第323話 真実
「わぁ!ゾーイさん、可愛い♪」
「こ、これはたまらないわね…」
「可愛いです〜♪」
そして誘惑に負けてゾーイが手渡したアルバムの最初のページを開いた瞬間、三人は歓声を上げた。
「由紀さん、あ、あとで旦那様の写真、必ずですよ」
「もちろん♪絶対見せるから大丈夫だって♪」
そもそも由紀は今日まで写真の存在を忘れていただけで、最初から皆に見せるつもりでスマホに写真を入れてきたのだ。
「あ、マルコもいるわね…」
とそこで、クレアはマルコとゾーイが仲良く手を繋ぐ写真を見つけた。
「っていうかゾーイさんって、マルコさんと一緒の写真が多くないですか?」
「そうね。二人の写真が多いわね」
「ま、まぁ小さな頃はマルコ兄さんに一番懐いていましたから…」
「こっちは湖ですか〜?」
と、ソフィアはヤシの木の並ぶ砂浜の写真を指差す。
「あ、これは家の者みんなで海の国に行った時の写真ですね」
「海の国…ハルハナだっけ?」
「はい。そうです。
思えば私とマルコ兄さんが旅好きになったのは、この時の旅行が楽しかったからかもしれません」
「なるほどね♪そんなに素敵なら、海の国もちょっと行ってみたいわね♪」
「クレア様、マーカス様がこちらに来た後に、一緒に行くことはできないんですか?」
「ん〜?できないことはないだろうけど、そうなるとゾーイも来てくれないといけないかも…」
「だったら、新婚旅行を延長してみんなで行けばいいんじゃない♪」
そう言いながら、由紀はソフィアとゾーイを抱き寄せる。
「そうね、それがいいわ♪
とりあえず、お兄様が来たら話してみましょ♪」
「私も幹ちゃんとアンナに話してみます」
「フフッ♪でも本当にキレイな海ね♪」
と、クレアはおそらくゾーイの家で働く者たちが浜辺に集まり、旅行の記念にライナス一家と撮ったのであろう写真に目を留めた。
「あら、これアメリアだわ」
「す、すごい水着です〜」
アメリアはすごい水着界では敵なしのソフィアが引くほどの、極細ストリングス系の水着を着ていた。
「そうなんです…なぜかこの頃のアメリアはいつもそんな感じで…」
「じゃあ、このめちゃくちゃカワイイ小さな子は双子のメイドちゃんかな?」
「あ、はい。
これはメイドじゃなかった頃のミンとリンですね♪」
「で、こっちがオルガさんで…あ!こ、これ…ハミッシュさんだ…」
そう言いながら、由紀が指差す写真のハミッシュは、先日会った時と全く変わらない容姿をしており、その隣には、こちらも相変わらずダイナマイトなバディーのオルガが立っていた。
「で、これがゾーイさんなわけだ♪」
由紀は夫婦の隣でオレンジ色の花柄の水着を着て、マルコの海パンを掴んで立つゾーイを見つけた。
「み、水着のゾーイも強烈に可愛いわね…」
「はい〜♪お花の水着が可愛いです〜♪」
「あれ?けど、ゾーイさんの隣にいる子は知らないな…」
その写真のゾーイの隣には、ゾーイと同じくらいの背格好をした、おかっぱ頭の少女が立っていた。
「そうね…今日もこの間ここに来た時も、ゾーイと同じぐらいの年の子ってリンとミン以外見てない気がするけど…」
そう言って、クレアは写真の女の子をじっくりと観察する。
「でも私、この子どこかで見たような…」
「あ、それ、ナーマルですよ、クレア様」
「「「えぇっ!」」」
ゾーイの言葉を聞いた三人は、写真の女の子を食い入るように見つめる。
「ほ、本当だわ…これ、ナーマルよ」
「で、ですね。幼いけど顔のパーツがそうです」
「女の子の水着なんですね〜♪」
ソフィアの村でも、姉がいる男の子が、小さな頃にお下がりで女の子用の水着を着させられることはよくあることだった。
「あ〜そういえば…亜里沙の弟もそうだったなぁ〜」
「姉と弟だとそうなの?
私にはお兄様しかいないからわからないけど…」
「あ、あの、皆さんっ!」
とそこで、ゾーイはなぜか焦った様子で三人の会話を止めた。
「何、ゾーイ?どうしたの?」
「あ、あのですね…」
「「「うん…」」」
「…ナーマルは女の子です」
そしてゾーイがそう言った途端、ライナス家に三人の絶叫が響き渡った。
「ちょっとゾーイ、何があったの!?」
と、三人の絶叫を聞いて、部屋に飛び込んできたのはオルガだった。
「皆さんは無事!?」
さすがのオルガも二大大国の公爵家の令嬢と王族関係者の悲鳴には驚いたようだ。
「あ、お母様、ちょうど良かった♪
今、ナーマルはこの家にいますか?」
「え、えぇ…ナーマルなら家のどこかにいると思うわ」
「じゃあ、ちょっと探しにいきましょう♪」
ゾーイは立ち上がり、クレアの手を引く。
「えっ!ちょっとゾーイ、行くってどこに行くの!?」
「ナーマルを探しに…」
「ちょっと待ってゾーイ!わ、私にちょっとだけ落ち着く時間をちょうだい!」
「ゾ、ゾーイさん、私もちょっと時間が欲しいかなっ!」
「わ、私も動悸がヤバいです〜」
とある日に衝撃の事実を知らされた三人は、胸の辺りをおさえさながらそう言う。
「あ♪でしたら、皆さんで、お風呂に入ってきたらどうかしら?」
とそこで、オルガがそう提案した。
「そ、そうだわ!それがいいかも!」
「う、うん。わ、私もゾーイさんちのお風呂見てみたい!」
「お、お願いします〜」
「はい。私はいいですけど…」
そうして四人は、ライナス家の浴室へと向かった。
「でも私、確かに性別がわからないほど綺麗な子だなって思ってたのよね…」
そして浴室に向かう道中、すこし落ち着きを取り戻したクレアが、ゾーイにそう話しかけた。
「…けど、ナーマルはゾーイと結婚したいのよね?」
「はい。昔からそう言ってくれてますね」
「でもでも〜、ナーマルさんは女性なんですよね〜?」
リーズ公国でもシェルブルック王国でも、まだ同性婚は認められていないのだ。
「も、もしかして…ロシュタニアじゃ同性婚が認められてるの?」
そう聞いたのは、同性婚が可能な国が存在する世界から来た由紀である。
「同性婚…あ、確かにそうですね。
ロシュタニアでは同性同士でも婚姻はできます」
「えぇっ!すごい!」
「もちろん結婚できる年齢は決まっていますけど、性別はどちらでもいいというか…どちらかでなくてはいけないという決まりがないって感じ…かな…」
「に、日本より進んでるじゃん…ロシュタニア…」
「着きました。ここがウチのお風呂です」
と、廊下の突き当たりで立ち止まったゾーイの前には、砂漠の風景が彫られた大きな木の扉がある。
「すごい大きな扉です〜♪」
「フフッ♪そうですね♪」
そう言ってゾーイが扉を開けると、ジャングルのように木や蔦や花々が茂っている中に小さな東家があり、さらにその奥に大きな湯船が見えた。
「すごいわ…家の中なのに日が差してる…」
そう言いながらクレアが見上げる天井はガラス張りになっており、いくつか窓が開いていた。
「クレア様、ここは温室になっているんです」
「そっか…寒い夜は窓を閉めるのね」
「はい」
そうして四人は東家で服を脱ぎ、湯船へと向かう。
「あれ?誰かいない…?」
その途中で、由紀は湯船の中に人影を見つけた。
「あ!お前たちは!」
「ダメよ、リン!今はお客様なんだから、お前たちなんて言っちゃダメ!」
湯船に入っていたのは、リンとミンのメイド姉妹だった。
「リン、ミン…誰かいるの?」
そして二人の奥から、さらに誰かの声がする。
「あ、ナーマル!」
声で誰だかわかったゾーイは、湯気の向こうにそう呼びかけた。
「そ、その声はゾーちゃん!?どうしてここに?」
「どうしてって…?ここは私の家だから…」
「あ、そうだよね…」
そう言いながら湯気の中から現れたナーマルは、タオルで隠してはいるものの、確かに女性らしい体型をしていた。
「あ〜あ、ついにバレちゃったか…」
と、ナーマルはゾーイの背後に立つ三人を見ながらそう言う。
「勝負が終わるまでは、バレたくなかったんだけどな…」
「ほ、本当に女の子だわ…」
先ほどゾーイから話を聞いたとはいえ、実際に確認するまでは半信半疑だったクレアは思わずそう呟いた。




