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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第五章 始まりの大陸編
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第百十九話 アンナの受け売りチャーシュー講座

「ハハッ♪こりゃすごいな…」


ニコラは果てしなく続く市場の通路を見て思わず笑ってしまった。


「ほんとだぁ〜!おっきいね、由紀お姉ちゃん♪」


「ね〜♪すごいね〜♪」


と、手を繋いで歩くリンネと由紀も笑顔で頷き合う。


「アンナちゃん、幹太はここの食材を使って自由にラーメンを作ってんのかい?」


「そうですね…今でも二、三日ごとにこの広い市場を回っていますね」


「あ〜やっぱりかなわねぇなぁ〜」


「でも幹太さんなりに基準があるみたいで、なんでも使えるわけじゃないみたいですよ」


「基準かい?」


「えぇ、横で見ていてわかりやすいのは価格ですね。

それぞれ仕入れる額のリミットがあって…えっと〜あっちです」


アンナはニコラの手を引き、肉屋の前に連れてきた。


「幹太さんの場合だと…こっちのお肉はよく使いますけど、こっちのお肉はそれほど使いません」


「ほう…」


アンナが手に持っているのは、豚のモモ肉と肩ロースだ。

自国の王女と思われる見目麗しい女の子がいきなり肉を掴んだため、肉屋の店主は目を丸くしていた。

肉好きのプリンセスは、生肉であろうと迷わず掴み獲る。


「まぁそうだよな。そりゃ脂が多い肩ロースの方が断然高い」


「そうなんです。仕込むのは脂が多いロースの方が楽みたいなんですけど、そっちを使うとラーメンの値段が…」


「おぉ、こりゃ結構変わってくるな」


「ですから、幹太さんはあまり使わないようにしてるみたいです」


近年、日本でもラーメンの価格は上昇し続けている。

三十年前は四百円前後だったラーメンの価格は、今では平均でも七百円から八百円、中には一万円を超えるものまである。

価格の上昇は、先人達の努力によってラーメンの料理としての価値が上がったことなど様々な理由があるが、主な理由の一つは、トッピングの質が高くなったことが挙げられる。


「実は私、幹太さんに聞いてみたことがあるんです…」


「うん?何をだい?」


「ラーメンの値段が安すぎませんかって…」


「そりゃまたどうして?」


「それは…」


それはアンナがまだ日本にいた頃の話である。


「幹太さん、チャーシューの仕込みってすっごい大変なんですね」


その日の朝、アンナは自宅の厨房で仕込みをする幹太を見ていた。


「うん。ウチは豚のモモ肉を使ってるからなぁ〜」


そしてまさに今、幹太はそのチャーシューの仕込みをしていた。


「安いだけあって普通はロースよりモモ肉の方が固いんだけど、仕込み方によってはけっこうイイ線までいくんだよな…」


そう言いつつ、彼は紐で縛る前のモモ肉に何度も丁寧に包丁を入れている。


「幹太さん、それは?

包丁を使ってますけど、切り分けているわけじゃないんですよね?」


「うん。筋切りっつって、これも硬い肉を柔らかくするコツになるのかな…」


熱を入れると縮んでしまう筋を丁寧に切ることは、煮るうちに硬くなるモモ肉を柔らかく保つ一つの方法である。


「フゥ〜、筋切りはこれで終了だ。

次は紐で巻くんだけど、アンナもやってみる?」


「はい!ぜひ♪」


「よし、んじゃこっちに来てよく見ててな」


「はい」


アンナは幹太の隣に移り、その手先を真剣に見つめる。


「まずは何度か同じとこを巻いて紐を固定するだろ…」


「…はい」


「どんな肉だって筋を取ったり、血合いを取るとハミ出でびろーんってなる部分ができちゃうから、それもしっかり内側に入れてから紐で巻くんだ。

そうすると、紐を取って切る時も崩れないチャーシューになるよ」


「了解です!アンナ、やってみます!」


アンナはさっそく肉を手に取る。


「あっ!ちょっと待って!

えっと…こっちの方が巻きやすいかも」


幹太はアンナが手に取ったものよりも、ビラビラとした巻きにくい部分の少ない肉を彼女に渡した。


「ではいきます…」


そして幹太からアンナは、さっそくタコ紐を肉に巻きつけ始める。


「んっ、これは、こう…」


「…うん、いい感じだ…そう、優しく、だけど力を入れた方がいいとこもあるから…そうだ、リズミカルに…」


「んっ、あっ…こ、こうですか、幹太さん?」


「いい…すっごくいいよ…アンナ…もっと…そう、続けて…」


言葉だけ聞くとなんだか卑猥な感じがするが、あくまでこれは肉にヒモを巻くこと集中した二人が無意識に発した言葉である。


「…はい!こんな感じでどうです?」


「うん、最初にしちゃ上出来だよ」


「良かった〜♪」


「次はこれをラーメンのスープに入れて煮るんだ」


「あっ!それでチャーシューにスープの味が付くんですか?」


「ん〜そうだな〜、本格的な味付けの前の下味って感じになるのかも…」


「もしかして、それも柔らかく出来上がるコツだったりします?」


「おぉっ!すごい!当たりだよ、アンナ」


「やりました♪アンナ、正解です♪」


「ウチのラーメンのスープには生姜もけっこう入ってるからさ。

生姜のエキスって、どうやら肉を柔らかくするらしいんだよ」


「ほぇ〜そうなんですか」


それは幹太の父親である正蔵が、試行錯誤のうちに発見したことであった。


「ウチは早くから親一人子一人だったから、家庭料理も親父が作ってくれてて…」


「素敵なお父様だったんですね、正蔵様♪」


「あぁ。そんで豚の生姜焼きを作るときに、あらかじめ豚肉を擦った生姜に漬けてたんだよ。

なんでそんなことするんだって聞いたら、肉が柔らかくなるからって言っててさ」


「フフッ♪幹太さんが研究熱心なのは、お父様からの遺伝なんですね♪」


「あ〜まぁそうなるのかな…?

ま、まぁそんな感じでモモ肉を使ってチャーシューを作るなら、ラーメンスープで一度煮るのがベストなんだよ」


「っということは、ロース肉だとやらないんですか?」


「いや、ロースでもバラのブロックでもやるとこはあると思うよ。

でも後のことを考えると、あんまり長くは煮てられないだろうけど…」


「はぁ…」


その二十分後、幹太は程よく煮えたチャーシューを鍋から取り出した。


「そしたらこれをそのままこっちの鍋に入れるっとっ!」


そして取り出したばかりのチャーシューを、真っ黒い液体の沸き立つ大鍋に放り込む。


「ふぁ〜♪す、すっごい美味しそうな香りが!?

か、幹太さんこれは…?」


「ハハッ♪これがウチ特製のチャーシューダレだよ♪」


幹太がこちらの世界に来てから作っているチャーシューのタレも、この日本で作っていたものが基本になっている。


「さっき言ったのはさ、ロースとかバラだと煮崩れが怖いから、火を通すのと味付けをこの工程一つでやっちゃうことがあるんだよ」


その場合、先ほどのようなラーメンスープで煮るという過程は無くなる。


「ラーメンのスープの味が多少変化するから嫌がるってのもあるんだろうけど、理由としては火の通りを調節しにくいってのも大きいだろうな」


「確かに二度煮るのは調節が難しそうですね…」


「スープで煮てからタレに漬け込むってやり方もあるんだけど、やっぱりタレで煮る方が味が染みてて美味しいからなぁ〜」


「でも…でしたら幹太さん、皆さんモモ肉を使えばいいのではないですか…?」


「うんにゃ、元々ある脂の旨味って面じゃ肩ロースとバラにはどうしても敵わないな。

だから店主の好みや客層によって肉を選ぶって感じかな…」


「客層ですか…?それって例えば…屋台とお店で違ったりです?」


「まさにそうだな。

ウチみたいな屋台は手頃な価格で美味しくってのがウリだから、豚のモモ肉がベストなんだよ。

作るのに手はかかるけど、なんてったって安く上がるし、手間賃は俺しかかからないわけだから」


「…幹太さん、私、これからはチャーシューをもっと大切に食べます」


「ハハッ♪そうだよなぁ、アンナはまずチャーシューからいっちゃうもんな♪

そんなことするお客、アンナの他に見たことないよ♪」


「ええっ!ホントですかっ!?」


「おっ!そろそろかな…?」


そう言って幹太は鍋からトングでチャーシューを一本掴み上げ、その端を包丁で切って確認する。


「よし、オッケーだ。

アンナ、試食し…」


「もちろんですっ♪」


と、そんなことが日本であったのだ。


「なるほどなぁ〜そりゃ幹太らしい」


「ですよね。

普通のご店主ならば、手間賃は上乗せするはずです」


「幹ちゃんってラーメンのことになると、あんまり苦労を苦労って思わないんだよねぇ…」


「妻になる身としては、もうちょっと身体のことも考えて欲しいんですけど、ちょっとムリっぽいです」


「しっかし、今でもチャーシューは全部モモ肉使ってんのかい?

サースフェー島からの旅でもそんな手間かけてたんだったら、えらい苦労しそうだけど…?」


「そういえば、こっちでもなんか違うお肉で作ってたよね、アンナ?」


「あっ、はい。焼きチャーシューの街道ラーメンは肩ロースですね♪」


「そうなのか?」


「えぇ。

ですからウチのメニューでは比較的高めですね。

とはいっても、相変わらず幹太さんは自分の手間賃は度返しですから、屋台で食べるものの価格としては平均的だと思いますよ」


誰にでもわかることだが、本来なら肉を多く使うチャーシュー麺は、一般的な屋台料理の価格より高いはずだ。


「そっか、さすがにその辺りは、結婚前にちょっと話し合っとくかな…」


と、由紀が鋭い目をして呟く。

結婚後は幹太の体調だけでなく、屋台の売り上げの方も気にしなければいけないのだ。


「ゆ、由紀お姉ちゃん…?」


そんな由紀を、リンネが恐る恐る見上げた。


「はい♪何かな?リンネちゃん♪」


「お、お姉ちゃん、なんか今…怒った時のお母さんみたいに…」


「そ、そうだっ!そろそろ腹が減らないか、リンネ?」


とそこで、同じ男として幹太の行く末を不安に思ったニコラが、若干大きな声を出して話を逸らす。


「うん♪リンネ、ちょっとお腹へったかも♪」


「じゃ、じゃあアンナちゃん、そろそろ幹太のところに行こうかっ!」


「えっ?あっ、はい。でしたらそうしましょう。

じゃあ皆さーん、私に付いてきて下さーい♪」


そうしてアンナは三人を引き連れ、幹太とソフィアの待つ屋台村へと向かった。



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