第165話 再会
久しぶりに原宿にある有名なラーメン屋に行ってきました。
まだ外国の方が少ないからなのか、ソーシャルディスタンスをとっているにもかかわらずすんなり順番がきて驚きました。
都心の有名店に行くのは、今がチャンスかもしれません。
その翌日、広川澪と臼井亜里沙は、久しぶりに柳川家を訪れた。
というのも、
「なぁ澪…昨日の由紀からメッセージって何時に着たんだっけ?」
「えっと、ちょっとまってね…」
澪はバックの中からスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。
二人は昨夜、由紀からグループメッセージを受け取っていたのだ。
「ん〜と、夜中の三時ぐらい…」
「それで、なんだって?」
「…ご報告がありましゅ!明日、昼ごろにウチにこれましぇんか?って、書いてあるよ…」
「ありましゅって何?ぜってぇ酔っ払ってんだろ…」
「たぶん…でも、報告ってなんだろね…」
そう言いつつも、澪はある程度由紀の報告について予想がついていた。
「まぁ、聞いてみようぜ」
「うん」
そうして二人は、柳川家の呼び鈴を押す。
「は〜い♪」
いつもの調子でインターホンに出たのは春乃であった。
「あの亜里沙です。今日は由紀さんに呼ばれて…」
「あら、そうなの♪だったら中に入って〜」
「あ、はい」
二人は門を通り、扉を開けるとやはり春乃が出迎えてくれた。
「いらっしゃい♪由紀なら二階よ♪」
「はい、お邪魔します。春乃おばさん、お久しぶりです」
「そうね♪亜里沙ちゃんは久しぶりね♪
さぁさぁ、澪ちゃんも上がって上がって♪」
「はい。お邪魔します…」
そうして二人は、高校時代から行き慣れた由紀の部屋へと向かう。
コンコンッ!
「由紀ー!入るよー!」
と、亜里沙が扉を開けると同時に、むせ返るようなアルコールの香りが二人の鼻腔を襲った。
「うおっ!」
「わっ!すごい…」
亜里沙と澪が部屋の中に入ると、そこには見慣れた姿勢で横たわる由紀と、三人の女性が寝ていた。
「ちょっと!呼んどいてこれっ!?」
澪はそう怒鳴りながら鼻をつまむ亜里沙の横でしゃがみ、目の前に横たわる由紀の体を揺さぶった。
「由紀ちゃん!来たよ!
もー!どれだけ飲んだの!?」
「え…う…?」
毎週プール通いを続けている澪に激しく揺さぶられ、ようやく由紀は目を覚ました。
「…って、もしかして澪?」
「そうだよ!」
「な…なんでウチに?」
「アンタが私と澪を呼んだんでしょーがっ!」
「…えぇ〜?」
深酒で記憶が飛んでいる由紀は、二人にメッセージを送ったことをすっかり忘れていたのだ。
「えぇ〜はコッチのセリフだよ…」
「由紀ちゃんこの人たちは…?」
「えぇっと…ヨイショっと!これ、アンナだよ…」
「ん〜?朝ですか〜?」
由紀はうつ伏せに寝転がるアンナを市場のマグロのように転がし、二人に顔を見せた。
「あ、亜里沙ちゃん、これ…ホントにアンナちゃんかな?」
「うん…めっちゃ顔がむくんでるけど、こりゃアンナだわ…」
「それで…あっちの二人がアンナと私のお友達で…」
眠気まなこでそう説明しながら、由紀は部屋の片隅でブルドッグのぬいぐるみを抱きしめながら眠るゾーイと、下着姿でベッドで横になるソフィアを指差す。
「おぉ…すっげぇ…」
「う、うん。私、オッパイがあんなにボロンってなるの初めて見た…」
横向きで寝ているソフィアの胸は、ほぼほぼ全部がブラから溢れ出ていた。
「二人とも外国の人なの?」
「外国…ん〜?まぁそうかな…」
「そう。んじゃ、とりあえずみんなを起こさないとね」
「そうだけど…ごめん澪、お母さんにいってお水もらってきてくれる?」
「うん。わかった」
そう頼まれた澪は一階へと降りた。
「えぇっと…おばさん?由紀ちゃんがお水を…」
と、台所の入り口で澪はそう中に話しかけるが、春乃はどこにも見当たらない。
「…ほかの部屋かな?」
小学生からの同級生である澪は、この家の勝手を知っていた。
なので、まずは洗濯機のある洗面所へと向かう。
「…いない」
実はこの時、春乃は買い物に出かけていた。
それに加えて、五郎も自衛隊基地開放日の手伝いに呼ばれており、彼の仕事に興味を示したクレアとシャノンともに横須賀の基地に行っていた。
「お庭かな?」
しかし、そんなことを知る由もない澪は、律儀に春乃を探し回る。
「ん?あれは…おじさん?」
とそこで、澪は居間のソファーに誰かが寝ていることに気がついた。
「…って、芹沢君っ!?」
「んん〜」
澪が見つけたのは、なぜかパンイチで眠る幹太だった。
「ど、どうして由紀ちゃんちに…?
それに…なんで裸なの?」
真っ赤な顔でそう言いつつ、澪は幹太の頬をつつく。
「むぅ…」
「フフッ♪芹沢君、カワイイ♪あっ!」
次の瞬間、澪はムズがる幹太に腕を掴まれ、毛布の中へと引きずり込まれた。
「キャッ!せ、芹沢君っ!?」
「ムニャムニャ…気持ちいい…」
どうやら幹太は、澪を毛布か何かと勘違いしているようだった。
彼は気持ち良さそうに澪の胸に顔を埋め、安らかに寝息を立てている。
『せっ、芹沢君がこんな近くにっ!』
一方、寝ぼけた幹太に抱きしめられている澪は、これ以上ないほどドキドキしていた。
『どうしよう…私、ずっとこうしてたい…』
昨晩、浴びるほど飲んだ幹太の体臭はアルコールと汗の匂いで酷いことになっているのだが、澪にとってそれはフェロモンでしかないようだ。
「あ…広川さ…ん?」
「え、えっ?芹沢君?」
「…まさかな〜♪」
「あ、あん♪芹沢君…そこ、ダメ♪…だ、だったら…私も…」
と、寝ぼけた幹太がスカートの中へ手を差し込み、澪のお尻を掴んだところで亜里沙が二階から降りてきた。
「澪〜?私も一緒にお水運んで…って、なにしてんのっ!?」
二人の状況を見た亜里沙は、思わずそう叫んだ。
先ほどまで寄り添う形で抱きしめられていたはずの澪は、知らない間に幹太の上に乗り、自らも彼の背中に腕を回していたのである。
「み、澪…あんた、芹沢に何を…?」
「えぇっ!?こ、これは芹沢君が…」
「芹沢めっちゃ寝てんじゃん!」
確かに側から見れば、澪が寝ている幹太を襲っているようにも見える。
というか、澪は実際にヤッてしまおうとしていた。
「いや…あんたの行動力がこれ程とは思ってなかったわ…」
「ほ、本当にちがうのっ!」
「だったら、なんでまだ芹沢からおりないの?」
こう話している間も、澪は幹太の上に乗りながらその乳首をクリクリとイジっている。
「だってだって、もったいないかなって…」
「…いいから早くおりなさい」
「はい…」
そんなハプニングもあり、幹太以外の全員が目を覚まし、身なりを整えて由紀の部屋に集まったのは、それから一時間ほど後だった。
ちなみに先ほどまで下で寝ていた幹太は、いつのまにか自宅に戻っている。
「…で、なんの報告なの?」
「その前に!亜里沙さんと澪さんに、こちらのお二人を紹介します!」
「おぉ〜!さすがアンナ♪」
「フフッ♪アンナちゃん、顔戻ったんだね♪」
と、亜里沙と澪は立ち上がったアンナに拍手を送る。
「まずこちらの方はソフィア・ダウニングさんといって、私の国出身の方です♪」
「よろしくお願いします〜♪」
「で、こちらがゾーイ・ライナスさんです。
私たち国からは遠く離れた、砂漠の国のご出身です」
「よろしくお願いします。私のことはゾーイと呼んで…」
「ごめん…ちょっといい?」
とそこで、亜里沙が割って入った。
「アンナってさ、どこの国出身なの?」
「へっ?」
「いや、言いたくなかったら別にいいんだけど…」
「そういえば…私も聞いてないかも?」
亜里沙も澪も、アンナが外国人だとは聞いていたが、それ以上深くは話を聞いていなかった。
「あ!そうです…私…」
実は今の今まで、アンナは亜里沙と澪に自分の正体を知られているつもりでいた。
しかし、そう言われてみれば、二人に自分がどこから来たのか話した覚えはない。
「えっと…まずはどこから話せば…」
と、アンナは由紀の方を見る。
「ん〜?まずは世界の話からじゃない?」
「…ですね」
アンナは頷き、再び亜里沙と澪へと向き直った。
「亜里沙さん、澪さん、私はこの世界の人間でありません。
実は…」
そうしてアンナは、二人に自分の正体を明かした。
「「へ〜、そーなんだ〜」」
「あ、あの…もしかしてあんまり驚いてませんか?」
「うん。だよな、澪?」
「う、うん」
亜里沙と澪は、互いに顔を見合わせて頷きあう。
「正直さ、ちょっと興味があっただけで、アンナと友達だっていうのは変わんないわけだし…」
「うん。それに…お姫様だっていうのもずっとバレバレだったよ、アンナちゃん…」
そもそもアンナの口癖は、「私の国…」だ。
最初はそれを彼女の出身国と捉えていた澪だったが、色々と話をしているうちに、その解釈では何かと辻褄が合わないことに気がついたのである。
「そ、そうでしたか…」
「日本にはそんな漫画とかアニメがたくさんあるからね〜♪
たぶん、こっちの世界で一番異世界人が受け入れられやすいのって、この国だと思うぜ♪」
亜里沙の言う通り、これだけたくさんの異世界の物語が描かれている国など、この日本をおいて他にはないだろう。
「それじゃあアンナちゃん、ソフィアさんとゾーイちゃんも?」
「そうです。シャノンも含めて、私たちは同じ世界の人間です」
「ほぇ〜すごい♪ね、亜里沙ちゃん?」
「あぁ…そういやシャノンさんもメチャクチャ綺麗だし、ここにいるみんなも…」
亜里沙は、改めて自分の周りに座る絶世の美女たちに目をやる。
「…別次元の綺麗さってのには、やっぱり理由があんだね…」
「うん。
でも…こんな綺麗な人たちが芹沢君の周りにいるんだ…」
澪は窓の外に見える幹太の家を見つめながら、少し寂しそうにそう呟いた。




