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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第6章 四人の花嫁編
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第229話 理想の具現化

「キャベツに玉ねぎ…にんじんにもやし…うん♪全部私たちが食べ慣れた野菜炒めだね、亜里沙♪」


「確かに使ってる野菜は見覚えあるもんばっかだけど、ちょっと色が違くない?」


「そう言われてみればそうかも…」


「二人ともとりあえず一口食べてみてくれないか?」


「うん♪」


「あぁ、そんじゃ…」


と、幹太に促された由紀と亜里沙は、ラーメンの上に山盛りになっている野菜炒めを食べた。


「あれ?これって挽肉が入ってる?」


「うん。あ、後…ちょっぴり辛い…?」


「うん。二人とも正解…っていうか、由紀はそのピリ辛の味に似た味、どこかで食べたことないか?」


「ん〜?こんな感じのピリ辛…?あ!」


由紀は幹太との膨大な記憶の中から、以前に食べたこの味と似たもの思い出した。


「正蔵おじさんのピリピリラーメン♪」


「おぉ!やっぱり覚えてたか!」


「けど…あれって味噌ラーメンじゃなかった?」


由紀のいうピリピリラーメンとは、以前幹太の父、正蔵の店でやっていた辛い味付けの味噌ラーメンの名前である。


「そうなんだけど、今回は同じような辛味の元を野菜炒めの味付けに使ってみたんだ」


「正蔵おじさんの辛味の元…?それってどんなのだっけ?」


長らく幹太とは一緒にいるものの、ラーメンは食べるのがメインの由紀は、正蔵が何を使ってラーメンを辛くしていたのかわからない。


「ほら、覚えてないか?

親父がアイスクリームをすくうお玉みたいなのでラーメンになんか入れてたろ?」


「あ、なんかお味噌…?みたいなのだったかな?」


子供の頃の由紀は、あれで掬うのはお味噌じゃなくてアイスクリームがいいなぁといつも思っていたのだ。


「そうそう。正確に言うと辛味挽肉味噌だけどな」


正蔵の辛味味噌には、豆板醤と味噌、そして一度蒸した挽肉ひきにくが入っていた。


「てーことは、これは芹沢の親父さんの作った辛味味噌で炒めたのか?」


「まぁベースにはしたけど、今回のヤツは親父の辛味味噌に一味だの醤油だのその他色々と加えた、俺特製の辛味挽肉味噌って感じだな」


幹太は持てる知識を総動員し、今回の野菜炒めのために味付け用の辛味挽肉味噌を完成させていた。


「つまりお父様と幹太の合作ってわけね♪」


そう言いつつ、クレアも野菜炒めを口にする。


「うん。美味しいわ♪」


「ねぇダニエル、さっきこれ以上見ない方がいいって言ったのは、これのことだったの?」


「うん。そうだよ、メーガン♪」


ダニエルは先ほど野菜炒めを作っていた幹太が鍋に少量のスープでいた何かを入れたとたん、厨房にトウガラシと挽肉の香りが広がったのを感じ取っていたのだ。


「けど、本当にいい方法だね。

挽肉を使えば野菜炒めの味に深みが出るし他の具の邪魔にもならない」


さらにダニエルは、幹太がこの野菜炒めに辛味挽肉味噌を入れたのか正確に理解していた。


「私、今まで食べたラーメンの中でこのラーメンが一番好きかも知れません♪」


厨房にいる幹太とアンナに向けてそう言ったのはゾーイだった。


「フフッ♪それはそうでしょうね♪

ね、幹太さん?」


「あぁ、なんてったってこのピリ辛はゾーイさんにとっても慣れ親しんだ味のはずだしな♪」


「ほぇ?私が慣れ親しんだだって…」


そう言った瞬間、ゾーイはあることに思い当たる。


「もしかして…あの時のトウガラシですか?」あ


ゾーイは手に箸を持ったまま、顔の前で手を合わせた。


「実はそうなんだ。

そのピリ辛に使った一味はゾーイさんの国のトウガラシから作ったんだよ」


幹太は先日買ったゾーイの国、ロシュタニア産のトウガラシで一味を作り、それを辛味挽肉味噌に加えていた。


「私の国のトウガラシでこんなに美味しくなるなんて、なんだかとっても嬉しいです♪」


「フフッ♪大成功ですね、幹太さん♪」


「だな♪」


幹太とアンナ向かい合い、ハイタッチをする。


「そんで次はこれかよ…」


そう言って、亜里沙は掴んだ箸がしなるほど分厚いチャーシューを持ち上げた。


「なぁ芹沢、このチャーシューどうしてこんなデカいの?」


「いや、それは…」


「それは私の欲望を具現化したものです!」


勢いよくそう答えたのはアンナだった。


「…そういうことなんだよ」


それは先日、幹太がアンナにこの試食会をやると伝えた日のこと。


「もし好きなだけチャーシューを入れられるとしたら、アンナはどうする?」


姫屋の営業中、チャーシューの盛り方についてぼんやり考えていた幹太は、うかつにもアンナにそう聞いてしまったのだ。


『ボーッとしてたとはいえ、俺はなんてことを聞いてしまったんだ…』


と、後悔する幹太に対してアンナが言った答えは、


「量もたくさん欲しいですけど!ラーメンに載せられる限界まで厚切りでお願いしたいですっ!」


というものだった。


「けど、これってもうチャーシューじゃなくて豚ステーキじゃね?」


ラーメンの上には載ってはいるものの、二センチに迫る厚さを持つチャーシューは、亜里沙の言う通りステーキと言っても過言ではない。


「見ためはそうだけど、ちゃんと柔らかくなってるね♪」


と、ダニエルは一度チャーシューを持ち上げて観察した後、箸で器用にチャーシューを切って一口食べる。


「あれ?いたって普通の味付け…いや、違うな…」


「何が違うの?」


「メーガンも食べてごらんよ」


「そうね♪」


ダニエルに促され、メーガンも自分のチャーシューを一口食べた。


「ん〜?ダニエルが作るのとはちょっと違うけど、そんなに…あっ!」


何かに気付いたメーガンは思わず口を押さえる。


「ニンニクの味がするわ♪」


「うん。噛んでる内にじわじわニンニクの味が染み出してくる感じだね♪」


そう。

幹太がピリ辛野菜炒めと共に今回の塩ラーメンの具として選んだのは、ニンニク醤油味の超厚切りチャーシューだったのだ。


「この味付けは幹ちゃんが考えたの?」


「あ、いや、それは…」


「それも私の提案ですっ!」


と、由紀の質問にアンナがシュバッと手を上げて答えた。


「では、お話しましょう…」


「あのアナ…今は試食中ですから、お話は後に…」


「コホン…あれは、まだ私が子供の頃のことです…」


「そこからですかっ!?」


「そこからかよっ!」


なぜか試食の真っ最中にいい感じ語り始めたアンナに、シャノンだけでなく亜里沙もツッコむ。


「フフッ♪ただ子供の頃にローラお母様が作ってくれたニンニクソースの豚ソテーが、すっごく美味しかったってだけのお話なんですけどね♪」


「あぁ、お母様の豚ソテーですか…あれは私も好きです」


王妃ローラの作るニンニクソースの豚ソテーは、アンナたち三姉妹の大好物なのだ。


「そうなんだよ。アンナの話を聞いて、じゃあ一丁やってみっかって思ってさ」


アンナの話を聞いた幹太は、自分の世界でも肉のタレとしては定番である、ニンニク醤油味のチャーシューを作ってみることにしたのだ。


「それで…幹太はこんなに分厚いチャーシューにどうやってニンニクの味をつけたの?」


そう聞いたのはクレアだ。


「最初っから厚切りにするつもりだったんで、濃いめに味付けをつけるためにスープで煮た後、さらに醤油ベースのタレで煮たんですけど…」


基本的なチャーシューの作り方は、今回幹太がやったように一度ラーメンのスープで煮たチャーシューを再び醤油ダレ煮るのではなく、スープで煮たチャーシューをタレに漬け込むことで味付けをする。


「うん」


「そのタレにけっこうな量のすりおろしニンニクを入れました」


「ふーん、それでキチンと味がつくのね…」


「まぁ最初はアンナの提案で生の状態の豚ロースをおろしたニンニクに漬け込んでみたんですけど…な、アンナ?」


「はい。あれは失敗でした」


「あら、それはどうして?」


と、クレアは幹太に聞いた。


「ニンニクの風味がラーメンスープに移っちゃったんです」


「えぇ、チャーシューにニンニクの味がするのはいいんですけど、ラーメンのスープ自体にニンニクの風味がするのはダメでしたね」


「じゃあスープを別にして煮れば良かったんじゃない?」


「それだとその日に使うスープが足りなくなってしまうので…」


幹太はそのために大きな寸胴鍋を使うことも考えたのだが、それではスープの具材の量をまた一から考えなくてはならなくなる。


「かと言って、チャーシュー用のラーメンスープを仕込むっていうのもコストと労力がかかりすぎだし…」


結婚式が終わった後、幹太はこのラーメンを姫屋の定番メニューにするつもりだった。


「だからチャーシューにしか使わない醤油ダレにニンニクを入れてみたんです」


結果、幹太とアンナはチャーシューにほど良いニンニク味を付けることに成功した。


「…見た目はこんなに豪快なのに、味付けは意外と繊細なのね」


「あ、ちなみに試作したチャーシューは、ぜーんぶ私が美味しくいただいちゃいました♪」


「それは言わなくてもわかってるわよ!」 


アンナはこの三日で、丸々四本のチャーシューを食べてしまっていた。

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