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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第五章 始まりの大陸編
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第157話 それ以外の理由

一方その頃、幹太と由紀はアンナたちがいる伏見稲荷大社から京都市中心部を挟んだ反対側に来ていた。


「あれ?由紀ってここ来てなかったたか?」


「うん。修学旅行の時に来たよ♪」


「そうそう。俺は確か…」


「幹ちゃんは祇園方面のコースじゃなかった?」


「うん。なんか…着物を着て歩いたりしたんだよな」


「あ、それ写真見たかも♪

なんでか私たちって、修学旅行になると別の班なんだよね〜」


「そうだったっけ…?」


「うん。だからここには一緒に来たかったんだ♪」


「ここって…貴船神社?」


「そ♪」


幹太と由紀がいるのは、叡山電車の貴船口駅である。

ここまで電車に乗ってきた二人は、駅から神社まで続く道を歩いていた。


「私たちって、いつもこんなにくっついてたかな…?」


そう言いつつ、由紀は幹太と腕を組んで寄り添う。


「う〜ん、どうだろう?

いつもこんなもんな気もするけど…」


と、幹太は自分の肩に寄り添う由紀の頭に頬をグリグリと押し付けた。

驚くべきことに、この二人が自分たちの物理的な距離を意識したのは、本当に今が初めてであった。


「フフフッ♪そうだね、いつもこんなかも♪」


「しっかし、ずっと一緒にいたのに、けっこう気づかないもんだよなぁ〜」


「うん。だってビックリしなかった?私たちがちゃんとデートしたことなかったの…」


「した、した」


「まぁおかげで、理想的な初デートになったけど♪」


「おぉ…確かに京都が初デートって、絶対忘れない気がするな…」


「異世界には行ってるんだけどね〜♪

しかも、これから住むつもりでいるし♪」


「…けど、本当にゆーちゃんは大丈夫?」


「大丈夫って何が?」


「こっちじゃなくて、向こうに住むこと」


「ん〜?私は大丈夫だけど…そう言う幹ちゃんはどうなの?」


「いや、俺も全然オッケーなんだけど…」


それは幹太が、日本に帰ってきてから気づいたことであった。


「実は俺、アンナたちの世界に住むって決めるのに、あんまり迷わなかったんだよな…」


「…言われてみれば、私もそれほど迷わなかったかも…」


「けどそれって、どうしてなんだろ…?」


「なんだろ…こっちの海外に住むぐらいの感じ…?」


「そりゃたぶん魔法で移動してるからじゃないか?」


「まぁどっちにしろ、幹ちゃんとはいられるしね♪」


そう言って、由紀は幹太の腕をぐいっと引き寄せた。


「う、うん…そうだな」


幹太はプニュプニュと二の腕に当たる由紀の胸の感触に意識を持っていかれつつも、何とかそう返事をする。

どうやら久しぶりに二人きりになったことで、由紀もテンションが上がっているようだ。


「それにアンナたちとも別れたくないないしねぇ〜」


「そっか、王家なんだもんな…」


本人はどこでもいいと言ってはいるものの、実際にアンナが日本に住むというのはかなり無理がある。


「シャノンは親友だし、アンナとソフィアさんとゾーイさんはお互い幹ちゃんのお嫁さんでしょ♪

それにクレア様だって…」


「うん。あんなに見てて気持ちのいい子ってなかなかいないな♪」


「そう♪クレア様って、一緒にいるとすっごく元気をもらえるんだよ♪」


「アンナも同じような感じだし、あっちの王女ってみんなそういう気質なのかな?」


「ビクトリア様もパワフルだよね♪」


実際にはその三人がとりわけ元気なだけなのだが、今の幹太たちには知る由もない。


「…なんか俺、どうして向こうで暮らしたいのかわかった気がする…」


「えっ!もうわかったの!?」


「いや、今になってみればさ、ゆーちゃんとはどっちにしろ結婚してたと思うんだけど…」


「う、うん。私もそう思うよ…」


「おじさんとおばさんも大切だけど、その…こっちの世界で、あ、ああ、愛してるのはゆーちゃんだけだろ。

そのゆーちゃんが一緒に来てくれるなら…」


「幹ちゃんっ!?きゅ、急に何言ってんにょ!?」


「お…俺だって恥ずかしいけど、いま言葉にしないと一生言わなそうだから…」


「う、うん。わかった…」


と、恥ずかしがり屋の二人は、限界まで顔を赤くしつつも話を続ける。


「もちろん向こうの世界にラーメンを広めたいっていうのもあるんだけど、ゆーちゃんとみんなと、一緒に生きたいっていうのもあったんだなって…」


そう言って、幹太は腕にかかる由紀の手に自分の手を重ねた。

幹太の言う通り、四人もの女性と結婚をして幸せに暮らすことなど、向こうの世界でなければ不可能なのだ。


「も、もー♪幹ちゃん♪」


「ふぁ!ゆーちゃん!?」


嬉しさ余った由紀は、神聖な神社に向かう途中ということも忘れて幹太の頬にキスをした。


「フフッ♪なんだかもうみんなに会いたくなってきちゃった♪」


「…よ、よく考えたら、さっきからアンナたちの話しかしてないな…」


「ね〜♪みんながせっかく二人にしてくれたのにね♪」


「そう言えば…向こうのみんなの昼飯ってどうしたんだ?」


幹太は昨晩、由紀が異世界組のための観光ルートを作っていたのを知っていた。


「ふふ〜ん♪そこは未定です♪」


「えっ!決めてあげなかったの?」


「うん♪

だって、ぜんぶ私が決めちゃったら楽しくないでしょ?」


「あ〜確かにそうだけど…」


「けど…なに?」


「向こうにゃアンナがいるからなぁ〜」


そう言って、幹太は苦笑する。


「アンナがいるからってどうし…って、あ!」


そしてその頃、アンナたちは今朝出発したホテル付近にある店の前に立っていた。


「…ここですか」


「えぇ、アナ」


「やっぱりラーメンだけじゃないみたいですよ〜♪」


と、ソフィアはショーウィンドウに並ぶ食品サンプルを見て言う。


「クレア様、良かったですね♪」


「えぇ、まぁそうね。早く入りましょ、疲れたわ…」


クレアがこれほどまで憔悴しているのにはワケがある。

それは先ほどまでいた伏見稲荷駅でのことだった。


「…シャ、シャノン、これ、京都ラーメン探訪って書いてありますけど…」


無料のラーメンガイドを手にして、アンナはプルプルと震えていた。


「えぇ、あそこにありました」


シャノンはそう言って、改札脇にあるタウン誌の棚を見る。


「…なんでそんな余計なもの配ってんの?」


必死の抵抗も虚しく、昼食のメニューを決められたクレアは額に手を当てながらそう呟く。


「京都ヤバいです…めっちゃラーメン屋さんがあります」


「…京都は何系ですか?」


すぐにそう聞くあたり、シャノンも日本のラーメンがついて知識がついてきているようだ。


「えぇっと…やっぱり豚骨が多いみたいですね」


「お願いだから…せめてサッパリしたのにしてちょうだい」


すでにクレアの鼻は、これ以上の豚骨臭には耐えられないギリギリの所まできていた。


「でしたら、ここはどうでしょうか〜?」


そう言ってソフィアが指を指したのは、いわゆる町中華と呼ばれる店だった。


「…これは、博多のお店のような感じですかね?」


シャノンが言っているのは、先日のラーメン居酒屋のことである。


「わからないわ…でも似たような場所には、全部チュウカって書いてあるわね…」


「どこも餃子はあるみたいですね〜♪」


「では決定ですっ!

シャノン、とりあえずどっちに向かえばいいのですか?」


「えっと…まずは先ほど乗り換えをした京都駅ですかね…?」


シャノンは由紀にもらった地図とガイドブックの地図を照らし合わせ、目的の店の大体の位置を把握する。


「あぁ…たくさんお店があったあそこね。

なんであんなにいっぱい食べ物がある場所を通り過ぎてまで、またラーメンを食べなきゃなんないのかしら…」


「クレア…」


「またなのっ!?なによ、アンナ?」


「そこにラーメンがあるからです♪」


「…もう好きにして…」


そんな風に何もかもを諦めたクレアを引きずるようにして、アンナたち一行はこの町中華の店、龍凰へとやって来たのだ。

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