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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第6章 四人の花嫁編
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第241話 才ある二人

「これはまさにアンナ王女と私、そしてシェルブルック王国とリーズ公国の強い絆を象徴したお料理です。

皆様、ぜひお召し上がりください♪」


そう締めくくってクレアが壇上から降りると同時に、ホールの入り口から給仕係が屋台を山車だしのように押して入ってきた。


「か、幹太…僕、ここににいていいのかな?」


「半分以上はダニエルさんが作ったんだから、いてくれなきゃ困りますよ」


「一緒に頑張りましょう〜♪」


さらにその後ろには、幹太とダニエル、そして先ほど幹太について行ったソフィアの姿も見える。


「絆を象徴って…そんなんだったっけ?」


「ん〜?アンナとクレア様のことを考えて作ったんだから、まぁ間違ってはない…のかな?」


亜里沙にそう答えて、由紀は苦笑する。


「さすがですね…クレア様」


「フフッ♪シャノン様もそう思いますか?」


そう聞いたのは、ようやく令嬢たちから解放されたゾーイだ。


「えぇ。ここ以上にあのラーメンを宣伝するのに有効な場所は、他にないでしょうから」


クレアは様々な国の貴族や大使の集まるこの場所を単なる祝いの場でなく、二人の姫のラーメンを宣伝する絶好の機会と捉えていたのだ。


「すごいな、クレアは…」


そう言ったのは、挨拶まわりを終えて戻ってきたマーカスだった。


「マーカスは知らなかったんですか?」


「うん。スピーチするのは知ってたけど、屋台をやるのは知らなかったよ。

確か…スピーチ自体はシェルブルック側から頼まれたって言ってたと思うけど…」


「いいや、それもクレアが考えたことだぞ」


「ビクトリア様…そうなんですか?」


マーカスは自分と同じく、挨拶まわりを終えてアンナの元へとやってきたビクトリアに聞いた。


「あぁ。本来なら王族の結婚披露パーティーでスピーチなどしないであろう?」


「そういえばそうですね…」


国を代表して様々な結婚式に出席したことがあるマーカスだが、これまで出席した晩餐会などで友人がスピーチをすることなどはなかった。


「芹沢幹太と由紀が違う文化圏から来たことはなんとなく国民に知らせてあるからな、後でリーズ贔屓びいきなどと言われぬよう、彼らの文化だからとシェルブルック側から頼まれた、ということにしたのだろう」


事実、由紀は結婚式ついての話し合いの中で、日本の結婚式はどのようなものかクレアに話している。


「クレアはそこまで考えて…?」


「あぁ、本当にすごい才能だ」


「…とはいえ、この会場で新郎が屋台を開くなんて、トラヴィス国王様もよく許してくれましたね?」


「ハハッ♪案外、父上は知らなかったかもしれんぞ♪」


「えっ!それはどういう…」


「この屋台を許可したのはローラお母様だからだ」


「あぁ…なるほど」


そう言って、マーカスは屋台の方を見る。


「だからトラヴィス様がいない時に出してきたのかな?」


「たぶんそうだ」


お偉方の集まるこういったパーティーでは、国王は遅れやって来るのが通例である。


「アンナは手伝わなくていいの?」


亜里沙はラーメン王女のアンナなら、このドレス姿のまま屋台で働きかねないと思っていた。


「はい♪今回は三人にお任せします」


一方その時、アンナたちが見ている屋台の中では、


「しかし…ダニエルさんはすごいな…」


盛り付け役に回った幹太が、隣で麺を湯がくダニエルを眺めながらしみじみとそう言っていた。


「うん?なにがかな?」


「だって、ダニエルさんがラーメンを作ったのって、前回のリーズが始めだったんですよね?」


「そりゃそうだよ。なんたって幹太が来るまでは無かった料理だもん」


「なのに今回、ダニエルさんは俺が作ったスープの臭みを見事に消してみせた」


幹太がダニエルにレシピを送ったスープは、鶏ガラと鰹節合わせた、臭みの残る魚介風味の濃いスープだった。


「ん〜?けど、僕としてはちょっとしか改良してないつもりなんだけど…」


「いや、ちょっとどころじゃないでしょ…」


ダニエルはそのスープに自分なりの改良を加えることで、臭みのない鰹メインのスープを完成させたのだ。


「そんで、具はこれですか…」


幹太は丸い団子のようなものがたくさん入ったタッパーを、調理台の下から取り出した。


「うん。これは自信作なんだ♪」


ダニエルは幹太が自分たちのラーメンに頭を悩ませているうちに、メインの具を完成させていたのである。


「まさか白髪リーキだけじゃなくて、イワシのつみれで来るとは…」


ダニエルが今回のラーメンに選んだ具は、先日見事な腕前で刻んでみせた白髪リーキ、つまり白髪ネギとこちらの世界でもメジャーな魚であるイワシのつみれだった。


「ツミレ…?幹太の世界ではそう言うの?」


「ってことは…つみれってこっちの世界にまだ無かったのか!?」


幹太は驚愕した。

すでに日常会話ができるほどこちらの公用語を覚えた幹太ではあるが、いまだにムーア導師の翻訳の魔法はまだかかったままであり、お互いの世界で同じ物が存在する場合は訳されて相手に伝わるはずなのだ。


「すごい!ダニエルさんはこの世界に新しい料理を作ったんだ…」


「あ〜、それはたぶんそうだと思うよ。

もちろんリーキだけじゃダメっていうのもあったんだけど、両方の国のこれからを担うクレア様とアンナ様のラーメンだったら、なにか新しい具を使った方がいいなって思ったんだ♪」


「ということは…やろうと思って新しいお料理を作ったんですか〜?」


ソフィアは改めてダニエルにそう確認する。


「そうだね。それにイワシとカツオはどっちの国でもよく獲れるみたいだから、二つの国の友好を表現するのにちょうどいいかなって思ったんだ♪」


つまりダニエルは幹太のように直接的に二人の姫を表現しようとはせず、二人がこの先進んで行くであろう未来を、このコラボラーメンで表現しようとしたのだ。


「すごいです〜!でしたら、どちらの国でも簡単に作れるんですね〜♪」


「うん。そうなるね♪」


要するに二人の姫のラーメンは、シェルブルック王国とリーズ公国のどちらの国でもご当地ラーメンになり得るのである。


「そういやすり身にした練り物はあったけど、こっちに来てからつみれは食べたことないな…」


現に幹太は以前、こちらの世界のナルトを使ってラーメンを作っていた。


「メーガンもお魚だけのお団子は食べたことあるけど、こうして色々混ざってるのはないって言ってたかなぁ…」


「それで…どうやって作ったんですか?」


「どうやってって…?こうしたら美味しいだろうなって思ったものを、そのまま作ってみただけなんだけど…」


「だけって…だからそれってすごいことなんじゃ…」


「ハハッ♪メーガンもそう言ってくれるけど、僕の家は食堂だから、新しい料理を作ってメニューに加えるなんてよくあることさ」


「なるほど…って、そういえばメーガンさんは?」


「メーガン、今日はちょっと体調が…」


「おぉ…そりゃ心配ですね。戻らなくて大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫。お城のお医者さんが付いててくれてるから…っと、時間だ」


当たり前ではあるが、シェルブルック王家お抱えの医者は、妊娠、出産においても最高の名医である。


「はい!じゃあいくよー!」


ダニエルは麺を湯切りをし、幹太の前にあるスープ入りのどんぶりに入れた。


「よし。完成だ…」


幹太はそのどんぶりに素早く具を盛り付け、出来上がった二杯のラーメンを給仕係の前に置く。


「白髪ネギとイワシつみれの醤油ラーメン!お待ちどーさま!」


そう。

今回二人が作ったラーメンは、鰹の風味が香るスープに、切りたての白髪ネギとイワシのつみれを載せた、あっさり系の醤油ラーメンだった。


「フフッ♪醤油ラーメンにしたんですね〜♪」


「そうなんだよ。意外とすぐ決まってさ」


それはダニエルがシェルブルックに来てからの二人の姫ラーメン検討会でのこと。


「スープも魚で具も魚なら、やっぱり醤油だろ」


「うん♪僕もそれが一番だと思う♪」


二人はそんな単純な理由で、このラーメンのタレを醤油に決めたのである。


「フフッ♪でも幹太さん、このラーメンは二人の姫のラーメンじゃないんですか〜?」


「あ、そうだった!」


幹太は興奮のあまり、当初の目的をすっかり忘れていた。


「まずは王妃のお二人からですよね?」


「はい。そうなります」


そう答えた給仕係と共に、幹太とダニエルはジュリアとローラがいるテーブルへと向かった。

今回の結婚披露パーティーは立食形式で行われているが、このラーメン企画のため、会場の三分の一ほどにテーブルとイスが用意されている。


「まぁ♪これが今回のラーメン?」


「フフッ♪美味しそう♪」


「さっそくいただきましょう、ローラ♪」


「えぇ、そうね♪」


そして二人の王妃は、二人の王女のラーメンを食べ始めた。


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