第134話 認めたくない、若さ故の…
明けましておめでとうございます。
本年も引き続きよろしくお願い致します。
更新が遅れて申し訳ありません。
案の定、年始に体調を崩しておりました。
鹿児島中央駅から枕崎市に向かう電車に乗ってしばらく経った頃、退屈だったクレアがソフィアと話を始めた。
「ねぇ、あなた達こっちに住んだ方がよくない?」
「そ、そうでしょうか〜?」
「あら、あんまり乗り気じゃないみたいね?」
「わ、私はもうちょっとのんびりした街の方が〜」
いま乗っている電車もそうだが、ソフィアにとって現代の日本は目まぐるし過ぎるようだ。
「あ、そういえば、アンナも王女だから無理だわ♪」
「ぐっ!た、確かにそうですけど…でも幹太さんはシェルブルックに住むと言ってくれてますから!
ですよね、幹太さんっ?」
「あ、あぁ…まぁそうだな」
まだ九州ということもあるだろうが、どちらかといえば現時点の幹太のホームはすでにシェルブルック王国になっている。
「それにこっちだとみんなの身元がなぁ…」
さらにもし日本で暮らすとなると、アンナとソフィアとゾーイには戸籍がない。
それはしっかり管理されたこの国で住むには、のちのち厄介なことになるだろうと幹太は考えていた。
「そもそも奥さんが四人なんて…うん、絶対無理だわ。
やっぱあっちで暮らそう」
改めて考えてみると、向こうに骨を埋めるしかないことに幹太は気がつく。
「あ、そろそろ着くぞ」
数年ぶりの訪問だったが、幹太は車窓からの景色を覚えていた。
幹太にとってこの枕崎という街は、数少ない母親との思い出が詰まった場所なのだ。
「あんまり変わってないな…」
枕崎市は九州のほぼ南端、その東側にある半島の街である。
工場のような建物と頑丈そうな家屋が並ぶその景色は、数年前に幹太が訪れた時とほとんど変わりがない。
(次は枕崎、枕崎です)
「よし、みんなそろそろ降りるぞ」
アナウンスを聞いた幹太は、四人分の料金を準備してから立ち上がった。
この電車は最近にしては珍しく、運転手に直接料金を払うシステムである。
「さて、そんじゃいきますか」
「幹太さん、ご親戚のお家は近いんですか?」
駅を出てから迷いなく歩き始めた幹太に、アンナはそう聞いた。
「うん。…っていうか、もう見えてる」
と言って幹太が指をさす先には、四角い大きなコンクリートの建物がある。
四人はそのまましばらく歩き、家の門の前までやって来た。
「すっごいおっきなお家です〜」
「本当…すごいよな」
ソフィアと幹太が見上げるその建物は、四階建のビルと言っていい家屋だった。
「あら、そう?このぐらい普通じゃない?
ね、アンナ?」
「えぇまぁ…ローラお母様の小屋ぐらいですかね?」
もしこちらの世界にあったならば、満場一致で世界遺産となるであろう建物がこの二人の家である。
ちなみにアンナの住むブリッケンリッジの王宮は、かの有名なノイシュバンシュタイン城よりも数倍の広さがある。
「小屋って…そっか、二人ともお城だもんな…」
「…ですよね〜」
ならばアンナは自分達の家をどう思ったのか、幹太とソフィアは今さらながら気になった。
「と、とりあえず挨拶してくるから、みんなはここで待ってて」
幹太はそう言い残し、普通の家ならば二階にあたる場所にある玄関へと階段を上っていく。
「ねぇアンナ、叔父様の家って言ってた?」
「そうみたいですけど…」
「ってことは、幹太の家もそう遠くないのかしら?」
「いえ、この世界では親戚は離れ離住むのが普通みたいですよ。
由紀さんのお家も、お父様とお母様のご兄弟は別々に住んでいるそうですから…」
「そっか、あれだけ早い移動手段があるんだもんね…」
この時点で、クレアはこの日本で見た技術を自国で利用することを半ば諦めていた。
『車…と電車…だっけ?あんなのは途方もなさすぎてダメね。
持って帰れるのは…簡単な機械と色々な記録ぐらいかしら?』
クレアがそんな風に考えていると、先ほどの階段から幹太が降りてきた。
その後ろには、どことなく幹太と雰囲気の似た初老の男性がついてきている。
「英治おじさん、この三人が俺の連れなんだけど…」
「そうか。とりあえずみんな中へ入りなさい」
幹太の叔父、英治はそれだけ言って振り返り、再び玄関へと階段を上がっていく。
「幹太さん…私たち、お、お邪魔だったんでしょうか?」
あまりに素っ気ない叔父の態度に、これまでの人生をチヤホヤされて過ごしてきたアンナはちょっぴりビビっていた。
「いや、そうじゃないと思うけど…」
「けど?…ってことは、なんかあるの幹太?」
「おじさんは…いや、後にしよう。
とにかく家の中へ」
「「「はーい」」」
そうして四人が幹太の叔父について玄関を抜け、居間へと入ると、奥から一人の女性が現れた。
「まぁ幹太ちゃんっ!」
「輝子おばさん!」
女性は幹太の叔母であった。
「おっきくなったねぇ〜幹太ちゃん♪」
「ハハッ♪前に来た時から変わってないよ」
「今日は泊まっていってくれるのよね♪」
「うん。よろしくお願いします」
「そんなに畏まらなくていいのよ♪
一階がぜーんぶ空いてるから、ゆっくりしてってちょうだい♪」
「良かった。ありがとう、輝子おばさん」
「幹太…娘さん達は一緒でいいのか…?」
「もうっ!あなたったらそんなこと聞いちゃダメよ。
若い人には色々あるんだから♪」
「…そうなのか?」
と、英治はなぜか幹太に聞かず、よりによってソフィアにそう聞いた。
「はい♪もちろんです〜♪」
蕩けるような笑顔でそう言い切るソフィアから、英治は顔を真っ赤にしてすぐに視線を逸らした。
「輝子おばさん、おじさん…まだダメなの?」
「そうよ、幹太ちゃん。
この人、家族以外の女の子には照れちゃって話しができないの♪
ごめんなさいね♪」
「あぁ…なるほど、それで…」
出会い頭の叔父のぶっきらぼうな態度は、それが原因だったのだ。
「そうだわ!お話の前に、幹太ちゃんたちご飯は?」
「俺は少し食べれるけど、みんなはどうかな?」
と、幹太はとりあえず隣にいたアンナの顔を見る。
「私はお腹いっぱ…」
「ちなみに今日のご飯はカツオ尽くしよ♪
まぁいつもそうなんだけどね♪」
「…せっかくですから頂きましょう。
お二人もそれでいいですね?」
「わ、私、これ以上食べれるかしら…?」
「がんばって頂きましょう、クレア様〜♪」
そう決まり、ひとまず幹太達は輝子に促されて食卓についた。
幹太たちの前にあるテーブルには、大皿に盛られた刺身や煮物などのカツオ料理と、それ以外にも鹿児島の名物料理が所狭しと並んでいた。
「おばさん、もしかしてわざわざ作ってくれたの?」
あまりの品数の多さに、幹太は思わずそう聞いた。
「当たり前じゃない♪
それじゃあ温かいうちに頂きましょう!
は〜い、いただきま〜す♪」
「「「「「いただきま〜す♪」」」」」
それから一時間後、幹太たちは部屋を用意された一階まで降りることができず、広々とした居間のソファーで横になっていた。
「ダメだ、一歩も動けん」
「幹太さん…私、こんなにお腹がいっぱいなの初めてです…」
そう言うアンナのお腹はプックリと膨らんでおり、すでにデニムのミニスカートのボタンは外されている。
「どうしようかしら…?いっそのことリーズのことはお兄様に任せて、この世界に住んじゃう?」
「そ、それはダメですよ、クレア様〜」
「あらあら大変ね♪」
と、そこへ輝子がお茶を持ってやってくる。
その後ろには、いまだに緊張感の漂う表情をした英治の姿もあった。
「それで幹太、このお嬢さん達は…?」
「あっ、そうだった!
えっと…この人達は外国の人で…」
幹太は極力、嘘なく異世界のことをボヤかしての説明を試みる。
「そうね〜♪皆さん外国の方っていうのはわかるわ♪」
輝子は笑顔でクレア、アンナ、ソフィアを順番に見た。
「こちらのアンナとクレア様は一国のお姫様なんだ…」
「叔父様、叔母様、お初にお目にかかります。
シェルブルック王国の第二王女、アンナ・バーンサイドと申します」
「私はリーズ公国王女、クレア・ローズナイトと申します」
はち切れんばかりの腹を抱えつつ、アンナとクレアはその動きだけで身分がわかるほどの素晴らしい一礼をしてみせた。
「まぁ♪お姫様!?」
「それは…すごいな…」
「…それでこちらのソフィアさんは、アンナの国の山岳地方出身の人なんだ」
「ソフィア・ダウニングです〜♪
今後ともよろしくお願いします〜」
「今後とも…?」
とそこで、輝子がソフィアの挨拶に食いついた。
「もしかして幹太ちゃん、け、結婚するの…?」
輝子はソファーに座る幹太に膝歩きでジリジリと近づき、その手を握った。
「…うん」
「キャー♪♪♪」
頬を掻き、照れくさそうに返事をした幹太に、輝子がガバッと抱きついて歓喜の声を上げる。
「あなたっ♪幹太ちゃんが結婚だって♪」
「お、おぉ…さすがにそりゃ驚きだ…」
「それで幹太ちゃん、あ、あいあいっ、相手はソフィアさんでいいのよね?」
「う、うん。あと…」
「はい!私もです!」
幹太の伴侶はソフィアだけではないのだと、アンナが元気よく手を挙げた。
「あらまぁ♪二人もなのっ♪」
「…か、幹太…?一体そりゃどういうことだ?」
英治の疑問ももっともである。
さらに言えば、英治は姉である幹太の母親から、息子のことをよろしくとの遺言を残されている。
「いや、ふ、二人じゃなくて…」
「そうか…難しいかもしれんが、ちゃんと一人に決め…」
英治は甥っ子が二人の女性の間で揺れているのだと、都合のいい勘違いをし始める。
「輝子おばさん…ゆーちゃんって覚えてる?」
「確か…幹太ちゃんのお隣のお家の子よね?
そうそう!小学生の頃に一度ここへ来た子!」
「うん。そのゆーちゃん…」
「そうね♪由紀も幹太のお嫁さんよ、テルコ♪」
よほどこの状況が楽しかったのか、クレアが満面の笑みで幹太の言葉を引き継いだ。
「それに私の大切なゾーイも幹太のお嫁さんになるわ♪
だから、えっと…ソフィア、アンナ、由紀、ゾーイの四人が幹太のお嫁さんよ♪」
「まぁっ♪」
「そんな…俺は死んだ姉さんになんて報告すりゃぁ…」
あまりの事実に衝撃を受けた英治は、真っ青な顔をしてフラッとソファーへと倒れ込む。
「あっ!おじさんっ!」
「あらあら♪ちょっとあなた、大丈夫?」
「…姉さん…ごめん」
という言葉を残し、そのまま英治は気を失ってしまった。




