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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第8章 アビシニア大陸編
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第355話 旅の始まり

「けど、本当にあっちに行かなくて良かったの?」


ロシュタニアから出立して丸一日、クレアは窓越しに隣でラクダに乗るゾーイに話しかけた。


「今なら、まだギリギリ追いつくんじゃないかしら?」


まだ砂漠とはいえ、すでにここはロシュタニアではなく、隣国ラパルパの領土に入っており徐々に気温も下がりつつあった。


「はい♪旦那様も心良く送り出して下さいましたし」


「そう、ならいいんだけど…」


「ハハッ♪クレア、夫婦っていうのはずっと一緒にいるだけじゃダメな時があるんだよ♪」


そう言ったのは、馬車の中でクレアの向かいに座るマーカスだ。


「あら、よくご存知ですね、お兄様。ご自分だってまだ独身なのに…」


「フフッ♪そうだね。

ただ、僕がもし結婚したとしたら、相手にもそう考えてくれると嬉しいなって思うよ♪」


「えっ!お兄様…そうなんですか?」


「うん。なんていうか…そっちの方がお互いのためになる場合もあるんじゃないかい?」


「そ、そうでしょうか?私だったら、いつも一緒にいたいと思いますけど…」


今さらだが、クレアの目標はマーカスと結婚して四六時中一緒にいることである。


「うん。もちろんそれも素敵な夫婦だとは思うよ。

例えば…トラヴィス様とジュリア様のようにね♪」


「はい♪」


「だけど、ローラ様とトラヴィス様だって、仲睦まじいと思わないかい?」


「あ、確かにそうです」


第二王妃のローラも含め、シェルブルックの国王夫妻は仲が良くて有名なのだが、どちらかというとローラ王妃は、外交がいこうの仕事などではあまりトラヴィスと行動を共にしないのだ。


「一緒にいる時間は大切さ。けれど、お互いが魅力的であり続けるよう努力しなければ、いつか心が離れてしまうかもしれない」


「なるほど…」


クレアは頷きながら、横にいるゾーイを見た。


「つまりゾーイは今、自分を磨いてるってわけか…」


「はい♪」


「待って、それってゾーイには…あ、でも、これは言わない方がいいのかしら…?」


「ほぇ?どうしたんです、クレア様?」


「い、いいのよ…なんでもないわ!」


クレアは気まずそうにゾーイから目をらし、逆側の窓の外を見る。


「そんな!私、気になります!」


ゾーイはラクダを馬車に寄せ、クレアに迫る。


「えぇっと…今までの話とは真逆な感じになっちゃうんだけど…」


「はい」


「トラヴィス様はお二人だけだけど、幹太にはゾーイも含めて四人も奥さんがいるじゃない?」


「はい。そうですけど…」


「それに加えて今は、幹太に気のあるアルナも一緒にいるの…」


「まぁ…そうですね」


アルナが幹太の五人目の妻の座を狙っているのは、すでに周知(しゅうち事実じじつであった。


「私は認めてないけど、なんだかアンナは妖精って言われるほど綺麗らしいし、それに由紀とソフィアもすっごく素敵でいい子でしょ。その上、ちっさくて可愛いアルナもついて来てるんだけど…」


「ほぁっ!」


そこまで言われて、ようやくゾーイは自分の置かれている状況に気がついた。


「ゾーイ……あなた、大丈夫?」


「うぅっ!」


「お兄様のお話を聞いた上でも思うんだけど、この状況で旦那と離れるのは、さすがに余裕ブッこきすぎじゃないかしら?」


「はうっ!!」


的確てきかくに自分の迂闊うかつさを指摘されたゾーイは、胸を押さえてラクダの背中に突っ伏した。


「けどけど!旦那様は私を見放すような人じゃありませんっ!」


しかし、ガバッと身を起こしたゾーイは、なんとか反論はんろんこころみる。


「だろうね♪僕もそう思うよ♪」


「そうね。確かに幹太は見放したりはしないだろうけど…」


「けど…なんです?」


「たとえばだけど、ゾーイがいない間に奥さんの中の誰かに赤ちゃんができたとして…」


そう言うクレアは、なぜかすごく深刻そうな顔である。


「そうか…正式に結婚してるんだから、そういった可能性は十分にあるね」


クレアの言葉に、なぜかマーカスまで深刻な顔で頷いた。


「はい。お兄様。

それで…ゾーイがいない間にひとり、またひとりって赤ちゃんができちゃったとしたら…」


「ま、まさかっ!私がないがしろにっ!?」


「そうよ!そのまさかよ!」


「そうだね…もしかして、アンナとの間に赤ちゃんができたりしたら、さらにゾーイどころじゃないかもしれない…」


「ゾーイどころって…マーカス様?」


ゾーイは仄暗ほのぐらい瞳で、腰に付いているフリントロック銃のホルスターに手をかけた。


「そ、そうだったね!ゴメン!」


「さて、冗談はこれぐらいにして…」


「じょ、冗談だったんですか、クレア様!?」


「ん〜?まぁそうなる可能性がないとは言えないんだから、マメに手紙ぐらいは送った方がいいんじゃない♪」


「…はい。気をつけます」


「それじゃお兄様、私たちがこれから行く国はどういう場所なの?」


「あ、あぁ…これから僕らが行くのはラパルパさ」


マーカスはクレアと自分の間に地図を広げた。


「えぇっと…この三角の大きな大陸の中心が、昨日までいたロシュタニアで…」


マーカスは地図の中心にある大きな湖のある場所を指差し。


「はい」


「今は、北に向かっているんだよ」


そしてその指を、真っ直ぐクレアの方へスライドしていく。


「…で、ここがラパルパさ」


「森の国ってお話でしたけど、いちおう海にも接しているんですね」


「うん。うん。まぁほんの小さな範囲だけどね」


「本当だわ…ここ以外、海岸沿いのほとんどがハルハナ国なんですね」


クレアは、唯一、海に面したラパルパの領土である半島の海岸沿いを指でなぞった。


「そうだね。そこ以外の全てが森だから、ラパルパの人の中にも海がないって思っている人がいるらしいよ」


「そうなんですか?」


「うん。だから、海産物の輸出もほどんどないんだ」


「ということは…あまり豊かな国ではないのですか?」


「それがそうでもないんだよ」


「海に頼らなくても、大丈夫な何かがあるんですね?」


「うん。その通り、ラパルパは唯一、木材の産地として有名なのさ♪」


「そういえば…アルナがそんなこと話してたわね。

確か、ものすごく成長の早い木があるとか…?」


「そうだね。ラパルパ全土に生えているジャイアントセコイヤは、二、三年で枝の上に家が建つほどの巨大になるって言われてるんだ」


「もしかして…お兄様はその木をリーズに持ってきたいんですか?」


「うん。いまのところリーズの建物は石造りばかりだけど、木材で建てた方がなにかと都合が良いこともあるからね♪」


「でも、こんなにリーズからこんなに遠い場所じゃ、すごく運送費がかかりそうですけど…」


と、クレアは目の前にある地図を眺めながら言う。

大まかに言うとラパルパからリーズは、三角形の巨大な大陸を横断して、さらに海を渡った先にあるのだ。


「フフッ♪クレア、ちょっといいかな♪」


「おっ!お兄様っ!?」


マーカスは微笑みながら、クレアの手を掴んだ。


「今、クレアがイメージしたのって、こんな感じのルートだろう?」


そしてマーカスは握ったクレアの指先を、大陸の端から端に移動させる。


「は、はい…そうですけど…」


「でも、周りを見てごらん…」


「周りって…他の国ですか?

それだとさらに遠回りになりますけど…」


「いいや、もっと外だよ」


「もっと外って…あ!」


「フフッ♪わかったかな?」


「はい♪つまり、陸路でなく海路ってことですね♪」


「うん♪よくできたね、クレア♪」


マーカスは握った手を引き寄せ、正面からクレアをギュッと抱き締める。


「お、おおおっ、お兄様っ!?」


「…うん?どうしたの?」


「い、いいえ!なんでもありませんっ!」


突然の出来事に動転したクレアは、真っ赤な顔をしてマーカスから離れた。


「た、確かに海路なら、砂漠を横断するより楽ですね」


「うん。それに例え遠回りだとしても、船なら大量の木材を一気に運べるのさ♪」


「フフッ♪こんなに小さな荷物でも砂漠の移動は大変ですからね♪」


外で話を聞いていたゾーイは、振り返って自分の荷物を叩いた。


「砂漠じゃ馬車も整地魔法がないと走れないからね♪」


「えぇ。幹太たちもゾーイのお父様にいただけて良かったわ♪」


クレアが外に向かってそう言うと、寸前まで笑顔だったゾーイが、なぜか顔をこわばらせた。


「そ、そういえば、今の今まで忘れてました…」


「なに?どうしたの、ゾーイ?」


「あの馬車…六人乗りなんです」


幹太たちがライナス家から貰った馬車、正確に言うならラクダの馬車は、昔からライナス家にあったものを改良したものだった。


「六人…なら、みんな乗れるわね♪良かったじゃない♪」


「はい。シャノン様だけは単独のラクダですけど…」


「まぁアルナも含めて五人なら余裕でしょ。

それで、それがどうしたの?」


「…クレア様はあの馬車の中を見ましたか?」


「いいえ、見てないわ。どうにかなってるの?」


「はい。お母様が悪ふざけして、馬車の中はぜーんぶフワフワの寝室みたいになってたんです…」


昨晩、実家に出発の挨拶に寄った際に、ゾーイはそれを見ていたのだ。


「なるほど…つまり、新婚仕様になってたってわけだね?」


マーカスは再び深刻な顔をして、ゾーイに確認する。


「はい…」


そしてゾーイも、マーカスの問いに深刻な顔で頷いた。


「で、君はどうするんだい?」


「私は…」


マーカスにそう聞かれたゾーイの頭の中では、なぜかマハラジャ風の格好をした幹太が、ロシュタニアンを着た妻たちとアルナに顔面をチュッチュされている場面が浮かんでいた。


「…クレア様、私、ちょっと行ってきます!」


ゾーイはラクダを反転させ、二人の乗る馬車と反対方向へと駆け出していく。


「へっ?ちょ、ちょっとゾーイ!」


「一回!一回だけですから!隣町で追いつきまーす!」


ゾーイはまさにその一回にすべて賭けるつもりなのだ。


「そんなの無理に決まってるでしょー!!」


クレアは自分を置いて去っていく護衛の背中に向かって、力一杯そう叫んだ。


「ハハッ♪なんだかゾーイもずいぶん元気になったね♪」


「それは私もそう思いますけど…もう!私の護衛はどうするのよ!」


「まあまあ♪」


マーカスは、腕を組んでムッと頬を膨らませる妹の頭を撫でた。


「大丈夫だよ。今のところ予定よりもだいぶ進んでいるから隣町で待ってみよう」


「申し訳ありません、お兄様」


「…しかし、行ったはいいけど、幹太たちは大丈夫かな?」


「あら、お兄様も何か気になることがあるんですか?」


「うん。クレアは僕がロシュタニアに着くのが、ずいぶん遅かったと思わなかったかい?」


「えぇ、それは思いましたけど…」


本来ならばマーカスは、試食イベントの数日前にはロシュタニアに到着している予定だったのだ。


「…何かあったんですか?」


「実は、港からすぐの町でものすごい異常気象にあってね。

そういえば、彼らに伝えてなかったなって…」


「えぇっ!」

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