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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第五章 始まりの大陸編
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閑話 想い出の日 前編

本編とはほぼ関係のない、幹太達の学生時代のお話です。

最初から読んで頂いている方でしたら、思い当たるキャラクターが登場します。

ずっと彼女を書いてみたかったので、なんだかとても嬉しいです。

これは幹太がまだアンナと出会う前、由紀と幹太がまだ高校生だった時のお話。


その日も幹太と由紀は一緒に登校していた。


「…幹ちゃん、今日は病院いくの?」


「いや、今日は来るなってさ。

明日は行かなきゃいけないんだけど…」


「そうなんだ…明日はなに?」


「親父の手術の説明だって」


二人が高校に上がった頃から、幹太の父、正蔵は大病を患い入退院を繰り返していた。


「おじさん、なかなか良くならないね…」


「そのうち治るって、本人は言ってるんだけどな」


「ラーメン屋さんはどうするの?

退院したってしばらくは無理じゃない?」


「そうなんだよなぁ〜。

とりあえず手伝いだけでもできるようにと思って、ラーメンの試作は始めたんだけど…」


「けど…?」


「やっぱり細かいレシピがわからない…」


「だったら、おじさんに聞いてみたらどう?」


「ん〜いや、それはやめとくよ」


「まぁ…そっか」


由紀は、幹太が父親にレシピを聞かない理由をなんとなく理解していた。


「由紀は部活?」


「うん♪今日は久しぶりに学校の方なんだ♪」


「おぉ、良かったじゃん。

部長さんも喜ぶんじゃないか?」


「だといいなぁ〜。

でも、それよりポジションがなくなってたらどうしよう…」


そう言って、由紀はムンクの叫びのように両手で顔を挟む。


「まさか!いくらなんでも代表強化選手は外さないだろ?」


「ん〜ん、私一人でやるスポーツじゃないからね。

レギュラーを外される可能性は、ぜんぜんあるんだな〜♪」


由紀はおどけてそう言うが、それを聞いた幹太の表情は深刻だった。


「由紀…病院はいいからな。

親父だってそう言ってんだから、本当に大丈夫だよ」


「それはいいの!私もおじさんに会いたいし…」


「そのうち帰って来るのにか…?」


「そうだよ〜。

幹ちゃんは知らないだろうけど、病院ってほんっとーに退屈なんだから」


由紀は過去、足の骨折で一カ月ほど入院した経験があった。

その時の退屈さは、活発な彼女にとって地獄と言ってもよいものだったのだ。


「確かに…オヤジも動く方だから、けっこう辛そうだよ」


「うん…そ、そうだ!幹ちゃん、夜はどうするの?」


「うん?病院から真っ直ぐ帰るつもりだけど…」


「じゃあじゃあ、ウチでご飯食べない?」


「それはありがたいけど…今日の今日で大丈夫かな?」


「それは大丈夫♪

お母さんもそのつもりでたくさん作ってるだろうから♪」


「だったらご馳走になるよ」


「それじゃ決まり♪

えっと〜ちょっと待ってね…」


由紀はカバンから携帯を取り出し、母親に今晩幹太が行くことをメッセージアプリで送った。


「よし♪これでオッケー♪」


「ありがとな、由紀。

あっ、そろそろ急がないと遅刻しそうだ」


「やっばっ!走るよ!幹ちゃん!」


「おう、そんじゃ行きま…あれ?」


と幹太が言っているうちに、由紀は遥か先まで駆け抜けていた。

ほぼ毎日鬼のようなトレーニングを積んでいる由紀の脚力は、幹太の想像を大幅に上回っているのだ。


「幹ちゃーん!おっそいよー!」


「い、いま行くっ!」


そしてその後、幹太が持ち前の負けず嫌いを発揮し、二人はなんとか遅刻せずに学校へと到着したのだった。


「「「いただきま〜す♪」」」」


午前中の授業を終えて昼休み。

由紀は仲の良い友達二人と机を並べ、目の前にある巨大な弁当箱の蓋を開けた。


「やっほ〜い♪焼きソバだー♪」


「ちょっと由紀、その量の焼きそばって…さすがにヤバくない?」


と若干引き気味に言ったのは、由紀と同じく、母の作ったお弁当を食べている臼井亜里沙ウスイ アリサだ。

長い金髪に、切れ長の鋭い目をしたマイルドヤンキー風の亜里沙は、高校に入ってからの由紀の友人だった。


「私、芹沢君の分かと思った…由紀ちゃんのだったんだ…」


そうホッとした表情で言ったのは、三人の中で唯一自分でお弁当を作ってきた広川澪ヒロカワ ミオ)である。

伸ばし始めた肩までの黒髪に、少しタレ目でおっとりとした表情の澪は、小学生の頃からの由紀の友人であった。


「え〜そんなにおっきいかな?」


「あんたそれ、全部でいくらカロリーがあると思ってんの?」


「どうだろ?わかんない。

でも、このぐらい食べれば晩ご飯まではギリギリ持つかなぁ〜って量だよ♪」


由紀は全く気にする様子もなく、ズルズルと焼きそばをかっ込み始めた。


「あんたは小学生かっ!?

女子高生でそんなご飯の量の決め方する子なんか、どこ探してもいないわよっ!」


「亜里沙ちゃん…由紀ちゃん、もう聞いてないよ」


「まったく…まぁ太ってる訳じゃないからいいけど…」


「むしろ細い方だよね、由紀ちゃん」


「そりゃあんたもよ、澪」


「そ、そんな事ないよっ!

わ、私は見えないところにいっぱいお肉が…」


「水泳部で見えないとこってどこよ!?

あぁ…私もラクロスか水泳、どっちかやれば良かった…」


「ハグッハグッ!亜里沙も今から入れば〜♪」


「誘い方がテキトーすぎるでしょ!

せめて焼きそばを飲み込んでから言って!」


「そう言う亜里沙ちゃんだって、太ってないじゃない」


「あのね澪、太ってないかも知れないけど、なんて言うか…そう、締まりがないのよ…」


「ハハッ♪大丈夫だよ、亜里沙♪

男の子はちょっとプニプニぐらいが好きなんだって♪」


「だからあんたが言うなってのっ!

だいたいあんた、その情報って…」


「うん、幹ちゃん♪」


「やっぱ芹沢か…」


「そうなんだ…芹沢君、そうなんだ」


亜里沙は高校に入ってからの二人との付き合いで、この友人達にとって男子と呼べるのは一人しかいないことに気がついていた。


『この子とあれだけ仲のいい芹沢がプニプニ好き…?

そんな訳あるかいっ!

もー!悔しいっ!こうなったら…』


そこで亜里沙は、乙女らしいの苦労を知らない二人へのちょっとした仕返しを思いついた。


「た、確かに、いつも由紀といたらそうなるかもね…」


「え?あ、亜里沙…それってどゆこと?」


その効果はてきめんであり、ここへ来て初めて由紀の箸が止まった。


「亜里沙ちゃん!私も詳しく聞きたいかなっ!?」


澪に至っては、必死の形相で亜里沙の肩を激しく揺さぶる。


「おや〜?二人とも気になるかい?」


と、ニヤケ顔でそう言う亜里沙は、毒リンゴを手渡す悪い魔女にしか見えない。


「だって、いつも一緒にいる由紀が腹筋バッキバキ女子でしょ♪

そりゃもっとお肉が付いてるこの方に目がいくわなぁ〜♪」


「あぁっ!そっか、そういうことになるんだ!」


由紀は今さらながら、自分が幹太の言っていたタイプに当てはまらないことに気がつく。


「私、水泳部辞めようかな…」


そう言って、澪はおのれのシックスパックに割れたお腹をさする。


「待てよ…とゆうことは、この中では私が一番芹沢のタイプに近いのか…?」


「そっか〜、確かに亜里沙はプニプニだよね…」


「あ、亜里沙ちゃん…私にもちょっとお肉を分けて…」


「あ、あんたらね…。

よーし、もー怒ったぞ!」


亜里沙はそう言って立ち上がり、友人達とコンビニ弁当を食べている幹太へと近づいた。


「芹沢…」


「うん?なに、臼井さん?」


「ちょっといい?」


「えっ、どうしたの?」


「いいからっ!」


「うわっ!ちょっ、臼井さん!?」


亜里沙は幹太の腕を掴み、強引に自分達の席へと連れてきた。


「とりあえず芹沢はココね。

さて、どうしよっか…?」


彼女は幹太を澪の隣に座らせ、立ったまま後ろを向いて何やらブツブツと考え事をしている。


「ゆ、由紀、臼井さん、どうしたんだ?」


「ん〜なんだろね?

いきなりそっちに行ったから…」


「せ、芹沢君が隣に…」


「広川さんは…」


「ひゃい!ななな、何かなっ!芹沢君っ!?」


「なんで俺が呼ばれたか分かる?」


「わ、わからないけど、とりあえずずっとそこにいていいよっ!」


いきなりの出来事にテンパった澪は、真っ赤な顔でそう叫んだ。


「あの俺、メシの途中なんだけど…」


「そそそ、そうだよね、ごめんね!」


「あーもー!」


とそこで、亜里沙が頭を掻いて振り返る。


「色々めんどくさいから直球でっ!

芹沢、この中でもし付き合うとしたら誰?」


「ええっ!?」


「あ、亜里沙っ!?」


「亜里沙ちゃん!?」


「あ〜いや…付き合うはさすがに重すぎか…?

じゃあ今日の授業が終わった後、放課後デートするなら誰よ?」


「な、なんでそんな質問を…?」


「う〜ん、一応確認?みたいな?」


「なぜに自分で言っといて疑問形?」


「いいからっ!ちゃーんと真剣に考えて!」


「わ、わかった!

わかったから!ちょっと離れて、臼井さんっ!」


実はかなり美人の亜里沙に思い切り顔を近づけられ、幹太は思わずそう答えた。


「う〜ん、デートか…実は俺、ちゃんとしたことないんだよな…」


「ほ、本当に、芹沢君?」


「うん。由紀とはよく一緒に出かけるんだけど…」


「そうだねぇ〜私と幹ちゃんじゃ、デートって感じはないかも…」


この頃の由紀の幹太に対する気持ちは、これからもこのまま家族のような関係でいられたらという、漠然としたものだった。


「つーこたぁ、私か澪だね♪

さぁ芹沢!どっちだ?どっちとデートする?」


「芹沢君…」


本人が目の前にいるにもかかわらず、澪は手を組んで神様に祈った。

中学でのある一件以来、彼女は幹太のことが好きだったのだ。


「ひ、広川さん…かな?」


「すおっしゃー!!」


幹太の言葉に、澪が地区大会で優勝した時でも見せなかった渾身のガッツポーズをくり出す。


「あぁっ!なんでだよっ、芹沢!?

ポッチャリが好きなんじゃねぇの!?」


「えぇっ!?臼井さん、ぜんぜん細いじゃん…」


「なっ!何言って…え、えっと…マジでそう思う?」


「う、うん。

その…言っていいのかわかんないけど、臼井さんってかっこいいスタイルしてるなって思ってた…」


「ス、スタイルって…ば、ばかっ!どこ見てんだよっ!」


これは後になって分かることだが、長身で出るところは出ているという亜里沙の体形は、彼ののちの婚約者であるソフィアと良く似ている。


「…芹沢君?デートしたいのは私なんでしょ…?」


とそこで、仄暗い目をした澪が幹太の肩に手をかけた。


「いや、したいっていうか、広川さんの方が付き合いが長いだろ…」


幹太も由紀と同様に、澪とは小学生からの同級生である。


「そんなん納得いかねー!

もーわかった!芹沢、今日の放課後、わたしらとデートしろっ!」


「えぇっ!どうしてだよ!?」


「いいからすんのっ!」


「いいからって…あのな、広川さんの気持ちも…」


「わ、私は行ってもいいよ、芹沢君…」


いつもは引っ込み思案な澪も、チャンスとみたのか精一杯のアピールをする。


「えぇっ!広川さんまでっ!?

ゆ、由紀もなんとか言ってくれよ!」


「私は別に…晩ご飯までに帰って来るならいいけど…」


と言いつつも、由紀はかなり複雑な表情をしていた。


「マ、マジで…?」


「うん♪マジだぜ、芹沢♪」


「マジだよ♪芹沢君♪」


「…幹ちゃんのバカ」


とにかくそういうことになり、急遽、幹太と二人の放課後デートが決まったのだ。



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