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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第6章 四人の花嫁編
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第217話 あの店の寸胴がデカい訳

「すごい!こんな時間なのに、まだ人が並んでる!」


「えぇ♪それにクレア様もお元気そうです♪」


あれから心ゆくまで動物園を堪能し、夕方前にいつもの屋台村にやって来た幹太とゾーイは、入り口付近から姫屋の様子をうかがっていた。


「けど、これだけ忙しいにまだ売り切れてないなんて…」


幹太の見る限り、屋台村の中央にある席に座っているお客の半分以上がラーメンを食べており、さらに姫屋の前には数人お客が並んでいる。

もしこのような状態が昼から今までずっと続いていたのだとしたら、幹太たちがここへ来る前にラーメンが売り切れているはずなのだ。


「アンナのやつ、これを見越していつもより多く麺を仕込んだな…」


「これを見越してって…アンナ様はクレア様とお店をすれば、こうして忙しくなるってわかってらしたってことですか?」


「うん。たぶんそうだと思う。

アンナって意外と…いや、普段からわりと調子こいちゃうタイプだから、クレア様と自分の二人で姫屋に出たら、絶対に忙しくなるって予想してたんじゃないかな…」


実は幹太の言う通り、アンナはクレアを誘った時点で、今日の営業がウハウハ大繁盛になることを予感していた。


「わ、わりと調子こいちゃうって…あ、あの芹沢様…私、実際アンナ様は大人気だと思うんですけど…?」


なので、少しぐらい調子に乗っても仕方ないのではとゾーイは思っていた。


「うん。まぁ確かに王都だとそんな感じだけど、地方に行くとお姉さんのビクトリア様の方がぜんぜん認知されてるんだぜ」


「ほぇ?そうなんですか?」


「うん。だってアンナ、地方じゃまったく王女だって気づかれなかったし…」


アンナは以前の旅の途中で、立ち寄った町の衛兵や市民に自分が気づかれないことに思いの外ショックを受けていた。

つまりアンナは実際の知名度よりも、もっと自分が国民に認知されていると思っていたのだ。


「プッ…フッ、フフッ…あ、あん時のアンナ…けっこう落ち込んでたなぁ〜」


と、幹太は必死に笑いを堪えながら言う。

幹太との旅の道中、行く先々で部下とも言える衛兵にまで自分を王女とわかってもらえなかったアンナは、それ見ていた幹太が思わず笑ってしまうほど、しょんぼりしつつも可愛いらしい表情をしていたのだ。


「もー芹沢様!あんまり笑っては可哀想ですっ!」


「そうだな、ごめん。

それで、えっと…何の話だったっけ?」


「アンナ様が忙しくなるのを見越して、麺をたくさん作ったんじゃないかってお話です」


「うん。いつものアンナだったら営業時間中に売り切れるぐらいの数で麺を仕込むんだけど、今日はスープの量で作れるラーメンの数ギリギリまで麺を仕込んだんじゃないかなって」


「いつもはスープを余らせてるんですか?」


「うん。ウチはそうだな」


「でしたら、なぜいつも麺とスープを同じ量にしないんです?」


そうして両方売り切ってしまった方が、売り上げも上がるしムダがないのではないかとゾーイは思ったのだ。


「ん〜?今の営業時間の長さだと、ゾーイさんが言うように麺とスープを同じだけ仕込んでもムダが増えるだけになるから…かな?」


「えっと…あ!スープだけじゃなくて、麺も余っちゃうからですか?」


「そう。当たり♪」


そう言って、幹太はゾーイの頭を撫でた。


「フフッ♪やりました♪」


「っていうか、どこのラーメン屋もスープってのはだいたい余るもんなんだ」


「ほぇ?だったなぜスープを少なく作らないんです?」


「おぉ!そっか、普通はそう考えるのか…」


普通なら至極当たり前に聞こえるゾーイの質問は、ラーメン屋の幹太にとっては意外な一言だった。


「それはね、ゾーイさん…」


幹太はゾーイの前に立って少し屈み、彼女の顔の前に人差し指を立てて説明を始める。


「試食ならまだしも、営業ってなるとラーメンのスープって何時間も煮てるでしょ?」


「はい…」


幹太の店のラーメンスープが営業中ずっと沸騰していることは、屋台の手伝いをしたことのあるゾーイももちろん知っている。


「それで、もし量が少なかったらどうなると思う?」


「…あ!」


それは少しでも料理をする者だったら、誰にでもわかることだった。


「お鍋が干上がっちゃうんですね♪」


「ハイ!ゾーイちゃん、またもや正解〜♪」


幹太はニッコリ笑い、再びゾーイの頭を撫でた。


「フフッ♪わ〜い♪」


「まぁ小さな寸胴だと、干上がる前にめちゃくちゃ濃いスープになっちゃうってのもあるんだけどな」


「なるほど…煮詰まっちゃうんですね?」


「うん。

もちろん営業時間が長い時はそうならないように途中で差し水するんだけど、ウチみたいに昼から夕方までの営業だったら、何も足さずにやんわり沸騰させ続けるのがベストなんだ」


普通に考えて、ぬるいスープのラーメンを客に出す店などほとんどない。

つまり各ラーメン店によって火加減は違うものの、日本中どこの店でも営業中のラーメンスープは常に沸騰しているのである。


「だからウチみたいな屋台でもある程度の大きさの寸胴鍋で、余るほどスープ仕込む必要があるんだ」


人気ラーメン店のスープの寸胴鍋が目を見張るほど巨大で複数あるのには、単に来客が多いというだけでなく、たくさん作った方がスープの味が安定するという理由もあるのだ。


「だから姫屋の一日のラーメンの数はさ、市場の閉まる夕方まででなるべく売り切れる麺の数って決めてるんだよ」


そうすればあまり麺も無駄になることもなく、さらに翌日は仕込みたての新しい麺が使える。


「なるべく…?いつも売り切れるわけじゃないんですか?」


「うん。いまは半々ぐらいかな…」


実はよほどの人気店でもない限り、営業時間中に麺やスープが無くなって閉店することはほとんどない。


「今はアンナのおかげで微調整が効くから十個前後しか残らないけど、日本の工場で仕込んでもらってた時は麺箱で一箱半とか残ったりしてたよ」


幹太の東京の屋台では、麺箱一箱に四十個の麺が入っている。


「正直、あれは参るんだよなぁ〜」


日本の幹太の店のように小さなラーメン屋台では、荒天などというこれといった理由もなしに、なぜかまったくお客が来ないことが稀にあるのだ。


「芹沢様、そうして余った麺はどうするんですか?」


「冷蔵庫に入れて翌日までは使うよ」


幹太の経験上、二日目の麺が残ったことはあまりないが、麺工場との契約でそれ以降は廃棄する決まりになっている。


「翌日までですか…」


「うん。けど、二日目の麺って水分が抜けて硬くなっちゃってるから、茹で加減がちょっと難しいんだよなぁ〜」


なので幹太は二日目の麺をお客に出す前に、必ず麺を一つ茹でて試食し、茹で時間を調整していた。


「そういやアンナって、屋台で麺を打てるんだったな…」


今となっては王宮のキッチンを使っているが、アンナは以前の旅の間、ほとんど姫屋のキッチンワゴンで麺を打っていた。


「だったら、これからは売り切れたら追加できる…のか?」


「芹沢様、売り上げが十分なら、これ以上アンナ様を多忙するのは…」


とそこで、不穏な気配を感じたゾーイが即座に幹太をたしなめる。

アンナに歌のレッスンをしているゾーイは、結婚式が近づくにつれてどんどん忙しくなるアンナの状況を心配していた。


「だよな。頼んだら絶対やっちゃうし…」


そしてそれは、もちろん幹太も同じ気持ちであった。


このお話は、その昔、中華街の名店の厨房で働いていた方の話を元に書いたものです。

実際、ラーメンのスープの量は適当でなく、考えて決めている店が多いそうです。

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