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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第6章 四人の花嫁編
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第250話 ザ・姫屋

「そういえばそんな感じするな…」


と、アンナの言葉を聞いた幹太は、目の前の大通りに目をやる。


「この辺りもかなりお店が増えましたよね〜♪」


街歩きが趣味のソフィアも、徐々にこの街が活気づいてきていることには気が付いていた。


「うむ。それは確かだな」


カウンター横からそう言ったのは、シャノンと共にアンナ達の様子を見に来たビクトリアだった。


「お姉様?そうなんですか?」


「あぁ、そうだぞ。な、シャノンちゃん?」


「そうですね…この大通りでも長い間空き部屋だった場所が、かなり埋まってきています」


「商店の数が増えた分、各国との貿易も増えているしな」


クレアがお手本としているビクトリアは、当然その辺りのことも把握している。


「っていうか、これだけお客が来てて活気がないってことないでしょ!」


「そうですよっ!」


と、呑気に話すビクトリアたちに全力のツッコミを入れたのは、開店直後からずっと屋台と客席の間を行き来している由紀とゾーイである。


「ね、ねぇ幹ちゃん、こんなに忙しかっのって初めじゃない?」


暇さえあれば幹太の店を手伝ってきた由紀でさえ、これほど続けてお客がきた経験はさすがになかった。


「たぶんな…っていうか、俺も腕が痺れてきた」


炒め物を作る時に幹太が使っている北京鍋という持ち手が一本の中華鍋は、五徳と鍋がぶつかるたびにかなりの衝撃があり、休みなく振り続けると手首に腱鞘炎のような症状がでるだ。


「…調理は無理ですけど、接客は手伝いますよ」


そう言って、シャノンは由紀の持っていたお盆を手に取る。


「えっ♪いいの?」


「えぇ、今日は護衛じゃないそうですから…」


「うん。何度も言うが、今日のシャノンちゃんの肩書きは私の妹であり、アンナの姉ということだけだぞ♪」


「…だそうです」


「やた♪それじゃあ表まわりは三人ね♪」


「いいや、私も手伝うから四人だ!」


そう言って、ビクトリアは隣に控えた護衛のクロエからエプロンを受けとって身につける。


「クロエ、私はもういいからクレアの方に行ってあげてくれ」


「えっ!いいのですか?」


「あぁ、先ほどからあちらが気になっているのばバレバレだぞ」


そう言って、ビクトリアは親指で真後ろにある紅姫屋を指差す。


「フフッ♪やはりクロエも私と同じく姉だな♪」


別々の家に養子として引き取られているが、クロエとクレアは姉妹である。


「で、では、お言葉に甘えて行ってきます!」


クロエはビクトリアに敬礼し、振り返って紅姫屋へと駆けていく。


「ちょ、ちょっと待って…姫屋で王族三姉妹が働くの?」


さすがの由紀も、この事態は想像していなかったようだ。


「向こうは強敵ですから、全戦力を使わないとです」


と、ゾーイはキュッと可愛く拳を握る。


「フハハッ♪向こうはクロエにクレア、それにマーカスとダニエルか…確かに強敵だな♪」


「ですね…」


シャノンはそう答えつつ、豪華絢爛なビクトリアの頭に大きめのタオルでほっかむりをする。


「あれ?もしかしてこれって…シェルブルックとリーズの代理戦争になってないか?」


「な、なってますよね〜」


元都民と元村人は、いつの間にかその戦いに巻き込まれていた。

 

「やりましたね、幹太さん♪お姉様がいれば人手は十分です♪」


「け、けどさ、たまに手伝ってくれてたシャノンさんはともかく、ビクトリア様がラーメン屋なんて…」


「フフッ♪心配ないです♪その証拠に、あれを見てみて下さい♪」


と、アンナが手で指した先には、水の入ったグラスをたくさんお盆に載せ、キビキビと歩くビクトリアがいる。


「えぇっ!マジかっ!?何段重ねてんだっ!?」


「ね、凄いでしょ♪」


「つか、完全に玄人じゃねぇか!」


幹太の言葉通り、悠々と客席を歩くビクトリアの姿は、先ほどから紅姫屋を手伝っているバイトマスターの亜里沙と通ずるものがある。


「お姉様、一時期ビアホールで働いてたんですよ♪」


「ビクトリア様がビアホールっ!?」


重度の民族衣装フェチである幹太は、すぐさまディアンドルを着たビクトリアを想像する。


「おいおい、そんなの最高じゃ…い、いや、なぜ王女がそんなところで?」


「ん〜、前に聞いた時は市政を知るためだとおっしゃってましたけど…」


シェルブルック王国大好きっ子のビクトリアは、副将軍なご老公と同じことをしていたのだ。


「よ、よし!と、とりあえず…今はこの山のような注文を捌くことに集中しよう」


幹太はなんとか妄想を振り払い、額にタオルを巻いて気合いを入れなおす。


「アンナちゃーん!こっちは新婚ラーメンが三つだぞ!」


とそこへ、さっそくビクトリアが受けた注文を大きな声で伝えてくる。


「はい♪了解です♪」


どうやら姉妹で働けるのが嬉しいらしく、アンナは満面の笑みでそう返事をした。


「ハハッ♪この国のやっぱり王族ってすげぇな…」


「ですね〜♪」


そう言って笑い合う二人は、もはや自分たちも王族の一員であることをすっかり忘れていた。

そうしてそれからしばらくの間、屋台で王家三姉妹を一目見ようと姫屋にたくさんのお客が押し寄せてくるという事態になったのだ。


「わっ!まだけっこうお客さんが並んでるよ、幹ちゃん!」


さらに辺りが暗くなり始めても、姫屋にも紅姫屋にもお客の列は絶えない。


「…アンナ、麺は残りどのぐらいだ?」


空の麺箱の山を見た幹太は、すぐさまそう聞いた。


「えっと…ちょっと待ってください…」


アンナは調理台の引き出しに入った、紙で覆われた麺の数を数える。


「新婚ラーメンも街道ラーメンもどちらもあと二十です…」


「えっ!もうそんだけなのか?」


「はい…」


とはいえ、これは麺を仕込んだアンナせいでも、この客足を見通せなかった幹太のせいでもない。


「屋台に積める限界までアンナが頑張って作ってくれたのに、まだ足りなかったか…」


そう。

幹太の使っていた手押し屋台を王家の馬車に載せただけの姫屋は、もともと食材を載せる

スペースが限られているのだ。


「あちらはどうなんでしょ〜?」


ソフィアの言うあちらと言うのは、もちろん紅姫屋である。


「いや、あっちの方がかなり広いから、麺はあるんじゃないかな…」


ダニエルたちが使っている紅姫屋の屋台は、マーカスがリーズ公爵家の威信をかけて製作して幹太に贈ったものである。

スペースだけを比べても姫屋よりかなり広い。


「ひとまずこっちは全部売り切れになりそうだから…っと、由紀!」


「はーい!なぁに幹ちゃん?」


「あと二十ずつだから、注文気をつけててくれ!」


「二十ね…了解!」


由紀はそう言って、並んでいるお客の注文を取りに走った。


「私たち勝てますかね…?」


と、アンナは不安な瞳で幹太に聞く。


「どうだろうな…けど、俺はいい勝負だと思うぞ」


「私がもう少し麺を作っていれば…」


「うんにゃ、そりゃ無理だ」


結局のところ、この屋台でこれ以上のお客を捌くことは物理的に不可能だったのである。


「亜里沙さん!リンネちゃん!」


とそこで、向かいの屋台からダニエルの大きな声が響いた。


「コラボラーメン売り切れですっ!」


「ほーい!コラボラーメン、売り切れでーす!」


それを聞いた亜里沙は、すぐさまお客に向けてそう繰り返す。


「ほらな♪」


「えっ?えっ?どうしてですか?

紅姫屋の方が麺は多くあるはずなのに、ま、まさか、お客の数が…」


「いや、そっちはそんな変わらないだろ」


「でしたら、なぜ?」


「アンナ、それは全部売り切った後にしよう」


「あ、はい!」


その後も幹太たちは必死でラーメンを作り続け、すっかり日が暮れた頃に、持ってきた全ての麺を売り切った。


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