第122話 芹沢正蔵
投稿が遅れてしまって申し訳ありません。
このお話より、サブタイトルを英数字に致しました。
よろしくお願い致します。
そして数時間後、アンナは王宮のダイニングで緊張のピークを迎えていた。
「ど、どうでしょうか?」
「だ、大丈夫ですか〜?」
アンナにラーメンを作ろうと提案したソフィアも、さすがに二人だけで仕込んだラーメンを幹太に食べてもらうのは緊張するようだ。
「…うん、うん…」
そんな二人の前では、師匠である幹太が頷きながらスープを飲んでいる。
「うん、十分美味しいよ♪
これだけ美味しければ、ちゃーんとお客さんに出せると思う」
「…ほんとですか?」
「もちろん♪」
「アンナさん〜♪」
「やりましたっ!合格ですよっ!ソフィアさん♪」
と、アンナとソフィアは抱きしめ合って喜ぶ。
「よーし!じゃあ私達も食べていいかな♪」
「えぇ、由紀さん。いただきましょう」
幹太が一口目を食べ終えるのを待っていた由紀とシャノンも、待ちきれない様子でラーメンに手をつけた。
「本当だ♪これ美味しい…」
「美味しいです。
しかしこのラーメン、どこかで食べた記憶がありますね…?」
そう言いながら、シャノンは確かめるように再びスープを口に運ぶ。
「たぶん…こりゃ俺のラーメンだよな?」
「えぇ、そうです。
幹太さんが日本の屋台で出していたラーメンをマネしてみました」
「ジャクソンケイブでも頂きましたよ〜♪」
「ん〜そうだったかな…?
あ!そういやソフィアさんのご両親に食べてもらったかも…」
幹太はソフィアの村に行った時、初めてラーメンを食べるソフィアの両親のために鶏スープのラーメンを作ったことがあった。
「だから私も食べたことがあったんですね」
「うん。シャノンさんも東京で食べてるよ」
「なんだか懐かしいね…」
と、由紀が少し寂しそうに言う。
「だよなぁ〜。
とりあえず一度帰らないと、おじさんとおばさんに挨拶もできないしなぁ〜」
そう言う幹太の方は、あまり深刻そうには見えない。
「でも、二人共よく覚えてたな。
ソフィアさんは一度しか見てないだろうし、アンナだって、自分がラーメンを作るって考えてない頃だったろ?」
しかし、そんな幹太の言葉にアンナは首を横に振る。
「いいえ、幹太さん。
少なくとも私は幹太さんと出会って間もない頃には、もうこちらの世界でラーメンを作る気でしたよ」
「私も自分で作れるようにしたいなぁ〜って、ずっと思ってました〜♪」
「えぇっ!そうなの!?」
「フフッ♪そうですよ。
今回作ってみてわかったんですけど、私、今まで幹太さんと作ったラーメンの食材と手順はぜーんぶ覚えてると思います。
っていうかたぶん、ソフィアさんもそうですよね?」
「はい♪私はだいたいですけど〜♪」
「おぉ!そりゃすごいな…」
「綺麗で賢いって、ちょっとズルいよね…」
そう言う由紀の方も大概ハイスペックなのだが、当の本人は気づいていない。
「ですから、あとは丁寧に下拵えをしていけば大丈夫かと…」
「えぇ、手順はどのラーメンでもほとんど一緒です〜」
「そうだな…それは間違いない」
鶏ガラや豚骨、または海鮮をベースに仕込むスープならば、食材の下拵えは汚れや雑味を取る作業がほとんどである。
ことラーメンスープに関して言えば、その作業というものは決して複雑なものではなく、決められた作業をただただ丁寧にさえしていれば何も問題はないのだ。
「それが基本にして全てだからな」
「やはりそうですか…」
「良かったです〜♪」
幹太の言葉を聞いたアンナとソフィアはようやく肩の力を抜いた。
「フフッ♪それも懐かしい…おじさんの口癖だ」
「えっ?そうだったっけ?」
「そうだよ♪
素早く丁寧にっ!それが全てだー!って、おじさんずっと言ってたじゃん♪」
「あぁ、そういやそうだったかも…。
ハハッ♪ヤバいな、こりゃだんだん親父に似てきちゃたか?」
と、幹太は苦笑する。
「…あの幹ちゃん?」
「うん?どした、由紀?」
「幹ちゃん、ずっと前から正蔵おじさんに似てるよ…」
と、言いにくそうに言った由紀の一言を聞いて、幹太の顔から血の気が失せる。
「…なん…だと…?」
そう呟きながら、彼は由紀の肩に手をかけた。
「あの…だから幹ちゃん、正蔵おじさんとソックリだ…」
「ウ、ヴゾだー!」
「えぇっ!ちょっ、幹ちゃんっ!?」
どうやら心底イヤだったらしく、なぜか幹太は由紀の胸に自分の顔を埋めながらそう叫んだ。
「か、幹太さんっ!?っていうか由紀さんっ!なにしてるんですかっ!?」
「えっ!私っ!?私はなにも…」
と言いつつ、由紀の手は目の前にある幹太の頭を自分の胸元に押し付けるようにしていた。
「こっちの方が柔らかいです〜♪」
しかし次の瞬間、幹太の背後から迫ったソフィアが、彼の体をクルリと回転させて自分の胸に引き寄せる。
「あぁっ!ズルいっ!」
「くっ!た、確かに私では役不足です…」
アンナはガックリとうなだれた。
「皆さん…」
とそこで、寸劇を続ける婚約達にシャノンが声をかけた。
「この機会に義理のお父様のお話を伺うというのはどうでしょう?」
「あっ!それいいですね、シャノン♪」
「由紀さんの話を聞く限りでは、幹太さんはお父上…正蔵様の影響を強く受けているようですね?」
「うん、それは間違いないよ。
だよね、幹ちゃ…」
「バーブー♪」
と、由紀が幹太に話を振ると、肝心の彼はソフィアの胸に顔を埋めたまま赤子に戻っていた。
「…幹ちゃん、大丈夫だよね?」
「もしダメでも、このまま私が育てます〜♪」
「それじゃあ私から…えっと、どこから話そうかな…」
そうして由紀は、大好きなおじさんついて話し始めた。
「私がおじさんについて覚えてる一番最初の記憶…あぁ、おばさんの隣でアワアワしてるとこかな…」
その頃の芹沢家には、まだ幹太の母親である美樹も存命であった。
「最初は幹ちゃん、私にだけちょっといじめっ子だったんだよね…あれ、困ったんだよなぁ〜」
「いや、由紀さん、それって…。
シャノン、この人本気だと思いますか?」
「えぇ、たぶん」
「由紀さん、素直です〜♪」
「うん?
まぁそれでね、女の子には優しくしろーって、おじさんとおばさんが怒ってたのが最初かなぁ〜」
ちなみにその時の由紀は、まともな説教していた正蔵より、有無を言わさず幹太を砂場にぶん投げた美樹の方が怖かった。
「あぁ、確か以前にもそんな話をしてましたね」
「そうだったっけ、シャノン?」
「はい。幹太さんは女性には優しくしろと教育されていると…」
「そうそう。
それでね、とにかく仲のいいご夫婦だったの♪
いっつも二人で仲良くお店やってたし、二人で並んでお散歩してるとこもよく見たなぁ〜♪」
「素敵なご両親ですね♪」
「私も幹太さんとそうなりたいです〜♪」
「大丈夫だよ、ソフィアさん。
きっと幹ちゃんも、ああなることに憧れてるから♪」
「良かったです〜♪」
そう言って、ソフィアは胸元にある幹太の頭を撫でる。
「でもね…実は正蔵おじさん、ちょっとおっかない人だったんだよね…」
「それはどういう意味でです?
まさか裏で陰の組織と…」
「ち、違うよ、シャノン!
そんなんじゃなくて、理不尽なことに対しての怒りってこと!」
「つまり…まともに怒ったら怖いと?」
「そう、それ。
確かあれは…三年生の頃だったかな…」
ある日由紀が家に帰ると、隣の芹沢家のに車が突っ込んでいたのだ。
「な、なにこれっ!?どっ、どうしようっ!?」
そう叫んだ由紀は、居ても立っても居られずに芹沢家の一階であるラーメン店の店舗に突っ込んだ車の脇から家に入った。
「車は…誰もいないよね…」
そのまま由紀は店舗の奥ある階段まで進んでいく。
「美樹おばさん…どうか幹ちゃんとおじさんを守って…」
すでにこの時、幹太の母親である美樹は亡くなっていたのだ。
とそこで、
「あ、ゆーちゃん…」
そう言って、いつも通りの幹太が二階から顔を出した。
「チ、チキショー!私もちっちゃい幹太さんに会いたいですっ!」
「アナ、言葉使いが汚いですよ」
「拉致って監禁して、お姉さんの体でメロメロにしたいです〜♪」
そんなことを言うソフィアの胸の間には、現在進行形でお姉さんにメロメロな幹太が挟まっている。
「か、幹ちゃん!大丈夫!?ケガしてない!?」
「うん、大丈夫。外で待っててゆーちゃん、今降りる…」
「うん、わかった」
そうして二人は外に出た。
「か、幹ちゃん、お家どうしたの?」
「…わかんない、帰ったらああなってた…」
「正蔵おじさんは…?」
「カチコミに行くって、バイクに乗ってった…」
「カチコミ…?」
「うん。カチコミ…」
「カチコミってなんだろ…?」
「ボクにもわからない…」
実はこの頃、正蔵のラーメン屋はみかじめ料をせびるタチの悪いチンピラ達に目をつけられていたのだ。
そしてその数時間後、正蔵は帰ってきた。
「もう大丈夫だぞ♪」
笑顔でそう言った正蔵の拳は、自分のものではない血で赤く染まっていた。
「後でウチの両親に聞いたんだけど、おじさん…相手のアジトに殴りこみに行ったんだって…」
「あぁ、それはそうでしょうね…」
「そうでしょうって…?シャノン、あなた…」
「いいですか、アナ。
家に突っ込まれたということは、もしそこに小さな幹太さんがいたとしたら…」
「…王家の総力をもって一族郎党を滅ぼさなければなりません。
シャノン、いますぐ転移の準備を。
足りない魔力はムーアとお父様、あとはお姉様の血肉も使って…」
こんなとある日に、この国一番の魔術師と王族二人の命が消えようとしていた。
「だ、大丈夫だよ、みんなちゃんと捕まったから…」
「しかし、その者はまだ生きて…」
「ホ、ホントに大丈夫だってば!
だってその悪かった人達、その後幹ちゃんちのお店で働いたんだよ!」
「えぇっ!そうなんですか!?」
「信じられません〜」
「なんかね、おじさんが働くとこ無かったらウチに来いって言ったんだって…」
世の中には自分より格段に恐ろしい人間がいる。
そのことに気づいたチンピラ達は、真面目に働くようになったらしい。
もちろん一概には言えないが、圧倒的な恐怖というものは、大人相手の制裁として時に有効な手段なのだ。
「正蔵様…まさに男!って感じの人だったんですね」
「うん。だけどそんな人、私の世界にはもうなかなかいないんだよね…」
「こちらもでもそうですよ。
ね、シャノン?」
「はい…いいですね、正蔵様…」
「「「えっ!?」」」
と、なぜだかポーッとしているシャノンに、三人は驚きの声を上げる。
「シャノン…あなたまさか…?」
「それで由紀さん、正蔵様の容姿はどのような…」
主であるアンナにも構わず、シャノンは由紀に質問をする。
「あ、そういえば写真持ってるよ♪」
そう言いつつ、由紀はポケットからスマホを取り出す。
こちらに来て以来ずっと電源を切っているため、バッテリーはまだまだ残っていた。
「ほら、これが正蔵おじさん♪」
由紀が見せた画面の中には、二人の家族全員が写った写真が映し出されていた。
「ち、ちっちゃい幹太さんと由紀さん…か、かわっ、可愛いすぎですっ!」
「ア、アンナ様、どうにかしてこの頃の幹太さんに会えませんか〜?」
「それですっ!ソフィアさん!
後でムーアに聞いてみましょう♪」
「これが正蔵様…み、見た目もかなりいいですね…」
そう言うシャノンは、珍しく興奮した様子でプルプルと震えていた。
「フフッ♪シャノンってオジサン好きなんだ♪」
「そ、そうなんしょうか?
自分ではわかりませんけど、確かにこの見た目で男らしいというのなら惹かれるものがありますね」
「ん〜?だったら幹ちゃんはダメなの?
今の幹ちゃん、けっこうおじさんに似てきてない?」
「幹太さんですか…?」
「うん、幹ちゃん♪」
そう言って、二人は今だにソフィアの双丘に挟まる幹太を見た。
「そうですね…正直ダメ、ではないです…」
「あ、やっぱり♪」
「しかし、色々と問題が…」
「そっか、妹と同じ人ってのも難しいのかな…?」
「いえ、そうではなくて。
それ以前に男性とのお付き合いの仕方がわからないのです…」
「あ、あれ?まさか、もしかしてシャノン…?」
「はい。私は今まで一度も、男性とお付き合いしたことがありません」
「えぇー!?」
とっくに成人を迎えて、その他どこにも非の打ち所がない親友からの衝撃の告白に、由紀は思い切り驚いた。
先日、台風を避ける為に急遽出張を切り上げて帰ってきたのですが、翌日の台風直撃により父方の実家が被災致しました。
氾濫ではなく越水と言うものらしいのですが、それでも「この家は元に戻るのだろうか?」と思うような状況です。
片付けの為にしばらくは週一くらいの投稿になると思いますが、引き続きよろしくお願い致します。
他にも被害に遭われた方いらっしゃいましたら、お見舞い申し上げます。




