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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第五章 始まりの大陸編
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第135話 芹沢美樹

久しぶりに原宿にある有名店のラーメンを食べてきました。

今だに味も変わらず、美味しかったです。

「それじゃあ幹太ちゃんはお風呂に入ってきなさい♪」


倒れてしまった英治をソファーに寝かせた後、輝子は幹太を風呂へと追いやった。


「フフッ♪こんなに綺麗な人たちと幹太ちゃんが結婚するなんて…美樹義姉みきねえさんも喜ぶでしょうね♪」


そう言って、輝子は残った三人の娘たちのためにお茶を入れる。

どうやら輝子はアンナ達が一夫多妻の国から来た人間と理解したらしく、幹太が複数の妻を持つことにあまり疑問を持っていないようだ。


「ミキ…?あ、もしかしてそれが幹太のお母様のお名前なのかしら?」


「えぇ、そうよクレアちゃん♪」


「やっぱり!

そうよね〜複数の妻なんて絶対驚くに違いないわ♪

幹太がどういう風に報告するのか今から楽しみね♪」


「あ、クレア…」


「クレア様…」


「ん?二人ともどうしたの?

私、なんか変なこと言った?」


「あ〜なるほど、クレアちゃんは知らないのね。

あのねクレアちゃん、幹太ちゃんのお母様はもう亡くなっているの」


輝子は優しく微笑んで、クレアにそう伝えた。


「あ…ごめんなさいテルコ。私…」


「フフッ♪大丈夫よ、クレアちゃん♪

もう随分と昔の話だから」


「輝子様は美樹様にお会いしたことがあるんですよね?」


「やっぱりどんな人か気になるの、アンナちゃん?」


「えぇ、それはもちろんです。

少しだけ由紀さんに聞いたとがあるぐらいで、幹太さんもお母様のことはあまり…」


「そうね…幹太ちゃんも小さい頃だったから、お母さんとの思い出は少ないかもしれないわね…」


幹太の母親である芹沢美樹は、彼が小学校三年生に上がったばかりの頃に亡くなっている。


「美樹さんは…まずとっても綺麗な人だったわ♪」


「もしかして、幹太さんはお母様似ですか〜?」


「えぇ、ソフィアちゃんの言う通りよ。

どちらかというと、幹太ちゃんは美樹さん似ね。

背も高〜い人で…ちょうどあなたぐらいだったかしら?」


ソフィアの身長は170センチ後半である。


「その頃の女の人の中じゃ頭一つはおっきい人でね。

旦那さんの正蔵さんよりも、ぜんぜん背が高かったのよ♪」


「そうなの?私たちの世界じゃソフィアぐらいが普通よね?」


「まぁ…そうですね。

私やクレアは小さい方です」


「世界…?

ん〜?でも外国の方だったら、そうかもしれないわね♪

あっ!いやだわ私、写真のことをすっかり忘れてる!

ちょ、ちょっと待ってて!」


そう言って輝子は部屋を出て、あわてて二階へ駆け上がる。


「あった〜♪あったわよ♪」


しばらく経って戻ってきた輝子は、見るからに古いアルバムをいくつか重ねて持っていた。


「ええっと…幹太ちゃんたちは〜これね♪」


そしてそのアルバムの中から、若干新しめのものを開いた。


「あ、なるほど昔の写真ね!」


「そうです!ご親戚ならっ!」


「私、写真って初めて見ます〜♪」


こちらに比べてまだ技術は劣るものの、アンナたちの世界にも写真はある。

幼い頃の幹太に興味津々のアンナたちは、急いで輝子の周りに集まった。


「…ほら、これが幹太ちゃん♪」


輝子が指を指す少しだけ色あせた写真には、大きな魚を両手で抱えながら持ち上げている子供と、その隣でニシシと歯を見せて笑う快活そうな女性が写っていた。


「うっわ!汚なっ!」


幹太であろう子供を見たクレアは、思わずそう口走っていた。

写真に写っている幹太は、真っ黒に日焼けした肌に、ビロンビロンに伸びた肌着のTシャツ着て、下はブリーフのパンツのみである。


「あぁ…これが…」


「も、もう…私〜♪」


一方のアンナとソフィアは、写真に写る幹太の可愛さに心底ヤラれている。


「これは…ウチの前の堤防かな?

可愛いでしょ、幹太ちゃん♪

この頃はまだ甘えんぼうでね、お母さんから片時も離れなかったのよ♪」


「メチャメチャ可愛いですっ♪」


「えぇ〜!そうかしら?」


「クレア様、あの幹太さんがこんなにちっさいんですよ〜♪」


「そりゃそうよ!子供の頃なんだからっ!」


この中で唯一幹太に対しフラットな気持ちのクレアは、全く二人についていけてない。


「…でしたら、この幹太さを隣で笑っておられるのが…?」


「そうよ…お母さんの美樹さん」


と、先ほどまで笑顔だった輝子が、少しだけ悲しげな表情をしてその写真を手に取った。


「美樹ちゃんはね…ほとんど追い出されるように東京に行って、それで幹太ちゃんのお父さん、正蔵さんと結婚したのよ…」


「あぁ…それでなのね」


「クレア?それでとはなんです?


「そこの叔父様、どうして倒れるほど幹太のこと気にしてるのかしらって、さっきから思ってたのよ」


「まさか…そのワケがわかったとでも言うのですか?」


「まぁだいたいの予想はつくわ。

大方、叔父様も姉の味方じゃなかったってあたりかしら?」


そう言って、クレアは輝子の顔を見る。


「…すごいわ、正解」


「ほらね♪」


辛い思いなど微塵しなかったが、養子という立場上、子供の頃のクレアはいつも大人の顔色をうかがって生活していた。

そのおかげで、今でも人の表情から大まかな感情が読み取れるのだ。


「さっきの叔父様の顔は後ろめたい思いでいっぱいって感じだったわ。

もちろん女性が苦手っていうのも本当でしょうけど、幹太の顔を見て姉を思い出したっていうのもあるんじゃないかしら?」


「…まいったな、何から何までお見通しか…」


とそこで、つい先ほどまでうなされていた英治が目を覚ました。


「姉さんはな、本来ならこの会社の跡取りになるはずだったんだ…」


英治は体を起こし、ポツポツと語り始める。


『ウチの会社は美樹に継がす』


物心ついて間もない頃から、英治は父親、つまり幹太の祖父から事あるごとにそう言われていた。

というのも、英治と美樹の父親は、英治の会社の元となったこの町で一番の鰹節製造工場の社長だったのだ。


「姉さんは学生時代から誰にでも好かれる人間でな…田舎の小さな町で会社をやるには、それが一番大切だといつも父は言っていたよ」


「フフッ♪本当にね…美樹さんは綺麗だったし、姉御肌のとってもいい人だったわ。

私もあの人の髪型なんかをいつも真似してたもの…」


「なるほど、だからお前も髪を伸ばしてたのか…」


「そうよ〜♪だって丸山先輩は、学校の女子みんなの憧れだったんだもの♪」


丸山とは美樹の旧姓であり、そしてもちろん今の輝子の苗字でもある。

同じ学校の後輩であった輝子は、いつも彼女の後について歩いていた。


「いま考えたら、そんな姉さんがこの町に留まる筈がなかったんだ…」


それは美樹が高校を卒業する少し前のことだった。


『私、この町を出る!』


母親に進路を聞かれた美樹は、キッパリとそう言い切ったのだ。

もちろん父親はその言葉に激怒した。


『許さん!お前はこの町の誰かを婿にとって、この会社を継ぐんだ!』


『嫌よ!私、この町を出て、どれだけ自分にできるかやってみるっ!』


美樹は独学で被服の勉強をし、東京にあるデザインの専門学校に行くつもりだった。


「あの姉のことだ…何をやっても成功するだろうと、私も母も内心では思っていた。

しかし、やはり父には逆らえない。

それに…」


「ん〜?会社を継がないって言われたのが悔しかった…ってとこかしら?」


と、クレアは再び英治の心情を読む。


「あぁ…似たようなもんだな。

私は惨めだったんだ。

この町では長男が家業を引き継ぐのが当たり前だ。

しかし、父は跡継ぎとして姉を選んだ。

しかも当の姉は、そんな物はいらない言う。

とても惨めな気分だったよ…」


そう言って、英治は両手を握り締める。


「結局、姉は誰からも賛成されずにこの町を出て行ったんだ」


「あぁ…幹太さんのお母様にそんな辛いことが〜」


涙脆いソフィアは、早くも涙腺が崩壊していた。


「でも…いまは英治様が立派に会社をお継ぎになられてますよね?」


「フフッ♪アンナちゃん、この人、美樹さんが出て行った後にとっても頑張ったのよ。

それこそ寝る間も惜しんで会社経営の勉強をして、カツオの全てを知るって言って遠洋漁業船にも乗ったの」


「あぁ…あれはキツかった」


「でもエイジ、写真があるってことは仲直りしたんじゃないの?」


「仲直り…とまでは行かなかったな」


美樹がこの町に帰ってきたのは、父親が末期の癌に侵され、入院した時であった。


「私は連絡を取っていなかったが、こいつが姉さんと手紙のやり取りをしていたんだ」


「美樹さんがご実家を勘当されていても、私には関係ありませんからね♪」


「赤ん坊だった幹太も一緒だったからウチに泊めたんだが、やっぱり父は会ってくれなくてな…」


二人の父親は、そのまま美樹と幹太に会わずに他界した。


「私も謝ろうとしたんだがな…姉さんは笑っているばかりで、真剣な話をしようとしなかった」


「あら、そうだったかしら?

私には英治をよろしくお願いしますって言ってたのに…」


「そうなのか…?」


「えぇ、そうよ。

あの子には私のせいで大変な苦労をかけてしまった、だからこれからはめいいっぱい幸せにしてあげてって…」


「まさか…姉さんがそんなことを…?」


「当たり前じゃない!

美樹さんはね、いつだって重荷を背負わせてしまったあなたを気にかけてたのよ」


そう言って輝子は愕然とする夫の肩に手を掛けた。


「そうか…そうだったな、姉さんはそういう人だった」


「そうよ。恨みつらみなんて美樹さんが一番嫌いなものだもの♪」


「お嬢さん方、今日はすまなかったね。

なんだかぎこちなくしてしまって…」


英治は三人に向かって頭を下げる。


「そんな!大丈夫ですよ、英治様」


「そうね。泊めてもらえるだけでもありがたいわ♪」


「幹太さんのご親戚にお会いできただけでも嬉しかったです〜♪」


と、アンナ達が頭を下げ続ける英治に言ったところで、幹太が風呂から上がってきた。


「んっ?みんなどうしたの?」


「フフッ♪皆さんに幹太ちゃんの昔話をしてたのよ♪

ほらっ♪」


輝子はそう言って、キョトンとする幹太にアルバムを見せる。


「あ!母さん!」


「ね、幹太ちゃんも懐かしいでしょ?」


「うん♪なんだか元気な母さんの顔って久しぶりに見るよ♪」


幹太は輝子からアルバムを引き取り、懐かしい母の顔を一枚一枚ゆっくりと見ていく。


とそこで、


「幹太さん〜♪」


「うわっ!」


と、なぜか愛おしさがマックスに達してしまったソフィアが幹太に抱きついた。


「わたし、わたし〜!幹太さんを必ず幸せにしてみせます〜♪」


「えぇっ!なんで急にっ!?」


「あぁっ!ズルいですよ!ソフィアさんっ!

私も幹太さんを絶対に幸せにしますっ!」


さらにそう叫びながら、アンナまでもが幹太に抱きつく。


「あらあら♪モテモテね、幹太ちゃん♪

でも…クレアちゃんはいいの?」


「テルコ!私は幹太となんでもないわよっ!」


クレアは真っ赤な顔をしてそう叫んだ。


「ハハハッ♪姉さん、俺がなにもしなくても、幹太は十分幸せそうだよ♪」


と、そんな幹太達を見つめながら、英治は久しぶりに声を上げで笑った。

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