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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第二章 プラネタリア大陸編
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第三十七話 村民会議

それから二日後、


幹太、アンナ、ソフィアの三人は村の集会所の庭で屋台を開いていた。

ラーメンをこのジャクソンケイブの名物に出来ないかというアンナの提案を、パットが村のお偉いさんに話し、試食会が行われることになったのだ。


「あらま、思ったよりたくさん来たな…」


「えぇ、ご婦人の方もかなりいますね」


「うち父と母が、それぞれ青年会と婦人会に声をかけたようです〜」


「青年…青年なのか…?」


と幹太が不思議がるのも無理はない。

実を言うと、青年会の人のほとんどが四十代以上の中年男性だった。


「あの方々でも子供を除けば、この村では若い方なんです〜」


日本でも地方の町の青年会が、中年で占められているのは良くある事だ。


「おーい!じゃあみんな集まってくれー!」


とそこで、集会所から出てきた白髪の老人がみんなをテーブルが並ぶ姫屋の屋台の前に集めた。


「あれが村長のジョン・ジャクソンさんですよ。

村で一番元気なおじいさんです〜♪」


ソフィアが幹太とアンナに耳打ちする。


「じゃあ、始めるぞーい!

まずはパット、今回がどういう集まりなのか説明せい!」


「はい、村長。では…」


パットは屋台の前に出て説明を始める。


「今回は試食会だ。

うち娘をこの村まで送ってくれた、この芹沢幹太くんとアンナ・バーンサイドさんが…」


「ほぇ?バーンサイド…?」


「確か二番目の王女様もアンナでなかったか…?」


「そだそだ、銀の髪だしまぢがいねぇべ…」


パットが二人の名前を出したところで、周りの人達がざわつき始める。

今回の試食会では村人達に公平な判断をしてもらうため、アンナが王女かどうなのかはあえて曖昧でいく事になっている。


「まぁいいから聞いてくれ!

簡単に言うと、この二人がジャクソンケイブの名物になるような食べ物を作ってくれた。

食べた奴もいるかも知れないが、こないだの祭りで出たラーメンって食い物を改良したやつだ。

だが、この村の名物と言うからには村のみんなの賛同が必要だ。

だから、今日この場で実際に食べてみて決めようって事になったんだ!」


「「「皆さん!よろしくお願いします!」」」


パットが話し終わった直後、幹太、達三人は頭を下げた。

パットは三人が頭を上げるのを待ってから話しを続ける。


「今じゃこの村に若いもんはほとんど居着かねぇ!

温泉目当ての観光客も減る一方だ!

のんびり静かなこの村もいいが、このままじゃこのジャクソンケイブにゃ人がいなくなっちまう!

だからみんな今回の試食会を真剣に考えてくれ!」


というのも、パットは青年会のリーダーであり、年々寂れていくこの村に危機感を感じている数少ない人間の一人だった。


「じゃあルールを説明するぞー!

まずはみんなこの屋台の前のテーブルでラーメンを食べる。

そんで食べ終わったら、器を集会所の持っていって、中に置いてある名物にするのに賛成か反対かどちらかのテーブルに置く。

それだけだ!わかったかー?」


パットは村人達を見回して確認を取る。

今回はアンナが王女と気付いた人が萎縮しないよう、投票は姫屋から離れた所で取る事になっていた。


「はいよー!」


「分かったわ!食べてどちらかに置くのね!」


「どっちでもいいときゃどうすんだ…?」


どうやらほとんどの村人は理解しているようだ。


「そいじゃ始めるぞー!」


最後にパットが号令をかけ、運命の試食会が始まった。



「よーし、んじゃやりますかっ!

アンナは麺をよろしく!」


幹太は早速ラーメンを作り始める。

まずは前回のタンメン同様、食材を炒める事からである。


「さすがジャクソンケイブ!食材の宝庫だなっ!」


幹太はキャベツ、人参、タケノコ、玉ねぎという前回の味噌タンメンに使っていた野菜にいくつか食材を追加していた。


「これのおかげで具が決まったようなもんだ」


幹太がそう言って中華鍋に入れたのは、黒くヒラヒラした食材である。


それは幹太が塩湖の塩を使ったラーメンを初めて試作した夜の事、


「幹太さん、キノコは何か使いますか〜?」


幹太とアンナがラーメンの具をどうするか話し合っている時に、ソフィアが大きなザルに何種類かの乾燥したキノコを入れて持ってきたのだ。


「ありがとう、ソフィアさん。

村ではどれを良く食べているの?」


「んー、炒めるのはこれで、煮るのはこれでしょうか〜?」


そう言ってソフィアが指さすのは、日本のしめじがエリンギほどの大きさになった様なキノコと、シイタケによく似たキノコだった。


「ほぁ〜たくさんありますねぇ。

これなんか食べ物に見えません」


アンナは黒く乾燥した木の葉のようなものを摘んでいる。


「あれ?アンナ、それちょっとみせて」


「あ、はい。どうぞ」


アンナは摘んだ物をそのまま幹太の手のひらに乗せた。


「それはオレッキュアと言うキノコですね。

そう言えばよくスープに入れます。

もしかしたらラーメンにちょうど良いかも知れませんね〜」


幹太が手に持ったオレッキュアをコップの水につけると、みるみる元のキノコの形に戻っていった。


「キクラゲだ…これキクラゲだよ…」


「ん〜確か…日本にいた時に、由紀さんのお母様が作った炒め物の中に、こんなようなキノコが入ってたような…?」


アンナは広がっていくキノコを見て思い出した。


「これは使える。

ソフィアさん、とりあえずキノコはこれだけで大丈夫だよ」


そうしてまずは一つ、このジャクソンケイブ産のキクラゲが具として追加される事になったのだ。


「最後に洞窟のモヤシを入れて」


続いて幹太は野菜と豚肉、キクラゲが入った鍋にジャクソンケイブのモヤシを入れてサッと炒める。


「んじゃ、スープを…」


幹太は炒めた具材に、先日完成したスープを柄杓で掬って入れた。

ジューっと大きな音を立てて、スープは中華鍋の縁から沸騰していく。


「これに塩湖の塩を小さじ一杯…」


天然そのままの粒の荒い塩が、スープの中でゆっくりと溶ける。

試食会の会場に、野菜の多く入ったスープ特有のほのかに甘く美味しそうな香りが広がった。


「おー、うちの嫁さんが作る野菜スープみたいな匂いがするな」


「うーん、俺、ちょっと腹減ってきたよ」


周りの村人達は、さっそくこの匂いに食欲を刺激されているようだ。


「後は….」


幹太は振り返ってクーラーボックスの中から小さな茹で卵を取り出し、グツグツと具の沸く鍋に入れた。


「キャベツ、タケノコ、キクラゲ、モヤシにその他諸々ときたら、やっぱりうずらの卵だよな。

そんで仕上げに片栗粉を入れて…」


最後に水溶き片栗粉を中華鍋に一周半ほど流し込む。


「よーし、完成!!」


「はーい、麺上がってます♪」


すでにアンナは丼の中に、塩湖の塩を溶いた少なめのスープと麺を入れて具の完成を待っていた。

幹太はそこへ出来上がったラーメンの具をサッと素早くかける。


「姫屋のジャクソンケイブ塩五目あんかけラーメン!お待ちどうさま!」


出来上がったラーメンは澄んだ塩ラーメンのスープ上に、色とりどりの具の入った半透明のあんかけが乗ったラーメンだった。

幹太は最初、野菜が名産のジャクソンケイブ村のご当地ラーメンにはタンメンがベストだと思っていた。

しかし、アンナの由紀の家で食べた炒め物と言う一言で、この五目あんかけラーメンを思い付いたのだ。


「塩味でも美味しいんですね♪」


最初に塩五目あんかけラーメンを試食したアンナはそう言った。

彼女が由紀の家で食べたのは、醤油味の五目あんかけ炒めだったのだ。


「ここの塩湖の塩だからだよ。」


天然の塩は、簡単に言うと思いっきり塩辛い。


「やっぱり尖がった塩味じゃなくて…、なんだろう…丸くてどっしりした塩辛さって感じがするんだよな」


スープにも野菜の具にも負けない塩湖の塩だからこそ、このラーメンは完成したのだ。


「ジャクソンケイブのご当地ラーメンにはぴったりだろ♪」


「ですね。私もここでしか作れないラーメンだと思います。

ではソフィアさーん!お願いします!」


アンナは次々と出来上がる塩五目あんかけラーメンをカウンターに並べていく。


「はーい♪、おまたせしました〜♪」


それをソフィアが村人の待つテーブルへと運んだ。


「あら、美味しそうだわ♪

では、いただきます」


ソフィアが最初にラーメンを運んだのは婦人会のテーブルだった。

ご婦人達は目の前で美味しそうに湯気の立つラーメンを早速食べ始める。


「これ…美味しいわ♪」


「そうね…いつも何となく食べている野菜がこんなに美味しくなるなんて♪」


「うちの子は野菜ばかりの食事に飽きてきてるけど…これなら食べてくれるかもしれないわ」


とりあえずご婦人方にはなかなか好評なようである。


「よし、次、上がったよー!」


「はーい、では今度はこちらに。

ゆっくり召し上がって下さい〜♪」


次にソフィアがラーメンを運んだのは、村長と青年会のテーブルだ。


「これがうちの村の物で作ったラーメンって食べ物なんじゃな?」


「そうですよ、村長さん。熱いので気をつけて召し上がって下さい♪」


まずはソフィアにそう言われた村長が麺をフウフウと冷ましながら一口啜った。


「おー、こりゃ美味しいのぅ。

食べ慣れたいつもの塩の味がする」


村長は目をつぶって、ゆっくりと麺を噛み締めている。

そして村長に続いて、周りの青年会のメンバーもラーメンを食べ始めた。


「このスープも美味いぞ!

ちゃーんと素材の旨味が染み出してる!」


「うん、具も色々入ってて美味しい♪

改めてうちの村の野菜の新鮮さが分かるよ」


幹太はその後も集まってくれた人達のラーメンを作り続け、全員に行き渡った事を確認してからホッと一息ついた。


「幹太さん、ひとまずはお疲れ様です」


「うん。アンナもお疲れさま」


二人は屋台から降りてお互いを労う。


「お二人ともお疲れ様です〜」


とそこへ、全てのラーメンを運び終えたソフィアが水の入ったマグをトレーに乗せてやって来た。


「お疲れ様。今日はありがとう、ソフィアさん」


「ソフィアさんもお疲れ様でした。

お水いただきますね♪」


「幹太さん、アンナさん、ありがとうございます。

私、この村の人達がこんなに元気なのは久しぶりに見る気がします〜」


ソフィアは笑顔でラーメンを食べる人々を優しい瞳で見つめていた。


「そりゃ何よりだよ。

まずはここの人達が元気にならないと、村おこしは出来ないもんな」


「ですね。活気は大切です♪」


幹太とアンナも額に汗をかきながら、ラーメンを食べる人々を満足そうに眺める。


「でも幹太さん、何であんかけにしたんですか?

この村の野菜を使うならば、前回と同じように炒め野菜の塩タンメンで良さそうですが…?」


アンナは彼がなぜわざわざ手間のかかるあんかけにしたのか分からなかった。


「ん〜それは簡単だよ。

冬場の寒い時にあんかけのラーメンを食べれば身体があったまるし、ラーメン自体も冷めにくくなるからな」


幹太は三人でジャクソンケイブを見て回った時、ソフィアが言った冬場の話をきっちり考慮に入れていた。


「子供頃に親父の田舎の雪国で、これとは違うあんかけのラーメンを食べた事があったんだ」


彼はその時、極寒のスキー場だったのにもかかわらずしばらく汗が引かなかった。


「夏場も涼しいこのジャクソンケイブなら、どんな季節でもあんかけラーメンを食べてもらえるかなって思ってさ」


「なるほど…そういう訳だったんですねぇ」


「そういえば私も昨日試食した時に汗が止まりませんでした〜」


確かに昨晩、この塩五目あんかけラーメンを食べたソフィアは汗だくだった。

汗だくすぎて白いブラウスからブルーのブラがスッケスケになったほどだ。


三人がそんな話をしている内に、村人達はラーメンを食べ終え、次々と丼を持って投票をするために集会所へと入って行く。


「ついに始まったな…」


「えぇ…」


幹太とアンナは緊張気味にその様子を見ている。

しばらくして今回ラーメンを食べた村人全員が投票を終え、屋台の前に屋台の前に集まった。


「よし。それじゃあ器を数えてくるとするかの」


村長はそう言って一人集会所に入って行き、そしてすぐに出てきた。


「これは直接見てもらった方が早いわい。

おーい!そこの三人!ちょっと来てみんさい!」


村長は幹太、アンナ、ソフィアの三人を手招きして呼んだ。


「よし…行ってみよう…」


「「はい」」


呼ばれた三人がそう言って緊張しつつ集会所に入ると、集会所の玄関に置かれた二つテーブルの片方のみに丼が重なって置かれていた。



「「幹太さん!!」」


「…うん?」


テーブルの上の紙に書かれた文字を見て、すぐに結果が分かったアンナとソフィアが幹太の方へ振り返る。


「賛成だけ…賛成の方だけに器があります!」


「やりましたね!幹太さん!アンナさん!」


二人は満面の笑みだ。

一方の幹太は何故かぽけっとしていた。


「え、ホントに?」


幹太はアンナに魔法をかけてもらっていない為に、今だにこの国の文字が分からないのだ。


「そうです♪おめでとうございます〜♪」


ソフィアがそう言って、ボーっと立つ幹太の両手を握って上下に振る。

幹太はしばらくされるがままにしていたが、だんだんと彼の脳がその状況を理解していく。


「やったー!」


幹太は突然そう叫び、目の前のソフィアの腰を持ち上げクルクルと回る。



「アハハッ♪幹太さん、目が回ってしまいます〜♪」


ちなみに幹太の顔はソフィアのお腹の辺りにあり、彼の頭にはソフィアの爆乳が思い切り乗っかっていた。


「あー!ズルイです!私も!」


とそこへ嫉妬と言うよりも、仲間外れな事が嫌だったアンナが横からまとめて二人に抱きつく。

そしてそのまま三人はクルクルと回って喜びを分かち合った。


「では、このラーメンをこの村の名物にするぞーい!」


村長は三人が集会所から出て来るのを待って、集まった村人達に向けてそう宣言した。

幹太、アンナ、ソフィアの三人が協力して作った塩五目あんかけラーメンは、晴れて正式にこの村のご当地ラーメンとなったのだ。



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