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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第二章 プラネタリア大陸編
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第三十九話 新店舗

結局、ストラットンに向かった幹太と青年会一行は、翌日の早朝にジャクソンケイブに帰ってきた。


「や、ヤバかった!夜の山道で馬車を走らせるのがあんなにおっかないなんて!」


幹太はソフィアの家の扉を開けて、倒れ込むように玄関に入ってきた。


「そりゃみんな畑仕事があるからな、休む訳にはいかないんだよ」


一方、パットはケロッとしている。


「とりあえず俺は畑の様子を見に行ってくる」


パットはそう言って農作業の準備をし、一歩も家に入らずに畑に行ってしまう。


「すごいタフだな…、パットさん…」


「ふぁ〜そうですね…、皆さん早朝からの農作業は慣れてますから〜」


幹太達が家に帰ってきた物音で目を覚ましたソフィアはまだ眠そうだ。

玄関まで焦って迎えに降りて来たため寝巻きの薄いワンピースが乱れ、色々と危うい感じになっている。


「アンナは寝てるのかな?」


「はい、アンナさん、昨日はずいぶん頑張っていましたから〜」


幹太達が帰ってきた時の物音はかなり大きなものだったのだが、アンナはピクリとも反応していなかった。


「そっか、ソフィアさんも昨日はお疲れ様。

起こしちゃってごめん。まだ早いからもうちょっと寝たら?」


「そうですね〜、そうしましょうか。

では幹太さんもゆっくり休んで下さいね〜」


ソフィアはそう言ってフラフラと階段を上がって行く。

幹太は心配そうにソフィアを見守っていたのだが、彼女のスカートが思い切り捲れているのを見て慌てて視線を逸らした。


その日の夕方、目を覚ました幹太がアンナとソフィアと共に向かったのは試食会を行った集会所の庭である。


「お店の方はもう大丈夫そうですね」


幹太の正面には元々、村の食堂として使われていた建物があった。


「しばらく使ってなかったらしいんだが、それほど痛んでなくで良かったよ。設備も一通りちゃんと使えたしな」


と村に住む大工の男が幹太に言った。

元食堂の建物は昨日まで使われていなかったとは思えないほどキレイに掃除されており、いつでも営業を再開できそうだった。


「あとは街道沿いに屋台を出せれば完璧なんだけど…、それは欲張り過ぎかなぁ〜」


満足そうに食堂の建物を見ていた幹太がそうボソッと言ったのを、隣りに立っていたアンナは聞いていた。


「大丈夫です、幹太さん。私がなけなしの権力を使ってなんとか…」


「うーん、でも後々の事を考えるとあんまりアンナの権力には頼らない方が良さそうだしなぁ〜」


「ダメですかねぇ〜」


「あ、それならば村長さんに聞いてみたらどうでしょうか?

村長さ〜ん!」


と二人の向かいに座って話しを聞いていたソフィアが、集会所の前で村人といた村長を呼んだ。


「なんじゃー? ソフィア」


「お二人が街道沿いに店舗を作れないものかと聞いています。

どうでしょうか〜?」


「ん〜、そりゃ別にかまわんが。どこに出したいんじゃ?」


「えと…馬車が停められる場所がいいんですが…どうして村長さんに?」


幹太はなぜジャクソンケイブの村長が、村の外の街道沿いに店を出すことの許可を出せるのか分からなかった。


「あの街道沿いからこの村までの土地のほとんどがワシの物だからじゃよ。

昔、この辺りの開拓はウチの一族がやっていたからのう」


「えっ、では王国に協力して、この街道を作ったのは村長さんの先祖の方だったんですか?」


「そうですぞ、アンナ様。

ウチの一族は昔、あなたのご先祖様と協力してこの険しい山に街道と村を作ったのです」


「そうなんですか、お祖父様にその頃のお話を聞いた事はあるのですが…、詳しくは知りませんでした」


「そういう訳じゃから、街道沿いにも屋台は出せるぞい」


「ではストラットン側からこの村に来る別れ道の手前あった場所…、ん〜と、あの水場のある草原は大丈夫ですか?」


幹太が言ったのは、以前このジャクソンケイブに来る時に野営を行った場所である。


「あそこは村で井戸を掘って整備した場所じゃからな。もちろん大丈夫じゃ」


「そうですか、ではとりあえず明日はウチの屋台を出して営業してみます」


そうしてあっさりと話は決まり、ご当地ラーメンはジャクソンケイブ村店と街道店の二店舗で販売する事になった。


翌日からさっそく幹太は街道沿いで姫屋の屋台の営業を始めた。

一日中街道を走る荷馬車の人達に合わせて朝イチからの開店である。


「朝からけっこうお客さんが来るんですね♪」


アンナはニコニコしながら食器を洗っていた。


「確かにそうだな。俺も朝から開店するってのは初めてなんだけど…、ソフィアさんの言う通りにして良かったよ」


「朝の方がこの街道を通る馬車は多いんですよ。

朝から走れば一日でこの山を越えられますから〜」


ソフィアは外でお客の帰った後のテーブルを拭いていた。

今回の姫屋のメニューは、幹太が日本の街道沿いのラーメンを参考に作った醤油チャーシュー麺とジャクソンケイブの塩五目あんかけラーメンの二つだ。


「まさか朝から塩五目あんかけラーメンが、あんなに出ると思わなかったよ」


今日、昼前までに出たラーメンの八割ほどがジャクソンケイブの塩五目あんかけラーメンであった。


「ベイカーでの宣伝が効いているのでしょうか?

私、もうちょっと麺を多く作ってくるべきでしたかね?」


「パットさん達がストラットンで宣伝した時はほどほどの客足だったんだよ。

まぁ確かにアンナやソフィアさんが店員をやってたら、俺も絶対にまた寄るだろうからなぁ」


幹太、久しぶりの天然炸裂である。


「そ、そうでしゅか!絶対…またですか!」


なぜかアンナは空の麺のダボをブンブン振っている。


「わ、私もでしゅか!?アンナさんは分かりますがっ!」


ソフィアもなぜかテーブルの上でふきんを思い切り絞っていた。


「とりあえず今日は様子見って事で、売り切ったら閉店しよう。

明日、それを参考にして麺の数を決めればいいんじゃないかな」


「え、えぇ、それがいいですね」


「そ、そう言えば明日はお父さん達がこの場所に屋台を作ってくれるようなので姫屋の馬車は村に置いて行けるようですよ〜」


「そっか、もう本格的にお店をやってくれる気なんだ…」


そう言う幹太の表情はとても嬉しそうだ。


「えぇ…本当に他所から来た私達の意見をキチンと聞いて、そして考えてくれているんですね」


アンナも村の人々が村おこしを前向きに考えてくれている事がとても嬉しかった。


「こちらこそですよ、お二人共。

婦人会の方々もいつ自分がラーメン屋さんの当番になるのか楽しみにしていらっしゃるんです。

今までお家に篭ってばかりであまり交流もありませんでしたけど、やっと婦人会として活動が出来るようになりました〜」


「そう言えば今朝もティナさん居なかったな?」


「えぇ、母は今日も婦人会の人達とご当地ラーメンの宣伝をしにベイカーに行きましたよ〜」


「そ、それはまたストロングスタイルです….。幹太さん、とりあえず宣伝の心配はいらなそうですね」


「あ、ああ、そうだな。」


それから毎日、幹太、アンナ、ソフィアの三人は街道沿いの屋台と言うより、路面店と言ったようなお店でジャクソンケイブの塩五目あんかけラーメンを売っていた。

荷馬車も停めやすく、水場もあるこの草原はラーメン屋をやるにはまさにうってつけの場所だった。

さらにティナ達婦人会のベイカーでの宣伝のお陰もあり、日に日にお客は増え、今では客足が途絶えない人気の店になっている。


そんなある日、街道での営業を終えた三人はソフィアの家で話し合っていた。


「後はジャクソンケイブ村の店にお客が呼べればいいんだけどなぁ〜」


「そうですねぇ〜、村のお店はまだお客は少ないようです」


「そっか〜なにかいい案はないかなぁ〜」


三人はなぜかテーブルに座らず、リビングのソファーに三人並んで話し合っている。


「そう言えば、婦人会と青年会の方達も夜な夜な集まって何か会議をしているみたいです。

何を話しているのか母に聞いたんですけど、教えてくれませんでした〜」


「ん〜、とりあえず週末になったら何をしているのか村の人達に聞いてみよう」


「ですね、私もそれまでに何か良い方法ないか考えてみます」


アンナはそう言ってギュッと拳を握った。


そして週末、


前日に夜遅くまで村の店舗の為の仕込みをしていた幹太は、焦った様子で部屋に入って来たティナに叩き起こされた。


「幹太さん!寝起きで悪いけどちょっと手伝って!」


「ふ、ふぁい…」


ティナは寝巻きのままの幹太と外に出て、彼を引きずるように村のご当地ラーメン屋へ連れて行った。


「こ、これは…?

ティナさんっ!?これはどういう事ですか!?」


幹太は先ほどまで半分閉じていた目をガン開きにしてティナに聞く。

ティナに引きずられてここまで来た幹太が見たのは、向かいの集会所の庭まで行列が並ぶジャクソンケイブ村のご当地ラーメン店だった。


「説明は後!とりあえずお店を手伝ってちょうだい!」


「は、はいっ!」


幹太は急いで店に駆け込み、人でごった返す客席を抜けて厨房に向かう。


「これは久しぶりのラッシュだなっ♪」


厨房に入った幹太は入り口の流しで手を洗い、寝巻きの上からギュッと前掛けを締め、ワクワクしながら煽り台の前に立った。


「はい、それじゃ今んとこの注文を教えて下さい!」


「塩五目あんかけラーメンが五つと塩タンメンが二つよ!」


幹太の隣りで汗だくであんかけを作っていたヘルガが叫ぶように言った。

塩タンメンは幹太が最初に作った味噌タンメンをジャクソンケイブの塩ダレで作ったラーメンである。


「んじゃ、ヘルガさんはそれが終わったらタンメンを!おれはあんかけ全部もらいます!」


幹太は初っ端からエンジン全開で五人分の塩五目あんかけを作り始める。


とそこへ、


「うぬ〜幹太さん、アンナ起きましたぁ〜」


「お母さん!私、お会計を!」


眠そうなアンナと焦ってダラダラに着崩れしたソフィアがやって来た。


「アンナ!麺上げを手伝ってあげて!ソフィアさんは早急にエプロンを付けて!」


すぐに幹太は状況を把握して、二人に的確な指示を飛ばした。


「は〜い…アンナがんばりま〜しゅぅ」


「はいっ!」


三人がヘルプに来た事により、徐々に店が回転し始め、昼過ぎにはひとまず行列はなくなっていた。


「幹太さん、アンナさん、ありがとうございます。お休みなのに起こしてしまってごめんなさいね」


先ほどまで忙しく客席を回っていたティナが厨房にやって来た。


「いや、それは全然構いませんけど…、でもなんでいきなりこんなに忙しくなったんです?」


「そうです、何故ですか?

平日はこれほど忙しくなかったはずですよね?」


幹太とアンナは仕事の手を止めずにティナに聞いた。


「あのね、婦人会と青年会で話し合ってたのは、村のお店にどうやってお客を呼ぶかって事だったの」


それはそうだろうと幹太達も思っていたが、何故突然ここまでお客が増えたのかが分からない。


「それで、どういう計画でお客を増やしたんですか?」


「私、気になります!?」


「お母さん、私も聞いてないわ」


そこへ会計の仕事にひと段落をつけたソフィアも厨房にやって来た。


「えぇと、週末限定で家族で来たお客さんに温泉とラーメンをセットで割引するって事になったの。

それをベイカーやストラットンで荷馬車の人にビラを配ったりして宣伝したのよ。

そうしたらこんなに忙しくなっちゃったのよ…」


となぜかティナは気まずそうに話す。


「三人に黙ってやってしまってごめんなさい。

でも幹太さん達に頼りきりではなくて、私達も自分達でなにか出来ないかと思って…、本当に申し訳ないわ」


ティナはそう言って頭を下げた。


「全然問題ないですよ!なぁ、アンナ!」


「はい、問題ないです♪私、すごーく嬉しいです♪」


アンナにとって、この村の人達が自発的にこのジャクソンケイブ村をなんとかしようとした事はとても大きな一歩であった。


『頑張ってこれを続ければ、この国の人たちを元気にすることができます!』


それはアンナの王女として一番の願いである。


「ありがとうございます、幹太さん、アンナさん。

ふふふ♪お客さんが引いたら家に戻って下さいね。まだ二人とも寝巻きなんですから♪」


「本当だ、アンナと俺は着替えないとな。分かりました、一度家に戻ってまた来ます」


言われてみれば幹太は寝巻きに前掛け、アンナは寝巻きにエプロンのままであった。


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