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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第6章 四人の花嫁編
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第213話 山盛り肉野菜!

「よし、やるか!」


そして帰って来てすぐ、幹太は王宮の厨房で頭にタオルを巻き、気合いを入れて野菜を刻み始めた。


「久しぶりの切りものだけど、ちゃんと覚えてるもんだな」


そう独り言を言いつつ、幹太はもの凄いスピードでキャベツ、にんじん、玉ねぎ、豚肉をそれぞれ別々の大きさに刻んでいく。

物によって大きさが違うのは、食材によって火の通り方が違うからだ。


「そんでこれを炒めるっと…」


幹太は肉野菜炒めを作り、それを塩ラーメンに乗せようとしていた。

つまりはタンメンを作っているのだ。


「これでよし!完成!」


「そこにアンナ参上ですっ!」


そして塩タンメンが完成すると同時に、アンナが厨房に現れた。


「ヒドイですっ!なぜ私に声をかけてくれなかったんですか!?」


「いや、帰り道ではアンナに声をかけようとしてたんだけど、王宮に着いたら忘れちゃったみたいで…」


「幹太さん、大切なパートナーをである私を忘れちゃったんですか…?」


これまでめちゃくちゃチヤホヤされて育ったアンナは、たまに自分で自分のことを大切とか言う。


「…ごめんなさい」


幹太は調理の手を止め、素直に頭を下げた。


「そうですね…でしたら、そのラーメンで手を打ちましょう♪」


アンナは流れるように調理台の前に置かれたイスに座った。


「フフフッ♪幹太さんのタンメン、久しぶりですね〜♪」


「そっか…ソフィアさんの村で作って以来?」


「たぶんそうだと思います♪

では、いただきますね♪」


箸を手にしたアンナは、さっそく山盛りの肉野菜炒めに突き刺した。


「フー、フー、モグモグ…うん♪これは美味しいですね…この中に入っているお肉は豚バラですか?」


「そう。こっちは豚」


「ほぇ?こっちはということは…他にも考えているラーメンがあると?」


「うん」


「でしたら、そちらもいただきましょう」


気の早いアンナはタンメンのどんぶりをスライドさせ、もう一つラーメンを置けるスペースを作る。


「アンナ…まずはそのラーメンを食べてからにしよっか?」


「わかりました。約束ですよ、幹太さん♪」


次にアンナはレンゲを手に取り、ゆっくりと味わいながらスープを飲む。


「あ♪スープと麺だけの時より美味しい気がします♪」


「お、やっぱりそうか?」


「えぇ。これは…お肉の旨みが入ったからですかね?」


全世界で一番チャーシュー麺が好きなアンナは、チャーシューから出た脂でラーメンが何倍も美味しくなることを知っている。


「そうだな…野菜やお肉の旨みが入ったってのもあるけど、今回は具を炒める時の油も変えてみたんだよ」


「具を炒める時の油って…アレじゃないんですか?」


そう言って、アンナは魔力コンロの隣に置かれている油の入った壺を指差した。

王宮で普段使っている油は、その小さな油壺に入っているひまわり油である。


「うん。今回はラードで炒めてみたんだ」


「なるほど、ラードですか…」


ラードとは、調理用に精製された豚の脂身である。


「でも、なぜラードを使って炒めただけで美味しくなるんです?」


「え〜と、まず一つは炒め物がカラッとパリッと仕上がる」


「あぁ〜!だからチャーハンもラードで炒めてたんですか?」


アンナは幹太がまかないでチャーハンを作る時に、わざわざラードを溶かして使っていたことを思い出した。


「うん。あとは…餃子も焼きに入る時にちょこっとだけラードを入れるとパリッと仕上がるぞ」


「だからこのキャベツもパリッと仕上がってるんですね♪」


「そうだな。

そんで二つ目は、ラードを使うことで炒め物の味も美味しくなるんだ」


「それはなぜです?」


「確かイノシン酸って成分なんだけど、ラードのイノシン酸と醤油のグルタミン酸って成分が合わさると旨みが増すんだよ」


幹太はタンメンの肉野菜炒めの仕上げに、少しだけ醤油を加えていた。


「それに、アンナはラーメンで豚の脂っていうと何か思い出さないか?」


「ラーメンで豚さんの脂ですか…?」


そう幹太に聞かれたアンナは、具の野菜炒めに入った豚肉を咀嚼そしゃくしながら考える。


「チャーシューですか?」


やはりアンナにとって、ラーメンと豚で一番に思いつくのはそれだった。


「いいや、違うな…」


「ちょ、ちょっと待ってくださいね…豚…脂…肉…うまうま…あ!」


と、頭の中の脂滴るチャーシューに涎を垂らしつつ、アンナは手を叩く。


「背脂ですっ!!」


「はいっ!アンナちゃん大正解っ!」


「イエーイ!アンナ、やりました♪」


アンナは立ち上がり、笑顔で幹太とハイタッチをする。


「なるほど…つまり具が美味しくなるだけじゃなくて、ラードには背脂と同じくラーメンの自体の旨みを増す効果があるんですね?」


「正解。それが三つ目だ」


アンナがスープと麺だけの時よりも今回の具の載ったラーメンを美味しく感じたのには、そういう理由があったのである。


「アンナも俺が背脂を仕込んでいるのを見たことあるだろ?」


「えぇ、すんごい臭いヤツですよね?」


「そう。すんごい臭いアレ…」


背脂の仕込みは、一匹の豚から取れる大きな背中の脂身をサク切りにし、それを鍋に入れてゆっくりと煮込み、さらにそれをすという大変手間のかかる仕込みなのである。

しかもその調理中、仕込んでいる人間はずっと強烈な脂の匂いに晒されるのだ。


「あれって最後の方になると、ラードみたいに透き通った上澄うわずみが出るだろ?」


「はい♪そう言われてみるとラードと同じ感じです♪」


「もちろん工場で精製されたラードに自家製で仕込んだ背脂ほどの風味はないけど、それでもスープの味にコクが増すぐらいにはなるんだよ」


今回幹太が使ったラードはこちらの世界で買ったものではあるものの、幾つもの工程を経てキチンと精製された真っ白いものだった。


「あとラードと言えば、アンナはウチの近所で買った肉屋のメンチカツを覚えてる?」


「もちろんです♪あのめちゃめちゃ並んで買ったやつですよね?」


幹太の家のある吉祥寺には、メンチカツが名物の肉屋がある。


「そうそう」


「あれだけ並んでいるだけあって、すっごく美味しかったですよね♪」


「ハハッ♪だよな。

ああいう肉屋の揚げ物が美味いのは、ラードで揚げてるからなんだってさ」


「ほぇ?そうなんですか?」


「そうらしい。

コロッケなんかの揚げ物が家よりもお肉屋さんの方が美味しいのは、ラードで揚げてるからだってウチの親父が言ってたぞ」


「でしたら…なぜお家でもそうしないんでしょう?」


「たぶん使うのも面倒だし、保存も大変だからかなぁ〜?」


確かに原料が豚の脂だけにすぐに痛み、常温では固形でいちいち火にかけなければ使えないラードは、とてもじゃないが一般家庭向きとは言えないだろう。


「まぁそれだけに、俺たちプロにとっちゃ強い味方なんだよ」


幹太はそう言って、自分用に分けておいたラーメンを食べ始めた。


「うん。こりゃ充分美味いな…」


「これって…麺はいつものですよね?」


アンナは箸で麺を持ち上げ、一度ジッと見てから口に運んだ。


「そうだよ。さっきアンナが仕込んだやつを一つ貰ったんだけど…」


アンナは幹太たちが帰って来る前に、明日使う姫屋の麺を仕込んでいた。


「このラーメンだったら、この麺よりももっと細くした方がいいかもしれませんね…」


「そうかな?」


具だくさんのラーメンの麺には、このぐらいの太さは必要だと幹太は感じていた。


「えぇ。この塩加減だと、もう少し細い麺の方がスープがよく絡んでより美味しくなるはずです」


「ん〜?絡むスープの量を考えればそっちの方がいい…のか?」


麺にスープを多く絡ませたい時は細麺に、それとは逆にあまり絡ませたくない時には太麺にするのがラーメンの基本である。

アンナは濃い目の豚骨醤油ラーメン用に作ったいつもの麺では、この塩ラーメンには太すぎると判断したのだ。


「…けど、それじゃ歯応えが物足りなくならないか?」


「歯応えは麺自体の硬さで変えれられますから大丈夫です♪」


アンナは麺を打ち始めた当初から、どのぐらい加水で麺の硬さや歯応えがどのように変わるかをキチンとノートにまとめている。


「あ、そっか!そういう手があるんだ」


「はい♪

ですけど幹太さん、ラーメンはこれで決定ではないんですよね?」


「うん。とりあえずこのタンメンは試しに作ってみただけなんだけど…アンナは気に入った?」


「ハイ♪すっごく美味しいです♪」


満面の笑顔そう言って、アンナは再び山盛りの具を食べ始めた。




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