第350話 仲直り
そしてその夜。
「ハミッシュ様、何の用だろう?」
ナーマルはハミッシュに呼ばれ、ライナス家の応接間にいた。
「待たせたね」
「ナーマル、お疲れ様」
とそこへ、ハミッシュとゾーイがやってくる。
「えっ!ゾーちゃん!?どうして?」
「私もナーマルと話そうと思って…」
「そ、そうなんだ…」
「二人とも、とりあえず座ろうか」
「あ、はい」
「うん」
ハミッシュがそう促すと、二人はハミッシュの向かい側に並んで腰をかけた、
「さてナーマル、僕の話は今日の件なんだけど…」
「…はい。僕の腕不足で、ご当地料理にできなくて申し訳ありません」
そう言って、ナーマルは頭を下げた。
「あぁ…いや、責めたりするつもりはないんだよ」
「では…どういうお話なんでしょうか?」
「ええっと…まずはナーマル、今日はよく頑張ったね♪」
ハミッシュは笑顔でそう言う。
「それに負けはしたけど、ロシュタニアンドライカレーは素晴らしい料理だったよ♪」
「うん♪私も食べたけど、とっても美味しかったよ、ナーマル♪」
「えっ!ゾーちゃんも食べたの!?」
「うん。終わった後に、アメリアが残ってたって持ってきてくれたの♪」
「残ってたって…まさか、アメリアさん…」
アメリアは菫屋チームに食べてもらうために、ロシュタニアンドライカレーを一つ作っていたのだ。
「うん。それでね、僕はあの素晴らしい料理を残したいと思ってるんだよ♪」
「えっ!そ、それは…」
ハミッシュにそう言われたナーマルは、動揺して目を泳がせる。
「うん?ナーマル、どうかしたのかい?」
「じ、実は先ほど、同じ話をマルコ様に提案していただいて…」
「あ、もしかして…ロシュタニアンドライカレーをマルコのホテルの料理として出したいって話かな?」
「は、はい…」
「そうか、ハ、ハハハハッ…♪」
ナーマルの返事を聞いたハミッシュは、大声で笑い始めた。
「お、お父様…何がおかしかったの?」
ゾーイは少し心配そうに聞く。
「あぁ…いや、実は僕もそうしようと思ってたのさ♪」
「ナーマルたちのお料理を、マルコ兄さんのホテルのメニューにするって?」
「うん。まぁ最初は僕のレストランのメニューとして出そうと思ってたんだけど、それだキミたちの料理と同じ店で出すことになってしまうからね。
今回の勝敗の意味を考えると、それもどうかなと思ってさ♪」
「なるほど、それで兄さんのホテルなのね」
「うん。マルコには僕からお願いしようと思っていたのだけれど、先にマルコが気を利かせてくれたみたいだね♪」
「はい。マルコ様も同じようなお話をしてらっしゃいました」
「で、どうなのかな?
ナーマル自身は、あの料理を残したいと思ってる?」
「はい。実はもうマルコ様にお願いしますってお返事もしてしまっていて…」
「うん。わかったよ。
だったら、何も問題はないのかな?」
「あ、はい。僕も…たぶん、アメリアさんもそれで問題ないです」
「アメリアも…?ちゃんと聞かなくて大丈夫かな?」
ゾーイはポテッと首を傾げてナーマルに聞く。
「うん。大丈夫だと思う。
だって僕、アメリアさんがマルコ様のやる事に反対するのってこれまで見たことないし…」
「ほぇ?そうだったっけ…?」
「ほぇって…ゾーちゃん、気づいてなかったの?」
「う、うん。ぜんぜん…」
「じゃあ、たぶんアメリアさんがマルコさんを好きだっていうのは…」
「えっ!アメリアが兄さんを!?ウソでしょ?」
ゾーイは真剣な表情で、隣に座るナーマルに詰め寄る。
どちらかというとゾーイは、色々と好き勝手にやっているマルコを、アメリアは嫌っていると思っていたのだ。
「誰が見てもそうだったけど、ゾーちゃん、本当に気がついてなかったんだ…」
「ぜ、全然…全く…これっぽっちも気づいてなかったよ…」
ゾーイは目の前のテーブルに手をついて項垂れた。
「ハハッ♪そうだね、アメリアはいつかオルガの専属を離れて、マルコのところに行くつもりらしいから♪」
「えぇっ!それは色々と問題があるんじゃないのっ!?」
「ゾーちゃん…それを言ったら、ゾーちゃんたちの方がはるかに問題があると思うけど…」
「そ、そんなことないもんっ!みんな仲良くやってるもんっ!」
「ハハッ♪それじゃあ私は先に部屋へ戻るよ」
ハミッシュは二人を残して部屋を出ていく。
「そ、そうだ!そういえば、ゾーちゃんの話ってなんなの?」
「あ、そうだったね」
「うん…」
ゾーイは姿勢を正し、ナーマルの方へと向き直る。
「ナーマル、私、やっぱり旦那様と離れたくないの…」
そして、ナーマルの手を握りながらそう言った。
「そ、それは…僕だってわかってるよ」
「でも、ナーマルは私にロシュタニアに残って欲しいって…」
今回の一連の騒動は、ナーマルが幹太からゾーイを取り戻すために起こしたものだ。
「それはそうだったけど…だって僕、負けちゃったから…」
ナーマルはゾーイの手を払うようにして腕を組み、先ほどのゾーイと同じように頬を膨らませた。
「ごめんね、ナーマル。私、約束を破って…」
「べ、別に…それは子ども頃の話だったし…気にしてないよ」
「そうだとしても、ごめんなさい」
ゾーイは立ち上がって頭を下げる。
「はぁ…うん。もうわかったから、頭を上げてよ、ゾーちゃん…」
ナーマルはため息を吐きながら自分も立ち上がってゾーイの手を取り、
「ゾーちゃん、向こうに行っても元気でね♪」
そして、満面の笑みでそう言う。
「うん♪」
ゾーイも笑顔で返事をして、ナーマルと仲直りのハグをした。
「ゾーちゃんたちはこれからどうするの?」
ハグを終えた後、ナーマルはゾーイにそう聞いた。
「う〜んと…クレア様はこのまま旅を続けたいみたい」
「えっ!こっちの大陸をってこと?」
「うん」
「こっちに来てからずいぶん経つけど、戻らなくていいの?
クレア様って、自分の国で色々とお仕事してるんでしょ?」
「うん。けど、今回はマーカス様もいるし、許可を取ろうと思えばできるんじゃないかな…」
「じゃあ、ゾーちゃんたちはどうなの?」
「私たち?」
「そう。幹太とか…」
「あ〜、旦那様は戻りたそう…かな」
「そっか、旦…幹太はお店が気になるのかな?」
「うん。姫屋でやりたい事がたくさんあるんだって言ってた♪」
「他の女の子たちは?」
「ん〜?アンナ様とソフィア様は旅を続けたそうだけど、由紀様は…どうなんだろ?」
「わからないんだ」
「ううん、そうじゃなくて…由紀様はいつも、旦那様がいればどこでもいいや〜って感じだから…」
「す、すごいね。
まぁけど、あの人は確かにそんな感じがしたな…」
「フフッ♪伝わるよね♪
幹ちゃんは誰にも渡さないぞーって気迫が♪」
「フフッ♪確かにそうだったね♪
なんか…アライグマが威嚇してる感じ♪」
「そうそう♪」
そう話しながら、二人は顔を見合わせて笑う。
「そういえば、アルナさんはどうするんだろう…?」
「アルナ…って、ゾーちゃんたちと一緒に働いてた青髪の子?」
「そうそう。ラパルパからきた人で、サロメさんのお店で働いてるの」
「その子がどうかしたの?」
「うん。私たちと一緒にシェルブルックに行きたいんだって…」
「それって…旅行じゃなくて向こうに住みたいってことなのかな?」
「そうみたい」
「あぁ…そっか、なるほど…」
そう言って、ナーマルは突然黙り込む。
「…ナーマル?どうかした?」
「ううん…ちょっと、僕も思うことがあってさ…」
「思うことって…何か悩んでるの?」
ゾーイは心配そうな表情でナーマルの顔を覗き込んだ。
「フフッ♪そんな顔しなくても大丈夫だよ、ゾーちゃん♪」
ナーマルはそう言いながら、不安げに自分を見つめるゾーイの顔を両手でギュッっと挟んだ。
「そうだ!この機会にゾーちゃんの旅の話を教えてよ♪」
「ふぁ、ふぁたしのたぴのはなし?」
「そう♪クレア様と出会う前のさ♪」
「うん♪いいよ♪じゃあ最初は…」
そうして幼馴染の二人は夜遅くまで語り合い、朝を迎えた。




