて素敵ねぇ〜。

あなた、お名前はなんていうの?」


「あ、あの、アンナです…」


「アンナちゃん♪いやだわ〜名前も素敵っ♪」


というように、常連のそば屋の女将さんに幹太の嫁と間違えられ困ったりもしたが、あまり嫌な態度のお客は少なく、むしろ幹太の店を守りたいといったような意識の人が多かった。


『幹太さんの屋台は素晴らしいです。

 この活気のある雰囲気…、このお店を私達の世界でも出来れば…』


 アンナは自分の世界にある形容し難い停滞を打ち砕くヒントが、この屋台にあると感じていた。


「よし。アンナ、この隙に洗い物をしちゃおう」


「はい」


そう返事をして、アンナは空っぽになった器を下げていく。

そして幹太は、アンナの下げた食器を二層式シンクの片側で一度水に浸け、一つ一つ丁寧に洗い始める。


「今日はお客さんが沢山来てくれましたね。

 私がお手伝いを始めてから一番忙しかった気がします」


食器を全て下げ終えたアンナも一緒に洗い物を始めた。


「そうだな、日に日に忙しくなってきてる気がするよ。

 正直、アンナがいなかったら店が回らないぐらいだ」


 実のところ、幹太は店が急に忙しくなった理由に心当たりがあった。

 その理由とはアンナのことだ。

 いつもは屋台の前を通りすぎていた人たちが、今まで見たこともない銀髪の外国人美少女が働いていることを知り、幹太の屋台に立ち寄るようになったからである。


『まぁ気持ちは分かるな…。

俺もずっと一緒にいるけど、まだこの綺麗さには慣れないぐらいだ』

 

また、長い銀髪をクルッと頭の後ろでお団子にまとめ、幹太と同じ屋号の入った黒いシャツを着て、笑顔で働くアンナの姿は、異性だけでなく同性すらも魅了されるらしく、女性のお客さんも以前より明らかに増えた。


『お姫様のカリスマって奴か?

アンナの笑顔って、何か引きつけられるものがあるよな…』


 幹太は隣に並んで、テキパキと洗い物こなすアンナを眺めながらそう思った。


「幹太さん、お水がもうなくなりそうです」


「あ〜やっぱりか。

 今日のお客さんの数だと、さすがに足りなくなると思ったんだよ。

 ん〜仕方ない。また汲みにいくかな」


 幹太はそう言ってポリタンクを手に取る。


「じゃあ、俺ちょっと水汲んでくるから。アンナ、店番頼むよ」


「ハイ!任せて下さい!いってらっしゃーい」


幹太はそう見送るアンナに後ろ手に手を振って、いつもの水道に向かった。

しばらく歩いたところで気付くと、幹太はアンナの時と同じように、再び霧のようなものに包まれていた。


「おい…またか?

 これ、なんだか見覚えがある状況なんだが…?」


さすがに二回目という事もあって、幹太は以前より迷わずに池までたどり着いた。


「いや、まさかな…。そこまで一緒じゃないだろ」

 

と言いつつも嫌な予感がして、池の中央にある橋に視線をゆっくり移した。


「はーい!来ましたー!おいでなすったよー!」


 橋の中央に人影を見つけて、幹太は思わず叫んだ。


「こ、今度はどんな人なんだ…?」

 

幹太は微妙に警戒しながら、ゆっくりとその人影に向かって足を進めた。


「あっ…」


 アンナと同じように幸せそうな顔で寝ていたのは、軍服のようなデザインのタイトスカートのスーツを着た美しい女性だった。


「こりゃまたすごい美人だわ。完全にアンナの関係者だな…」


 その女性はアンナとは違い、肩ぐらいまでの短い黒髪に、一目みればそうと分かるナイスバディである。


「またあれをしなきゃなんないのか…?」


 途方に暮れる幹太の脳裏に浮かぶのはアンナを運んだ時のことだ。

 しかも今度の女性はタイトスカートなのだ。

 さらに太ももや胸のボリュームがアンナとかなりの差がある。

スタイルの良い由紀と比べても、彼女の方に軍配が上がるだろう。


「ま、まずは股に腕を…し、失礼します」


 幹太はまたも緊張しつつ、細心の注意を払って彼女を担ぎ上げた。


「よし、行くぞ!」


 しっかりと安定を確認した幹太は彼女を担いで一目散に走り出す。

 さすがに二回目とあって、前回よりもスピードに乗って彼女を運んでいく。


「ああっ!マズいっ!」

 

しかし、走り始めですぐ問題が起こった。

 タイトスカートがだんだんとズリ上がり、彼女の下着の股の辺りに幹太の腕が触れたのだ。


『な、なんかスベスべした物に腕が…これはかなり高級なパ…いかんっ!急がないと!今度こそ逮捕される!』


 とそこで、


「…あなたは何をしているのですか…?」


 と、幹太の背中からゾクッとするほど平坦な声がかけられる。

 幹太は彼女を担いだまま、文字通り青くなって弁解をした。


「ち、違います!あなたが倒れていたので!落ち着けるところまで運ぼうと思ったんです!」


 「倒れていた女性を落ち着けるところまで運んで何をしようと?

 今、あなたの腕が私のどこに触れているのか分かってますか?」


「す、すいません!しかし俺が運んだ先に、たぶんあなたと同じ世界から来た人がいるんです!」


 幹太は精一杯の言い訳をした。


「いいでしょう。では私をそこまで連れていって下さい。

 でも腕はこれ以上、この位置から動かさないように」


「はい!」


 アンナの時と同じく、気づいた時点で下に降ろせばいいのだが、幹太はまたしてもその事に気付かない。

 運ばれている女性の方も、なぜ彼にそのまま身を委ねているのか謎である。


 一方その頃、アンナはカウンターの小さなイスに座り、足をユラユラさせながら幹太の帰りを待っていた。


「遅いですね〜幹太さん。

 ひょっとしてまた誰か担いで帰ってきたりして♪」


 アンナはそれがまさか現実になるとも思わず、無邪気にそんな想像をしていた。

とその時、幹太が向こうから走って来るのが見えた。


「あっ、帰ってきました♪

 おーい幹太さーん!遅かったですねえぇーー!!」


 アンナは思いきり叫んだ。

 向こうからやって来る幹太は、明らかに誰かをファイヤーマンズキャリーっている。


「幹太さんっ!また!?またなの!?またその運び方なのですかっ!?

 パンツが!後ろの人のパンツがモロ見えですっ!

 なぜですか!?なぜ頑なにその体勢で!?

すぐに下ろしてっ!もしくは急いで早くこっちに!」


すぐに幹太は屋台にたどり着き、担いでいた女性を屋台のベンチに下ろした。


「…幹太さん、わたし言いましたよね…?そのような担ぎ方で女性を運んではいけないと。

 ねぇ…まだ足りない…?もっと増やすの?

 由紀さんだけにとどまらず、お客さんの中にも幹太さん狙いの人がたくさんいるのに…。

わたしだって最近…」


 後半はブツブツと聞き取れなかったが、アンナが怒っている事だけは幹太に伝わった。

 最近のアンナは、怒った時のリアクションが由紀に似てきている。


「す、すまん、アンナ!

 で、でも、この人たぶんアンナの世界から来た人じゃないかな?

 同じ場所に倒れてたし、めちゃくちゃ綺麗とこも、アンナと一緒なんだよ」


「き、綺麗って、や、やだ幹太さん♪

 そういうことは二人の時に…あっ!えっ!?」


 と、アンナがクネクネしながら言ったところで、幹太が運んできた女性がガバッとアンナに抱きついた。


「アナ!良かった、無事で!

 もうっ!心配しました!どこか怪我などありませんか!?

 何か不埒なことはされてませんか!?

 風邪ひいてない!?ごはん食べてるっ!?」


 と、お母さんのように矢継ぎ早に聞く彼女は、先ほどまでとは別人のように冷静ではなかった。


「シャノン!シャノンじゃないですか!」


 アンナはそんな彼女と両手を合わせ、ピョンピョンと跳ねる。


「シャノン、あなたどうやってこの世界に来たのですか?確か…異世界間転移魔法はまだ…」


「覚えました!必死で!

 あと足りない魔法量は、ムーア導師のものを限界まで絞りました!」


「それではムーア導師は死…」


「大丈夫です、死にはしません。魔法石もありましたから」


 そんな話をするアンナとシャノンの隣で、幹太は呆気に取られていた。


『この人、よっぽどアンナのことが心配だったんなぁ〜。さっきまでの冷静さがが嘘みたいだ』


幹太がボケっとそんな事を考えていると、アンナが彼の方に振り返った。


「すいません、幹太さん。

 彼女はシャノン・ランケット。

 シェルブルックで私の護衛をしてくれている者です。」


アンナはそこで、再びシャノンの方に向き直る。

 

「シャノン、この方は芹沢幹太さん。

 私がこの世界でお世話になっている人です。

 その…女性の運び方はさておき、とても親切で優しい人なんですよ」


「それは…さきほどは申し訳ありません。

 アナが大変お世話になりました。

 私のことも助けていただいてありがとうございます。

 こんな私の身体でよければ、好きなだけ触って下さい」


「シャノン!?何を言っているのですか!?女の子がそんなこと言ってはいけません!」


「そ、そうだぞ!シャノンさん!そんなこと簡単に言っちゃダメだっ!」


 幹太は真っ赤な顔でそう言ったが、チラチラと微妙に視線が胸元に向いている。


「いえ。軍属の私の身体は、訓練や実戦で傷だらけです。男性が好むとはとても思えません」


 「そ、それはシャノンさんが努力してきた証しじゃないか!

た、たぶんあなたみたいに見た目も中身も綺麗な人は、どこの世界にだってそうは居ないよっ!」


幹太がそう叫ぶのを、アンナは間近で見ていた。


「シャノンの周りの男性は彼女を怖れる人が多いのに…。

出会ってすぐに、彼女の魅力に気がついてしまうなんて…。

まったく、幹太さんはしょうがない人ですね♪』


 努力家の彼女が素敵なのは、生まれた時から一緒にいる自分もよく知っていることではあったが、まさか幹太が一発でそこにたどり着くとは、アンナも思っていなかった。


 そして一方、幹太のストレートな言葉を受けたシャノンは、見た目にはまったく動揺していない風に見えたが、心の中ではかなり混乱していた。


『なんですか!?この芹沢幹太という男性は!?

  軽薄なんでしょうか…?いや、さすがにそうは見えません。

 あれはきっとアナの手前言ったお世辞です。

 じゃなきゃおかしい!おかしいです』


そんなシャノンの混乱は、次のお客がやって来るまでしばらく続いた。






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