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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第五章 始まりの大陸編
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第127話 大導師ムーア

ムーア導師、久しぶりのしっかりした登場です。

アンナとムーアのやり取りを書いている時に、ニヤニヤしている自分に気がつきました。

「やっぱりいました♪」


アンナ達が中庭に着くと、ムーア導師は噴水のある泉のほとりに佇んでいた。


「ムーアさん、公園で一日ボーっとしているおじいちゃんみたいだね、幹ちゃん」


「お、おう…俺もいま一瞬、日本にいるのかと思った…」


「そうなんですか?

ムーア、最近はいっつもあんな感じですけど…」


「ムーア導師!」


と、ひそひそ声で話すアンナ達には構わず、シャノンはムーア導師に声をかけた。


「おぉ!おはようございます、姫様。

もしかして…朝ごはんですかの?」


「違いますよ、ムーア。

朝ごはんなら、もうとっくに食べました」


「「「「……」」」」


さもいつものことのように始まったアンナとおじいちゃんの若干ゾッとする会話に、幹太たちは揃って言葉を失う。

ちなみにマーカスはここに来る途中で部屋に戻っていた。


「あら、あのお魚って…?」


とそこで、クレアは噴水の中を泳ぐ魚が普通でないことに気づく。


「クレア、どうしました?」


「アンナ、あれってシェルブルック特有のお魚なの…?」


「えっと、どれです…?」


そう言われたアンナが噴水の中に目をやると、そこにはこの王宮に住むアンナですら見覚えない魚が泳いでいた。


「…う〜ん、よくわからないですね」


「私も見たことないです〜」


山岳地帯の村で育ったソフィアは、淡水に棲む生き物にそれなりの知識がある。


「形は錦鯉に似てるけど…ちょっと違うか、由紀?」


「うん。日本の鯉よりだいぶカラフルだね」


由紀の言う通り、水の中をゆっくりと泳ぐ魚は鮮やかな青や黄色の原色で彩られていた。


「ムーア導師、これは?」


「ホホッ♪シャノンにもわからんのかの?

アンナ様とシャノンは昔見たことがあるはずなのじゃが…」


「私達が小さい頃ですか?」


「そうですぞ、アンナ様。

もっともあの頃は、噴水ではなく水槽で飼っておりましたが…」


「あ!もしかして粘土で作ったお魚ですか!?」


「ホホッ♪正解ですぞ、アンナ様」


「えぇっ!あれがまだ動いてたんですかっ!?」


「なるほど…確かに私が昔作ったものに似ているような…」


と、シャノンは噴水の中を覗きこむ。

その昔、二人はムーア導師から粘土で作った動物を動かす魔法を習ったことがあったのだ。


「まぁ今となっては、動いているというより生きていると言ったほうが正確なんじゃが…」


「えっ!?ムーア様、それはどういう…?」


「おぉ、これはこれはクレア様。

よくおいで下さいました」


「は、はい、ありがとうございますムーア導師様。

それで…このお魚は?」


「ホホッ♪これは姫様とシャノンが昔作った粘土の魚に、私が開発した魔法を使って人工的な命を与えたのです」


「「「「「えぇっ!!」」」」」


その場にいる全員が、おじいちゃんの発言に度肝を抜かれた。


「その証拠に、アンナ様やシャノンが作った時よりも大きくなっているじゃろ?」


「…本当です!私たちのお魚、すっごいおっきくなってますよ、シャノン!」


「え、えぇ」


「「「「……」」」」


魔法の知識のあるアンナ、クレア、シャノンはもちろん、それほど知識のないソフィアや、魔法のない世界出身の幹太や由紀でさえ、それがどれだけ非常識なことであるかわかる。


「い、命を与えるって…ムーア様、なぜそんなことを…?」


何か恐ろしい目的があるのではないかと、クレアは恐る恐るこの世界最強の魔術師に聞いた。


「…寂しくてのぅ」


そうなのだ。

おじいちゃんはただただ寂しさのあまり、生命を創り出すという神にも近い所業を成功させていた。

時に孤独は、人を驚くほどの狂気へといざなう。


「妻には邪険にされ、トラヴィス様や奥方様方もお忙しく、最近ではアンナ様やシャノンもワシを相手にしてはくれないのじゃ…」


「「ムーア(導師)!?そ、そんなことは…」」


「…ないですかの?」


そう二人に聞くムーア導師の顔に、先ほどまでの笑顔はない。


「…ごめんなさい、ムーア」


「申し訳ありません、導師」


と、アンナとシャノンは寂しがり屋のおじいちゃんに頭を下げる。


「あっ!そうですムーア!

そんなことより…」


「そんなことですかの…?」


「い、いえ、そういうわけでは…もうっ!めんどくさいですよっ!ムーア!

ちゃんと聞いて下さいっ!」


「ホホッ♪冗談ですぞ、姫さま。

それで、何が聞きたいんですかのぅ?」


「その、異世界転移のことなんですが…」


「…ひょっとして、なぜ前回は失敗したのかということかの?」


「はい、それです導師。

なぜアナと私が別々な場所に飛ばされたのかということと、失敗を繰り返さない為はどうすればいいのか、教えて頂きたいのです」


「なるほどのぅ…」


そう言って、ムーア導師は顎に手を当てて考え込む。


「…導師様、なんか深刻そうだね、幹ちゃん」


「う、うん。やっぱり難しい魔法なのかな…?」


「いいや、失敗した理由はごくごく簡単なことじゃよ」


「えっ!?そうなんですか、ムーア!?」


と、アンナは思わずムーア導師の両肩を力強く掴む。


「ひ、姫さまっ!か、肩がっ!」


「いいから早く教え下さいっ!」


「ぜ、前回の転移の失敗の原因は人数じゃ!

二人分の魔法で四人の人間を転移させようとしたことが失敗の原因なのですっ!」


「あぁっ!そういうことですかっ!」


アンナはムーア導師の肩から手を離し、パンッと両手を合わせた。


「ふ、ふぃ〜、そうですな…重さで例えると分かりやすいじゃろう。

二人分の魔力ではこの王宮に着くまで四人の重さを支えきれず、アンナ様と幹太様を途中の島で落としてしまったというところですかのぅ…」


「なるほど…それで私と由紀さんだけが、ブリッケンリッジの王宮まで着いたということですか?」


「じゃろうな。それが一番理屈が通る」


「あっ!だったら最初から人数分の魔法を使えば…」


「えぇ、由紀様。理論上は問題なく異世界間の移動は可能となりますのじゃ。

しかも、すでに人数どおりの転移魔法成功例はありますからの」


「あっ!もしかして私ですか!?」


「ホホッ♪そうでございますぞ、姫様」


「そっか…アンナのあれって、成功だったんだ…」


アンナはある日突然、幹太がラーメン屋台を開いていた井の頭公園の池にある橋の上に倒れていたのだ。


「いや待てよ、けっこう危なかった気が…」


「こまけぇこたぁいいんですよ、幹太さん♪

私と幹太さんが出会えたというだけで大成功なんですっ♪」


アンナは幹太と両手をつなぎ、ブンブンと上下に振る。


「ま、まぁそうだな…俺もアンナと出会えたおかげで、こっちに来れたわけだし…」


「はい♪」


「しかし、魔法はなんとかなるとしても問題はその元となる魔力じゃな。

少なくとも、前回シャノンが持ち出したものと同等の程度の魔石がないと…」


「ムーア、もしかして私たちがどうしたいかわかってるんですか?」


「もちろんですぞ、姫様。

幹太様たちの世界にご挨拶に向かわれるのじゃろ?」


「正解です♪さすがムーア♪」


「ホホッ♪姫さまとシャノンのことなら、だいたいは予想がつきますからな。

それで姫さま、魔石のアテはあるのですかのぅ?」


「それならここにあります、ムーア様」


そう言って、クレアは先ほどの魔石をムーア導師に見せた。


「おぉ!これは…」


出てきた魔石のあまりの見事さに、ムーア導師はしばらくの間言葉を失う。


「…そうですな、これなら問題なく異世界間を行き来できるじゃろう」


「本当ですか♪」


「えぇ、姫様。間違いなく」


そう答えて、ムーア導師は嬉しそうに笑うアンナの頭を優しく撫でた。


「導師、何人まで大丈夫でしょうか?」


「そうじゃの、これなら…」


ムーア導師はクレアから魔石を受け取り、じっくりと観察する。


「…たぶん六〜七人といったところじゃな」


「七人ですか…」


と言われたシャノンは、頭の中で日本に向かう人数を指折り数えた。


『まずは一番の目的である幹太さんと由紀さん、それに魔法が使える私とアナ…』


最初からソフィアを数に加えなかったのは、彼女なりに万が一の事故を考えてのことだ。


『…けど、ソフィアさんは絶対に一緒に来ますね。

あとは…クレア様次第でゾーイさん…ということは、六人でしょうか…?』


それならば今回の魔石で十分なんとかなると、この時のシャノンは思っていた。




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