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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第7章 異世界クレイジーハネムーン編
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第261話 香りの記憶

「たぶん…っていうか、確実に犯人は母なんです…」


マルコはそう言って話をはじめた。


「母って…お母さんがゾーイさんを攫って行ったんですか?」


「うん。新婚早々、本当にごめんね幹太」


そう言って、マルコは深々と頭を下げる。


「でも、母の仕業だけにゾーイは絶対に無事だから、そこは安心してください」


「信じられないっ!親子だからって攫っていいわけないでしょ!

だいたい…どうして攫う前にちゃんと話しをしようとか考えないのかしら!」


「「「「「………」」」」」


そう吠えるクレアを、幹太たちは信じられないものを見る目で見る。


「コホンッ…マルコさんはどうしてお母様の仕業だとわかったんですか?」


と、仕切り直したのはシャノンだ。


「これは砂漠の民の伝統なのですが、私たちの国では結婚した女性は様々な香油を配合して自分だけ香水を作って、離婚しない限りそれを身につけるのです…」


「つまり…ゾーイさんの部屋にはお母様の香水の香りが残っていたと?」


「はい。あの香水の香りは母のもので間違いありません」


「…なるほど、香りね」


「なるほどって…?幹ちゃん、なんか気づいたの?」


「いや、俺も好きな系のラーメン屋は店の前に漂う匂いでわかるなって…」


「なるほど…それなら私もわかります」


と、ラーメン馬鹿師弟は同じ姿勢で腕を組んで頷く。

記憶の中でも香りが強く記憶に残ることは、実は科学的に証明されている。


「ちょっと!こんな時までラーメンの話なのっ!」


「す、すいませんクレア様。つい…」


「ごめんなさいクレア。幹太さんの表現があまりに的を得ていたもので…」


「ん〜?けどマルコさん、なんでお母さんがゾーイさんを攫うの?」


自分に置き換えて考えてみても、母親なら普通に会いに来ればよいのではないかと由紀も思う。


「それが…たぶんウチの家訓というか、習慣が関係してると思う…」


「習慣?」


「うん。ウチにはね、家を出る前に家事とか仕事とかの要領を目上の人間から習うって習慣があって…」


「それはお嫁に行く人だけですか?」


「いいや、子供はみんなだよ」


「ってことは、マルコさんも?」


「うん。僕は長男だったからね。兄弟の中では誰よりも長く習っていたと思う」


「…だからマルコは私より家事ができたのね」


そう言いながら、ハンナが立体画像の中に現れる。


「つまり…ゾーイさんはまだそれをやってなかったってことなのかな?」


「そうだね。ゾーイはぜんぜんやってなかったんじゃないかな…」


「意外です〜」


そう言ったのはソフィアだ。


「ゾーイさんなら、すっごく真面目にやってそうですけど〜」


「だな。俺もそんなイメージだけど…」


そう言う幹太の頭の中では、小さなゾーイが台所で踏み台に乗り、包丁を使う絵が浮かんでいた。


「ハハッ♪そっか…みんなにはあの子がそう見えてるんだね」


「そう見えてるって…実際は違うの?」


「えぇ。そうですクレア様」


「じゃあマルコにはどう見えてるわけ?」


「そうですね…僕にとって妹のゾーイはお転婆っていう言葉が一番合うのかな…」


「「「「「お、お転婆っ!?」」」」」


その言葉に、クレアとお嫁さんズとシャノンが驚く。


「お転婆か…なんかわかる気がするな」


「お!幹太はわかるかい?」


「はい…実はゾーイさんってけっこうイタズラ好きですよね?」


そう聞く幹太は、少し前にゾーイに不意打ちでキスされた覚えがある。


「うんうん♪旦那さんだけによく分かってるね。

そうなんだよ…国に居た頃のゾーイは、かなりのイタズラ好きだったんだ」


「た、たとえばどんなイタズラですか?」


家族や使用人たちから今でもお転婆と言われるアンナは、いつだって仲間を欲しているのだ。


「僕たちの国の砂漠には色んな虫がいるんだけど…」


「…虫系のイタズラはヤバいわ」


心底嫌そうな顔をしてそう言うクレアは、虫が大の苦手である。


「と、とにかく!ゾーイさんは無事なんですね?」


と、同じく虫系が苦手なシャノンは、マルコの話を遮って確認する。


「…はい。それは絶対にお約束できます。

何せ母はゾーイが大好…違いますね…私たち子供が大好きですから」


「だったらなおのこと、なぜお義母様はゾーイさんを攫ったの?

手紙で新婚なこともわかってたんでしょ?」


「ハンナ…うちの母はね、まれに有り余る愛情が厳しい方向に出ちゃうんだ」


「厳しい方向?」


「うん。たとえば…僕が昔、体が小さくて弱かったって話したろ?」


「えぇ、確か痩せすぎてて、砂漠の国の湖で凍えたって聞いたわ」


「そうなんだ。灼熱の砂漠にあるお湯みたいな湖で凍えてしまうほど、僕は虚弱体質だったんだよ」


ちなみにゾーイとマルコの国、ロシュタニアの昼間の気温はほぼ毎日四十度を超える。


「で、それを見たお母様がどうしたと思う?」


「ん〜?成長するまで待つ…とかかしら?」


と、ハンナは頬に手を当てながら答える。


「違うよ、ハンナ。ぜんぜん違う。

母さんの愛情はそんな生やさしいものじゃないんだ」


「えっ?じゃあお義母様はどうしたの?」


「…翌日から、僕は大量にご飯を食べさせられて、めちゃめちゃ筋トレさせられたんだ…」


そう言うマルコは、先ほど呼ばれた時よりも深刻な表情をしている。


「め、めちゃめちゃって…どのぐらいですか?」


かつて自分も身体が弱かった幹太は、母親の美樹から同じような目に遭わされた記憶があった。


「もうね、食べるのもトレーニングも手当たり次第。

肉も魚も野菜も大量って感じだったし、ものすごく重い石を持ち上げたりされられたなぁ…」


「…あ、なんか想像できるわ」


つまりは旧時代的な体力強化法である。


「幸い父さんが僕の様子がおかしいって気づいて、大量に食べてめちゃめちゃ筋トレ生活は二日で終わったんだけどね…」


「あ、あぶなかったのね…マルコ…」


と、過去のことにもかかわらずハンナは胸を撫で下ろす。


「じゃあお義母さんはゾーイさんを攫って、教育してから私たちの元に返すつもりなんですか〜?」


「それがどうかわからないんだよ、ソフィアさん。

実はゾーイには、ロシュタニアに許嫁みたいな子がいてね」


「「「「「「「えぇっ!!」」」」」」


と、これには話に飽きて船を漕ぎ始めたムーア以外の全員が驚く。


「い、許嫁…」


そして当然のことながら、その言葉に一番衝撃を受けたのは幹太である。


「まぁ相手の子と母さんと僕ぐらいしかその時のこと覚えてないんだけど…」


「なによ!ぜんぜん許嫁じゃないじゃない!」


「クレアの言う通りです!」


「はい。それでは認められませんね」


王族とって、許嫁とはそういうものなのだ。


「もちろんそうなんですけど、母が覚えているっていうのが気になるんです…」


「…まぁいいわ。会えば全部わかるから」


「はい」


「で、マルコは母親がゾーイをどこに連れて行くかわかってるわけ?」


「十中八九、ロシュタニアに向かっていると思います」


「だそうよ、幹太。

私たちは後を追うけど、あなたたちはどうする?」


実を言うとクレアはすでに旅の準備を終えており、マーカスにも先に出発する話を通してこの場に来ている。


「私たちもすぐに出発しましょう。

皆さん、それでいいですよね?」


「もっちろん!ね、幹ちゃん!」


「あぁ、行こう」


「私もすぐに準備します〜」


「でしたらアナ、私は馬の準備をしてきます…」


「ホホッ♪気をつけて行くのじゃぞ」


そうして愛する者を取り返すため、二つの国からゾーイ・セリザワ奪還部隊が出発した。

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