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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第6章 四人の花嫁編
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第197話 伝えるということ

スマホで文章は書くのは、指のリハビリに最適だと気づきました。

そしてそれから数日後、


「えっ?ニコラさんたち、結婚式までいられるって?」


「ハイ♪」


一日の営業を終え、翌日の仕込みがひと段落した幹太のところにやって来たアンナは、満面の笑みでそう報告していた。


「そういえば…俺たちの結婚式っていつなんだっけ?」


「へっ?私、教えてませんでしたっけ?」


「たぶん聞いてない…かな?」


新しいラーメン作りで忙しかった幹太は、ここ数日、再び営業が終わった後も姫屋の厨房に篭っていた。


「王家の結婚式は、国の繁栄を願って一年で最も昼の時間が長い日にやる決まりなんです」


「なるほど、俺たちでいう夏至げしの日か…」


ちなみに、こちらの世界の一年も地球と日数は変わらない。


「日本ではゲシって言うんですか?」


「うん。元々は他の国の暦だったと思うけど、昼が長いのが夏至で、夜が長いのが冬至とうじ…だったかな?

で、今年の夏至はいつなの?」


「六の月の二十一日です。

今日が四の月の十日なので…あとふた月ちょっとです♪」


「そっか…そんだけあればラーメンはなんとかなりそうだ」


「明日、正式に日程を発表しますから、準備もどんどん進みますね♪」


「正式発表…うわぁ〜ちょっと緊張するなぁ〜」


「フフッ♪けど、私に婚約者がいることは国中が知ってますから、お父様たちの結婚式を知っている人たちは、そろそろ発表だって噂してると思いますよ♪」


アンナの婚約は、王妃ローラ主催のチャリティーバザーの後、正式に国民に向けて発表されていた。


「ってことは、みんななんとなく今年の夏至の日に結婚式をやるだろうって思ってるってこと?」


「はい♪

ですから、発表するのがこんなに直前でも大丈夫なんです♪」


「おぉ…なんだか本当にいよいよって感じだ…」


「もしかして後悔してますか?」


と、アンナは半分本気で幹太に聞く。


「いいや。ぜんぜん」


しかし、幹太はきっぱりとそう答えた。


「よし…こ、この機会にもう一度伝えておくか…」


幹太は仕込みの手を止め、なぜか強ばった顔でアンナの方へと向き直る。


「ア、アンナ…こ、これからも俺とずっと一緒にいてください…」

 

幹太は声を震わせながら、なんとかそう伝えた。


「幹太さんっ♪」


アンナはそんな幹太のことを、一切戸惑ことなくギュッと抱きしめる。


「もちろんです♪

私は死ぬまで…いいえ!死んでも幹太さんと離れません♪」


「あぁ…ありがとう」


「…けど、どうして急にそんなことを?」


アンナはしっかりと幹太に抱きついたまま、上を見上げてそう聞いた。


「いや、たまには伝えなきゃって思ってさ…」


「すっごく嬉しいですけど…なぜ今だったんです?」


アンナは普段は恥ずかしがり屋な幹太が、なぜいきなりこんなことを言ったのかとても気になったのだ。


「なぜって…この間日本に帰った時に、久しぶりに叔父さんと会って母さんの話を聞いただろ?」


「えぇ…聞きましたね」


幹太の母、美樹は弟であり幹太の叔父である英治と、微妙に仲違いしたままこの世を去っている。


「それで色々思い出したことがあったんだよ…」


「た、たとえばどんなことですか?」


と、アンナはくい気味に幹太に聞いた。

なぜなら、普段あまり両親との過去を話さない幹太から、小さな頃の話を聞く数少ないチャンスだったからである。


「そうだなぁ…ウチの父さんと母さんはすごい仲が良くてさ、いっつも冗談っぽく好きだの愛してるだの言い合ってた…とかかな」


「フフッ♪とっても素敵なご両親ですね♪」


「そんで結局、二人とも早くに死んじゃったわけだから、今になって考えてみると、ああやって冗談でも気持ちを伝えてたのはすごく良いことだったなって思うんだよ…」


「そうですね…ご夫婦の間の愛してるは、冗談でもきっと本気でしょうから」


アンナも幹太と同じく、普段から気持ちを伝え合う父と母たちに育てられている。


「だからさ、アンナとはこ、これから夫婦になるわけだし…言える時にはちゃんと伝えとこうと思って…」


「わかりました…では、私からも…」


「うん?」


アンナは先ほどより少しだけ幹太の胸から顔を離し、頬を真っ赤に染めながら彼の顔を見上げた。


「愛してます、幹太さん…」


「ぐっはっ!」


至近距離から繰り出されたアンナの一撃に、幹太は思わず膝をつく。


「お、俺…愛してますって言われたの、たぶん初めてだ…」


「あれ?私、言ってませんでしたか?」


「アンナにも言われたことないし、もしかしたら…親にも誰にも言われたことない気がする…」


「ご両親にもですか?」


「うん。母さんにはいつも大好きだぞー!って言われてたけどな。

たぶん愛してるは、父さんと母さんの二人の間だけの言葉だったんじゃないかな?」


もちろん正蔵も幹太を愛していただろうが、息子の男親として口に出してはいなかったのだろう。


「…由紀さんにも言われたことないんですか?」


「…うん」


「ソフィアさんには?」


「…ないな」


「ゾーイさんにもです?」


「…ない」


「フフフッ♪やりました!アンナ、一番乗りですっ♪」


そう言って、アンナは一度キュッと身を縮めてから思いきりバンザイをする。


「でしたら、幹太さん♪」


「うん?」


「次は誰に伝えましょうか?」


「えぇっ!次って決めなきゃダメなのっ!?」


「コホンッ、それは当然ですよ…」


と、アンナはワザとらしく咳払いをして、してもいないメガネのつるに触れた。


「正蔵様と美樹様はお二人だけのご夫婦ですが、私たちは五人で夫婦なんです。

それはわかりますね?」


「はい…」


いきなり女教師モードになったアンナの迫力に押され、幹太はなぜかイスの上でゆっくりと正座にシフトする。


「つまり、幹太さんに求められるのは、私たちに平等に愛情を注ぐということになります…」


「な、なるほど…」


「いいですか、幹太さん。

さっき私は、とても素敵なことを言ってもらいました。

いつもは恥ずかしがり屋な幹太さんが頑張ってくれて、すごく嬉しかったです」


「は、はい。俺、がんばったっす…」


「ですから、私はこのあと真っ直ぐ部屋には帰らずに、他の婚約者の皆さんに集合をかけてしまうでしょう…」


「…ア、アンナ?それはなぜかな?」


「先ほどのことを皆さんに報告するからに決まっているでしょう!」


「えぇっ!なんでわざわざ知らせんのっ!?」


「黙っていられないほど嬉しかったからですっ!」


と、アンナは弟の葬儀で演説する某総統のごとく力強く叫ぶ。

嬉しいことも悲しいことも共有する、それが王女アンナの理想とする多妻の形なのである。


「なので私のためにも、キチンとお三方にも気持ちを伝えてあげて下さいね、幹太さん♪」


「いや、それは…」


大切な人に気持ちを伝えた方がいいと思ったのは間違いないが、幹太が理想としていたのは、あくまで偶然に訪れるタイミングを逃さずに伝えるということだったはずである。


「では、とっとと仕込みを終えてしまいましょう♪

そろそろ由紀がお仕事を終えて来るはずですから♪」


つまり、次は由紀に気持ちを伝えろということらしい。


「な、なんでこんなことに…」


アンナは脱力する幹太をイスから立ち上がらせ、再び厨房へと引きずっていった。



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