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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第6章 四人の花嫁編
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第257話 ラーメンだよ!全員集合!

そうしてその後、幹太たちは急いで開店準備を始めた。


「ちょ、ちょっとゾーイ、これはどういうこと…?」


「…私にもわかりません」


その最中、出来たばかりの黒地に赤い女性のマークの入った紅姫屋オリジナルエプロンをつけたクレアは、屋台村の様子を見て驚く。


「アンナ…今日って市場はやっているんでしょ?」


「えぇ、そのはずですけど…」


困惑する二人の姫の前には、この市場で働く者たちが集まっていた。


「あ、あの…みなさん仕事はどうしたんですか?」


アンナは市場が開いてるというのに、一番手前に立っていた肉屋の主人に聞く。


「アンナ様、聞いてないんですか?

今日の午前中は市場はやらないことなったんですよ」


「それはもしかして…」


「はい。今日は特別なラーメン屋を姫様たちが出すって話を聞いて、市場長が決めたらしいです」


「話って誰から聞いたの?」


そう聞いたのはクレアだ。


「なんでも今朝方、お城から連絡があったそうです」


「あぁ…たぶんジュリアお母様の仕業ですね…」


「ちょ、ちょっと待って…私、王妃様にはお話してないわよ?」


そう言うクレアの肩に、アンナが手を置く。


「いいですか、クレア…王宮で話したことは、必ずジュリアお母様に伝わるんです」


「か、必ず?」


「そう、必ずです」


「そうなのね…」


「それはそうと…今日の屋号はどうしますか?」


「ヤゴウ?」


「店名のことですよ」


「ウチの屋台でやってるんだから、紅姫屋でもいいけど…」


「やっぱりそう…って、いいけどなんです?」


「ん〜?変えた方がお客が来そうだなって思って…」


「クレアにしてはいい考えですね♪

幹太さん、何かいい案はありますか?」


「今日は姫が二人だから…」


「それはダメ」


そう言って、クレアは人差し指で幹太の口を塞ぐ。


「私とアンナがいるから姫って言うんじゃ何も変わらないでしょ。

せっかくだから何かぜんぜん違う名前がいいわ♪」


「姫以外ですか…」


「そ♪たとえば…日本では、ラーメン屋さんにどんな名前を付けてたっけ?」


「ん〜と、幹太さんの屋台は…正蔵ラーメンでしたっけ?」


「…うん」


「でしたら、幹…」


「アンナ、幹太ラーメンはやめような」


「…そうですか。残念です」


実を言うとアンナは、いつかどこかで幹太ラーメンという名の店をどうにかして出せないかと画策していた。


「だったら、もっとわかりやすい方がいいんじゃない?」


「わかりやすいってどういうことです?」


「そうね…たとえば、幹太はこっちでどういうラーメン屋さんをやろうと思ったの?」


「そうですね…最初は旅費を稼ぐためだったんですけど、それで…」


「それで?」


「その後、この世界の色んな場所のご当地ラーメンを作ろうって決めたんです」


「でしたら、ご当地ラーメン異世界屋、っていうのはどうです?」


「あら、なんかいいじゃない♪」


「そっか…幹太って違う世界から来たんだっけ」


幹太のあまりの馴染みっぷりに、ダニエルは今のいままで幹太が異世界人だということをすっかり忘れていた。

 

「なるほど、ご当地ラーメン異世界屋…」


「どうです、幹太さん♪」


「うん!今日限定の屋号としてはいいな!

ダニエルさんも、それでいいですか?」


「もちろんだよ♪」


そうしてようやく屋号も決まり、幹太たちの屋台はいつも通りの時間に開店した。


「すごいですね…」


開店してしばらくたった頃、ブリッケンリッジのご当地ラーメンを盛り付けながら、アンナは思わずそう呟く。


「あぁ、本当に…」


幹太はそんなアンナの一言に、そう返事をした。


「何がすごいのよ?」


「だってクレア…皆さん最初はぜんぜん知らない食べ物だったんですよ」


「…あ、そういうことね」


「そういうことです。それが今は、こうやって普通に受け入れてもらえてるんです♪」


と、二人が話していると、ヘルガソン一家が異世界屋にやってきた。


「よぉ!コラボラーメン、食べに来たぜ♪」


「わたし、おにいちゃんたちのラーメンたべるのひさしぶりかも♪」


「私もあんたたちのラーメンは久しぶりだね♪」


「はい。いらっしゃいませ♪」


幹太は笑顔で三人を迎えながら、サースフェー島での日々を思い出していた。


「…そういや、最初はぜんぜん売れなかったよなぁ〜」


「えぇ!そうなのかいっ!?」


と、驚いたのはダニエルだ。


「そうそう。な、アンナ?」


「ですね♪麺だけ召し上がって、具とスープはぜーんぶ残されたりしてました♪」


「色々変えてもなかなか受け入れてもらえなかったしなぁ〜」


「フフッ♪あの時の幹太さん、不機嫌でちょっと怖かったです♪」


「ちょ、それはさんざん謝ったじゃん!」


「芹沢様、不機嫌になったりするんですね♪」


「そーですよーゾーイさん♪

めっちゃ不機嫌で、私泣かされちゃいましたから♪」


「だからゴメンって!」


「フフッ♪だから大丈夫ですって♪もうとっくに許してますから♪」


四人がそう話していると、今度はダウニング一家がやってきた。


「いらっしゃいませ♪ソフィアさん、ティナさん、パットさん♪」


そう言って、アンナはカウンター越しに水の入ったコップを三人に渡す。


「もしかして…ソフィアさんがお客で来るのってこれ初めてじゃない?」


幹太は今さら、そのことに気づく。


「フフッ♪そうですね〜♪」


「お義父さまとお義母様はいつまでこちらにいられるんです?」


「それが今日までなんです。ね、あなた?」


「そうだな。明日には村に帰らないといけなくて…申し訳ありません、アンナ様」


「い、いえ、申し訳ないなんてそんな!

お仕事もありますし、仕方ないですよ!」


畑の他に牧場を持っているソフィアの両親は、長く村を空けることはできないのだ。


「お、だったらウチらと同じだな」


「えっ!ニコラさんのところも明日帰るんですか!?」


そう聞きながら、アンナはニコラたちの前にコラボラーメンを置いた。


「まぁな。店を任せっぱなしじゃこっちの人にも悪いし、リンネだって、そろそろ島の友達にも会いたいだろ?」


「うん♪」


「そっか…寂しいけど、それじゃ仕方ないな…」


「ですね…」


そう言って、幹太とアンナは幸せそうにラーメンを食べるリンネを見つめる。


「ん〜?けどニコラ、あなたたちが住んでるのってサースフェー島でしょ?」


「はい。そうですクレア様」


「だったら…ゾーイの家族に会いに行く時に会えるんじゃない?」


「「「「「あ!」」」」」


ここからゾーイの国のある大陸へと渡る定期船は、サースフェー島を経由する航路で運航されている。


「じゃあ、またすぐにリンネちゃんに会えますね♪」


「うん♪ぜったいあいにきてね、アンナおねえちゃん♪」


と、アンナとリンネがカウンター越しに手を取り合ったところで、なにやら異世界屋の屋台の周りが騒がしくなった。


「まさか…本当に今日から働いているとはな…」


「ね、言ったでしょ♪」


「シャノンちゃん、あれはバザーの時のラーメンよね?」


「えぇ、そうです」


「クレアもいるようだぞ、クロエ」


「はい」


騒がしくなった人々の間を割るようにして現れたのは、トラヴィス国王とジュリアとローラ王妃、そしてシャノンとビクトリアとクロエだった。


「ちょ、ちょっとアンナ!あなたのとこの家族、全員来てるけど…」


「…大丈夫です。正直、絶対来るって思ってました」


「そうね…実は私もそう思ってたわ」


「幹太さん、私、ひとまずお父様たちを向こうの席に案内してきますね」


「あ、あぁ…よろしく頼む」


「では、いってきます!

お父様、お母様〜!席はこちらですー!」


アンナは勢いよく屋台から飛び出し、人混みを掻き分けながら家族の元へと駆けていく。


「フフッ♪幹太はあの家族の一員になったわけね♪」


何やら家族に向かって話しているアンナを見ながら、クレアはそう言った。


「えぇ…最初のうちは反対されましたけどね」


「えっ?それってトラヴィス様が?」


アンナと幼馴染のクレアは、トラヴィスが自分の娘たちを溺愛していることを知っているのだ。


「いえ、ビクトリア様です…」


「あぁそうね…ビクトリア様もそうだったわね」


「はい…」


幹太はそう返事しながら、今度はこのブリッケンリッジにやって来た頃を思い出していた。


「正直言ってアンナと結婚するなら駆け落ちするしかないなって、思ったこともありましたけど…」

 

「フフッ♪それはつまり、相当な目にあったってことなのね♪」


「はい。詳しくは話せませんけど、下手をしたら命に関わるって感じでしたよ」


「そりゃそうよ♪なにせ、最愛の妹に手を出した男ですもの♪

それでこうして結婚できたなんて奇跡だわ♪」


「えぇ。それもこれも全部ローラ様のおかげなんです」


「そっか、ローラ様も一般のご家庭出身だったわね…」


幹太たちはそのローラが出した条件をクリアしたことで、王家公認で婚約することができたのだ。


「幹太さん、あそこのテーブルはご当地ラーメン七つです」


とそこで、アンナが屋台に戻ってきた。


「七つ?六じゃなくて?」


「はい♪後からムーアも来るそうなんで♪」


「お、了解」

 

幹太はひとまず麺を六つ掴み、麺上げ担当のダニエルに手渡す。


「ダニエルさん、よろしくお願いします」


「う、うん。が、頑張るよ…」


「どうしたの?なんか緊張してない?」


そう聞いたのはクレアだ。


「き、昨日はメーガンが気になっててよくわかってなかったんですけど…僕、王家の方と働いたり、作ったラーメンを食べてもらったりしてたんですよね…」


「フフッ♪大丈夫よ、ダニエル♪

あなたは昨日も立派にやっていたわ♪」


「は、はい。頑張ります」


そしてそんなダニエルの前に二人の男が座った。


「や、クレア♪」


「お、お兄様…今日お帰りになるんじゃなかったんですか?」


「うん。だけど、その前にここに寄ったんだよ」


「あ、ありがとうございます♪」


「今日もコラボラーメンはあるのかい?」


「はい♪あります♪」


「じゃあそれをお願い♪」


「はい♪幹太、お兄様はコラボラーメンだって♪」


「あ、はい。かしこまりました…」


クレアにそう返事をしながら、幹太はマーカスの隣に座る男をジッと見つめていた。


「もしかして…ジェイクさんですか?」


「あぁ、そうだ」


マーカスと一緒に異世界屋にやって来たのは、リーズでさんざん幹太たちを困らせたジェイク・ダベンポートだった。


「ジェイク様!?ど、どうしてこちらにっ!?」


何も聞いていなかったダニエルはジェイクの顔を見て驚く。


「…それはもちろん、お前のところに子供が産まれたお祝…」


「えっ!ウチの子がなんです…?」


「ウォッホンッ!いや…お前たちが新しいラーメンを作ったと聞いてな…そ、その調…そうだ!調査のためにここへ来たのだ!」


昨晩遅くにメーガンの出産を知ったジェイクは、最新鋭の馬車をブッ飛ばしてこのブリッケンリッジに来ていた。


「フフッ♪あいつ、ぜったい出産の祝いを言いに来たのよ。ね、ゾーイ?」


「はい♪

私、ジェイク様ってもっと意地の悪い方かと思ってました」


クレアとゾーイは、ニヤニヤしながらヒソヒソ声でそう話す。


「そうですか…」


「も、もちろんそうに決まってる…」


「でしたらジェイク様、後で少し時間をもらえませんか?」


「なぜだ…?」


「ぜひ私たちの娘に会っていただきたくて♪」


「な、なぜ私がお前たちの娘に会わなねばなんのだ…」


「ジェイク様がいなければ、今の私たちはいないからです」


「なっ!そ、そんなことはないだろう…」


「いいえ。田舎者の私とメーガンがクレア様とこうして一緒にお仕事させていただけているのも、何不自由なくレイブルストークで暮らせているのも、全部ジェイク様のおかげです」


ダニエルは真剣な表情で、ジェイクの目を見ながらそう断言する。


「…そうか」


「はい♪ですから、ぜひ会って行って下さい」


「…わかった。時間を作ろう」


というより、今回ジェイクがシェルブルックに来た理由はもちろんそれでだった。


「良かったです♪

では改めて…いらっしゃいませジェイク様。

ご注文は何にしますか?」


「二人の姫のコラボラーメンで頼む」


「はい♪かしこまりました」


「…そ、そうだダニエル!」


「はい。なんでしょうジェイク様?」


「きょ、今日私の乗って来た馬車に赤ちゃん用の洋服などがあるのだが…いるか?」


「えっ!なぜジェイク様がそんな物を?」


「そりゃもちろんお前たちの子供の為に買…って違ーう!

偶然、あくまでぐーぜん!これから売る物の試作品を持ってきていただけだぞ!」


「そうなんですか…?でしたら、もちろんお願いしたいです」


「よし!」


この場所で一人だけ上手くごまかせたと思っているジェイクは、メジャーリーグスタイルのガッツポーズを繰り出す。


「ジェイク様?」


「ウォッホン!わかった…後で王宮に届けよう」


「ありがとうございます、ジェイク様♪」


そうして幹太たちがさんざんツンデレ劇場を見せつけられたところで、亜里沙と由紀がブラブラ歩きながら屋台へとやってきた。


「オッス、芹沢!昨日はお楽しみでしたね!」


「ちょっと亜里沙!」


「いらっしゃい臼井さん…んで、それもうアンナがやってるから…」


「ハイ♪アンナ、朝イチでかましました♪」


「あ、そうなの?そりゃ残念♪」


「由紀もいらっしゃい。今日はお客だよな?」


「うん。そのつもりだけど…」


そう言って、由紀は辺りを見回す。


「…手伝う?」


昨日ほど忙しくはないものの、今日は外回りを担当しているソフィアがお客なため、異世界屋の前には少し列ができていた。


「ん〜?じゃあ食べ終わったらお願いしようかな」


「了解。じゃあ私はご当地ラーメンね♪」


「芹沢、私は街道ラーメンでお願い♪」


「はいよ。こちらご当地と街道でーす!」


そうして一通り家族や知り合いが来店した後、最後にムーア導師が異世界屋にやって来た。


「ホホッ♪商売繁盛じゃの、クレア様」


「えぇ、導師様♪おかげさまで♪」


「ワシはここでいいかの?」


そう言って、ムーア導師は亜里沙の隣に座る。


「いらっしゃいませ、ムーア♪注文は聞いてますよ♪」


「では、それでお願いしますぞ、姫様」


「はい♪」


アンナはムーアにお冷やを手渡し、調理に戻った。


「あ、あの…ムーアさん?」


「おぉ…亜里沙嬢だった…かな?」


「はい」


「亜里沙嬢は美しいのぅ…」


「えぇっ!ジイさん!いきなり何言って…」


「今となっては遠い場所にいる、妻の若い頃にそっくりじゃ…」


「そうなんだ。それは悲し…」


「そうなんじゃよ。まさかこの年で別居を言い渡されるとは…」


「って、別居かーい!」


昨晩、超絶へべれけで家に帰ったムーア導師は、妻に家を追い出されたのだ。


「はぁ…まぁいいか、奥さん生きてんなら。

あのね、ムーアさん…」


「なんじゃ亜里沙嬢」


「私、日本にいつ帰れるの?」


「んっ?なんじゃ…亜里沙嬢は日本に帰りたいのか?」


「うん。できたら一度」


「なら、今晩にでも帰れるぞい」


そうなのだ。

ムーアは昨日ビクトリアが話していた人工の魔石を使った異世界転移魔法を、すでに完成させていたのである。

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