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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第6章 四人の花嫁編
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第186話 知る人ぞ知ること

そしてその日の夜、

幹太はひと月もの間、姫屋を任せきりにしていたヘルガソン一家の元を訪れた。


「長いこと任せしまってすいませんでした、ニコラさん」


「ハハッ♪こっちはぜんぜん構わなかったぜ。

商売の勉強になったってルナも言ってるしな♪」


「けど、リンネちゃんの学校なんかも…」


「あ〜いや、それなんだが…少しの間こっちの学校に通えるようにアンナちゃんがしてくれただろ?」


「はい」


「こっちの学校に通うのは、リンネにとっていい刺激になったみたいでな。

最近じゃ楽しいって言って、隣の大陸の言葉を勉強してるぜ」


「えぇっ!そりゃすごい!」


「地元の友達に会えないのはちょっと寂しいみたいだが、こっちでもあっという間に友達ができたようだし…」


可愛らしく人見知りをしないリンネは、すでに同じ学年の子供たち全員と友達になっている。


「まぁとにかく、ウチら家族にとってこのひと月はいい経験になったってこった♪」


「そう言ってもらえると、助かります」


「それで地元はどうだったんだよ?」


「そうですね…向こうでやっておきたいとはぜんぶできた…のかな?」


「おぉ♪なら良かったじゃねぇか♪」


ニコラはそう言って、幹太の背中を叩いた。


「ってことは、向こうの家族に結婚の挨拶はしてたのかい?」


幹太にそう聞いたのは、山盛りの海鮮パスタを両手に持ったニコラの嫁、ルナである。

泊まっているのが王宮だけに、頼めばなんだって食事は出てくるのだが、食堂の主人であるローラ王妃に気に入られたルナは、彼女にサースフェー島特有の料理を教えるという名目で週に何度か王宮のキッチンに立っていた。


「えぇ。まぁ…」


「ハハッ♪あんたのご家族もずいぶんビックリしてたんじゃないかい?」


「そうですね…ウチの叔父は四人と結婚するって話を聞いてブッ倒れました」


「ハハッ♪そりゃそうなるさ」


「けど、由紀んとこのご両親はけっこうあっさり認めてくれたんですよね…」


「まぁ考えようによっちゃ、甲斐性のある男ってことだしねぇ♪」


「おぉ!そういやそうだな♪」


そう言いながら、ニコラはルナからパスタを受け取る。


「なんだかニコラの若い頃を思い出すね…」


「ニコラさんの若い頃ですか…?」


「おと〜さん、むかしはモテモテだったんだって♪

おかあさんがいってた♪」


そう言いながら、これまた山盛りのサラダを持って部屋に入ってきたのはリンネだった。


「そうそう。今じゃこうなっちまったけど、若い頃のニコラはなかなかいい男だったんだよ」


「ん〜?そうだったかな?」


『そりゃそうだろ…』


不思議そうな顔をするニコラを見て、幹太は内心そう思っていた。

無造作にまとめた長髪に無精髭のニコラは、それなりに年を重ねた今でも超がつくほどのイケメンである。


「いいかい、幹太。旦那がモテるってのは、案外嫁とっても嬉しいもんなんだよ」


「そ、そうなんですか…?」


「あぁ。けど、他に目移りしない旦那に限りだけどね」


そう言うルナの手に、ニコラは自分の手を重ねた。


「目移りなんかするわけないだろ。俺は昔っからずっとルナの虜だからよ」


「ひ、人様の前でなに言ってんだよ、この人はっ!」


ルナは真っ赤な顔でそう言うが、重なった手を()(ほど)くこうとはしない。


「ありゃ?人前だから言ったんだが…ダメだったか?」


キョトンした顔でそう聞くニコラを見て、ルナはますます顔を赤くする。


「すごい…こんなルナさん初めて見た」


「あ、あんたもなに感心してんだいっ!」


「おかあさん、わたしおなかすいた〜」


リンネは美味しそうな晩ご飯を前に、しばらく前からいい子で待っていたのだ。


「あぁ…ごめんよ、リンネ。

あんたたちも馬鹿なこと言ってないで、冷めちゃう前にご飯にするよ!」


「「「は〜い」」」


そうしてヘルガソン一家と幹太は、ようやく食事を始めた。


「俺がいない間、店はどうでしたか?」


と、食べ始めて少し経った頃、幹太はニコラに聞いた。


「幹太がいた頃とそんなに変わらないが、強いて言えば常連が増えたな」


「なるほど…それは良かったです」


姫屋の屋台があるのは、ブリッケンリッジの中央市場である。

日本の市場にあるラーメン屋もそうだが、毎日決まった人間がたくさん集まる場所で店を開いた場合、どれだけ固定客を増やせるかが一番重要なのだ。


「そういや、また新しいラーメン考えてるって?」


「えっ?ニコラさん、もう知ってるんですか?」


「あぁ。リンネがアンナちゃんから聞いたって言ってたぞ」


「うん♪アンナおねえちゃん、すっごいうれしそうにはなしてた♪」


「アンナとクレア様をモデルにしたラーメンなんですけど、これがまた結構難しくて」


「ハハッ♪そりゃそうだろう♪」


「そうだねぇ。どっちも大人気のお姫様だし、そりゃ大変だろうさ」


「そうなんですよ。あの二人を表現するってどうしていいか…って、そうだ!リンネちゃんは二人のことどう思う?」


実を言うと、幹太はまだ子供のリンネに頼るほど悩んでいたのだ。


「ん〜?アンナおねえちゃんとクレアさま?」


「そう」


「う〜ん…」


リンネはパスタをフォークで巻きながら一生懸命考える。


「アンナおねえちゃんはいっつもげんきで…やさしくてとってもかわいい♪

クレアさまは…わたし、まだあんまりしらないかも…」


「そっか、違う国のお姫様なんだもんな…」


「うん。それに、あったのもこのあいだときょうのにかいだけだから…」


「ハハッ♪それでもすごいことなんだぞ、リンネ♪」


ニコラの言う通り、第三国であるクレイグ公国の一般人であるリンネが、二人もの他国の王女と知り合いというのはなかなか無いことである。


「でもね、クレアさまもかわいいし、やさしいのもわかるよ♪」


「あ〜やっぱそうだよな…」


リンネのアンナとクレアに対する印象は、澪とほぼ同じであった。

やはり二人と話したことのある人間は、まず最初にそう思らしい。


「あとね…クレアさまはおさかなが大好きなんだって♪」


「えっ?リンネちゃん、それはクレア様に聞いたの?」


「うん♪さっきおかあさんにこのおさかなをとどけるときに、クレアさまがいってたの♪」


そう言って、リンネはパスタに入った魚の切り身をフォークで掬った。


『あら、いいお魚ね♪

これからお料理するの?』


先ほどリンネが王宮のキッチンに向かって廊下を歩いていた時に、偶然すれ違ったクレアがそう話かけたのだ。


「リンネがね、クレアさまもおさかなはすきですかってきいたら、だいすきよっていってた♪」


「…クレア様はレイブルストークにいらっしゃるんだったか?」


リンネの話を聞いたニコラは、幹太にそう聞く。


「えぇ。レイブルストークの宮殿に住んでました。

もしかして、ニコラさんはレイブルストークに行ったことがあるんですか?」


「あぁ、何度かあるぞ。

ラーメン屋台を始める前は、ずっと遠洋漁業の船に乗っていたからな」


「あぁ〜なるほど、それで…」


幹太とアンナがサースフェー島にいた時も、ニコラは数ヶ月間島に帰っていなかったのだ。


「確かに、あそこも漁港のある町でしたね…」


クレアの住むリーズ公国の首都レイブルストークは、この大陸の北側につき出た半島の都市だった。


「うん♪だからもしリンネがリーズいったら、クレアさまのだいすきなおさかなをいっぱいおしえてくれるって♪」


リンネは嬉しそうにそう言って、パクッと魚を食べた。


『そういやクレア様って、すごく博学なんだよな…』


幹太がリーズいた時、どこに行って何を聞いてもクレアは詳しく答えてくれた。


「そうだよ…見た目とか性格だけじゃないんだ…」


幹太が知る二人の王女には、もっと様々な面がある。


「おや、なにかいい案でも浮かんだのかい?」


「はい!」


「リンネ、かんたおにいちゃんのやくにたった?」


「そりゃもう!ありがとう!リンネちゃん!」


幹太はリンネのおかげで、ようやくそのことに気がついたのだ。

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