第130話 柳川春乃
久しぶりに由紀視点のお話になります。
引き続き宜しくお願い致します。
side 柳川由紀
「…あれ、どうなったの?」
意識を取り戻した私の目に最初に映ったのは、とても見慣れた場所だった。
「…ここ、幹ちゃんちだ…」
本当に帰ってきたという実感が湧く前に、私は自分の手が誰かの手と重なっていることに気がついた。
「シャノン…とゾーイさん?」
見たところ二人に怪我はないみたいだし、ちゃんと呼吸もしてる。
「あーもー!またー!?」
それから周りを見渡したが、幹ちゃんとアンナ、あとはソフィアさんも見当たらない。
「そっか、前回も人数が多くて失敗したんだもんね…。
そりゃ今回もダメだよ〜」
堪らなくなったシャノンが飛び込んだことで、転移魔法は定員オーバーだったはず。
「あ〜あ〜」
途方にくれた私は、再び幹ちゃんちの芝生で横になった。
「そうだ!それに、クレア様も…」
私があっちで見た最後の記憶は、ゆっくりと足から消えていくクレア様だった。
「うわ〜ぜったい来ちゃってる…こりゃ大変だ…」
あのお姫様が日本にやって来たらどうなってしまうかを想像して、私はブルッと身震いした。
「…ううん…あ、由紀さん?」
とそこで、私の隣で寝ていたシャノンが目を覚ました。
たぶん私がゴロゴロと動いていたからだと思う。
「…またですか?」
私と同じように辺りを確認して、再び私の顔を見たシャノンは、ため息混じりにそう聞いてきた。
「うん。そうみたい…」
「そうですか。あとは…」
「シャノンの後ろにゾーイさんがいるよ」
「ここには三人…ですかね?」
「そうだよー!シャノンが飛び込んだりするからー!」
「も、申し訳ありません、由紀さん…でも、アナと離れるのは…」
「まぁそうだよね、お姉ちゃんだもんね…」
そもそもはメンバーを決めた時に、私達がちょっぴり強引だったのが原因なのだ。
「ふぅ〜さて、それじゃあどうしようか?」
「ここは…芹沢家ですよね?」
「うん」
「でしたらまずは…」
「ウチだね♪」
私たちは、さっそく隣の私の家へ向かった。
まだ目を覚まさないゾーイさんは、シャノンが背負ってくれている。
ただし、背負い方は幹ちゃんがよくやる背負われた側のパンツが丸出しになるやつだ。
今日のゾーイさんは、オトナな黒の紐パンだった。
「何日たってるんだろう…?」
「…わかりません。それに私たちが向こうで過ごした日数と、こちらでの日数が一緒とも限りませんから…」
「ってことは、すっごい時間が経ってるってことも…?」
「いえ、それはないでしょう」
「それはどうして?」
「幹太さんの家が痛んでいませんでしたから…」
「あ、そういえばそうだね…」
「少なくとも転移の跡は残ってましたから、前回の転移よりも前ではないでしょう…」
幹ちゃんちのガレージは、前回の転移の時に一部がシェルブルックの王宮へと送られてしまっていた。
でもまぁそれ以前に送られたとしたら、こっちの世界に私たちが二人いることになっちゃうんだけど。
「しかし、それほど痛んでいる様子でもありませんでした。
つまり…」
「もしかしたら…あんまり時間がたってないってこともあり得る?」
「えぇ、その通りです」
「…急ごう、シャノン!」
「はい」
それならば、なるべく心配をかけないように少しでも早く帰りたい。
日が高いこの時間なら、まだ母は家にいるはず。
「ただいまー!お母さーん!」
私は体当たりするように扉を開け、母がいるはずのリビングへと駆け込んだ。
「あら由紀?昨日はどこに行ってたの?」
荒く息をする私を見た母は、いつもと変わらぬ様子でそう聞いてきた。
「さっき幹太ちゃんとこに行ったらみんな居ないし、どうしたのかと思ってたのよ」
「お母さん…」
「なによ?どうし…」
「お母さんっ!!」
「…あらら、ほんとにどうしたの、由紀?」
気づけば私は、力いっぱい母を抱きしめていた。
「…良かった」
「えぇっ!?ちょっと、シャノンちゃんまでどうしたの〜!?」
母につられて私もそっちを見てみると、シャノンがゾーイさんを抱えたまま涙を流していた。
「その人はどうしたの?まさか…気を失ってるの?」
「大丈夫です。もう少ししたら目を覚ますと思うので…」
「そう。だったらとりあえずソファに寝かせてあげて。
フフッ♪若い娘さんがそんなに丸出しじゃかわいそう♪」
シャノンは母に言われた通り、ゾーイさんをリビングのソファに寝かせた。
「…さて、それじゃ何があったか聞きましょうか♪」
「…うん」
「よろしくお願いします」
私たちはテーブルに着き、なるべく詳しくこれまでのことを母に話した。
「素敵っ♪ゆーちゃん、幹太ちゃんと結婚するのねっ♪」
母は幹ちゃんと同じように、昔は私のことをゆーちゃんと呼んでいたのだ。
それが不意をついて出てしまうことが今だにある。
「お、お母さん…シャノンの前でゆーちゃんはやめて…」
「だってゆーちゃんじゃない♪
あぁ、でも良かった〜♪
実を言うとね、私、幹太ちゃんとあなたの子供が見たかったのよ〜♪」
「こ、子供って!?お母さんっ!?」
「だって、ずっと一緒に育ってきた二人の赤ちゃんなのよっ♪
もうっ♪ほんっと〜に楽しみ♪」
「あぁ…」
そうだ。
私はここまで話して、ようやく思い出した。
「春乃様…」
「はい♪なぁに、シャノンちゃん?」
「この度は大変申し訳ありませんでした…」
シャノンは椅子から立ち上がって、浮かれた母に深く頭を下げた。
「そうね…うん、許します」
母は少し考えたあと、そう言ってシャノンの背中をポンポンと叩く。
「春乃様…本当によろしいのですか?」
「えぇ、大丈夫よ。
だって、私にとって由紀が居なかったのはたったの一日なんですもの。
しかも本人は元気でピンピンしてるし。
その上、幹太ちゃんと結婚も決まってるなんて、こっちがお礼を言いたいぐらいだわ♪」
「ですが…私達は由紀さんを危険に…」
「そうね。でも、それを許す許さないは由紀本人が決めることだわ。
いいシャノンちゃん、もう一度言うけど、由紀はこうして元気なんだし、幹太ちゃんの家にいると思ってほどんど心配もしてなかった私に、これ以上シャノンちゃん責める理由はないの」
たぶん母は、私がこうして元気に戻って来れたのは、ここにいるシャノンのお陰だとわかっているのだと思う。
『やっぱりそうだ…』
私や私の友人たちが心身共に健やかであるなら、細かいことは気にせずに喜ばしいことに目を向ける。
それが私の母、柳川春乃という人なのだ。
「うん。私、あっちに行けて良かった♪
だって、日本じゃ体験できないことが沢山あったもん♪」
「由紀さん…」
向こうに行って初めこそラクロスの練習ができなくて辛かったけど、それ以上にこれからの人生にプラスになることが沢山あった。
「それに…生涯の伴侶も決まったし♪」
「あぁ…幹太ちゃんが息子ね〜♪も〜どうしょうかしら♪
あ、でもちょっと待って…」
母はクネクネするのをピタリとやめ、ソファーで横になるゾーイさんに近寄った。
「…由紀、この子も幹太ちゃんのお嫁さんになるのよね…?」
「う、うん。ゾーイさんも一緒にお嫁に行くけど…」
「ちょっと!ウソでしょ!?
私、こんなに可愛い子の義母になるのっ!?
ハッキリ言ってこの子、由紀よりぜんぜん可愛いわよっ!」
「えぇっ!お母さんっ!?」
「えっ、いける?私、隣に並んでも大丈夫っ?」
「春乃様は十分お美しいかと…」
「ありがとう、シャノンちゃん♪
今晩はシャノンちゃんの好きな回鍋肉にするわ♪」
「ふぁ♪…ありがとうございます」
私はこの時、シャノンが後ろを向いてちっちゃくガッツポーズしているのを見逃さなかった。
「でも、みんな綺麗な人なのはホントなんだよね…」
私はため息混じりにそう呟く。
「あら、そうなの…?」
「そうなのっ!凄いんだからっ!」
本当のことを言うと、私は未だに婚約者のみんなの美貌に慣れていない。
「アンナは知ってるよね…」
「アンナちゃんはあれね、物語の中のお姫様って感じだわ。
なんだか妖精さんみたいよね♪」
「あとは…ソフィアさんか…」
「まぁ♪ソフィアさんってお名前なの?素敵なお名前だわ〜♪」
名前だけでこれなのだ、本人を見たらどうなるか、私は想像しただけで恥ずかしくなった。
「ソフィアさんはね…こっちでいったらのんびりしたハリウッドスターって感じかな?
優しくて、背が高くて、胸以外が細い大美人なの…」
美しさという基準ならば、私たちの中でソフィアさんが一番なのは間違いない。
「あ〜それじゃゆーちゃんも頑張らないとね♪
それで、他の皆さんはどうしたの?」
「「あ!」」
私とシャノンは、母にそう聞かれるまですっかりそのことを忘れていた。




